- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784054047259
作品紹介・あらすじ
「スター誕生!」からデビューし国民的大スターへと成長していった山口百恵の、引退までの全ドキュメント。歌手としての成長、また様々な名曲の誕生秘話を、当時のディレクター川瀬氏が制作現場の実体験を綴る。全シングル・全アルバムの解説&エピソード満載
感想・レビュー・書評
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阿久悠の本検索からお勧めで出てきたので読んでみた。「山口百恵」成長記録。
プロデューサー・ディレクターとしての純粋な百恵音楽回想をしたかったのか、受賞や売上枚数、オリコン順位、ベストテン、紅白トリなどにはほとんど、いや全く、触れてない。同時代のもうひとつの「現象」だったピンクレディーを語る時は必ず数字や記録が入るのとは対象的。「無冠の女王」と言われる所以か。ホリプロはレコ大を獲ったら達成感からブームが終わると危惧していたのか。まぁともかく、シングルのみならずアルバムまで、全ての曲で作詞作曲・レコーディングなどの裏話や高い技術の贅沢な演奏について丁寧に解説されてる。
山口百恵のプロデューサーといえばソニーの酒井氏が思い浮かぶが川瀬氏(著者)はホリプロ側の百恵プロデューサー。デビュー6ヶ月目発売(1973.11.21)3枚目のシングルからということは準備期間を考えるとほぼデビューと同時期に関わってることになる。
他の方も書いてるが、酒井氏がソニーのプロデューサーという肩書きに似合わず「◯◯みたいな感じ」「◯◯っていう言葉入れよう」みたいな空気?匂い?的な無茶苦茶な指示のみで、音楽的なプロデュースは著者と酒井氏の部下の女性の2人で全てやっていたとのこと。だからと言って酒井氏が無意味かといえばそうではなく、彼の閃きと実働部隊がレコード会社と芸能事務所の別会社で役割分担されていたからこそうまく回った感もある。にしても2人の役割はテレコのような。やはり「酒井さんの閃きあってのスターだったけど歌手山口百恵は私が作りました。このワ・タ・シ・が!」っていうのが本音か。最後の最後に引退コンサート準備中の酒井氏テレビ発言についてはっきりと嫌味を書いてる。
百恵ちゃんのお父さんは医師というネット書き込みが。真偽はさておき、この本でも彼女の生まれつきの賢さとそれゆえの落ち着きを感じさせるエピソードが数多くある。
特に初めての作詞を手がけた「銀色のジプシー」このアルバム(COSMOS)は乙女座宮と秋桜を収録したものなので著者らが「言葉遊びでスペーシーなものにしよう。百恵の写真も使わないでおこう。題名だけ先につけてそれに合わせて曲と歌詞を依頼しよう。」とスタート。当該曲は浜田省吾のロックなオケを聴いて百恵が「作詞をさせてくれ」と。それまで百恵に作詞を勧めていた手前、もう歌詞はあるからとは断れず元の作詞家に詫びを入れ横須賀恵のペンネームで歌詞つけ。
「どこまで行くのよこれ以上 優しい人などどこにもいないのに」という歌詞はスタッフ全員にグサリと刺さるはずなのに著者は完全スルー。
無言の殴り合い。素敵。大人はこうでなくちゃ。
さて著者はどの曲を百恵のベストと考えているのか。「横須賀ストーリー」での阿木宇崎夫婦との出会いを百恵の本格的なスタート、「いい日旅立ち」を代表作、最も制作費用がかかったのは引退発表後の「謝肉祭」としている中で、「曼珠沙華」を最高傑作と言い切る。
曰く「百恵が内包している歌の可能性を引き出した」。あまりに良すぎてシングルでもないのに1978.12のアルバムタイトルとし、更に1979.3の美サイレントのB面として再度収録。とにかく沢山の人に聴かせたかった。と。
曼珠沙華、彼岸花、如意花。近づくだけで自ずから罪や穢れから退くという白い花からイメージしたらしいが、阿木陽子は「罪作り」で「白い花さえ真っ赤に染める」と。んもー。
(因みに著者は阿木燿子の作詞の特徴を「大胆な天使、繊細な悪魔」と表現。)
1979.4発売アルバム収録曲「想い出のミラージュ」を「絶唱だけど95点。曼珠沙華が200点だから。」とし、同時に百恵と井上陽水のプロデューサーとしてのきつい経験を吐露。
「他のものが小さく見える」と。
天才は秀才を殺すっていいますしね。わかる。
あなたその頃郁恵ちゃんのプロデューサーでもあったんだよね。。
同アルバム「夜へ…」こちらもベタ褒め。初めて聴いたけど阿木センセの歌詞以外ではあり得ないもの。
ロックンロールウィドウは婚約&引退宣言の後のシングル。著者は引退前にロックを歌わせたかった、花嫁にウィドウとはこれいかに!とタイトルを決めたというものの、歌詞を読めばそのままの意味ではないと分かるとはいえ8ヶ月後に結婚を控えた21歳に未亡人タイトルを歌わせるキチガ◯スタッフ。受けて立つ百恵。
ファンとしては「男はあなた1人じゃない」のタンカで溜飲を下げる感じなのかな。
きりないから足早に。
岸田智史作曲「あまりりす」のデモテープ新幹線受渡(違法)、1と2/3ってシングル候補だった?(あれが???)、プレイバックPart2午前2時から作曲やり直しその日の夕方までに編曲完了、夜歌入れ、レコードプレスの綱渡、へー平尾昌晃も書いてたんだ(赤い絆 夢先イミテ秋桜と3作連続50万枚近い売上が続いてたのに20万枚くらいしか売れなかったシングル)いい日旅立ち百恵ちゃん音域辛そうと思ってたらやっぱりレコーディング時にキー上げてる(そのせいでピアノ演奏が超絶技巧になる)、惜春通りは大御所川口真(人形の家・片思い・手紙等)学生街の喫茶店ぽい感じで歌詞に合わせて作ったけど萩田氏がアレンジでああなったちょっと百恵のイメージから離れてしまった、GetFreeやBacktoBackのコーラスは空耳アワーの黒人3人、パパはモーレツの作詞篠塚真由美は百恵からの紹介、アルバム「春告鳥」への不満と後悔、多摩美出たばかりのデザイナーによるメビウスゲームのジャケット(後のノエビア広告デザイナー鶴田氏)、ロックンロールウィドウレコーディング秘話、引退後発売アルバムで井上陽水も一曲だけ提供(CrazyLove)、1982発売の百恵初CDは酒井氏推しの「しなやかに歌って」にシングルで負けた「あなたへの子守唄」(元題名は「しなやかに愛して」)などなど。分厚い本だけど最後まで楽しめる。
てか1965-1975生まれは皆んな読んで?
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最近けっこう出ているこの手の歌謡曲制作裏話はどれもおもしろい。
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山口百恵のデビューから引退、その後の「百恵回帰」シリーズなどでも、彼女のレコーディングに関わった川瀬さんが1曲ずつ解説してくれているもの。音楽の専門的なことはまったくわからないので、ちんぷんかんぷんなところも多いんだけど、それでも企画やレコーディングのときのエピソード、百恵さんや阿木燿子・宇崎竜童夫妻とのやりとりなどを知ることができて面白かった。著者自身が、レコーディングのディレクションはもちろん、アルバムや曲の企画、演奏やコーラスなど、本当に多彩に百恵さんのレコードに関わっていた人だし、レコーディングといういわば密室の世界のことだけに知らないエピソードがけっこうあった。
こういうのって、よほどの人物に関してでないと単なる「オタク本」になってしまいそうだけど、山口百恵に関してはそんな感じにならないよなあ。社会的な存在感がなかなかのものだし、音楽的にもしっかりしたものがそろっているし、あと活動期間が短いから、全曲網羅して解説することもできる。これが美空ひばりでは、とても1冊にはまとめられない数だろうし、駄曲もあると思うから。
酒井政利氏について一言。この方、百恵さんのプロデューサーとして売っている人だけど、前から何かうさんくさい人だなと思ってた。実際も、「タイトルに『しなやか』って入れて」とか、すごーくぼんやりしたことしか言ってない。それをもとに苦心するのが川瀬さんたちってわけ。なーんだプロデューサーってこんなもんなのか? ……と思ったせいか、川瀬さんの文章からもそこはかとなく恨み節を感じてしまったり。
著者プロフィール
川瀬泰雄の作品





