- Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
- / ISBN・EAN: 9784048738422
感想・レビュー・書評
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高校生が主人公ということで、青春物か〜、と、なかなか手が出せずにいたが、そこは津村さん!直球の青春物のわけがないか。相変わらずのグダグダ展開でありながら(これはほめ言葉です)、そのグダグダっぷりがやけにリアルで、かつての自分をちょっと重ねながら夢中になって読んだ。
恋。友情。進路。青春物には欠かせないテーマが、津村さんのフィルターを通すと、ほんっとにしょぼくれてイタいんだけど、実はこんなもんだったりするよな、と。
主人公のアザミが、とことん不器用で、何をやってもあちゃ〜な展開になる。でも音楽だけは大好きで、特に洋楽のパンクもの。残念ながら登場するアーティストはあまり知らなかったのだけど、自分も趣味がマイナー傾向にあるので、洋楽オタクのイケてない男子トノムラに対する、共感と反発が入り混じったような感情ってすごくわかる気がした。トノムラの友人で、歯科矯正を通じて知り合った野球部のモチヅキ(この歯科矯正の小ネタも大好きである)も、またちょっとイタいんだけど憎めない奴で、男友達との付かず離れずな関係の描写がすごくよいのである。
男友達もいいけど、やっぱり女友達との友情もよかった。親友チユキもアザミも、卑劣だったり不条理だったりする男に対して、「目には目を」な制裁を加えるのだが…その方法がいいか悪いかは置いといて、読む側は胸がスカッとした。
そんなグダグダな日々にだって終わりはある。卒業すればそれぞれの道を歩んでいく。ツルんでバカやってた日々の愛おしさ、それが終わってしまうことの切なさ。勝手に泣きの地雷を踏み、ウルウルしてしまった。
泣きの地雷はもうひとつある。子供を持つ親ならきっと踏んでしまうだろう、あえて詳しくは書かないけど、その箇所を読んでグダグダ展開がぎゅっと引き締まった。そこに津村さんの構成の巧さを感じた。たくさんの青春小説の中でも、この作品はイケてない部類に入るかもしれない(笑)だからこそ、一番好きかもしれない。
かつての自分は勿論、今の自分(アラフォーだけどな)も重ね、しょっぱくて情けない毎日でも、前を向いていこうと思えた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
おそろしく良かった…現時点で津村作品のベストオブベストです。
主人公アザミと彼女を取り巻くチユキやモチヅキには、「何も無い」。
アザミは一見音楽が全てで、音楽というそれ一点に依りかかってさえいれば、他に何も無くても大丈夫だ、という風に見える。
しかし彼女は心では、音楽では生きていけないことを知っている。
チユキだってモチヅキだって、別に上手く生きてない。
けどそれでいい、ちょっとだけ賢くて優しくさえ居れりゃ、それでいい。
ってことをダラダラと伝えてくれる、物凄く優しい小説です。
例のごとく、引用したくなる心情描写が毎頁の如く出てきました。
そりゃあもう、「わかる!わかるぞ~~!!」って声に出したくなるくらい。
とりあえず印象的だった箇所を1つだけ書いとこう。
とにかく、とにかく読んでください。もはやレビューというよりお願い
『友だちと話している時は、話していること自体が面白くて、だいたいの憂さについては忘れてしまうのだった。別れたあと、あの辛かった話を聞いてほしかったのに、と思いだして落ち込むこともあるけれど、たいていは、話さなかったようなことだから大したことじゃないのかもしれないと頭の隅に追いやることができる。もちろん、問題は一切解決しないままに。』 -
高校生の頃ってこんなんだったのかな、とはるか遠くなってしまった過去を思い返してもよくわからない。でも、もちろん良い意味で、だらっとした女の子たちの青春ってすごく良いと思った。わかるー、と思うのは高校生っていうのがすでに他人事だからなのか、現役高校生だったときに読んでもわかるーと思えるのかはわからない。後半不意打ちで泣かされる箇所が2つほどあった。よかった。
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いい意味でもやもやの残る話だった。
大学受験を目前にした微妙な季節というのは、経験したことのある人ならきっと忘れられないものだと思う。
期待は重いと思うこともあるけれど、誰にも何も期待されないというのもまた寂しく哀しいものだ。主人公は期待されず、結果も残さず、周りの子たちが進路を定めて進んでいくのを、
音楽とともに見送るだけなんだけれど、多分何かしらを得ながら生きていくんだろう。三年間という限られた時間の、限られた友情をスッキリさせずに描いているのが面白かった。 -
洋楽パンクが大好きな、頭の中がごちゃごちゃの優しい高校生の女の子と同級生たちの話。なんというか、変にいきがっていない地に足の着いた高校生たちが可愛い。自分が高校の受験時代に読んでいたらむしろ距離を感じたかもしれないが、高校時代にこの本に出会えた人がいたとしたら羨ましい。
芥川賞のあと、受賞作を読んで、さらにこの作家の特集をアエラで読んで、とてもひかれるものを感じた。それは、彼女の作品の中で、彼女が題材にしやすいのだろう母子家庭のなかの親子の関係が、子供の側からしっかり観察されているところにあり、その信頼感を裏切らないような人柄が記事に表れていたからではないかと思う。作家は文体や題材に試行錯誤を重ねて、色々なジャンルに挑戦していくのだと思うが、こういう本をたくさん書き続けてほしいと私は思う。 -
最高!!
設定が大阪ってことで馴染みの言葉、地名、店、電車
すべての風景がありありと伝わってくる
高校生のころくらいの自分の大事な世界
その部分には異様なまでに神経質にこだわって
まったくそれが苦じゃない感じ すっげーーーわかる
それまでは皆と大体同じ道やったのが急に判断を迫られる怖さ
さみしさ、ワクワク感、全部が鮮やかによみがえる!すごい! -
グダグダでやりたいことも見つけられない主人公アザミに共感を覚えました。
キノシタさんの
「本当に好きな音楽があればずーっと聴いてたらいいと思うよ」
「好きなものがあるほうがいいよ」
という台詞にちょっと救われる。
モチヅキをホテルに誘ってしまったアザミに本気で「バカー!」と思ってしまいました…そこは本当に嫌だった…。
ストーリーの続きが気になるわけじゃなくてアザミの抱える不安やもやもやが自分のことのように思えて読み終えました。 -
これを読んで洋楽に興味がでました。ぐだぐだのアズミは自分にも当てはまる気がしました。世間からこぼれおちた感じがなんとも言えず好きです。何をしても満足いかず、楽しくいかず、わからなくなるときってどんな人にもあるとおもいます。
そういうところはすごく好感が持てました。 -
芥川賞とった作品よりこっちの方が好きかも。
音楽とともに生きる高校生活。いい友人達に囲まれる主人公。
自分も音楽に励まされているのでよく分かる、この気持ち。