私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
4.10
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本棚登録 : 2317
感想 : 117
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784049121117

作品紹介・あらすじ

突如失踪した人気小説家・遥川悠真。その背景には、彼が今まで誰にも明かさなかった少女の存在があった。
 遥川悠真の小説を愛する少女・幕居梓は、偶然彼に命を救われたことから奇妙な共生関係を結ぶことになる。しかし、遥川が小説を書けなくなったことで事態は一変する。梓は遥川を救う為に彼のゴーストライターになることを決意するが――。才能を失った天才小説家と彼を救いたかった少女、そして迎える衝撃のラスト! なぜ梓は最愛の小説家を殺さなければならなかったのか?

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、小説の一文を諳んじることができるでしょうか?

    私は2019年12月から読書&レビューの日々をスタートさせました。それから四年の月日が流れ、ブクログの本棚にはレビュー済みの本が780冊並んでいます。そんな中には、はっ!とするような表現に酔い、このような文章が書けるものなのか!と感嘆もしてきた作品が多々あります。

    しかし、今この瞬間にそんな作品の一文を諳んじることごできるかというと残念ながらそこまでの記憶力はありません。ブクログには、”フレーズ”を書き留めることができる機能が用意されていますが、とても理に適ったものだと改めて思います。

    さてここに、小説家本人の前でデビュー作の一文を諳んじる小学生の姿が描かれる作品があります。

     『何度も読んだんです。暗闇の中の本棚で、この本が私を助けてくれました』。

    その小学生はそんな風に、諳んじることができる理由を説明します。『午後七時から朝の七時まで、私は暗闇の中に閉じ込められる』という日々を送る小学生。この作品はそんな小学生が小説家の部屋に通うようになる様が描かれる物語。そんな小学生が小説家の悩みの深さを案じていく物語。そしてそれは、そんな小学生が『だから私は、遥川悠真に死んで欲しかった』と語る未来を見る物語です。
    
    『憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で…だから私は、遥川悠真に死んで欲しかった』と始まる文章を『ノートパソコン』に見つけて『風変わりな遺書だと思』う刑事。『小説家・遥川悠真が消えて二日が経』ち、二人組で彼の部屋を捜査する刑事はもう一人の刑事にファイルのことを話します。『「部屋」と題されたワードファイル』を見て『小説か?』、『わかりません』と会話する二人は移動した寝室の『ウォークインクローゼット』の中に『びっしりと紙が貼り付けられて』あるのに気づきます。『これ、小説ですね』、『遥川だろ。小説家なんだから』と会話する二人は、『狭い床に』『ランドセル』や『ブラウス』、『サイズの小さいダッフルコート』などを見つけ、さらには『誰かの影がそのまま残ったような、奇妙な黒ずみ』に困惑します。『華やかなタレント小説家が、ここで人間を飼っていた可能性』を思う二人は、ノートパソコンに残された『風変わりな遺書』に手がかりがあるかもしれないと思い直し、まるで『読み解かれるのを待っていた』かのような文章に『目を落と』していきます。
    場面は変わり、『読み切れなかったら借りていってもいいのよ』と司書に言われたのは小学六年生の幕居梓(まくい あずさ)。『そうだ。遥川悠真の新作出るらしいわよ』、『「遥かの海」、覚えるほど読んでたもんね。好きなんでしょ?』と言われ『本当ですか?』と高揚する梓。図書室を後にした梓は帰宅の途につき、『五時三十分ぴったりになった瞬間扉を開け』家に入ります。『ただいま、お母さん』と言う梓に『十五分』と告げる母親。『菓子パン』の夕食を食べ、今度は『二十分間』でお風呂、そして『七時までに明日の学校の用意を済ませて、和室の前の押し入れに立つ』梓。『早くして』と急かす母親にそのまま押し入れに押し込まれた梓。『午後七時から朝の七時まで、私は暗闇の中に閉じ込められる』というこの習慣は、梓『が小学校に上がる頃から』続いてきました。『私の知らない誰かを家に呼んで、私の知らない話をする』という母親。そして、別の日、図書室で『遥川悠真の二作目「天体の考察」』を一番に貸してもらった梓ですが、押し入れに入った後、それがないことに気づきます。そんな中、『なんだこれ、小説か?』と『揶揄うような男の人の声が』外でします。しばらくして、『不意に襖が開けられ』、連れ出された梓の前で本に火を点けた母親。そして、そんな日、学校から帰っても母親の姿はなく、何日経っても家に帰ってこなくなりました。『一人になった部屋で』『「遥かの海」に向き合う』梓は、そんな本を抱いて、『近所にある踏切へと』向かいます。『死のうと思った』という梓は、『次こそは死のう、次こそ飛び込もう、次こそ』とカウントしていきます。そんな時、『ちょっといい?』と一人の男の人に声をかけられた梓。『迷惑なんだよね』、『俺ね、その本の作者なんだよ』、『俺の本持って死なれると困るんだよ。クソマスコミが騒ぐじゃん…』と語るのは作者である遥川悠真でした。『帰れないの?それとも帰りたくないの?』と訊く悠真は『うちに来る?』と続けます。そして、『それが私と先生の出会いだった。この長い長い殺人の、最初の一歩だ』という運命の物語が始まりました。

    “突如失踪した人気小説家・遥川悠真。その背景には、彼が今まで誰にも明かさなかった少女の存在があった。才能を失った天才小説家と彼を救いたかった少女、そして迎える衝撃のラスト!なぜ梓は最愛の小説家を殺さなければならなかったのか?”と煽りに煽る内容紹介に、すっかり煽られてしまうこの作品(笑)。斜線堂有紀さんの人気作の一つです。

    そんな作品は構成に特徴があります。作品は、次のような文章で唐突に始まります。

     『憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んで欲しかった』。

    それを受ける次の文章は『風変わりな遺書だと思った』という上記の文章を読んだ感想が記されます。そんな感想を抱いたのは二人の刑事であり、『荒れた部屋、失踪した小説家、奇妙なクローゼットに残る人間の跡。それでいて、同居相手のことが全く出てこない部屋』を捜査中であることが語られていきます。そして、二人の刑事は、『風変わりな』遺書だと最初に感想を抱いたノートパソコンに残された『「部屋」と題された』小説らしきものを読むしか『この失踪事件』を解決することはできないと判断し、冒頭の文章に続く『私の神様は、ずっと死に損ね続けていたのだ…』という小説を読んでいきます。読者はそんな刑事の視点で小説家・遥川悠真の部屋に残されていた『部屋』という小説を読んでいくことになります。

    小説家が登場人物となる作品には、同時に”小説内小説”が登場するのが通例です。例えば、同名小説が外側の物語と一体化する加納朋子さん「ななつのこ」や、同名小説を書く小説家の姿が描かれる桜木紫乃さん「砂上」、そして”自伝風に小説を書いてもらえないか”という依頼に同名小説を書く金原ひとみさん「オートフィクション」など、外側の小説と内側の小説をどのように組み合わせるかは小説家さんの腕の見せどころとなっています。斜線堂さんはこの作品で内側の小説を途中まで外側の小説とそのまま一体化させるという巧みな構成によって物語を展開させます。これはなかなかに興味深い構成であり、一気に物語世界に惹きつけられてしまいました。

    そんなこの作品の主要登場人物は次の二人です。後半にもう一人、後半の物語になくてはならない人物が登場しますが途中までは二人、かつ主要な舞台は、マンションの一室であることが物語を息苦しくしていきます。

     ・遥川悠真: 物語の始まり時点で28歳、『大学在学中に、とある文学賞を受賞して世に出た小説家』。『高価なマンションの十八階。隅の角部屋』に一人暮らし。

     ・幕居梓: 物語の始まり時点で12歳、小学六年生。『スーパーの袋に入ったままの菓子パン』が夕食。『午後七時から朝の七時まで、私は暗闇の中に閉じ込められる』

    16歳の歳の差があり、本来、住む世界の全く異なる二人ですが、運命の出会いが二人を繋げていきます。母親を怒らせてしまい、『死のうと思った』と、『近所にある踏切』で飛び込む機会を伺う梓、そんな梓が持っていた自著を目にした遥川が声をかけたことで、彼の家に通うことになる梓。そんな物語は基本的に梓視点で展開していきます。冒頭、自宅で母親に押し入れに閉じ込められる日々を送っていた梓ですが、物語の展開の中で、中学、高校と大人への階段を上がっていきます。一方で遥川は七冊の小説を世に送り出していきます。”小説内小説”が登場する作品は数多ありますが、こんなにもたくさんの小説が登場する作品も珍しいと思います。せっかくなので、ここに整理しておきましょう。

    ● 遥川悠真の作品リスト
     ① 「遥かの海」: 『とある文学賞を受賞』したデビュー作。『オーソドックスな恋愛小説』。『終盤でヒロインが死ぬ場面はやっぱり泣け』る。映画化された。

     ② 「天体の考察」: 『亡くなった恋人と夜にだけ会えるというファンタジックな物語』。『星座に絡めたエピソードと一緒に物語が進』む。映画化が決まる。

     ③ 「夜濡れる」: 『ミステリータッチで仕立てた変則的な恋愛物語』。『最高傑作と銘打って売り出され』るも『酷評』。『大きく売上部数を落と』す。
      → このあと『遥川は沈黙する』

     ④ 「無題」: 『天才の華麗なる復活とされ』る。『カバーには誰かもわからぬ綺麗な女の子の横顔が写っている』。
      → 『人気小説家として復活を果たす』

     ⑤ 「エレンディラ断章」: 『初の短編集ということで結構な話題を呼』ぶ。

     ⑥ 「眠る完全血液」: (書名のみ語られる)

     ⑦ 「白昼夢の周波数」: (書名のみ語られる)

    ということで出来上がったこのリストは、斜線堂さんの小説内に登場する架空の小説家・遥川悠真の作品一覧をまとめたおそらく世界唯一のリストだと思います。とても貴重ですね(笑)。遥川が七つの作品を世に問うていく間に、一方で遥川の部屋に出入り、というよりは入り浸っていく梓は中学、高校と進学して大人の階段を上がっていきます。物語は、上記したリストの「夜濡れる」から「無題」の間にまさしく転換点を迎えます。「夜濡れる」の『酷評』の中に自信を失っていく遥川を見て『目の前で駄目になっていく先生を前に、ただそこにいるだけなんて出来なかった』という梓は、

     『それなら、一体私に何が出来るだろう?』

    そんな風に考えます。そんな先に『一つだけ、思い当たる救済があった』と『与えられたものを返そう』という思いの中に突き進んでいく梓。そして、『”天才恋愛小説家、新境地”という大仰なキャッチコピーが帯の上で躍』る「無題」が四冊目の小説として刊行されます。しかし、そこに上記した転換点が生まれます。

     『一冊の小説が、私と先生との関係をすっかり変えてしまったのだ』。

    そのような未来がそこには待っていました。そして、”才能を失った天才小説家と彼を救いたかった少女、そして迎える衝撃のラスト!なぜ梓は最愛の小説家を殺さなければならなかったのか?”という結末へと至る物語が展開していきます。

    ところで、実は私のレビューに引用した内容紹介には、出版社が用意したものからある一文をわざと抜いています。私は内容紹介を読まずにこの作品を読み、その展開にとても驚きました。しかし、内容紹介には、その驚きの内容がさらっと書かれてしまっているのです。これはいけません!これから、この作品を読まれる方には私のレビューまでとされて、本の紹介に書かれた内容紹介全文は読まないことを強くおすすめします。正直なところ、完全にネタバレになってしまっています。どうしてここまで書いてしまったのか?出版社にクレームを言いたくなりました(笑)。

    そんな物語は、冒頭に記された『小説家・遥川悠真が消えて二日が経った』という状況下のその先の物語が描かれていきます。そこに描かれていくまさかの展開、本の帯に記された”どちらが殺したのか?どうして殺したのか?”という言葉が強く胸を打つ衝撃的な結末がそこには描かれていました。

     『私の神様は、ずっと死に損ね続けていたのだ』。

    『午後七時から朝の七時まで、私は暗闇の中に閉じ込められる』と、母親からの酷い仕打ちの中に小学生の辛い日々を過ごしていた梓。そんな梓の『死のうと思った』という先の未来を変えてくれた小説家の遥川のことをやがて、『だから私は、遥川悠真に死んで欲しかった』と思う梓の揺れ動く心の内が描かれていくこの作品。そこには、”小説内小説”が大胆に展開する物語が描かれていました。読み進むにつれて、重く、どんどん重くなっていくこの作品。その一方でそこに描かれる物語世界がどんどん澄みわたっていくようにも感じられるこの作品。

    切なさが込み上げるその衝撃的な結末に、純愛物語の一つの形を見た、そんな作品でした。

    • ひまわりめろんさん
      さてさてさん
      おはようございます

      たま〜にありますよね
      出版社の勇み足w
      え?売る気あるの?ちゃんと会議したの?
      でもどんな業界にもあるん...
      さてさてさん
      おはようございます

      たま〜にありますよね
      出版社の勇み足w
      え?売る気あるの?ちゃんと会議したの?
      でもどんな業界にもあるんでしょうな〜
      世に出てから…え?どうしてこんなことがすり抜けてきちゃったの?って関係者を戦慄させること

      何かしらの妖怪の仕業の睨んでおりますw
      2024/01/27
    • さてさてさん
      ひまわりめろんさん、こんにちは!
      はい、そうですね。自分の仕事に関する業界はもちろんよくわかっているつもりですが、他の業界は全くの異世界。...
      ひまわりめろんさん、こんにちは!
      はい、そうですね。自分の仕事に関する業界はもちろんよくわかっているつもりですが、他の業界は全くの異世界。でも、所詮は人間集団のやること…というのはあるのだろうなと。何も知らないのが幸せということはあるようにも思いますが、なんともですね。
      はい、妖怪の仕業…ですね。
      2024/01/27
  • 哀しい話でした。
    読了してもう一度最初からページをめくりました。
    これは主人公の幕居梓の書いた小説だったのだと全部読んでから気づきました。

    梓は子供の頃から大好きな小説家だった遥川悠真を実際には殺していません。だけど精神的に追い詰めていました。
    作家としての才能のなくなった遥川は自殺しました。

    自殺したはずの遥川のゴーストライターとなった梓は生き延びました。梓は全然悲しそうでなく、なんで一読者の私が遥川の死をこんなにも哀しいと思ってしまうのか。
    これは作者の斜線堂さんのたくらみでしょうか。

    斜線堂さんのあとがきによれば「才能を愛された人間は、その才能を失った後にどうすればいいか」あるいは「誰かを神様に仕立ててしまった人間は変わりゆくその人とどう向き合えばいいのか」の話。だそうです。

    誰かが誰かを救おうとした時に発生する救済の責任の話でもあり、感情の為に最適解が選べない人間の話でもあるそうです。

    だから作者は才能のなくなった小説家を自殺へと追い込み、才能の豊かな梓を遺したのでしょうか。
    そうですね、反対の結末で才能豊かな梓が亡くなって小説家が生き延びていたらどうしようもない悪趣味な読み味だったかもしれないですね。
    ちょっと哀愁があるくらいの方がいいのかもしれません。

    • くるたんさん
      まことさん♪こんにちは♪
      読了おつかれさまでした。そして見事なレビューです!

      私はただせつない…それしか感じられなかったです。
      まことさん...
      まことさん♪こんにちは♪
      読了おつかれさまでした。そして見事なレビューです!

      私はただせつない…それしか感じられなかったです。
      まことさんのレビューでこの作品の奥に触れられた気分です。
      2021/08/31
    • まことさん
      くるたんさん♪こんにちは!

      この本はくるたんさんのレビューを拝見して登録したのですが、コメントするかどうか迷ってしまって。
      だいぶ、...
      くるたんさん♪こんにちは!

      この本はくるたんさんのレビューを拝見して登録したのですが、コメントするかどうか迷ってしまって。
      だいぶ、前だった気がするのですが、4月の下旬だったのですね(今、確認しました)
      こんな、ストーリーも何もない感想だけのレビューになってしまって、読んだ方は意味わかるのかとか思ったのだけど(^^;これしか書くことを思いつけなかったので、こんなレビューになってしまいました。
      ご紹介どうもありがとう!
      2021/08/31
  • 少女の愛は、あまりにも忠実で幼稚で残酷だった しかし救済でもあったのだ #私が大好きな小説家を殺すまで

    過酷な環境で育ってきた少女は、ある一冊の本と小説家に救われる。少女と小説家は創作を中心に、男女とも師弟とも言えない奇妙な情愛関係を築いていく。しかし小説家がスランプに陥った時、二人の関係性が徐々に変化していき…

    切ないよ
    少女と小説家の歪んだ関係、でもまっすぐな愛情が読者の胸をうつ作品です。

    作者はこのなんとも言えないズレた恋愛心情を描くのが本当にお上手。丁寧で優しい日本語でしたためられ、少女の価値観や行動が正しいとすら思えてきてしまう、なんとも手品のような文章です。
    また本作はほぼ恋愛小説ですが、ミステリー作家の手腕をいかんなく発揮され、物語にぐいぐい引き込まれてしまいます。

    そして本作の読みどころは、やっぱり二人の関係性。
    少女のまっすぐな愛情と献身ぶりが切なく、また小説家の苦悩とプライドが絶望的に悲しいです。つづられた独白は、小説であり、ラブレターであり、そして自身の次の行動への意思表明であったと思います。

    高水準で芸術性の高い小説の世界での魂のやりとりをしているのにも関わらず、あまりにも二人が幼稚で、ただただツライ…
    この二人がたどり着く未来は、もっと幸せなものにできなかったのでしょうか。

    純粋でまっすぐだった自分に戻りたい、そんなあなたにはおすすめの作品でした。

  • 【ネタバレ】斜線堂有紀作品、「男女の共依存」の描写、最高級だと感じる。また心理的描写力、観察眼、ストーリー展開に長け、この物語に集中できない読者はいないはずだ。有名作家・遥川悠真とそのファンの1人の梓は遥川に自殺を思い止まらされた。この2人の共依存関係が始まり、しだいに泥沼化していく。遥川のスランプによりゴーストライターとなった梓。彼への敬愛と執着。この執着が梓の自死を選択させ、遥川悠真を殺すことになった。梓の強さ、遥川の弱さ、この性格により共依存が助長されたと思うが、読ませる作者の力量は半端ない。⑤↑↑

    宮部さんの火車と同等レベルのラストシーン。ラノベという概念が消え去った瞬間でした。

  • 『憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は遥川悠真に死んで欲しかった』
    というキャッチーな書き出しに始まる、自分の読む斜線堂有紀さん2作品目。

    タレント性抜群、TVでも引く手数多の人気作家、遥川悠真が失踪。
    住居はこれでもかと無残に荒らされ、唯一まともに残されたPCに保存された”部屋”というタイトルの付いた作品と、ウォークインクローゼットに残る少女の衣類と長らくそこで住んでいたと思われる痕跡。
    女児監禁の事件性すら伺わせる状況だが、現場に残された”部屋”を読んでいくと遥川と少女、幕居梓の歪んだ関係性が浮かんでくる。

    出だしの引き込みや幕居梓の狂気じみた境遇には「おっ」となるものがあったが、そこからの展開にはう~ん。
    この手の思考をこねくり合う情愛ものに、おままごと感を感じてしまう。
    決して色恋沙汰がダメというわけではないのだが。
    たぶん、タフさを感じないからなのだろう。

  • 敬愛する人と、あるきっかけで出逢い、人生を共に過ごせるとしたら、それは幸せなのか?どんな罪でも姿でも赦せるのであろうか?
    と、複雑な課題を突き付けられたような読後感でした。

    母親からも見捨てられ、孤独と闇の中で唯一、少女はとある小説家の本を愛し、その本を生き甲斐に日々を過ごす。そして物語は数多くの本と共に少女の成長記録として綴られる。しかし、どこで間違ってしまったのか少女は次第に敬愛と悲哀の間で生き甲斐を見失う。

    なんとも言えない愛の形であり結末であり、ページ数は少なめながら重厚感が半端ない作品でした。約一年積読でいましたが、ようやく読み終えた今の気持ちとしては、早く心癒される作品で浄化されたい。いやでも良い作品ですよ♪

  • 初、斜線堂さんの一冊。

    想像以上に良かった。

    一人の小説家を愛する一人の少女が暗闇の中だけでなく真の世界でも小説家に救われた…そこから始まる二人の物語に瞬く間に魅了された。

    淡い感情が次第に濃く色づいていく過程、複雑な、二人にしか分かり合えない分かち合えない繊細な感情がもつれ合う様は文字が流れるように心に入り込みひたすら美とせつなさで震わせる。

    才能を愛されたのに…彼は弱くてズルい。

    でも少女を救う小説を描いたことだけは確か。

    二人の間に芽生えたのは救愛、救い合う愛。

    そう思うと複雑な色をしたせつなさがポツンと残る。

    • くるたんさん
      まことさん♪こちらにもありがとう♡

      初斜線堂さん、文章が綺麗だなぁっていう印象、惹きこまれた世界だったけどほんとそれぞれの心情を汲み取るの...
      まことさん♪こちらにもありがとう♡

      初斜線堂さん、文章が綺麗だなぁっていう印象、惹きこまれた世界だったけどほんとそれぞれの心情を汲み取るのが難しい作品でした。
      本格ミステリも書かれてるみたいでそちらも読んでみたいなって思ってるところ♫

      「罪の因果性」ありがとう♡ちょっと怖さもあるかな〜。
      私もまことさんの本棚から気になる作品発見!岩井俊二さん、読んでみたいです¨̮♡
      2021/08/31
    • まことさん
      くるたんさん♪
      岩井俊二さんはお薦めだと思います。
      レビューに今年のベスト1なんて書いてしまったけれど、苦情がきたらどうしようと思ってい...
      くるたんさん♪
      岩井俊二さんはお薦めだと思います。
      レビューに今年のベスト1なんて書いてしまったけれど、苦情がきたらどうしようと思っています。
      でも、岩井俊二さんの他の古い作品も読んでみようと思っています。
      2021/08/31
    • くるたんさん
      まことさんのオススメなら期待値上がります¨̮♡
      図書館探してみまーす。

      岩井さんは小説は初読みです。映画は「リップヴァンウィンクル…」を観...
      まことさんのオススメなら期待値上がります¨̮♡
      図書館探してみまーす。

      岩井さんは小説は初読みです。映画は「リップヴァンウィンクル…」を観て、すごく良かったなって思い出がありますよ¨̮♡
      2021/08/31
  • タイトル通り。

    虐待を受け、親に捨てられ
    自殺しようとしていた少女
    それを止めた小説家
    救われた少女は小説家と暮らし始める。

    神様のように作者を慕う少女
    素っ気なく振る舞いながらも
    愛情抱く小説家(うーん、今書いててもなかなかな奴だなぁ)

    警察に届け出てないというのもあるのだけど、違和感をいちいち捉えずに読んでいた。

    前読んだ作品の「中学生男子と大学生女子」の関係そうだけど、ギリギリアウトかもしれない関係性で進む話が多い作家さんなのかな?
    今回は「小学生女子と社会人男性」
    そして毒親も共通項

    「感情揺さぶられたい」ということも小説を読む理由の一つなのだが、この話は「タイトル」がまず先にあるので「何故そうなってしまうのか」を追ううち
    「なるべく感情を動かさないように読み進めようとしている自分」に気づく

    現実にこんなことがあるのかどうかは置いといて、悪いほうに行かないでくれと願い、読み終えないと気持ちが鎮まらない(どうにも心は動いている)
    どんどん読み進めてしまう。

    相手を好き過ぎて助けようとしている行動が相手を完膚無きまでに破壊し尽くす。
    壊していることに気づかないから
    「壊れてしまってる」と感じ、愛している者として終わらせようとする。
    うまく噛み合わないまま…結末へ

    あとがき
    作者さん自身が感じた疑問に対する答えを探すための実験のように物語を紡ぐ。飄々と「今回はこんな実験をしました」と語る感じがたまらない。

    どうしたらうまくいった?
    なんでこうなった?
    アイツ一番損してない?
    それともコレで良かったの?

    読み終わるまでが早いのに
    読み終えてから考える時間が長い。
    作者の答えを読んだはずなのに
    疑問(問い)を引き継いでしまった。

  • イベント後に失踪した人気作家遥川悠真の自室のPCに残されていた小説。そこには母親に日々虐待され、彼の小説だけが心の拠り所だった小学生幕居梓が限界に達して死のうとした時に偶然遥川に拾われて始まった奇妙な共同生活が描かれていた。そして現実では遥川のイベント中に梓が被害者となった事件も発生していた。遥川に心を守られ成長していく梓。一方創作の闇に堕ち這い上がれない遥川。救われた梓が今度は遥川を救おうとした事により起きたボタンの掛け違いがとても切ない。静かに淡々と描かれる関係の変化が破滅にしか向かいそうにないのもあってより儚く瞬く光が美しい。見事な共依存関係だけどある意味では純粋な恋愛小説だなと思った。ええ、好物ですよ。

  • 『憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んで欲しかった』

    この言葉の重みが、後半になると重くのしかかる。
    それでも生きてくれと願うのは、私だけなのか?
    遥川と小学生の梓との関係性が好きだった。でも梓は大きくなり、関係性も変化していく。変化するがゆえの悲しい結末だった。

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著者プロフィール

2016年、『キネマ探偵カレイドミステリー』で第23回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞してデビュー。楽園とは探偵の不在なり』『恋に至る病』『コールミー・バイ・ノーネーム』ほか著書多数。

「2023年 『百合小説コレクション wiz』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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