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Amazon.co.jp ・マンガ (162ページ) / ISBN・EAN: 9784049137415
作品紹介・あらすじ
ある日突然、性転換症候群の影響で女の子になってしまった主人公・鷺宮了を中心とした、男女あやふやなキャラクターたちが織り成すクロッシングラブコメディ。
“性転換症候群”という男女が入れ替わる体質の鷺宮了は、高校の学校見学で出会った水上凪沙に憧れを抱き、凪沙のいる天清学園へ入学して再会を果たす。
たが、なんと凪沙は了と同じ体質で、さらに学生寮でルームシェアをすることになり、無防備な凪沙に振り回される了の情緒乱高下ライフがはじまった。
そんなある日、了と凪沙たちは夏祭りに行くことになり――?
【性転換症候群(トランスセクシャルシンドローム、通称“TSS”)】
さまざまな状況の“ときめき”が本人に起こると、男女の性別が入れ替わってしまう体質。原因は不明で、先天性の人もいれば後天性の人もいる。
感想・レビュー・書評
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「ライク」と「ラブ」、「男」と「女」、「見せる」と「隠す」。境界線よりなかばの魅力。
「TSF」ラブ・コメディ『ぜんぶきみの性』二巻については一巻で基礎的な設定と人間関係を提示した上での理想的な筋運びである、というのが最初の感想でしょうか。
本作のとりあえずの特徴につきましては、私個人の一巻のレビューで細々と触れさせていただきました。
よって今回は割愛させていただきます。ご容赦ください。
今回はイベント重視で進行する……と思いきや、連動してシナリオも順当に動く、そんな巻になっています。
加えて、今回収録のメイン・エピソードは浴衣回、そして一足飛びのお風呂回(!)――前編ということもあって、ビジュアル主導の破壊力は一層高まっているようです。
後半のお風呂回については後述するとして。
この巻の半ばを占める前半の浴衣回に関してはメリハリの利いた肢体を惜しげもなくさらす色気に限定せず、見せ方と隠し方のバランスの巧みさと、隠したからこそ生まれる色気に注目した流れといえるかもしれません。
さて、浴衣回に向けてですが、男女両方の性別を行き来する主人公「鷺宮了」が憧れの先輩「水上凪沙」相手に夏祭りのお誘いをかけるという、純朴な高校生らしい、初々しいやり取りを導入とします。
一方、それとは別に主人公たちのバイト先のコスプレ喫茶の従業員たち、レギュラー格それぞれにピックアップして物語を掘り下げる手番も兼ねています。
主人公たちの恋物語と、脇役の手番を両立させているのは構成として目立たないながらに強い。
そんなわけで、今回はこちらのふたりの手番でもあります。
女装初心者「八重樫伊織」に対して、熟練の男の娘「神楽坂塁」からの女性の服飾のレクチャーとして「浴衣」がまとわれながら語られるのです。ちなみに「女性」初心者である主人公も、両方の性別の視点に立って「浴衣」を思うという観点から巻末のおまけ漫画を含め、本編中でしっかり語られているので安心ですね。
第二次性徴を通り過ぎて骨張る体に悩む「伊織」と、自身のなよなよしい体に思うことがあった「塁」の互いに持ち得なかったものに焦がれる関係性が王道ながらに、衝突、内心の吐露、そして問題の解決へ――と過不足なくまとまっていて素晴らしい。
なお、このふたりに関しては、身体の性は「男性」で共通するとして、性自認(心の性別)、性的志向(どの「性」を愛するか)の問題はいったんさて置きます。
性別をどのように表現するかという悩みが一番大きいのです。
と、そういった経緯を踏まえてやってくるのが肝心要の夏祭りパート。
男性のできあがった骨格から生まれる色気も描ける作者の画風だからこそ、「浴衣」という衣をまとって楚々とした仕草を取る「伊織」の魅力は見逃せない。体の線を打ち消したからこそ内面と長身の魅力が放たれる。
画風としては比較的デフォルメに寄せているものの骨格がしっかりしている分、説得力があるのですよ。
私、「女装」というテーマにはさほど関心がなかったつもりですが、女性の身体ないし外見に、初々しい男性の精神が入ることによって生まれる魅力という意味では新境地を拓くことができたようで感謝です。「男性」も「女性」も可愛さを求めるならどちらの性であっても構わないという力強いメッセージが言外に伝わってきました。
「身体」と「心」、そしてそれが「愛」として「表現」としてどこに向かうかという当事者にとって真摯な問題を取り上げた上だからこそ、漫画表現を用いてフェチズムやギャップのすばらしさを軽快に謳い上げることができるのかもしれませんね。同ジャンルの中ではライト寄りとはいえ、芯を外さないからこそ見えてくるものがある。
それと、夏祭りと言えば神社という連想の自然な流れから、物語の発端となった神様もしっかり顔見せします。
「凪沙」先輩が自身の内に生まれた「ときめき」を自覚できずとも確かな兆しとして認識します。
夏祭りパート、浴衣回は今後への布石を打ちこむにふさわしい展開でもあったわけです。
それでは次は「お風呂回」について。
恋心について知ってはいても実感は持てないからこそ、無垢にも無知にも見える「凪沙」先輩の発案でお送りします。こっちもこっちで「隠す」色気と「見せる」色気の間で対比が効いており、局部を見せずとも魅力的なポージングが目線をくぎ付けにします。
いくら女性同士、同性での入浴とはいえ、順番がおかしいのは確かですがこういう思い切りの良さが展開の読めなさと両ヒロインの無垢な魅力に繋がっていくのなら、そして読者の眼福となるのなら歓迎です。
そもそも前巻の引きの「キス」にしたって、普通の恋人同士なら辿る経路を色々すっ飛ばしているわけですし。
とはいえ、至近距離での肌の密着は互いに意識をさせて、恋心、焦がれ、もしかしなくても性欲とは無縁ではいられないのなら、ひょっとしたらこの回こそがおそるべき転機になるのかも。
その辺は一巻の引き同様、次の巻に乞うご期待! といったわけでこういった点もエンタメの秘訣でしょうね。
そういったわけで総評するに、ここ二巻は一巻にも増してバランスがいいです。具体的には「女装」も加えて絵面を女子多めに寄せつつ、男性という身体の有する魅力も損なっていない。ここも大きい。
「TSF」ジャンルは絶対量からすれば男性から女性への変移が王道とされますが、この巻については決めゴマの絶対量が極端に女性寄りというわけでもありませんでした。
主人公「了」の男の子としての元々の魅力と、新たに獲得した女の子としての魅力。
想われ人「凪沙」の、すべてがニュートラルというよりまっさらな性意識は男女両性の魅力を兼ね揃え、その時々で主人公に抗しがたい魅了を振りまく――。
話の構造上、男子姿に手を抜けないのもわかりますが、字面で言うのは簡単でも絵面で実現できたのは凄い。
本作において男性の姿は女性の艶やかさを隠す一回休みとは限らず、その逆もあり得るのだと思えました。
結論を言ってしまえば、主人公コンビが有する男女の姿はどちらとも魅力を引き出すための掛け替えのない存在なのでしょうね。今回に関しては都度逆転するとはいえ見た目上の男女の絵面が光りましたし。
それと余談めいた話ですが、個人的に注目したのは親愛を深め合うメインキャラたちに向かう周囲の障害でしょうか。本作は世界観上、多様な性のあり方について現実よりは多少社会的認知が進んでいる風ではあります。
その一方で恋愛とは男女関係である、という一般常識なる枷もあるはある。
けれど、あくまで話を進めるための取っ掛かりにして、顔の見せない第三者(モブ)による微妙に棘のある言葉がないわけではないというバランスで片づけています。それに、悪意が籠っているというより無理解による認識の甘さって風であるので、名も知れない彼か彼女に対する嫌悪感を引きずらないのも上手いですね。
まぁ、今後の話の進展によっては急転直下のダークなムードに突入する可能性もゼロではないのでしょう。
けれでも、少なくとも現時点でも軽快に、颯爽と「好き」という感情を共有できるひとりとひとり、ふたりの関係性を目にすれば、そういった杞憂も吹き飛んでしまうようです。少なくとも一瞬の胸の高鳴りを目にすれば。
あと、私見ですが一巻と比べれば大ゴマを使った読者の注目集めもさることながら、コマ割りを利かせて繊細な心理に踏み込んでおられるような気がします。おそらくはこの漫画、この巻で軌道に入った。
「TSF」ジャンル全体では先行作品は多い一方、複数人の性転換を組み合わせた作品はまだまだ開拓の余地があるかもしれない……、いえ。などという素人マーケティング的な分析はそこそこにしておきますか。
理詰めの分析をしようにも、その試みを難しくするくらいに自然な話運びに流されてしまう気がしました。
結末が読めそうで読めない絶妙な展開を前に、私は今しばしこの心地よい恋の行方に心躍らせてみたいのです。詳細をみるコメント0件をすべて表示
著者プロフィール
浅月のりとの作品
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