ぜんぶきみの性 1 (電撃コミックスNEXT)

  • KADOKAWA (2020年8月26日発売)
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Amazon.co.jp ・マンガ (164ページ) / ISBN・EAN: 9784049133608

作品紹介・あらすじ

ある日突然、性転換症候群の影響で女の子になってしまった主人公・鷺宮了を中心とした、男女あやふやなキャラクターたちが織り成すクロッシングラブコメディ。
“性転換症候群”という稀な体質の鷺宮了は、高校の学校見学で出会った水上凪沙に憧れを抱き、凪沙のいる天清学園へ入学することになった。
2人が再会を果たしたのは凪沙が働くコスプレ喫茶で、さらに凪沙にはヒミツが――?
★性転換症候群(トランスセクシャルシンドローム、通称“TSS”)
→さまざまな状況の“ときめき”が本人に起こると、男女の性別が入れ替わってしまう体質。原因は不明だが、先天性の人もいれば後天性の人もいる。

感想・レビュー・書評

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  • 赤面の美学、それからギャップを演出する四パターンの距離感。

    「電撃マオウ」における連載および、コミックウォーカーなどの各種WEBサイトでの後追い更新という、比較的最近のビジネスモデルに沿って展開している「TSF」ラブコメ漫画です。
    「TSF」といいますと最近ではすっかり市民権を得たのか、探してみれば雑誌にひとつふたつ見つける機会はやってくるものの、知らない方はやはり知らないテーマですね。

    そんなわけで軽く講釈を垂れますのでご存じの方は読み飛ばしてください。

    TS(TransSexual)、ここでの意味は性転換。
    「性転換」という現象は現実でも一部の魚類などみられ、人類という枠に広げれば性別適合手術など後天的な各種外科手術、内科治療がある程度確立して久しいですね。
    とはいえ、あくまで現実に即した観点からではルポ漫画などを除いて展開しづらいのも確かです。

    というわけでここでちょっと匙加減。生物学的、というより現実的な括りを外してみましょうか。
    F(Fiction)、つまりは「創作」という断りをくっつけることで「TSF(創作上の性転換)」となり、ライトな読みごたえと自由な発想を取り入れてみると世界観は一挙に広がります。
    私はそう解していますが、それはさておいてこの作品の性質について述べていきますね。

    なお、本作におけるTSのタイプは可逆(リバーシブル)型、加えて言うなら「不随意」です。
    つまり可逆があればその逆の「不可逆」もあるということ。不可逆とは一度元の性別から移行したらもう戻れないタイプの話でどちらかと言えばシリアスめなお話でよく見られます。

    反面、可逆は男女の間の性別を行き来するタイプの話で基本的にはコメディ寄りです。
    可逆から不可逆へ、つまりは性別の揺籃期から最終決定としてどちらかの性別に固定されるという作品も思春期(第二次性徴期)からの連想からか王道だったりしますが、今は忘れてください。

    ちなみにこの世界観ですと性別スイッチの条件は「ときめき」というもの。
    ゆるいうえに生臭さのない条件は先例がないわけでないものの、先行ジャンルを読み比べてきた私としてもこの作品に見事にフィットしているように感じます。

    あくまで人間関係・恋愛関係での胸の高鳴りがトリガーであり、「脈拍」ではないので不意に驚かされたり、急激な運動でピンチを演出するわけでないというのもポイントですね。
    性的な欲求とは無縁でないのですが、一方でイコールでもなかったりもします。
    とは言え、他者の介在によって不意に変身してしまうので自分の意志での性別スイッチは難しい、ゆえに「随意(意識して)」ではない「不随意」と一応は定義させていただきました。

    なお、この辺りについてはTSFジャンルにおける先人の研究から引用させていただいたことを断っておきます。
    とは言え、学術的なカテゴライズがいかに進んだとしてエンタメとしての面白さに通じなければ意味はないので、心の片隅に置いていただければ幸いです。

    それでは前置きはそこそこに、本作について解説をはじめていきますね。

    物語は神頼みからはじまります。
    憧れの先輩の特別になりたいという願いを酔狂にも叶えてくれた(やけに色っぽい)神様のおかげで主人公「鷺宮了」くん/さんが後天的に「性転換体質」を得たという事情をまず押さえておいてください。

    ちなみにわかりやすくも「性転換症候群」と命名され、医学的見地からのアプローチもされているこの体質、一万人に一人という割合で発症し、社会的な認知度はそれなりです。
    実のところ、神様の気まぐれで性別が変わってしまうってのはこの種の物語の導入としては結構よくあるんですが、多くは再現不能のファンタジー、たった一人に無作為に割り振られた奇跡なんですね。

    一方、こちらで神様が主人公に割り振ってくれたのは珍しいけれど、メディアにも取り上げられて当たり前、普遍性のある「個性」に留まります。
    主人公はこそこそ隠れる必要もなく、カムアウトしても周囲は何事もなく受け入れてくれるのが明るめのラブコメとしての本作を演出する上では語るに外せないポイントなのかもしれません。

    普遍性のある自然現象なのに、超自然的な「神」がちょっと横入りしたってプロットの組み合わせは、相当面白いですよ。私個人としてもなんかしらに応用してみたくなるくらいには。

    ちなみに変身は速やかに行われます。変身に伴っては0と1のエフェクトが発生するのでデジタルなあれそれを連想してしまいますが、とりあえずは現実の話のようです。
    この辺の変身のメカニズムを探っていくのも作品によっては見どころだったりするのですが、今回に関しては神様関連が目立つこともあって本題ではないと個人的には思っています。こちらは心の片隅に留めていただければ。

    漫画的には一、二コマどころかエフェクトさえかけておけば「あ、性別変わったんだな」というのが直感的にわかるので地味にここも発明ですね。変身の劇的さはもちろん、テンポよくライトさ加減を演出する上でも、これはよほどのジャンルに対する理解と愛がなければできないのだろうと思い感服するのが私だったりします。

    そんなわけで、主人公の想い人である「水上凪沙」に話を移しましょう。
    主人公ともども響きからすれば男女兼用の名前と気付いた方はすごい。社会全体で見れば巡り合う機会はあっても、同じ学校の先輩後輩ならこの体質って相当にレアケースなわけですからね。
    この辺に説得力を生むために縁結びの神様の介入があったと考えればご都合感がなくてスムーズな導入ですし。

    一話時点で主人公が男女両性行き来タイプだなと読めた読者も、その相手役も同じ体質だと先読みできるかまではきっと半々でしょう。
    つまりこの漫画、主題である「性転換」の属性を持つキャラが二人いるということです。

    ある意味ペア主人公と言ってもよいかもしれません。
    恋愛軸の双方が男女のふたつの性を持つため、絵面の面でも男と女、男と男、つまるところは四パターン提示できるこの構造、最近注目されだしたようですが相応のポテンシャルを秘めています。

    それとこのふたり、体質が「後天的」と「先天的」という違いもありメンタリティが全然違うのが面白いところですね。
    それとラブコメらしく恋愛という軸で話の大枠を読み解く上でも、主人公が先輩を振り向かせるまでの「心理的障害」であると早々に明言されるというのも面白い。

    ではこのふたりの違いを語るうえでまずは主人公の「了」くん/さんの方から。彼/彼女は高校入学半年前まではずっと男子としてのメンタリティを育んできました。なので女性としての服や仕草に慣れておらず、自然無防備だったり素直に気恥ずがしがったりする絵面に多く恵まれています。

    ひるがえって主人公が思いを寄せる先輩の「凪沙」くん/さん。こちら側は生まれた時から判然としない性別に揺られて生きてきました。ゆえに男女のどちらでもありどちらでもないためか、自分自身の体に無頓着なうえに無防備なので対人距離がとにかく近いのが特徴です。男女どちらの姿でも天然で異性をときめかせる名手です。

    そしてこのふたりを組み合わせることで単独よりいっそう絵面が強くなるわけなのです。
    基本としては元々は男性だったのに女性の姿を得たことで女性の社会・文化圏にも入っていけるようになった主人公の冒険を振り回され気味に描きます。
    リアクションは主としてこちらが担当していますが、男女両方の姿に共通する恋に向ける「いじらしさ」が性別をを往復するにあたって増幅・可視化されて応援したくなる王道の主人公を現出させるわけですね。

    女姿な自分なら先輩の男姿にも「ときめき」を得てしまうなど、主人公は自分の内面を「女性」という未知に向かって開拓していくようで変化がわかりやすく描かれているのが強いですね。
    男子姿は主人公ペアのどちらも比較的ガッチリした長身の体格で描かれているのに、赤面の愛らしい印象を女子姿から男子姿へ問題なく移行出来て、男女どちらの姿でも好印象を抱けるのが素晴らしい。

    ちなみにこの手の作品でわかりやすい変化を示す上で注目されがちな胸の大きさはスレンダーな主人公と豊満な先輩で好対照を示しています。
    ただ、この作品の絵柄で語るべきところはどちらかと言えば鼠径部から臍(へそ)にかけての下半身だったりします。男女共々気合が入っていて、性別にかかわらず色気を感じます。

    なんといいますか骨格の描き分けがしっかりしている上に、厚かったり薄かったりする肉付きの違いが基礎的な画力の高さをうかがわせるようです。
    その上、女子であれば透明感を感じさせる描き方と、吸い込まれそうでグッとくる大きさの瞳がとみに良い。

    そんなわけで、話の構造に話を移すとひとまず話の興りとなるここ一巻では寄宿制の学園で主人公と先輩が同室になり、極めて近しい距離の下で煩悩を刺激することに。
    この辺は同じ体質で、良き理解者、対等の関係になれるかもしれないという示唆が働いている、ごもっともな話。

    それに加えて、一巻で提示された主な舞台が先輩を追っかけて共に働くことになったバイト先の「コスプレ喫茶」というのも漫画的に上手いですね。学園での交友関係は二巻以降に持ち越しですが、ここで一気に話の基盤を固めたのに忙しなさは感じませんでした。

    身も蓋もなく漫画的な要望に従うと言ってしまえば着替えの度にサービスカットを出せるというのもそうなんですが、着せ替えを違和感なく出せる点、しかも男女双方のコスチュームを取り扱えるって要望は地味に大きい。
    それに加えて同僚の従業員たちも少しだけ変わった面々が集まっているので、自らの「性別」がわからずに特にひどく幼い顔を見せる先輩に早くも変化のきっかけを与えます。

    性自認や性的志向などとはあまり関係ない、ファッション感覚で女装しているいわゆる「男の娘」。
    自らの性に違和感を感じ、男性としての「性」にこだわる「男装の麗人」。
    可愛い従業員たちのことを嫌味なくストレートに愛でつつ、同性と密かに付き合っているオーナー。

    王道ながらも、嫌味なく「性別」に向き合ってきた先達としての彼ら彼女らの姿は主人公たちを励まし、作品に奥行きを与えてくれるようですね。
    ここでキーワードになりそうなのが立場やそれぞれのあり方は違っても「対等」であるという信頼感でしょうか。

    それから。

    不意の性転換によって発生する「女装/男装」。
    背向かいに制服を交換し想い人の纏った衣服を肌で感じる背徳感、体格が変化しての袖余りの美学。
    凪沙先輩の湯上りや寝起きの無防備な姿、着替えに頓着しない少年のあばら骨、などなど……エトセトラ。

    フェチズムを刺激するシチュエーションの連続だけでも話が成立し、イマドキここまで初心な少女の赤面は出せないかもしれないのに、男子のメンタリティを借りてストレートにお投げして……。
    感情の激動が激変する姿によってわかりやすく作品の内外に示され、そして難攻不落な凪沙先輩の内心の葛藤につなげていき、漫画としてラブコメとしての強さを表していきます。
    もっと言えば同ジャンルの特色をこの上なく示していただけたそんな作品だと思います。

    以上。
    構造上の美点にいささか寄り過ぎたレビューになってしまったようですが、逆に言えばそういった工夫を意識させないスムーズな筋運びも光るので考え過ぎずとも十全に楽しめる完成度です。

    総ずるにこの巻をまとめるとすれば、このジャンルに惹かれてやってきた読者に「好きものこその上手なれ」を素で行く漫画をお出しされたことは確実で、滑り出しも上々の一巻であったと思います。
    そうしてキスの予感を引き際にやってくる第二巻も納得の絵姿と、心情がやってくる気配を感じるのですね。

  • 表紙のイラストに惹かれ読みました。
    イラストがとても綺麗な漫画で
    男性バージョン、女性バージョン共に美男美女!眼福でした。

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著者プロフィール

主に成年向けコミックで活動中の作家で、一般向けコミックは今回が初めて。同人誌などで描いていた「性転換モノ(TS=トランスセクシャル)」ジャンルで一般誌デビュー。

「2023年 『ぜんぶきみの性 6』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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