必修科目鷹の爪

著者 : 内藤理恵子
  • プレビジョン (2013年6月27日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048982139

作品紹介

ホリエモンドリームに湧いたネット黎明期のゼロ年代からデフレが恒常化し新・清貧の時代になったテン年代までをNHKで放送中の話題のアニメ『鷹の爪』を素材に解読するスリリリングな同時代時評読本

必修科目鷹の爪の感想・レビュー・書評

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  • 請求記号:778.77/Nai
    資料ID:50072622
    配架場所:図書館1階西 学生選書コーナー

  • 鷹の爪のだいたい半分くらいはやさしさでできているのだ。以前精神的に非常に落ち込んでいた時期に、私が鷹の爪を貪るように見ていたのは単なる偶然じゃない気がする。詳しい読書感想文は後で書きます。清々しい読後感に浸りながら、劇場版だけでももう一度観てちょっと整理して考えます。

  • 『秘密結社鷹の爪』初の研究書であり、『鷹の爪』を通して現代社会を読み解く本。
    時々深読みがすぎたり、横道にそれたり、実際の講義のような語り口で話が展開していくのが面白い。
    アニメ作品の研究書にも色々なものがあるが、本著は著者の『鷹の爪』への愛が感じられ、好感が持てる。
    『鷹の爪』や他の作品からの引用も詳しい親切設計だが、これから『鷹の爪』シリーズを観たい人にとってはネタバレ注意かも。

    〈一限〉
    まず、著者と『鷹の爪』との出会いから、キャラ考察が語られ、この考察が本著のベースとなっている。
    キャラ考察は、原作者のFROGMANさん自身の言及と通じる点もあり、的を射ている。
    「トイレ世界征服」とアメリカ史との比較は、飛躍しすぎでは、とも思ったのだが「舞台装置」の解体という視点は興味深い。
    近年、他のアニメ・特撮・映画などで「舞台装置」の中の正義が描かれ、また現実世界でも〈ゆるキャラ〉〈ローカルヒーロー〉など「舞台装置」を盛り上げるためのシンボルが活躍している。
    それはそれで、とても楽しいのだけど「舞台装置」の外でも通用するものなのかと、不安を覚えてしまうことがある。
    鷹の爪団は「世界征服」=世界平和をテーマに掲げながら、作中のほとんどをアジトであるアパートで過ごす。そして「島根県」という特定の地域をプッシュする。
    一見、閉じた世界観のようだが「地球に優しい世界征服」という根本はけしてブレることはない。
    「マイナー感を失わないまま、メジャーで活躍」し、島根ベース・麹町発で「世界中の島根県的なものすべて」を救う鷹の爪団って……実はとても深いんじゃないだろうか、と。
    一瞬でも思ってしまった時点で、彼らの世界征服は始まっているのかもしれない。

    〈二限〉
    可愛いような可愛くないような、否、美しすぎる戦闘主任が目立つせいで忘れがちだが、『鷹の爪』の主人公はやっぱり総統なのである。例え、指導者がバカだから食うにも困る、と言われようとも、彼がいなくては鷹の爪団はまとまらない。
    ヒーローと家庭は両立できないというお約束通りに、総統もまた世界征服を志したばかりに家族と別れる羽目になる。和夫、エリカ様という実の子どもを(現在進行形で)育てられない駄目な中年男性を父のように、母のように慕う鷹の爪団の擬似家族関係はとても温かい。
    彼が本気で突拍子もない夢を語り、これまた家庭に問題を抱えた正義の味方とゆるく戦う姿は、それ自体が美しい夢だ。
    本著では、総統の外見(独裁者コスプレ=権威)と中身のギャップについても言及されているが、そもそも何故「悪の秘密結社」なのか。
    総統のイマジン主義は気高く、ある意味甘い考えとも言える。そういう理想論はたいてい「正義」として語られるものだが、総統は何故か「悪」を名乗る。
    本気でバカなのか、あるいは……。
    そんな不思議な大人に、うっかり憧れてしまうのも『鷹の爪』の魅力なのかも。

    〈三限〉
    本章では吉田主任をロスジェネ世代と定義している。
    私は吉田主任(をロスジェネとするなら)より下の世代で、著者が現在関わっている学生さん達よりは年上なので、そのあたりのギャップを興味深く読んだ。
    「都会でビッグになる」夢は叶わなくても、地方出身者の精神的支柱として今日も毒と笑いを吐き続ける吉田主任はかっこいいし、応援したくなる。
    この「応援したくなる」というのが厄介で、『鷹の爪』人気を支えるキーワードだと睨んでいる。「世界征服資金と明日の晩ご飯代を稼ぐのじゃ!」の鶴の一声に「好き」以外のスイッチが入ってしまうのは私だけではないだろう。本章では「サントリー提供獲得大作戦」に絡めて、このあたりのファン心理も解説される。「いつの間にか『鷹の爪』の身内になっていた」の一文に色々なものが集約されている。
    そして、私たちは主任を通して蛙男を見る。FROGMANが「何か面白いことをやってみたい人」にとってのロールモデルになるという著者の指摘は鋭い。
    ところで、本著では吉田主任のパジャマを「白鳥」だと書かれているのだが、彼のパジャマは確か「鳩」だったと思う。そうなると「いもむしパジャマ」に対する解釈も変わってくるのではないだろうか。故郷を出て都会の荒波にもまれ、しぶとくなった「島根一の鳩ボーイ」は今でも蝶になる夢を捨てていないのかも知れない。
    「世界征服」という野望が叶うその日まで。

    〈四限〉
    何を隠そう(隠す気もないが)、個人的にデラックスファイターのファンだったりする。
    彼がアメリカの資本主義の象徴であることに気づいてからは、ますますその動向が気になっているのだが、本章で引用されている『鷹の爪NEO』の最終回はデラックスファイターにとっても一つの転機だったのではないだろうか。
    TVシリーズ1期の第1話で「ワイハプラズマ」に釣られていた、カツアゲと示談交渉が基本戦法のデラックスファイター。その後も鷹の爪団をふっ飛ばしたり、協力したかと思えば割と本気で倒そうとしたり。主役を張った『THE MOVIE 4』では正義に目覚めつつも、愛する人につい金銭でアピールしてしまう悲しき男を演じていた。
    だが、『NEO』の続編である『MAX』の彼は、紫陽花観光についていこうとしたり水羊羹に喜んだりと、(相変わらずカツアゲはするものの)なんだかとても楽しそうだ。
    本著で指摘されているように『NEO』の最終回での「『世界平和を信条とする総統』と『資本主義の権化のようなデラックスファイター』」の協力が、彼の資本主義の質をプラスの方向に変化させたとすれば、ファンとして嬉しい限りである。従来の消費で埋められなかった、彼の寂しさが少しでも埋まれば良い。
    さらに本章では『鷹の爪』のコラボ商法にも触れられている。資本主義のマイナス面を作中の敵として倒し、「資本主義は人を幸せにできる可能性を秘めている」という価値観を描きながら、広告をあからさまなギャグにしてしまうことで、その判断を消費者に委ねる。あからさますぎて深く考えることもなかったが、あれはとても真摯な姿勢だったのだなあ、と本著を読んでしみじみと納得してしまった。

    〈五限〉
    『鷹の爪.jp』49話「クマエさん」を分析する本章。『サザエさん』最終回の都市伝説については小学校の頃、担任の先生がさも真実かのように教えてくれたが、本気で怖かったのを覚えている。
    そういえば『鷹の爪』はサザエさん時空=登場人物は基本歳を取らないのだが、一方で時事ネタを扱い、そうかと思えば登場人物の過去の話として(二限で指摘されたような)時代の空気感が描かれることもある、という複雑な円環構造になっている。また『.jp』の24~26話では、同じ一日を繰り返すという事件が起きたこともあった。
    著者は『.jp』50話で鷹の爪団は10年代の世界観に旅立ったと考察しているが、その後『.jp』ではアナザーワールドやアンコール、映画関連のエピソードが続いたので、真相はこれからという気もする。
    鷹の爪団が今後どう時代とか変わっていくのか……。これからの活躍が楽しみである。

    (2010年の断捨離ブームに関する記述は『鷹の爪』よりも他の作品で思い当たる節があり面白かった。『鷹の爪』とは関係ないので割愛)

    〈六限〉
    蛙男の略歴や他アニメとの比較から「時代の交差点を探る」本章。FROGMANさんの先見の明には、どのエピソードを聞いても驚かされる。
    『ドラえもん』にバブリーなイメージはあまりなかったのだが、子ども時代に『ドラえもん』を通過してきた人々にとって一つの未来像であることは確かだろう。『鷹の爪』を原体験した人々がどんな未来像を描くのか興味深い。
    「真の知性とは愛である」とはレオナルド博士のみならず『鷹の爪』の作品全体に言えることかもしれない。
    著者はレオナルド博士のファンらしいが、吉田主任とレオナルド博士の関係性に関する分析が楽しかったので、もっと読んでみたいと思った。『鷹の爪』はキャラそれぞれの一対一の関係性も面白いので、もし次回作の機会があればそのあたりの掘り下げも期待したい。

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