天地明察

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • / ISBN・EAN: 9784048740135

作品紹介・あらすじ

江戸時代、前代未聞のベンチャー事業に生涯を賭けた男がいた。ミッションは「日本独自の暦」を作ること-。碁打ちにして数学者・渋川春海の二十年にわたる奮闘・挫折・喜び、そして恋!早くも読書界沸騰!俊英にして鬼才がおくる新潮流歴史ロマン。

感想・レビュー・書評

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  • からん、ころん
    主人公、安井算哲22歳
    風に揺れる金王八幡宮に奉納された算額絵馬の前に正座し、嬉々として算術の難問に挑む所から1章が始まり、たちまち話の中に引きずり込まれてしまった

    お城の碁打ち衆のお役目に飽きていた安井算哲は、自らを渋川春海と名乗る
    自分だけの春の海辺に"住み吉"となる浜ーー居場所のみならず己にしか成せない行い、人生の浜辺ともいうべきものが欲しいと切望しての改名である

    そして、将軍家よりまさに己にしか成せない行い、この国に正しい天理をもたらす暦を作成せよとの命が下される
    22歳の春海が22年の年月をかけて取り組んだ大和暦の制定に至るまでの物語である

    春海は勿論のこと、この大事業を支えた人々の何と魅力的なこと

    全国津々浦々の土地から北極星を観測し、各地の緯度を明らかにする北極出地で知り合った建部昌明、伊藤重孝、会津藩主であり徳川幕府の陰の総裁と言われた保科正之、老中酒井肥後守、神道家の山崎闇斎、算術家の関孝和等々
    みんな少年のような好奇心を持ち、挑む姿勢を忘れない

    春海を支えた妻ことと二度目の妻えん、正反対の二人だが、二人ともとても魅力的な女性であった。この二人の妻なくしては、春海の大事業もなし得なかったのではないか

    陰陽道、天や星の動き、それにも増して、苦手な数学の難問が次々出てきて、ちんぷんかんぷんだったが、失敗を繰り返しながらも、挫けることなく、それらを駆使し、日本独自の大和暦を完成させた情熱に胸が熱くなった

    今日が何月何日であるかという決定権を握ることが宗教、政治、経済、文化の全てに君臨することだということが、現在ではあまりに当たり前すぎてピンとこなかったが、当時はそれほど重大なことだったのだ

    「暦は約束である。泰平の世における無言の誓い。
    明日も生きている 明日もこの世はあるという約束」

    戦国の世はどんな約束も踏みにじる
    そんな世の中はもうたくさんだ。そういう思いが暦というものに爆発的な関心を向けさせたのだろう

    こんな人々の平和を切望する思いが暦の完成につながったのだろうか

    文章から武家社会の凛とした清浄な空気が伝わってくるようだった



  • 冒頭の満開の桜のごとき絵馬の群れを描いた
    「算額奉納」のシーン。

    壮大な物語の幕開けに相応しい
    ロマンあふれる導入部に
    まず心を奪われました。


    しかし暦と天文学と数学という難しいテーマを
    見事にエンターテイメントに仕上げ
    一気に読ませる技量にはホント脱帽です。

    それにしても江戸時代に
    これほどまでに情熱を持って
    星の動きを研究していた人たちがいたことには
    本当にビックリでした。

    暦を作ることに
    23年もの間命をかける人たち。

    人が命をかけ成就させようという
    強い思いを描いた物語に
    心打たれない人はいないんではないでしょうか(笑)


    主人公は碁打ち衆の一員でありながら、
    算術に生き甲斐を見いだしている
    23歳の渋川春海。


    一瞥即解で難しい算術を解く
    謎の武士、関孝和や
    17歳の若手の碁打ち
    本因坊道策、
    優れた算術の腕を持つ安藤有益、
    会津藩藩主、保科正之、
    豪放磊落な水戸光圀など
    様々な歴史上の人物たちが
    夢を追う気弱な主人公を
    盛り立ててくれるのも
    心躍ります。



    中でも
    関との算方勝負と、

    各地の緯度の測定を行う
    北極出地に向かうエピソードの
    素晴らしさが光ります。

    子供のような無邪気さで嬉々として星を測量する二人の老人、
    観測隊の隊長建部と
    医師の伊藤。


    487日かけて日本全土を巡り
    星々の並びを観測する旅なんて
    想像しただけで
    うっとりしてしまう。



    挫折に次ぐ挫折を経て
    中国の受時暦を日本風にアレンジした
    「大和暦」を
    ついに誕生させる春海。


    自分を信じ愛してくれた人たちが
    次々と志し半ばに死んでいくのを見送りながら、
    夢へと向かう気持ちは
    どんなものだったんだろう。



    暦には、
    明日を信じ
    平和を願う気持ちが込められている。

    何があっても
    明日もこの世は続くのだという事実が
    どれほど心強く
    人々を勇気づけるか。

    そう考えれば
    戦国の世を経た当時の人たちの
    暦に寄せる特別な思いにも共感できました。



    春海にとっての人生の音だった
    絵馬たちの立てる
    「からん、ころん」。


    自分にとっての人生の音は
    何だったんだろう。


    拳が空を切り裂く
    シュッシュッ、

    もしくはギターが奏でる
    ギュイ〜ンか、


    あなたにとって
    それは何ですか?

    • MOTOさん
      読み終えても、永遠余韻が冷めない本は、
      タイトルを目にしただけでも嬉しいものですね♪

      円軌道の外さんのレビューがまた、
      物語の名所の旅へと...
      読み終えても、永遠余韻が冷めない本は、
      タイトルを目にしただけでも嬉しいものですね♪

      円軌道の外さんのレビューがまた、
      物語の名所の旅へと連れていってくれるがのごとく、ツボをつかれていて♪
      いやぁ~、あの満天の夜空の下で感じた、小さすぎる人間の決して小さくはなかった力を懐かしく思い出す事が出来て、とても嬉しかったです!
      ありがとうございました♪

      『天空に音楽あり』って誰か有名な人が言ってましたよね?
      私もその言葉の持つ意味がわかる様な気がしましたよ(^^♪
      2013/07/21
    • 円軌道の外さん

      MOTOさん、遅くなってすいません!

      またまた体調崩しまして(汗)(^_^;)

      また体調崩さないと
      コメント返せる時間がと...

      MOTOさん、遅くなってすいません!

      またまた体調崩しまして(汗)(^_^;)

      また体調崩さないと
      コメント返せる時間がとれないということで(笑)
      ホンマ申し訳ないっス!


      いつも素敵なコメント
      ありがとうございます(^O^)


      MOTOさんが言う、
      「小さすぎる人間の
      決して小さくはなかった力」ってフレーズにグッときたし、

      ちょっとした言い回しや
      表現の仕方が
      いちいちツボで、

      MOTOさんのような文章が書けたらなぁ〜って
      いつも憧れてます(^O^)


      それにしても壮大なロマンあふれる歴史モノを
      わかりやすく読ませてくれるこの冲方さんは、
      気になる存在ですよね(^_^)


      今度は日本人に最も馴染み深い
      水戸の黄門様を描いた
      「光圀伝」を読んでみたいなぁ〜♪


      2013/08/18
  • 【感想】
    正直なところ、天文学関係の専門的な内容は全く頭に入ってこなかったが・・・・
    主人公をはじめとする登場人物の魅力がとても高い作品で、読んでいてとても面白かった。
    歴史を引っくり返すという大きなプロジェクトに生涯を捧げた男たちの物語は、本当に読んでいて胸が熱くなる。

    現在の自分の使命に疑問を感じ、才能がありながらも苦悩する渋川春海。
    彼が己の生涯を賭けるに値するミッションを見つけることができた事が羨ましいなと思った。
    やはり、この世に生まれたからには、己のすべてを捧げないといけないような事業に関わらないといけないなぁ。
    平和で平凡な人生も決して悪くないが、やはりそういった人生も歩みたいなと憧れの気持ちを抱いた。

    登場人物の全てが実在するノンフィクションの作品というのもオツでした。


    【あらすじ】
    江戸、四代将軍家綱の御代。
    前代未聞のベンチャー事業に生涯を賭けた男がいた。
    即ち、日本独自の太陰暦を作り上げること。
    碁打ちにして数学者・渋川春海の二十年にわたる奮闘・挫折・喜び、そして恋。

    俊英にして鬼才がおくる新潮流歴史ロマン。
    日本文化を変えた大いなる計画を、個の成長物語としてみずみずしくも重厚に描く傑作時代小説!!


    【引用】
    p115
    碁は、春海にとって己の生命ではなかった。
    過去の棋譜、名勝負をどれだけ見ても悔しさとはほど遠い思いしか抱けない。
    今の碁打ちたちの勝負にも熱狂が湧かない。

    算術だけだった。
    これほどの感情をもたらすのはそれしかなかった。
    飽きないということは、そういうことなのだ。だから怖かった。
    あるのは歓びや感動だけではない。
    きっとその反対の感情にも襲われる。

    退屈な勝負に身を委ねる方がよっぽど気楽で入られた。
    そうすれば、こんな怖い思いとは一生縁がなく生きていける。

    だがそうなればきっと、本当の歓びを知らずに死んでゆく。
    一生が終わる前に、今生きているこの心が死に絶える、そう思った。


    p276
    保科正之の非凡さ
    「なぜ島原の乱は起こった?」
    「なぜそもそも一揆は起こる?」
    凶作、飢饉、飢餓。調べれば調べるほどそれらが第一原因だと確信した。

    さらに疑問を続け、
    「民のために蓄える方法を為政者たちが創出してこなかった。」
    と過去の治世の欠点を喝破し、
    「凶作と飢饉は天意に左右されるゆえ仕方なしとすれども、飢饉によって飢餓を生み、あまつさえ一揆叛乱を生じさせるのは、君主の名折れである」という結論に達した。

    将軍とは、武家とは、武士とは何であるか?
    「民の生活の安定確保をはかる存在」と答えを定めている。
    戦国の世においては、侵略阻止、領土拡大、領内治安こそ何よりの安定確保であろう。

    では、泰平の世におけるそれは如何に?という問いに、「民の生活向上」と大目標を定めたのである。

    結果、なんと凶作の年にも他藩に米を貸すほどの蓄えとなり、ついには「会津に飢人なし」と評されるに至った。

  • 渋川春海(安井算哲)は、囲碁棋士として勤めを果たしながら天文学や数学など様々な学問に精通している。

    その才能を老中の酒井に見込まれて、春海は北極星を観測しながら日本各地をめぐる北極出地という公務へと駆り出される。
    頼もしい仲間達に支えられつつ、改暦という幕府の威信をかけた一大事業へ乗り出した。

    ———-

    春海が最後に打ち出した「大和暦」。
    歴史的瞬間を、春海の人生になぞらえて見ているようで、その当時にタイムスリップしたみたいで面白い。

    算術家の関孝和や、最強の棋士・本因坊道策、保科正之、水戸光圀といった天才や名君たちも多数登場する。
    だれもがみな春海の改暦を後押ししてくれた偉人たちだ。

    名前は聞いたことあるけど、こんなことを成し遂げたすごい人だったんだなと、この小説を読んで初めて知りました。

    時代を飛び越えて、当時の人と対話しているような面白さが、時代小説にはあるんだなと思います。

  • からん、ころん。全てはここから始まった。
    改暦に全身全霊をかけ勝負した渋川春海の物語。

    当たり前のようにある暦。
    その暦にこんなにも素晴らしい歴史があったとは。
    算術、碁、天文と、全て苦手な分野。けれども文字でこの改暦までの歴史をゆっくり追っていく時間、各シーン、特に観測のシーンを必死に想像するのが本当に楽しかった。

    誰もとの出会いが全て必然的だったと感じずにはいられない。
    誰もが春海を支えてくれた、誰の思いも無駄にしなかった、そんな熱き天と地の間に立っての勝負、お見事だった。

    読んで良かった!その思いで満たされた。

  • 人には役割があるんだ。
    つーことと
    カレンダーは誰が決めたの?
    って読みながら
    ずーっと想ってた。

    映像化…
    岡田でも宮崎でもないな…

  • 日本史用語集でしか知らなかった、渋川春海、関孝和、保科正之…たちが生き生きと目の前に現れ、人間味溢れる姿に、何度も鳥肌がたった。

    男のロマンという言葉が浮かんだが、そんなものではなくて、もっと人間らしいし、社会的だし、とにかく面白かった。

  • 読み終わるのが惜しい本と出会えるのは一年に一、二冊程度。面白くてページが残り少なくなってくるのが寂しかった。
    タイトルから難しそうな印象を受けたけど、とても読みやすい。江戸時代の暦や算術、天文術、碁などに造形が深かった渋川春海の話。

    • しずくさん
      随分前に読んだのですが今でも大好きな本の一冊です。
      随分前に読んだのですが今でも大好きな本の一冊です。
      2022/07/27
    • ひとみんさん
      コメントありがとうございます。好きな思いを共有できて嬉しいです!
      コメントありがとうございます。好きな思いを共有できて嬉しいです!
      2022/07/27
    • しずくさん
      ひとみんさん、おはようございます!
      あの読んだ時の感激が忘れられなくて旧い感想を新しい本棚のブクログに転載しました。そして本作へたどり着く...
      ひとみんさん、おはようございます!
      あの読んだ時の感激が忘れられなくて旧い感想を新しい本棚のブクログに転載しました。そして本作へたどり着くまでのこと・・・。
      もう一度読み返す機会を与えて下さって感謝します

      ごめんなさい、ひとみんさんでした。
      2022/07/28
  • こちらの作品のブクログ登録日は2015年3月12日ですが、レビューを書いていなかったので、本日(2021年8月1日)書きます。

    著者、冲方丁さん、どのような方かというと、ウィキペデイアには次のように書かれています。

    冲方 丁(うぶかた とう、1977年2月14日 -)は、日本の小説家、脚本家。日本SF作家クラブ会員。
    1977年、岐阜県各務原市生まれ。4歳から9歳までシンガポール、10歳から14歳までネパールで過ごす。その後、埼玉県立川越高等学校に入学。1996年、早稲田大学在学中に『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞し小説家デビュー。早稲田大学第一文学部中退。

    作品の内容は、次のとおり。(コピペです)

    江戸、四代将軍家綱の御代。ある「プロジェクト」が立ちあがった。即ち、日本独自の太陰暦を作り上げること--日本文化を変えた大いなる計画を、個の成長物語としてみずみずしくも重厚に描く傑作時代小説!!

  • 以前、「光圀伝」の読了を断念した身としては、同じ江戸時代の物語(もう戦国ではない)に身構えたものだが、まったくの杞憂だった。物語は改暦がテーマとなっている。改暦は天の動きを解明して、暦という人の作った理に落とし込む行為であり、暦は権威、権力と結びつく宿命にあるわけだけど(エジプト、ローマを見よ)、けっして難しい読み物ではない。もちろんそんな側面もありつつ、主人公の渋川春海の青春物語として成り立っていて、恐ろしく軽やかで、爽やかで、読んでいて心地良い。ニコニコしながら読んでると、突如悔しさや悲しさや怒りが押し寄せてきて、その後また爽やかな心地が訪れる。さらに、いつのまにやら明治維新の構図がわかったり、江戸幕府が安定した統治を行えた構図がわかったりもするお得さだ。とりあえず読んで、コロナ疲れを癒していただきたい。

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著者プロフィール

1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、2010年『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞、第7回北東文学賞、2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。主な著書に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『剣樹抄』『麒麟児』『アクティベイター』などがある。

「2022年 『骨灰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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