歌集 滑走路

著者 :
  • KADOKAWA
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レビュー : 13
  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048764773

作品紹介・あらすじ

生きづらい、不安な時代を生きるすべての人へ 若き歌人が残した295首のエール

感想・レビュー・書評

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  • きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい
     萩原慎一郎

     昨年初夏、32歳で世を去った作者の遺歌集が版を重ねている。新聞やテレビ番組で話題となり、角川書店の総合誌「短歌」7月号でも特集が組まれた。20代、30代の心を揺さぶる、次のような歌がある。

     ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる

     若い世代の4割近くが非正規雇用であり、「も」のリフレインに現実感が濃厚だ。「きみ」は、職場の同僚ともとれるが、牛丼店の従業員のことかもしれない。

     「研修中」だったあなたが「店員」になって真剣な眼差しがいい

     飲食店などで「研修中」のバッジをつけていた「あなた」が、数カ月後、独り立ちしたことにエールを送っている。働く若者同士のささやかな連帯感と、寄り添う「眼差し」に、体温がある。

     ぼくたちの世代の歌が居酒屋で流れているよ そういう歳だ

     一人称の「ぼく」を歌っても、おのずと同世代の「ぼくたち」を歌うことにつながる。居酒屋で耳にしたなじみの曲は、同世代が通勤中でも聞いている曲なのだろう。

     真摯に労働し、生き抜いているが、輝かしい将来像をなかなか描けずにいる「ぼくたち」の肉声。それらが、歌集からひりひりと伝わってくる。

     掲出歌の「きみ」は、同世代であり、自分自身でもあるのだろう。「滑走路」は用意され、あとはただ前を見て一歩飛び出せばよいのだが―夭折が惜しまれてならない。
    (2018年8月26日掲載)

  • 東2法経図・6F開架 911.168A/H13k//K

  • 俵万智以来の口語短歌。
    俵万智とは違い、ときに悲鳴のような、ときに祈りのような、痛切な思いを感じる。
    バブルで浮き足立っていた頃と、経済的に先が見えない今の違いなのかと思ったけど、それだけではない事があとがきで分かって、やり切れなくなる。
    彼の純粋な感性と才能を潰してしまったかつての野球部員たちは、それでも自分たちの罪ではないと思うんだろうな。いじめた方は覚えてなかったり、自分がしたことを正当化して記憶してたりするから。

  • 詩を読むとき、詠み人と読み手には大きな隔たりがあると思います。

    しかし、この歌集を読み始めて間もなく、その抒情の横溢にすぐに飲み込まれるのを感じました。

    滑走路、空、鳥、翼、走る、助走して超える。

    ともすれば、現実の重い足かせで、身体が沈み込んでいくような気持ちを、歌を放つことによって昇華させていたんだと思います。

    1984年生まれの詠み手の感じていたやるせなさと、それを弾こうとする若い心の反発心が、強く印象に残りました。

  •  
    ── 萩原 慎一郎《滑走路 20171226 角川書店》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4048764772
     
    (跋文:三枝 昂之、装幀:南 一夫、帯文:俵 万智)
     
    “消しゴムが 丸くなるごと苦労して きっと優しくなってゆくのだ”
     萩原 慎一郎 歌人・詩人 19840916 東京 20170608 32 /自殺
    /Hagihara, Shinnichirou
     
    …… いじめ、精神的不調、非正規…、32歳で命を絶った歌集。懸命に
    生きた抜いた人生と、歌に込められたメッセージを又吉 直樹さんと
    見つめます。
    …… 《#クロ現プラス 20181016 22:00-22:25 NHK》
    「人生にエール! 短歌が異例ヒット・向井 理が又吉 直樹が感銘」
     平成の時代をうたった一冊の短歌集が今ヒットしている。いじめ、
    非正規、そして恋…。社会と人を見つめ、32歳で自ら命を絶った作者の
    思いに又吉 直樹さんと共に迫る。
    お笑いタレント・作家…又吉 直樹/キャスター;武田 真一,田中 泉
    https://twitter.com/nhk_kurogen/status/1051941545547653120
     
    ── 同志社女子大学・編《ピクルスの気持ち ~
    高校生短歌の『こゝろ』200407‥ 晃洋書房》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4771015732
     
    (20181016)
     

  • “日常の小さな達成集めては自信に変えてしまおう良夜”

    “生きるのに僕には僕のペースあり飴玉舌に転がしながら”

    “パソコンの向こうにひとがいるんだとアイスクリーム食べて深呼吸”

    “叩け、叩け、吾がキーボード。放り出せ、悲しみ全部。放り出せ、歌。”

    “理解者はひとりかふたり でも理解者がいたことはしあわせだった”

  • 久しぶりに歌集を読んだ。優しい青年の心の叫びが凝縮されている。日々の労働で溜まった感情を愚痴や毒として出さず、短歌に込めて発表できるのはすごいことだと思う。彼ほど自由に世界が見れて言葉を操ることができれば、労働なんてしなくていい世の中であってほしい。

    占いの結果以上にぼくたちが信じるべきは自分自身だ
    消しゴムが丸くなるごと苦労してきっと優しくなっていくのだ
    今日という日もまた栞 読みさしの人生という書物にすれば

  • 歌を詠むことで救われていたのだろう。
    歌集を出す、という夢を持つことで未来の光を見つめていたのだろう。それなのに…
    やり場のない怒りや、まとわりつく不安、やるせない日々の中でほのかに色づく恋の歌。
    彼の毎日はきっとその時だけは輝いていたのだろう。
    消しゴムのように丸まりながら、ひたすらごみをシュレッダーにかけながら、下っ端として頭を下げ続けながら、それでも恋をしていたのだろう。
    誰が悪い、とは言えない。何が悪いとも言えない。
    でも、彼が生きられなかったこの世界は、やはりどこかが間違っているのだろう。

  • あー生きていてほしかった。
    こんなみずみずしい歌が詠めるのに。
    生きていれば、五感で感じて(嬉しいことだけじゃなく哀しいことも切ないことも)それを三十一文字に表現する才能があったのに。
    もし、もし、恋が実っていたら生きることを選んでたかなってふと思った。

    内部にて光り始めて(ここからだ)恋も短歌も人生だって

    靴ひもを結び直しているときに春の匂いが横を過ぎゆく

    夜明けとはぼくにとっては残酷だ 朝になったら下っ端だから

    こころのなかにある跳び箱を少年の日のように助走して越えてゆけ

  • 短歌とは・・・
    ということを考えさせられるなあ。
    正直、表現はとっても稚拙で、文法とかも危なっかしい。
    でも、これは紛れもなくこの人でなければ詠めなかった『歌』だ。
    表現の目新しさばかりを狙った。小手先の短歌が多くて、作り手もそんなことばっかりに夢中になり、選者や評者などから高い評価を貰うことに夢中になってる短歌の世界では異端であり、文学的には正統なのではないかなあ。

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著者プロフィール

萩原 慎一郎(はぎはら しんいちろう)
1984年9月16日 - 2017年6月8日
東京都生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学卒。中高生時代にいじめを受けているなか、近所の立川市の書店にサイン会で来ていた俵万智の影響を受け、17歳の時に短歌を始める。三枝昂之主宰の「りとむ短歌会」に所属した。2005年に万葉賞、角川全国短歌大賞日本歌人クラブ賞を受賞している。
高校卒業後もいじめの後遺症に苦しんでいたが、26歳で大学を卒業。アルバイト・契約社員を務めながら短歌の創作活動を続ける。2014年に第5回角川全国短歌大賞準賞とNHK全国短歌大会の第1回近藤芳美賞の選者賞(岡井隆選)を受賞。2015年に朝日歌壇賞、全日本短歌大会毎日新聞社賞を受賞。2016年にNHK全国短歌大会にて作品が特選に選ばれ、全日本短歌大会で日本歌人クラブ賞を受賞。
活躍を続けていたが、2017年6月8日に自死。同年、遺作となる歌集『滑走路』が角川書店より発売された。2018年「ニュースウォッチ9」で紹介され、大きな話題を呼んだ。

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