あのとき始まったことのすべて

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048740425

作品紹介・あらすじ

確かなのは、僕らは今を生きるしかないということだ。社会人三年目-中学の同級生との十年ぶりの再会。それが、僕らのせつない恋の始まりだった…。

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わると「あのとき始まったことのすべて」というタイトルがすごく愛おしくなる。
    「あのとき」がなかったら、「今」はない。

    中学の同級生と十年ぶりに再会するところから物語は始まる。
    中学生だった「あのとき」には知らなかった相手のこと。
    中学生だった「あのとき」があったから分かる相手のこと。
    どちらも本当だと思う。

    すごく純粋な「好き」がここにはある。
    この瞬間を覚えていたいと狂おしく願うほどに大切な一時が確かにある。
    「好き」という気持ちは幸せもくれるけど、苦しみもくっついてくる。
    あのどうしようもない感情が描かれている。
    どうしたらいいのか分からないのに、ただただ愛おしいんだ。

  • 前回読んだ作品とは、だいぶ雰囲気の異なる会話の内容で、私の好きな伊坂幸太郎作品のような、軽快なトークで、著者はこのような作品も書くんだと驚いた。

  • 冒頭───
     十年ぶりってのは、どれくらい久しぶりなんだろう。
     ワールドカップとか夏のオリンピックのことを僕は考えていた。十年ということはそれらが合わせて五回開催されるということで、そいつはすげえや、とも、だからどうということでもないな、とも思う。
     今夜、仕事が終わってから、中学の同級生の石井さんと会う約束をしていた。彼女に会うのは中学を卒業して以来で、ちょうど十年ぶりということになる。
     その約束をしてから今日までの一週間、いつも通りの日々を過ごしてきた。
     食べて寝て起きて、会社に行く。書類を作り会議に出て人に会う。電車の中で本を読み、ときどき笑う。ときどき黙り、ときどきあくびをかみ殺す。
     だけど気付けばふとした瞬間に、あの頃のことを考えていた。考えるというより浸るという言葉のほうが近いかもしれない。今も、目の前の親子丼を食べながら、あの頃に思いを馳せている。

    ─────────
    二十五歳のとき、僕はまだ学生だった。

    そこから十年遡ると、ちょうど中学三年生になる。
    あの頃は、高校進学を間近に控え、受験勉強が大変だったけれど、学校に行くのが毎日楽しかった。
    休み時間は数学の図形問題を友だちと作って遊んだりしたし、放課後は勉強そっちのけで、校舎の屋上で人の大きさほどもある紙飛行機作りに熱中していた。
    芽生え始めた恋心の対象だった女の子と、たまに話すだけでもうれしかった。

    それから十年後、卒業十周年を記念して、中学校の同窓会の案内状が届いた。僕は東京で就職活動の真っ只中だったし、故郷へ帰る新幹線の電車賃も惜しかったので、欠席の返事を書いて送った。

    もし参加して、十年ぶりに仲間たちと会っていたら、どんな思いを抱いたのだろうか。そこまでの十年間、僕とみんなとの間では互いに共有できなかったたくさんの出来事があったはずだ。あの頃ならまだ、笑いながら面白おかしく空白の十年間の話に花が咲いていたことだろう。無理してでも出るべきだったなと、今になって後悔が募る。

    あれから数十年以上を経た今となっては、それを楽しく話せるような機会もなくなった。もうみんな年を取り過ぎた。僕はあのとき、何かを始められるチャンスを失ったのかもしれない。

    主人公の岡田は、中学三年のときに仲間だった女の子石井さんに十年ぶりに会うことになる。中学時代、自分の話にいつも楽しそうに笑ってくれた石井さん。
    久しぶりに会った彼女は今も変わらず、岡田の話に楽しそうな笑顔を浮かべてくれる。
    “十年間止まっていた時計が今、軽やかな金管の音楽とともに動き出した───”
    意気投合した二人は───。

    中三のとき、岡田の仲間は石井さんのほかに、悪友の柳ともう一人、中一の時に告白して振られた白原さんがいた。四人それぞれ、互いを優しく思いやり、でも他人が自分をどう思っているか気づかずに学園生活を送っていた。

    何もかも知るにはみんな若すぎたのだ。
    修学旅行での白原さんの涙の意味など、誰も理解できなかった。でも、それから十年以上の時が経って、ようやくあの頃何を大切に思っていたかを理解できるようになったみんな。大人になった四人は、あのとき始まったこと、あのとき進めなかった道をもう一度歩き始める。

    中学時代というのは、人生で一番光り輝いていて、楽しく、切なく、ほろ苦く、甘酸っぱい思い出の詰まったときだったなあと、あらためて思い出してしまう物語。
    でも、二度とそこには戻れないんだよな------。

    個人的に、中村航の作品の中では一番好きなお話です。

  • 中学校時代に仲良くしてたけど卒業以来会わなかった友人と10年振りに再会するお話。

    そういう感情あるよねぇ〜、とか
    くだらない話で盛り上がったよなぁ、とか
    懐かしいようで、共感したり、くすぐったいような具体的なエピソードが沢山あって、自分の中学時代も思い出したりして、メモしながら読んだ。

    期待を裏切らなくて、ほっこりあたたかくて、ちょっと切なくて、優しいお話。
    読みやすかったし、他の作品も読みたくなった。


    岡田くんと石井さんの関係が、この後発展したらいいな。

  • 僕の好きな人がよく眠れますように、で好きになった作家さん。
    今回読んで、登場人物ワンパターン!がっかり!と思ったのも束の間、不覚にもドキドキしたり涙したりしてしまった。
    中村航さんの恋愛の描写がツボすぎる。
    こんなふうに男の子に惚れられてみたい。

    あと、岡田くんの仕事に対する意識が爽快だった。実はここもこの本の見所な気がする。わたしもそんなふうに仕事をしたい。

  • なんか懐かしいキュンキュンがいっぱいだった!!!
    中学生の頃ってこうだったよな〜という回想がいい。
    中学時代の友達とかを大切に思える本だった。

    あとは、自分も石井さんみたいに、思い出されるときに笑顔が浮かぶ人になりたいなあと。
    すぐに怒ってしまうので、心に石井さん置いときたい。

    何よりも白河さんが愛しすぎた。
    切ないんだけど爽やかで読んだあとなんかハッピーな気持ちになる本だったので、
    他の恋愛小説読みたくなって早速田辺聖子さんの本読んでる。


  • ☆心に残ったセリフ☆
    「こんだけ多様な価値観がある中でな、ある物事とかに対して全肯定とか全否定とかはあり得ないだろ。あるのは優先順位だけなんだよ。だからいつも正しい優先順位を考えて、仕事でも人生でも、何が大切なのか理解するんだよ。やりたいことを先延ばしにしすぎないようにな、人生の一時間一分一秒を大事にして、毎日どんな日も人生を賛美できるといいよな」

    自己啓発本のようにこのセリフが響いた。

  • 思わずアボカドの種を植えた。
    岡田クンの先輩、大好き。

  • なんやろ!こんだけポジティブな振られ様って。ノンフィクションでも(勿論現実でも)聞いたことがない。

    二人が再会するまでの2週間、局地戦なるものを展開した日と、それからの2週間、文章には書かれていない部分で、その間2人が何を思ってどういう風な時間を過ごしてきたか考えると、涸れ果てた俺みたいなおっさんでも、冷静に読んでられなくなる。

    奈良での1日デート帰りの新幹線での主人公の気持ち整理のシーン、他の主要登場人物との地元で再会した吞み会…と話が進むにつれ、暖かいけど勢い強い感情の波が脳みそやら心臓やらをガンガン打ちつけてきて…読後の感情筋の疲労がかなり気持ちよくやってくる。

    「仕事をきっちりして、お前をしっかり笑わせてくれる人がいたら、その人と会う時、フードつきのパーカーを着て行きなさい」
    娘には、そう言うておこう…多分言わんけど。

  • 2015/10/25

    心の奥が震えるような切なさのあるお話…

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著者プロフィール

建築家。博士(建築学)。株式会社MOSAIC DESIGN代表。
1978年東京都生まれ。2002年日本大学理工学部建築学科(高宮眞介研究室)卒業、2005年早稲田大学大学院修士課程(古谷誠章研究室)修了。2008年同大学博士後期課程単位取得退学、助手・嘱託研究員を経て、2010年〜16年東京大学大学院隈研吾研究室助教。2011年東南アジアのストリートの屋台に関する研究で博士(建築学)取得。同年建築設計事務所MOSAIC DESIGN設立。明治大学I-AUD、早稲田大学、日本大学などで非常勤講師を務める。店舗・住宅・ホテル・商業施設・マーケットなど、屋台からアーバンデザインまで、何か楽しいことやりましょう!をキーワードに大小さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。

「2023年 『POP URBANISM』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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