未来のサイズ

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048843812

作品紹介・あらすじ

31文字のアフォリズム集。俵万智の新たな旅立ち。

感想・レビュー・書評

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  • 短歌集。
    コロナ禍により変わってしまった日常が伝わって来る。
    サラッと読めて気持ちもスッキリするので良い。

  • ”プロフェッショナル 仕事の流儀”で俵さんの特集を見てからずっと気になっていた。
    正直なところ『サラダ記念日』や『チョコレート革命』といった過去の勲章が大きすぎて近年はそんなに目立ってはいないのかなと思っていた。
    また、番組内の姿からも、どちらかというと迷い、悩んでいるような印象を持ったものだ。
    そんな中、番組内で紹介された、

    最後とは知らぬ最後が過ぎてゆくその連続と思う子育て

    の歌に胸を打ち抜かれた。

    どの歌集に載っているのだろうとググってみると意外にも近年刊行された本書だった。
    もちろん期待もあったが、さてどんなもんかなというような感じで読み始めたのだが、すぐさま夢中になった。
    素晴らし過ぎる。星10でも足りない。
    何度も「あぁ~」というため息が漏れた。
    例によって図書館で借りたのだが、改めて購入しようかどうしようか悩んでいる。

    3部構成となっていて、1部が「2020年」、主に突如訪れたコロナ禍に揺れ動く世の中の象徴的な場面を詠まれている。
    この1部だけでも俵さんの鋭い感性、場面切り取り力が窺えて「おぉ、面白いし、分かり易い!」と思うのだが、2部「2013年~2016年」、3部「2016年~2019年」が圧巻。

    足掛け8年掛かったという歌集だが、この8年間に俵さんが通過してきた日常を慈しむ日記であり、物語である。
    2部は9つ、3部は15の連作から成っているのだが、そのどれにも強いストーリー性があり、それでいて1首のきらめきがあるものもある。

    特に胸を打たれるのが子を思う母心。
    俵さんは2003年に息子さんを生み、歌人としての活動を続けながらシングルマザーとして育ててきたそうだ。
    東日本大震災を期にそれまで住んでいた仙台から沖縄へ移り住み、2016年からは息子さんの中学進学を期に今度は宮崎へ。
    この移ろいゆく日々の中で捉えた息子さんの愛しい姿、想い出、成長の証、そしてエール、親離れしていくことの寂しさがふんだんに盛り込まれている。
    また、それはそれとして俵さんが持ち続けている女性としての恋心もときに挟みこまれ、絶妙なバランス。

    短歌にはこんな風に心の足跡をスナップショットのアルバムのように残すことができる力があるのだと大いに感動した一冊だった。

    〇上京し発症したる宮崎の母娘の足取りを読む

    〇知らぬ間に鬼かも知れぬ鬼ごっこ東京の人と宮崎で会う

    〇子育ては子ども時代をもう一度味わうものと思う朝顔

    〇転びたるリレー走者を追いついた二人が起こす大運動会

    〇あらかじめ用意されてはいないからつかまる石は自分で探せ

    〇ヤドカリの貝殻いつかきつくなり脱がねばならぬ浜辺を歩く

    〇ふいうちでくる涙あり小学生下校の群れとすれ違うとき

    〇あす会えるあした会えると思うとき子を産む前の夜を思い出す

    〇子のために切りあげることなくなって一本の紐のような一日

    〇子らは今そのあいさつの意味を知る 命「いただきます」ということ

    〇あれはどの冬のできごと「愛人でいいの」の歌を褒めてもらった

    〇お見舞いの後に立ち寄るイオンにはありふれたもの並ぶ眩しく

    〇シンプルなレシピだからこそ大切に手順重ねてゆく仲直り

    〇好きすぎてどこが好きかはわからない付箋だらけの歌集のように

    〇文化祭にドラムを叩く エイサーの太鼓を叩いておりし幼子

    〇クッキーのように焼かれている心みんな「いいね」に型抜きされて

    〇くまモンのイントネーション二つあり「しあわせ」なとき「ミラクル」なとき

    (二年間金魚係の令和(れお)くんの時代はたぶん来ない気がする T・T)←息子さんの歌!?
    〇生き生きと息子は短歌詠んでおりたとえおかんが俵万智でも

    〇プレッシャーと戦う心 AIの持てないものの一つと思う

    付箋を貼った歌以外にも沢山心動かされた歌があった。
    2回目読んだらまた違うところに付箋がつくと思う。

    ”仕事流儀”での番組最後、息子さんとどの歌を歌集に載せるのか選定しているシーンが、本当に仲良さそうで微笑ましかった。
    これだけの場面を一緒に通過してきたのであれば、さもありなんと納得の読後感。

    • ☆ベルガモット☆さん
      fukayanegiさん、おはようございます。

      心動かされて読み進めて付箋を貼っているような疑似体験ができるレビューで読みたくなりまし...
      fukayanegiさん、おはようございます。

      心動かされて読み進めて付箋を貼っているような疑似体験ができるレビューで読みたくなりました!”仕事流儀”での歌の選定場面は、仲睦まじい様子がほんと微笑ましかったですよね~
      図書館にありましたので、読みたいリストに入れまーす。
      2023/04/16
    • fukayanegiさん
      ベルガモットさん、おはようございます。

      ほんともうどの歌に付箋を貼っていいか分からなくなるくらいでした。
      そんな中、「好きすぎて〜」の歌が...
      ベルガモットさん、おはようございます。

      ほんともうどの歌に付箋を貼っていいか分からなくなるくらいでした。
      そんな中、「好きすぎて〜」の歌が出てくるものだからノックアウト状態です。

      是非、図書館で借りてみて下さい!
      レビュー待ってます。
      2023/04/17
  • fukayanegiさんのレビューで気になって出会うことができた本です、ありがとうございます。
    表紙は12首の歌が並び裏表紙の見返し写真は著者撮影。海と空と少年のモノクロ写真が素敵。
    あとがきの「短歌は、日々の心の揺れから生まれる」「歌を詠むとは、日常を丁寧に生きることなのだと感じる」コロナ禍のなかで感じたこと、ぐらぐらしている様子も共有できて「奇跡的なバランスの上にあることを忘れないでいたい」「短歌は、日記よりも手紙に似ている」という著者の言葉を受け取って封を開けているような歌集。『プロフェッショナル』ではご子息との仲睦まじい姿をお見かけしていたので、子育て歌はとても心に沁みる。Ⅰ2020年コロナ禍中心、Ⅱ沖縄石垣島での交流、Ⅲ宮崎での生活を中心に詠った作品。連作それぞれがしっかり歌としても独立していて力強いメッセージ性があり、続けて読むと物語としても読めるという贅沢な内容。難しい言葉は使っておらず、軽やかなリズムで、ほっとできるような優しさに包まれる感じ。読後感は元気になれて歌が作りたくなる。

    ゴミ出しのおかげで曜日の感覚が保たれている今日は火曜日
    ネットでは選べぬ文具があるからと出かけてゆきぬ子はマスクして
    夏らしきことしてみたき夏が来てカデフラペチーノ丁寧に飲む
    地勢図と行政図あり人間は線をひくのが好きな生き物
    君の死を知らせるメールそれを見る前の自分が思い出せない
    誰よりも知っているのにああ君をネットで検索する夜がある
    冷蔵庫のハーゲンダッツ思いきり食べねばならぬ停電の夜
    台風の被害を競い合うように午後じゅう話す島のひとたち
    ヘルメット、ウェットスーツ渡されて子が行くならば母も行くなり
    もう一度行くという子よもう二度と母は行くまい地面はいいなあ
    次に来るときは旅人 サトウキビ積み過ぎている車追い越す
    抱きしめて確かめている子のかたち心は皮膚にあるという説
    試験よくできたみたいだ今日の声「カレー食べすぎちゃった」と話す
    理系文系迷う息子が半日を「星の王子様」読んでおり
    好きすぎてどこが好きかはわからない付箋だらけの歌集のように
    最後とは知らぬ最後が過ぎてゆくその連続と思う子育て
    老夫婦見かけるたびにその老後気になる大きなお世話な私

    • ☆ベルガモット☆さん
      fukayanegiさん、コメントありがとうございます!

      お子さんとの思い出を歌にするのは記憶と記録になりますし、是非挑戦なさってくだ...
      fukayanegiさん、コメントありがとうございます!

      お子さんとの思い出を歌にするのは記憶と記録になりますし、是非挑戦なさってくださいませ。母の子育て歌は良く見ますが、父の子育て歌はあまり見かけないのでブルーオーシャンかもですよ!短歌ください投稿してみては?!
      今月は「縄跳び」なので、お子さんとの思い出ありそう♪
      https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdZcsuMp2sRfAgMkB_MWqHsT_zi-Jt9Ed3PyRxZg2fGVPtjhg/viewform?c=0&w=1
      2023/05/07
    • fukayanegiさん
      ベルガモットさん

      そうか、意外なところにブルーオーシャンがありましたね!!
      そう言われてみると、となんか欲が出てきてしまいましたw
      ちょっ...
      ベルガモットさん

      そうか、意外なところにブルーオーシャンがありましたね!!
      そう言われてみると、となんか欲が出てきてしまいましたw
      ちょっとこそこそ考えてみようかな。
      2023/05/07
    • ☆ベルガモット☆さん
      fukayanegiさん、こんばんは!
      『縄跳び』歌投稿されたということで、ほむほむ大好き短歌会としての活動今後もよろしくです!掲載された...
      fukayanegiさん、こんばんは!
      『縄跳び』歌投稿されたということで、ほむほむ大好き短歌会としての活動今後もよろしくです!掲載されたらぜひペンネーム教えてください♪
      fukayanegiさんも掲載されたら記念すべき短歌ください本になりますね☆お子さんにも自慢できますな!!!
      あ、読書家のお子様達と共作すると素晴らしい作品ができそうな気がします。
      2023/05/12
  • 地域に開かれた高校図書館の入り口に紹介されていた。表紙に15首の短歌が載っている装丁に惹かれて迷わず借りる。第一歌集『サラダ記念日』で鮮烈なデビューを果たした万智さんだ。教師を辞めて出産し沖縄へ渡り、現在は宮崎に住んでいる。子育てを詠んでいる歌が多く、その時期を過ぎた私にはあまり心に響いて来ない。しかし、短歌に馴染みが薄い人らに、身近で平凡な題材を分かりやすい言葉と感性で表現することを教えてくれる。そのスタンスは私にとって心強い味方となっている。短歌を講座で少々かじった時に、厨歌を詠むように心掛けなさいと先生にアドバイスを受けた。背伸びせずに自分の言葉で綴ると再確認させられた。”未来のサイズ”って、中学入学した子供たちの制服サイズを成長期で伸びる3年間を見越して大きめに購入したのを表現してのこと。なんてセンスある言葉の並べ方なんだろう。

    印象的だった短歌

    今日という日を駆けぬけろロマニーの言葉で昨日と明日は同じ

    制服は未来のサイズ入学のどの子もどの子も未来着ている

    プレッシャーと闘う心 AIの持てないものの一つと思う

    歌集を読みかけの頃、今年の”迢空賞”に本作が選ばれた。
    ”迢空賞”とは短歌の賞。年に1回、すぐれた歌集に贈られる。昭和42年に(1967)創設され、名称は釈迢空 (しゃくちょうくう) (折口信夫の号)にちなんでいる。
    さすがだ万智さん!

  • 具体的なのに普遍的
    もちろんすべての歌に共感するわけではないけれど、ひとつでも心揺さぶられる歌に出会えたとき、あぁこの歌集を手にとってよかったと心から思うことができる。
    子どもができてからは言葉のひとつひとつの味わい方が変わって、思わず涙ぐみそうになる歌も多かった。


    カバーにある作品
    最後とは知らぬ
    最後が過ぎてゆく
    その連続と
    思う子育て

  • 日々の一瞬を切り取った歌、ハッとさせられたり、その時々の世相を詠んだものに考えさせられたり。それぞれの情景が目の前に広がってくるようでした。

    表紙にも載ってるのを一首だけ。海辺でのキャンプの様子を詠んだものだけど、今この時に心に残りました。

    声あわせ「ぼくらはみんな生きている」生きているからこの国がある

  • 万智さんの歌集を読むと、自ずと、「歌を詠まなくては」と思うようになる。創作を少し休憩していても、自分の中に創作の心が戻ってくるというか。そして、多くの「前置き」も見られた。前置き歌をいつか詠んでみたいという意欲が湧いた。

    ここから、我が気に入った歌5首ほどを紹介する。

    ・(「夜の街」という街はない)
    カギカッコはずしてやれば日が暮れてあの街この街みんな夜の街

    ・来年はもう届かない年賀状「近いうちに」と書い   た手思う

    ・健康のためなら死ねるというように平和を守るための戦争

    ・一日を全部自分に使える日 書き継いでゆく牧水の恋


    万智さんの現状から社会生活への願い、警鐘まで、あらゆる範囲を網羅する最高傑作と言えるだろう。

  • こどもが成長して、手から離れて行くことに関する歌を読んで、涙が出そうになりました。
    コロナ禍になり、zoomのことまで歌に出来るとは。さすがです。

  • 2013年から2020年まで、足かけ8年の間に作った短歌418首を集録した歌集。

    精選した言葉はそのどれもが力強く、ストレートに心の奥に響いてくる。じっくり味わいたいので、寝る前に少しずついとおしみながら読んでいった。
    題材となるのは、思春期の息子のことや移住先の石垣島や宮崎のこと、老いた親のことなど多岐に渡る。私自身の経験を重ねながらしみじみしたり、社会問題をとらえた厳しい視点に共感したり。
    ちょうど緊急事態宣言の最中でかなり鬱々と滅入っていた時期に読んだこともあり、コロナ禍での歌には涙が出た。

    作者の第一歌集『サラダ記念日』の鮮烈な印象は、今でもよく覚えている。1987年とあるからもう30年以上も前のことになるけれど、歌集を買ったのも初めてだったし、短歌を読んで心が踊ったのも初めてだった。
    1ページに3首という贅沢な作りは、たくさんの言葉を並べた小説とはまた別の魅力がある。単行本は図書館派の私だけれど、これは迷わず購入してよかった一冊だ。

  • 好きな詩を三つピックアップ

    制服は未来のサイズ入学の どの子もどの子も未来着ている

    自己責任、非正規雇用、生産性 寅さんだったら何て言うかな  

    別れ来し男たちとの人生の「もし」どれもよし我が「ラ・ラ・ランド」

    • まきとさん
      一首目の句は僕も好きです。
      一首目の句は僕も好きです。
      2021/01/04
    • そう かとうさん
      とてもイメージが湧いて素敵です
      とてもイメージが湧いて素敵です
      2021/01/09
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著者プロフィール

1987年の第1歌集《サラダ記念日》はベストセラー。歌集に《かぜのてのひら》《チョコレート革命》《プーさんの鼻》《オレがマリオ》《未来のサイズ》《アボカドの種》、評伝《牧水の恋》、エッセイ《青の国、うたの国》など。2022年、短歌の裾野を広げた功績から朝日賞を受賞。読売歌壇選者のほか、宮崎で毎年開催される高校生の「牧水・短歌甲子園」審査員もつとめる。

「2023年 『旅の人、島の人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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