クローバー

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048738170

感想・レビュー・書評

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  • 二卵性の姉・華子と弟・冬冶。花子ではなくて、華子。冬治ではなく、冬冶。こんなところに作者のこだわりを感じてしまう。

    二卵性なので、遺伝的には50%同じはずなのであるが、ふたりの性格、気性は、全く違うように感じる。それでも、最後に一緒になる華子の彼・熊野氏と冬冶の彼女・幸村さんは、何となく同じカテゴリーでまとめられるような人種のように感じ、そんなところが、『ああ、やっぱり双子なんだ』と、感じる。

    本作は、恋愛小説なのだが、コメディー的要素が強く、ストーリーはドタバタしながら進んでいく。しかし、彼女のために大学進学を諦める冬冶の話もあり、恋愛から人生の起こりうる岐路の話まで、おそらく普通の人が経験するであろう人生がサラッと記載されている。

    前半は華子の恋愛。若い女性心理そのもので、少しでも可愛く見せようとする努力、少しでもいい男性をゲットしようと、日々恋愛のために奮闘している。
    常に彼がいて、恋愛をしている華子の前にちょっとタイプが違うんじゃないという最強で最大の公務員・熊野氏が、これでもかというくらいにプレゼント攻撃で猛アタックしてくる。
    嫌がる華子だが、なぜかしらいつもの間にか恋人に席に座っていて、それを華子も認めている。
    結局、人は見かけではなく、どれくらい相手を思うことができるかというのが、恋愛必勝のキーなんだと、熊野氏が証明している 笑

    熊野氏は体格もさることながら、もともと超ポジティブ思考で、相手がいる恋愛の場合でも、ここまでポジティブになれるんだと関心し、だからこそ華子の恋人席を獲得できたのだろう。そう考えるといつもポジティブな彼が羨ましく、見習いたい。また、そんな熊野氏の行動が面白くてコメディのような感覚で読むことができるんだろうなぁと、彼の存在価値も上昇する。

    後半は、双子の弟・冬冶の変愛になる。華子の大雑把で大胆な性格、思考(そんな意味では、熊野氏と似ているのかもしれない)とは、異なり、冬冶はもう少し繊細な性格である。そして、そんな冬冶の性格がよくわかるように描かれている。

    同級生の雪村さんから受けるアタックが、「捨て身アタック」(作者命名)。
    いわゆる一途なアタック、恋愛なのだが、一途過ぎて、猪突猛進という言葉が、彼女のためにあるような気持ちに陥る。
    あまりにも突進してくる雪村さんのアタックに華子の加勢があったため、冬冶の気持ちが次第に傾いていく。作戦勝ちだなぁと、熊野氏とは、違う戦法で攻めながらも、冬冶落城を成し遂げた雪村さんが、熊野氏とかぶりその戦略にハマったこの双子が、やっぱり双子であったと納得する。

    最後、雪村さんの父親が倒れたために、冬冶は、進学を諦めて就職することになるが、『冷静に考えて、それって、関係なくないか?』と、思えて、雪村さんの才女ぶりが恋愛にまで及んでいることに苦笑してしまった。

    クローバーのタイトルが気に入って手に取った、はじめての島本先生の作品であった。

  • ドタバタ恋愛コメディかと思わせる始まり方だった
    話の中心が、別の登場人物から主人公に移るとともに、心情や進路決定の葛藤といった内面的なことも描く話に変わっていく
    面白さと繊細さが絶妙なバランスで配合されているところが良かった

  • 華子、冬治 双子の姉弟(大学生)が主に恋愛の事で右往左往する話なのでちょっと甘っちょろいのではないかと思っていましたが、ある意味予想通りの恋愛甘っちょろい話ではありました。
    ところがこれが僕の心にジャストフィット。彼らの事がだんだん好きになって来てしまいました。特に冬治の事を好きになる、超見た目がダサくてそして聡明な女性、雪村さんの存在がとにかく大きい。僕的には彼女の言動を見たいが為に読んだようなもので、他は殆ど風景に等しいです。
    目の前に居たらいらいらする可能性も有りますが、いじらしい女性って小説で出てくると全面的に応援したくなりますよね。まさにそんな感じです。
    内容的にはとりたてて珍しい話でもないのですが、そんなキャラを産みだした時点で僕の中では大絶賛です。

  • 雪村さんが鼻につくわ~。こういう、いわゆるスクールカーストの低い女の子が、そこそこの男に惚れられて少女マンガみたいな恋愛劇を……っていうのが寒気が出るほど苦手。話の本質はそこではないかと思いつつ、後半はほぼそうか。華子はひどい女だけどキャラクターが立ってていい。島本さんっぽくない話だったけど、史弥の話が一番好き。
    島本さんは人間の嫌なところが書けていてすごいとおもう。「嫌な人間」ではなく、普通に関わっている普通の人の「嫌なところ」。意図的に誰かを傷つけたり、やり返せない状況で不愉快なことをやったり、それを特異的なエピソードとするのではなくて日常のひとつとして書けるのは彼女の才能だろうなあ。この刺さる感じが欲しくて著作を選ぶこともわりとある。今作は雪村さんがそれを凌駕してしまったので読みきっておしまい。

  • 華子と冬冶、大学生の双子の姉弟の物語。

    青春、恋愛、家族。いくつもの要素が詰まっているけれど「あとがき」で作者は言っている。これは 「モラトリアムとその終わりの物語」。大学生というモラトリアム真っ只中の、ふわふわした自由と不安はどこか懐かしい。

    既読の「ナラタージュ」や「あなたの呼吸が止まるまで」がおそろしく後味の悪い作品だったのに比べ、本作は良い意味で期待を裏切られた。ハッピーエンドかどうかはわからない、それでも爽やかなラスト。

    神々しいほどの図々しさを持ち合わせた熊野氏のキャラが良い。「クローバー」の意味はなるほどと思ったけど、そのわりには母親の影が希薄だったかな。

    「人間は人生の必要な時期に、必要な人間としか出会わないし、そこで色々と学び尽くして一緒にいることの意味がなくなれば遠ざかっていくのは仕方ない」
    心の底からそう思えたら、もっと楽に、自然に生きられる気がする。

  • 島本理生の『クローバー』は恋愛小説なのか?青春もの?島本理生に対する知見なく読み始めた本書は、変な双子の姉をもつ双子の弟目線から書いた普段小説かと思った。でもやっぱり恋愛小説だった。それもかなりしっかりとした。

    双子の姉華子は冬冶の前でしか登場しないが、そこの無茶苦茶ぶりは逆にすっきりとするほど。それが身内の前だからなのか、一般的なのか。でも物語が進むにつれて、だんだんまともになっていくというか、物語全体が真面目に心理をほどいていくというか。

    姉さんのハチャメチャぶりのまま、恋愛が成就するなんてのが面白いと思ったけど、冬冶に真面目に入り込みすぎたかな?

    結局、(本人は全くそう思っていないが)特定の人にはモテる冬冶が無意識のうちに傷つきたくないという気持ちで、ガードしたり、深入りを避けたりする行動に対して、雪村さんが、きちんと読み解いて真の気持ちを取り出すっていうまともな展開。しかし実際にはこのまともな展開っていうのは心理まで表現する物語上の理想であって、実生活ではそれができなくてもどかしいというか面白いというか。そんなある意味理想の形を物語で提示している本書の魅力は結局ラブロマンスっていうか、求める道が合意できてよかったね、というほっとした感なのかもしれない。

    是非スピンアウトした華子目線の物語も読んでみたいと思うのはわたしだけ?

  • 双子の姉華子と姉にいつも振り回されてる?冬治のおはなし。
    最初はストーカーにされて最終的には華子の彼氏になった熊野さんのキャラが好き。
    冬治の彼女になった雪村さんはなんか、めんどくさい…と思ってしまった。
    一番好きな所は冬治にずっといるから安心しろよ、と言われて華子が小さく頷くところ。
    華子がかわいい。
    最後はの終わり方は納得いかなかったけど、この本は好きです。
    久しぶりに島本理生さんの本を読んだけど、島本さんの本は、やっぱり好きだなと思った。
    また色々読んでいこうかな。

  • 恋愛や進路に悩む、双子(姉弟)の話し。自由奔放の華子とは真逆の冬治。

    冬治のウジウジっぷりにやきもきするけど、華子の潔さに救われる。

    双子の父親の台詞。

    『人間は人生の必要な時期に必要な人としか出会わない。』

  • 島本さんらしくない、と言えるかもしれないけど、とても好き。
    こういう話をもっと書いてほしいと思いました。

    双子の姉とガールフレンドに振り回される主人公の、「僕には勝てないものがたくさんある。その中でも、女の人には一生かなわないんじゃないかと思う」という独白に笑いました。

    いくらイライラしていても、見ず知らずの他人の背中(LOVE&PEACE)に向かってドーナッツを投げつけちゃいけないんじゃないかな。

  • 冬冶には華子という双子の姉がいる。
    外見にコンプレックスのある彼女は着飾って
    自分の価値を認めてもらうために常に男と一緒にいる。
    しかしさえない公務員の熊野の熱愛に折れた。
    冬冶はと言えば昔の恋愛で負った傷から新たな恋に踏み出せず
    同じ班の雪村さんからの恋心に気づきながらも曖昧な態度をとってしまう。
    カバー素材:mina perhonen カバー撮影:高橋和海
    装丁:鈴木成一デザイン室

    ありそうでなさそうな恋愛小説。
    なんだろう、ぴったり当てはまらないけれどわかる!という感じ。
    冬冶の優柔不断さとか雪村さんの自信のなさとか。
    そっち側の人間なので華子はまぶしいね。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2001年「シルエット」で第44回群像新人文学賞優秀作を受賞。03年『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞を受賞。15年『Red』で第21回島清恋愛文学賞を受賞。18年『ファーストラヴ』で第159回直木賞を受賞。その他の著書に『ナラタージュ』『アンダスタンド・メイビー』『七緒のために』『よだかの片想い』『2020年の恋人たち』『星のように離れて雨のように散った』など多数。

「2022年 『夜はおしまい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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