奈良の旅

  • 学習研究社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784054044623

感想・レビュー・書評

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  • 旅行者がざっと眺めただけで立ち去ろうとする。ああもったいない、もう少しご覧になったらいかがと言いたいのだがそんな勇気はない。そんな気持ちがこの本を書かせたと作者は前書きで書いている。私も「そうだったのか、もったいないことをした。もう一度訪ねてみたい。」と思いながら読み続けた。例えば郡山城の石垣。大部分が天平様式の礎石から成り立っている。平城京羅生門から運んだものもあるらしい。貴重な文化財を運び出した犯人として筒井順慶をあげ文化財破壊の罪で筒井氏は滅んだと言う。次の城主豊臣秀長も同じ罪で作者に軽蔑されている。

  • 松本清張氏による奈良のガイドブックがあると知り、かねがね読んでみたいと思っていた本。
    樋口清之氏との共著となっています。先日読んだ『一冊でつかむ日本史』の著書武光誠氏が絶賛していた歴史作家なので、興味しんしん。
    大作家らしい流麗な文章で綴られる紀行記かと思いきや、身も蓋もないほどにあけすけな舞台裏が語られたりもする、なかなか歯に衣着せぬ豪放磊落な紹介文となっています。

    知っているようで実は知らない奈良の寺社仏閣。
    春日大社の信仰対象は降臨石とは、知りませんでした。
    神霊が降臨する石を祀っており、つまりご神体は無いのだとのこと。
    あんなに大きな神社なのに、神様を祀っているのではないということを知って、驚きます。
    なんというか「知ってしまった」という愕然とした感じ。

    大仏の顔は、あまり好みではないなとはうっすらと思っていましたが、著者に「ややグロテスク」と書かれると、そこまでとは思っていなかったため、動揺してしまいます。
    三時代に修復したのがその原因だそうですが、それでも元禄時代に、山田道安は自分の家の前に駕籠で大仏の顔を作り、その上に紙を貼り、中に入って、道行く人が顔の批評をするのを聞いて、元の形に近いものを苦心して作ったそうです。
    人の感想に頼った結果、迷走した顔つきとなったではないかと思いますが。

    奈良を表す枕詞「あをによし」は、美しい響きですが、青色ではないと知りました。
    青丹(あおに)という白い粘土(を量産する奈良)という意味なんだとか。
    若々しい緑色の意味かと思っていたので、自分が作り上げたイメージを戻すのに時間がかかりそうです。

    佐保路には、日本最古の病院や図書館があったものの、現代になってドリームランドが造られたとのこと。
    ドリームランドは横浜にしかないものと思っていましたが、まさか奈良にもあったとは。

    衝撃的な驚きのほかに、なるほどと納得できる話もいろいろと紹介されていました。
    仏足石というものが、なぜたくさんあるのか不思議でしたが、B.C.1のインドでは釈迦の像を彫って礼拝することが禁じられたため、人々は釈迦の足跡を刻んで礼拝したそうです。
    仏教でも、銅像禁止時代があったんですね。
    仏足石は、えてして巨大な偏平足ですが、「足を写しているうちにどんどん大きくなってしまったのかも」という著者のとぼけ具合にクスリと笑いました。

    談山神社は興福寺のライバルながら、今まで勝ったためしがないとのこと。
    興福寺よりも資金繰りはよかったなどという、威厳かた無しのリアルな話が語られます。
    神仏分離以前は寺院で妙楽寺といったそうです。明治時代に寺を廃して神社になったとか。
    大きなところなので、惜しい気がしますが、つぶさずにはいられなかった歴史があるのかもしれません。

    長谷寺の由来は、鎌倉の長谷寺に伝わるものとは違うというところも、神奈川県民として気になりました。
    二体の観音像の一体が漂着したと伝えられているのは鎌倉だけで、奈良ではそのエピソードはまったく知られていないとは。信憑性に揺らぎを感じます。

    女人高野の室生寺では、どんなものでも弘法大師の伝説に結び付けられるものの、寺自体空海との関係を立証する資料はないということにも衝撃を受けました。
    そこまで明るみにしてしまっていいのでしょうか。まあ、歴史を調べる作家である以上、曖昧さは残しておいてはいけないものですが。

    飛鳥と明日香、同じ読みで違う表記が存在していますが、もともとは明日香地方と言われたとのこと。
    奈良時代に地名を二文字にせよとの政令で、飛鳥になったそうです。なぜそんな命令が出たのか、調べてみたいところです。

    「清水の舞台から飛び降りる」というのは、日本全国で使われる言い方だと思っていたところ、大和では「初瀬の舞台から飛び降りる」というということも、新鮮でした。
    どちらも当時は人の上る場所で一番高かったからだろうとのこと。
    それでもやっぱり奈良は、その場所より歴史が浅い京都の地名は使わないんだなあと、大和人のこだわりを感じました。

    文章の内容に圧倒され続けていましたが、もともと千手観音には、きちんと千本手があった話に触れ、「五百年間でその数が二十分の一に下落するとは、まさに末法の到来である」と嘆いている著者の意見には全く同感を感じました。
    いいことづくしで埋められるガイドブックとは一線を画した、リアルな本。きれいごとだけではないために、その土地に親近感が湧きます。
    ほかの地方でもこのような本を出しているのなら、ぜひ読んでみたいと思います。

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