- 本 ・マンガ (178ページ)
- / ISBN・EAN: 9784049154276
作品紹介・あらすじ
魔王と勇者が異世界から魔王城もろとも転移してきた先は、
現代東京・豊洲のマンション建設予定地!?
地主の孫娘に即時撤去を求められ、元の世界に戻ろうとするが、
空気中に魔力がない豊洲では転移魔法を使うなどもってのほか。
そこで、魔王は宣言する……
「余の城をマンションとして提供しようではないか!」
城をマンションとして経営することになった敏腕(?)魔王が、
豊かな暮らしのために奮闘する、新感覚不動産コメディ!
感想・レビュー・書評
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空室ばかりの魔王城、隙が目立つ魔王様、誰が埋めてくれるでしょう?
原作小説とコミカライズのキャラクターデザイン/作画担当者が同一という特筆すべき事情が本作にあります。なのでメディアを変えても印象として地続きということになりますね。本作が題を採る「不動産管理」に倣うとすれば読者諸氏が入居しやすくなるよう間口を広く取った企画ということになるかもしれません。
そんなわけで、努めて原作小説未読の方向けにレビューをお送りしてまいりたいと思います。
一言で紹介すればファンタジーによくある「勇者と魔王」の対立軸を基本に置きながら、現代日本を舞台にします。いつもの逆パターン、異世界人が現代に転移したことで巻き起こるカルチャーギャップ・コメディといったところでしょうか? 出オチで留まらず、題材の面白さを最大限活用していらっしゃる印象です。
ライトノベル文庫一冊は漫画換算だと三冊が相場と思うのですが、私の計算によれば少しペースを落として四巻分(もちろん三巻で完結の可能性もあります)で話を組んでいるのも特徴でしょうか。
その辺は人気次第でフレキシブルに話を組んでくる向きもあるのでしょう。いかんせんその甲斐あってか本作は、コメディらしく虚の取り方や間の置き方がしっかりされているように見受けられました。
くわえて、作者の堀部先生は老若男女の骨格を押さえた上できちんと可愛さとかっこよさ、その上に残念さや不穏な感じを乗せてくる、かっちりした画力の持ち主です。
主人公たる魔王「バルバトス」を筆頭としてなんかズレてて困った人たちが乱舞する作風ですが、漫画そのものの組み立て方については実に隙がなく、文句をつける暇がないと申しましょうか。
長々と説明するのはまどろっこしいので、その辺は実際に読んだ上でお確かめください。
なお、小説から媒体を変えてコミカライズするにあたっての変更点として――。
傲岸不遜を絵に描いた性格だけどビッグマウスもうなづける魔王「バルバトス(表紙右側の人です)」の視点を明確にしており、そこからの再構成が光りました。原作から取捨選択されたエピソードや独自に膨らませた場面については具体的に触れませんが、いずれを取っても漫画に最適化された良さがありましたね。
で、話を戻して。こちら魔王様、現代日本では魔力が薄いとかで本領は発揮できませんけど結構ハイスペックなんですよ。科学文明にも物怖じせず、隙を見つけてはマウントを取ってくる余裕すらありました。
だけど、王者としての傲慢さが嫌味でなく可愛げにもなっているって塩梅がいいんですよ。
異世界転移に伴ったのが居城と宿敵+αで、配下はひとりも連れてこれなかったというのはけっこう悲哀な気がしないでもないですが、そんなのおくびにも出さず魔王様は高笑いしてくれます。
そんな魔王バルバトスの勇姿を見てると読者はなんだか元気になれるな……と思ったり。
ただし、対抗する勇者がアホの子という対比もあってか魔王自身は狡猾な頭脳の持ち主だったりします。
しかるに一巻一話時点からして「あ、コイツ野放しにできねーな」と思った読者も多いはずです。
ほほえましい視線を向けると同時、油断ならないと思わせるのはなかなか巧みなバランスなのかなって。
で、そんな愛嬌あふれる魔王を制御すべく原作は話を組んでいるんじゃないかなって私は踏んでいるのですが、その辺は虚か実か。とまれ脇を固める面々は実に個性豊かで、飽きさせない連中揃いだったりします。
と。その筆頭として挙げられるのが、力強い意志が瞳からも感じ取れるヒロインの女子高生「神代結亜」です。芯の強さと押しの強い正論だけで歴戦の魔王と渡り合える女子高生に人類の可能性を感じますが、この子こそがコメディパートにおける魔王の相方だったりします。
そう、彼女こそが読者の代理として、魔王の非常識っぷりにきっちり頭を抱えてくれるんですよ。
結亜がリアクション担当としてコロコロと変える表情を見てると楽しいのです。締めるべきはきっちり締めて褒めるべきところでしっかり褒める、気持ちのいいヒロインとしても動いてくれるわけです。
コミカライズに伴って魔王の動きが当社比XXX%増量ということを差し引いても、彼女は本作のMVPかと。
ほか、魔王が溺愛する幼女「ネフィリー」の愛らしさ、先述したアホの子勇者「シグナ」の奇行など見どころはたくさんですが、同時にそれら周辺人物は魔王のストッパーとしても働きます。付随してそれらの流れは、本作のテーマにつながってきたりもするのですが……。その辺は実際に読んでお確かめいただきたい。
以上。
不動産についてのアレコレほか、作品の紹介ついでに触れておきたい要素はまだまだあります。
ただ、あまり間延びするのもなんなので打ち切って次巻以降に回すとしましょう。
もっとも、ひとつ触れておきたい点として、漫画化に当たってはある意味影の主役になるだろう「魔王城」をきっちり描き上げていただいたところは見逃せません。
一見地味なようですけど、避けて通れない要素だと私は考えているのですよね。
物語のすべての前提となり、タイトルの一角を占めるだけに手を抜けないのはもちろんといえばそうです。
けれど設備の仰々しさと周囲からのかっ飛びっぷりを含め魔王城は作品の顔として、内装を含めてさっそくいろいろな顔を見せてくれました。それでいて、単独で大都会東京に投げ出されても負けていません。
むしろ東京の街並みをはじめ現代日本の風物を背景に置くことで、リアリティの裏付けを得られる。
それからファンタジーの「城」が唐突に出現したことにより周辺との間にギャップが生まれて、これはこれで魅力的な物件という説得力が生まれるのかもしれません。ああ素晴らしき哉、キャッスル。
一方で、シナリオの根幹部分はけっこうシリアスだと思ったのですけどね。
バルバトスと結亜の主役格ふたりに明確な謎を置いて読者を引き込む手法も好きです。それ自体は王道ですが、そうとわかった上でちゃんと先を読ませてくれました。原作も漫画も、その点抜かりなしといえます。
それと冒頭の言葉を翻すようですが、本作は「勇者と魔王」の対立軸というより、魔王個人の方に比重が傾きがちなシナリオです。けれど、勇者は単にアホなだけではなく膠着した流れをかき乱してくれる強い軸の持ち主であり、甘さを捨てたシビアな思考の持ち主だということも示唆されています。
よって、それっぽくレビューに引きを作るのならば――、「確かに勇者は人徳あふれる英雄だけど、同時に暗殺者適性も持ってそうなのがなんとも不穏」と、いったところでしょうか。では最後は月並みに。
よって異世界と現代日本の交錯が織り成す先、魔王様は何を思いどう変わっていくのか、乞うご期待あれ!詳細をみるコメント0件をすべて表示
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