- Amazon.co.jp ・マンガ (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784049129823
作品紹介・あらすじ
「一言で言えば、ここに書かれているのはあの戦争ではない」……500人以上の従軍女性を取材し、その内容から出版を拒否され続けた、ノーベル文学賞受賞作家の主著。『狼と香辛料』小梅けいとによるコミカライズ。
感想・レビュー・書評
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衝撃を受けた。読むのを一時中断、深呼吸。コミックと侮ってはいけない。実は書店で買おうか買うまいか散々迷ったあげくに購入した本。この中身で、よくコミック化したものだ。帯にある富野由悠季氏の言葉ではないが、まさに「瞠目」と「脱帽」。
原作者スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ氏は、ベラルーシの女性ジャーナリスト。2015年にジャーナリストとして初めて、ノーベル文学賞を受賞している。原作は彼女のデビュー作であり、独ソ戦に参加した女性(兵士、将校、軍属)500人以上に取材したインタビュー集とのこと(原作購入済だが未読)。その内容から出版を拒否され続けた作品でもある。ちなみに、日本語訳も出版してくれるところがなかなか見つからなかったらしい。
ソ連では第二次世界大戦で女性が従軍し、狙撃兵や戦闘機パイロットもいたことは承知していた。ただその数が百万人をこえること。軍人及び民間人の死者が二千万人を越えていること(当時ソ連の人口は約一億九千万人)は知らなかった。戦時下の女性を描いたコミックとして、こうの史代氏の「この世界の片隅に」が有名であるが、描かてれいるのは「銃後」。本書は砲弾飛び交う「前線」で戦う女たちを描いているのだ。おそらく原作以上のインパクトがあると思う、なぜなら「絵」があるから。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
登場するロシアの女性兵たちは16~7といたいけない年ごろ。「戦争中に10㎝も背が伸びたよ」というエピソードは胸が痛い。洗濯部隊(こんなのがあるんだ!)や狙撃兵のエピソード。ソ連が大祖国戦争と呼ぶこの戦いは、祖国をドイツ兵から守る戦いだから、少女たちも祖国愛に燃えて戦う。日本の女性が銃後の守りをしていた時に、徴兵ではなく、志願する女性がいたことに驚く。男たちに伍して、忍耐強く、誇り高い。戦争は女の顔をしていない。一方、攻防戦の主な舞台はウクライナ。東西の境目にあるために戦禍にまみれ続ける歴史は痛ましい。
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>「幸せって何か」と訊かれるんですか?私はこう答えるの。殺された人ばっかりが横たわっている中に生きている人が見つかること……。
>「こんな泥まみれで死にたくない」と思った。
>飛ぶだけではなく、女の子たちは敵機を撃墜しました。私たちを見て男たちは驚いていました
>戦争で一番恐ろしかったのは……男物のパンツを穿いていることだよ
独ソ戦争(第二次世界大戦のうちドイツとソ連の間で展開された「史上最も凄惨」と言われる戦争、1941-1945)に従軍したソ連の女性たちに後年インタビューした本、の漫画化です。
20世紀の究極の男社会である戦場で、死に慣れ、恐怖に慣れ、殺人に慣れ、あるいは戦争が終わった後に日常にもういちど慣れなおし、生きたり死んだり負傷したりする。
小梅けいとにこれを書かせた人は凄い。
監修の速水螺旋人は戦争モノの大家だと思うけどこのようには描けなかっただろう。
この本は語り継がれる一冊になるだろう。 -
逢坂冬馬さんの本を読んで。
第二次世界大戦、男だけではなく女だって、戦争に傷つけられている。
日本だけじゃなく世界中の町や村やでも。 -
まず、ノーベル文学賞を受賞した史上初のジャーナリストの方の原作があることを知らなかったのですが、今回、漫画でこのような歴史が存在したことを知ることができて、良かったと思っております。
第二次世界大戦中の「大祖国戦争」と呼ばれた、ナチ・ドイツとソビエト連邦の戦争における、ソ連の女性将兵たちへのインタビューを元に書かれているのですが、全てが事実かどうかの確証はないそうです。
ただ、この作品の場合、あくまで戦争に自ら志願した(徴兵されたのではなく)彼女たち自身がどのように記憶、認識をしているのかが重要であることは、読んでいくうちに実感出来ると思います。
私自身、戦争を体験していないし、すぐ隣で、さっきまで話していた人が死んでしまうような、あまりに凄絶な惨状に対して、本当に何も言葉が出てきません。
それでも、この作品を読んで、自らの体を傷付けていく洗濯部隊の存在を知ったり、空から爆撃されているのに、衛生袋を下げていることに気付くことで、恐怖でなく恥ずかしさを感じて、負傷者を助けに引き返す、女性特有の気高さや美しさを感じられたことによって、そうした惨状の最中でも、そのような女性らしい感情が存在していたことに、何だか泣き笑いのような気分になりました。四年間という長さも、女性にとっては大きいですよね。
原作もぜひ読んでみたいと思いました。 -
原作者は、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチさん。第二次世界大戦にソ連の軍隊に所属した女性たちの物語だ。ソビエト連邦とナチス・ドイツとの戦いの日常を漫画というカタチで表現している。極寒の土地であるがゆえの厳しさも、細部を描写することで伝わってくる。雪の残る春先、スナイパーは12時間腹ばいのママ過ごす。体温で雪が溶け水になる。ずーっと水に浸かった状態で過ごす。ときに、その水がまた凍るときもある。戦争の不条理、生死の狭間の心境、人を殺めることが日常になる異常さが伝わってくる作品。そして、生き抜いてきた彼女たちの強さを感じる。
ロシアの戦争を日本人が漫画として表現するのも、その地域の時代背景を知らないとできないことであり、相当な困難もあったのだと推察される。当時の様子を後世に伝えることの意義があり、本書に出会えたことを大切にしたい。 -
2015年にノーベル文学賞を受けたベラルーシの女性作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの最初の作品で、第二次世界大戦に従軍したソ連の500人以上の女性の聞き書きをまとめたルポルタージュ。
恥ずかしながら私は著者のことを知らなくて、コミカライズされたこちらを書店で見かけた時には衝撃が走った。戦争の前線で活躍した女性がいるなんて、そんなこと一度も考えたことが無かった。一度も考えたことが無かった自分にも驚いた。
女性には徴兵令が発せられないので、ここに登場する若い女性兵士達は皆、自ら志願して戦地に赴いている。
夫を先に送り出した女性も、乳飲み子を抱えながらの女性もいる。でも戦地ではそんなこと一切関係なくて、女性も男性と同じように集団に属し戦うことを強いられる。
女性だから、という言葉は極力使いたくないけれど、でも生物学上の女性だからこその負担や苦悶が書き記されていることが、戦争という特殊な環境下だからなのか、より禍々しく痛々しく際立っていたように思う。
"工事を見に行くと嬉しいことにミシンはそのまま残っていました そこで家に帰っていく女の子たち一人一人にプレゼントしたのです 私は嬉しかった 本当に幸せだった 私ができるせめてものことでした"
"戦地にいたことがあって あんなにたくさんの死体を見て いろんなことを体験しているのに 暗い谷が怖かった"
"誰かのリュックからネズミが飛び出したら 女の子たちはみな飛び上がって 上の段に寝ていた子たちも金切り声をあげたものよ"
"脱脂綿や包帯だって負傷者の分さえ足りなかったんです 私たちの分なんかとんでもない"
"恥ずかしいって気持ちは死ぬことより強かった 数人の女の子たちはそのまま水の中で死んでしまった"
"私たちは髪を切って泣きました"
"昼は軍靴を履いて 夜は鏡の前でハイヒールをちょっと履いてみる"
"戦争に行ったことがある人ならこれがどういうことかわかるんだけど 一日離ればなれになるってことがどういうことか"
"戦争で一番恐ろしかったのは…… 男物のパンツを穿いていることだよ" -
流行がすべての世の中になりつつある。ノーベル賞を取ったからっといって、一時流行った「チェルノブイリの祈り」も「ボタン穴からみた戦争」も、そしてこのマンガの原作も、早々と忘れられていく。「戦争」も「原子力発電所の事故」も遠い昔の他人ごと、そのうち、「ホントは」とかいうたいそうな言い草で嘘八百を吹聴する輩が登場するのだろうか。とんでもない時代が始まっているとつくづく思うけれど、忘れないで、マンガに仕立てた人がいることに、ちょっとホッとした。
マンガは、とても上手とは言えなし、筋の運びもぎこちない。でも、岩波現代文庫なら読まない人が手に取ることは素晴らしいと思う。ガンバレ小梅けいと!
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