図説歴史の研究 (1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784050013562

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  • ■ 図説歴史の研究(1~3) アーノルド・J・トインビー 学研

    【前編3 終末論】
     20世紀最大の歴史家、アーノルド・トインビーによる大著『歴史の研究』の要約版。図説版の発表をもって歴史の研究が完結したということなので、トインビーの歴史研究の集大成でもあります。原理の理解としては、終末論の「人類歴史は復帰摂理れきしである」というところの、文化圏発展史の照明として、トインビーの文化と宗教の関係に触れています。トインビーの名前は出ないが、トインビーの研究から拝借していることが伺えますね。

     トインビーは歴史の研究の単位を「文明」としました。一般的な歴史は、国家や民族が単位になりますが、イギリス人であるトインビーは、自国の国家の歴史を研究する際に、イギリスという国を単位として、混じりけのない純粋な歴史を編むことの困難に直面しました。島国としてヨーロッパの他国よりも、よほど純粋であるはずのイギリスであってもそうであるので、それは他のどの国にも当てはまることです。そこでトインビーは、歴史研究の単位で一番純粋なものとして取り出すことのできるものとして、「文明」を選びました。そしてそのような文明の推移を研究することで、発展史を築き上げました。ここまででも充分に面白いんですが、ここからが原理との関わりになります。
     トインビーはそのような文明の興亡盛衰の紐帯となっているものとして、「宗教」をあげます。文明の移り変わりの歴史には、新しい宗教がそのつなぎ目となって生まれる、というんですね。だから簡単に記せば、文明→宗教→文明、ということですね。ではその際にどちらが目的で、どちらが手段かということになりますが、トインビーは面白いことに宗教が目的である、と言ってしまいます。宗教が主体で文明が対象。宗教が目的で文明が手段、ということです。
     地球上の様々な地域に文明が生まれ、その精神性の高まりに応じて宗教が表れる。宗教がより高次の精神に導き、新しい文明に移っていく。そのようにしながら、あらゆる文明が吸収融合しあい、ときに興りときに滅びし淘汰されていったと結論づけます。ではこの先どうなるか、トインビーの予言的言及では、世界は一つになるか、核戦争で滅びるか、どちらかしかないといいます。分かれている状態というのは必ず何かしらの軋轢が生じます。そうするとそこに諍いが起こります。昔は戦争といっても隣国だけのものでしたが、今は核兵器の研究開発によって、世界を滅ぼしうるだけの兵器が生み出されてしまいました。その使用を回避するためには、最終的には世界がひとつの国にならなければならない、というんです。ここでの説明だとかなりの飛躍に感じますが、本書を読むとかなり説得力があります。世界が一つになる、という希望は、ひとつの宗教を中心としてなされて行くだろうというのがトインビーの結論です。
     トインビーの歴史観はあまりに宗教に寄りすぎているということから、嫌がる人も多いようですが、それでもその研究の成果は色あせません。神学大生として歴史の理解は必要でありますが、その際トインビーの研究を収めておくことは非常に有意義ですよ。ただしこの本は日本では品切れです。図書館では借りられると思います。

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