陽を翔るトラクター 農文一体

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  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048763615

作品紹介・あらすじ

北海道の地で農に生きる歌人のしみじとしたエッセイ集。雨や雪の日もくさらず、嘆かず諦めず。自然に左右されがちな農業から学んだおおらかな生き方に共感必至です。食糧自給率の低さを憂う農家ならではの提言も。

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  • 人間であるぞ 愉快ぞ 今日もまたエンジン唸らせ無駄の種子播く
     時田則雄

    「農文一体」。帯広市内で、農業と文筆業を半世紀近くも続けている作者。その生を簡潔に表したこの四文字は、この度刊行されたエッセー集の副題である。

     とにかく多忙な日々ということが、行間から伝わってくる。早朝からの農作業、短歌創作と依頼原稿の執筆、大学での講義等々。そんな中、睡眠時間を削りつつ、アイヌの歴史・文化の研究にも余念がないという。アイヌ語地名の多いこの北の地に生を受けたことに、自覚的なのだ。

     代表歌の一つは、高校の国語教科書にも掲載されている次の歌である。

     離農せしおまへの家をくべながら冬越す窓に花咲かせをり

     就農した年は、1967年。当時は「離農」が促進されており、特に十勝地方では、去っていく仲間が少なくなかったという。複雑な胸中のもと、規模を拡大して何とか営農を続けてきたことも書かれている。

     雪を食へばしらゆき姫になるといふわが嘘を聴く耳やはらかし

     この歌は、中学校の国語教材に使われているそうだ。父の語る「嘘」を素直に「聴く」やわらかい耳の持ち主は、娘。子どもたちは、親が語る物語を通して、みずからの想像力を養っていくのだろう。

     掲出歌は、自分自身に言い聞かせた歌なのかもしれない。農でも歌でも「エンジン」の轟音をひびかせ、かつ、自然を敬愛しながら生を営むことの「愉快」さ。播き続けるその「種子」は、決して「無駄」ではないことを反語的に語った歌と思う。
    (2016年7月3日掲載)

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著者プロフィール

1946年帯広市生まれ。帯広畜産大学卒。高校在学中に作歌をはじめ、1964年、「辛夷」入会。92年から同誌編集・発行人。80年「一片の雲」五十首詠により角川短歌賞受賞。82年歌集『北方論』により現代歌人協会賞受賞。

「2022年 『詞華集 野男のうた 自選二〇〇首』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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