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- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784048846035
感想・レビュー・書評
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※本稿は「北海道新聞」日曜版2024年7月21日付のコラム「書棚から歌を」の全文です。
・その先に展【ひら】くるとせむ表現への孤独の営為いのち知るとせず
近藤芳美
歌集「無援の抒情」や、エッセー集「男流歌人列伝」等で知られる道浦母都子。その最新刊は、近現代歌人40人の印象的なエピソードをまとめた読みやすい一冊である。
与謝野鉄幹、中城ふみ子、岸上大作ら、短歌史に名を刻む人々はじめ、若き日に短歌を作っていた石牟礼道子も挙げられている。
巻末でやや長めのエピソードが紹介されているのは、道浦が師事した近藤芳美である。戦後派を代表する一人であり、結社「未来」の重鎮でもあった近藤を、道浦は、「孤独」で大きすぎる荷を背負わされた歌人、と表現しており、目が留まった。
1913年(大正2年)、当時日本の植民地であった朝鮮半島で生まれた近藤は、新婚早々に兵役を経験した(ほぼ傷病兵として)。復員後は清水組(現、清水建設)の技術者として、戦後復興も担っていた。
近藤夫妻から度々養女にならないかと言われた道浦は、それには応じず、近藤論も書きあぐねていたという。なぜなら、歌人としても社会人としても、近藤は周囲から大きすぎる期待を背負わされ、その苦悩、孤独さを思うと筆が進まなかったから。晩年の掲出歌にも、「孤独の営為」が歌われている。
・森くらくからまる網を逃れのがれひとつまぼろしの吾の黒豹
この象徴的な歌の「黒豹」を、孤独で、苦渋する近藤自身の姿とした読みも切ない。
(2024年7月21日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示
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