- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784048836326
感想・レビュー・書評
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水木しげるが興味を持った神秘家たちを取り上げています。
「エマヌエル・スウェーデンボルグ」
他の人が見えないものが見え、霊界と交信し、奇蹟を起こしたために、人々から尊敬されると同時に狂人ともされたスウェーデンボルグの生涯と彼の見えていたもの。
その思想と奇蹟はコナン・ドイル、ゲーテ、ショーペンハウエル、ヘレン・ケラー、アラマタ・コリャマタ、シゲル・ミズキといった人たちに多大な影響を与えているんだそうな。
「ミラレパ」
チベットの遊牧民族のミラレパは、親族の骨肉の争いを経て僧侶となる。
厳しい修行と瞑想の後完全な帰依者となったミラレパは数々の奇跡を起こした。
そして山に籠もって苦行を続けるミラレパの体は食事を必要としなくなり緑色になり、空を飛び、女神や妖怪と交信したという。
瞑想の思想や解説が出ているのですが、
「自分の身体を”空”と認識し、脈管に生命気を入れて留めて溶かし、その生命気により知的エネルギーの熱の高まりを観想し…、まあそんなこんなができると歓喜を体験することができる」ということなんだそうな。
そりゃナニをドウするのかは分からないけれど、瞑想者がナニかをドウにかして肉体を超えた精神的な歓喜への到達を目指しているということだけは分かった。
ミラレパが行き着いたのは、一切の世俗の思いを断ち切り、最も高い望みの中にあるという、人間の精神の究極の悦びへ到達していたということなのだろう。
しかし食べ物不要で緑の体って得た至高の精神状態というのは、人間として肉体を持って生まれて正常なのかどうなんだ、と凡人の私は考える。
シゲル・ミズキとしては「私はシャーマンに近づき目に見えない世界を形にしてみんなにわかりやすく見せたいという野望」を持っているということで、
地球上のどこかの村で「目に見えない世界」と出入りしている人たちをみると実に昂奮を覚える…ということのようです。
「フランソワ・マカンダル」
そもそもこの「神秘家列伝」を借りたのは、
アレホ・カルペンティエル「この世の王国」で取り上げられたハイチの伝説的人物、ブードゥー教の神官で、白人たちへの反乱を起こしたが処刑されたマッカンダルが書かれているということからでして。
あっちの感想にも書いたのですが(http://booklog.jp/item/1/4891762691)
ハイチの奴隷の凄惨な生活、地理、反乱の歴史などは実に分かりやすく書かれています。
水木さんがマカンダルに興味を持ったのは「一つの宗教がどうしてできたのか、ヴードゥー教で調べてみた」ということ。
この「神秘家列伝」に出てくる他の三人の人物は、自分自身が原因で神秘的世界に生きたという内的要因を感じますが、マカンダルはあまりにも悲惨な民族の環境にあったために神秘世界に入って行ったという外的要因が強いというか。
さらには他の三人の人物は尊敬されると同時に変わり者扱いもされたようですが、マカンダルは皆ができることをよりできる者の代表として希望の象徴だった、ということは、やはり当時の奴隷たちの苦難が現れているのでしょう。
なんといってもフランス人たちの奴隷たちへの扱いが「耳に釘を打ち、唇を針金で縫い合わせ、肛門に火薬を詰めて火をつけて、生きたまま生皮を剥ぐ…」と言うもので…水木さんはソフトな描写をしてはいるんだけど…、こういう話を読むといったいどうやってこの人たちは生き残ることが出来たんだろう…と思う。
ヴードゥー教の成り立ち、時代との変化、呪術の内容、そしてなぜゾンビだけが脚光を浴び悪魔崇拝として忌まわしい扱いなのか…という歴史も書かれています。
そいえば「X-ファイル」でヴードゥー教が取り上げられた時は「死んだ人が戻ってくる、悪人は死んだあと蘇り永遠に死ねずに苦しむ」という内容でしたが…これに関してはモルダー捜査官、君が間違っていたようだね(笑)
「明恵」(みょうえ)
日本の僧侶明恵は夢に意味を見出し19歳から60歳まで欠かさず夢日記を付けていた。
幼いころから仏の教えに惹かれ、あの世を覗いたり予言をしたりと神秘体験を繰り返し、自分は深く深く仏教に帰依したいと願い修行を積むが、
性欲は抑えられずそれがまた明恵を苦悩させ、しかしその性欲との戦いの様相は、読者からすればどことなくユーモラス。
最後は水木しげるの「我々は夢の世界からやってきて夢の世界に還る存在にすぎない。死後に何もないと思うから人間はあくせくする。次はゴキブリ人間として生まれるかもしれない、その時はゴキブリ人間としてのんびり暮らそう。大宇宙は人間が思うより親切にできている」という水木哲学と、宇宙を覆う巨大ゴキブリのイラストでおしまい。
後書は荒俣宏。
水木しげるとの交流の中で、人間のステージから妖怪のステージに移っていく様子が感じられたのだそうだ。
人間のビックリする能力こそが、宇宙の神秘に通じた古代人の重要な資質だったんだ、ビックリしたりおもしろがったりする力を失った「おもしろ音痴」こそ現代の業病…といい、市井の中で物事を楽しみ違う世界を形にして示そうとしていた、そしてそれによりさらに妖怪へのステージが近づいている…。ということ。 -
2019.11.2市立図書館
スウェーデンボルグ、ミラレパ、マカンダル、明恵
巻末:荒俣宏 -
荒俣宏の解説が面白い。本編は人物紹介なのでものすごく面白いというわけにはいかないけれど、水木先生、知らないことを紹介してくれてありがとう、という気持ちにはなった。
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変人偉人とは・・・未知な生物と一緒ですね
>その思想と奇蹟はコナン・ドイ...
>その思想と奇蹟はコナン・ドイル、ゲーテ、ショーペンハウエル、ヘレン・ケラー、アラマタ・コリャマタ、シゲル・ミズキといった人たちに多大な影響を与えているんだそうな。
なんと興味深い! たしか水木さんは、『ゲーテとの対話』を人生のバイブルにしている人で、『ゲゲゲのゲーテ』という本まで書いていますよね(上手いタイトルです。私もゲーテが大好きなので、そのうち読んでみたい)。
たしかに、目に見えている世界だけがすべてと思うのは現代人の思い上がりかも。世の中には人間の外界にも内界にも不思議な世界がごまんとあるのかもしれません。人生、いつまでもびっくりしたり面白がったりしながら、子どものような心もちで妖怪ステージに上がっていきたいですね(^^♪
コメントありがとうございます!
うちの自治体図書館にはこれしかありませんでしたが、
本当は全4巻出て...
コメントありがとうございます!
うちの自治体図書館にはこれしかありませんでしたが、
本当は全4巻出ていて役小角やコナンドイルなども描かれているようです。
書かれている人物もさりながら、水木哲学や弟子(荒俣宏)からみた水木さんなどなかなか興味深かったです。
この世でないものを表現するにもある程度の規則は必要で、水木さんはそれがしっかりしている、
規則が無くてただただ「奇妙なことがあった」だけだとトンデモ話やオカルトになってしまうのかなあと。
水木さん訃報に際しては「妖怪界に引っ越して、今頃墓場で酒飲みながら妖怪運動会を見物しているに違いない」と思ったのですが、
荒俣さんの後書きを読んで、その思いが裏付けされたような気分(笑)