蔦屋

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784054059726

作品紹介・あらすじ

江戸・吉原に生まれ、黄表紙や浮世絵などの版元として次々とヒットを飛ばした蔦谷重三郎。喜多川歌麿、東洲斎写楽、十返舎一九らを売り出し、アイディアと人脈で江戸の出版界に旋風を巻き起こした異色のプロデューサーの生きざまを描く!

感想・レビュー・書評

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  • 今年の大河ドラマスタート前に、毎年恒例(?)の予習読書。
    スタートにはちょっと間に合わなかったけど……

    タイトルは「蔦屋」だが、主人公は蔦重ではない。
    蔦重を取り巻く人たちが中心なので、ガッツリ蔦重について知りたかった私には、ちょっと物足りなかった。
    正直この本だけでは、まだ蔦重の魅力はよくわからない。
    仕事仕事で家庭を顧みなかったおじさんたちには、なにか刺さるところがあるかもしれない……。

  • 豊仙堂(ほうせんどう)丸屋小兵衛(まるや こへえ)が経営の傾いた日本橋の地本問屋を畳もうとした時、一人の若者が店を買わせてくれ、とやって来た。
    そして、あんたをまだ隠居させるつもりはない。本当は本屋をやめたくないのでしょう?一緒にやりましょう、と言った。
    それが、蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)。
    この時から、丸屋小兵衛の、蔦屋重三郎に振り回される日々が始まった。

    重三郎の発想が常に新しい。
    まず、小兵衛の日本橋の店を買うのに、まだ金が無いから分割で、年間二十両あなたが死ぬまで払い続けますよ、と言う。
    小兵衛が何年生きるかによって、支払う金額が変わってしまうがそれでいいと言うのだ。
    それはあなたへの給金です、と言って、店主ごと買い取ってしまう。
    こんな発想、誰がするだろうか。
    重三郎がこの店と店主に並々ならぬ思い入れがあったことは後に分かるが・・・

    重三郎はビジネスの仔細を小兵衛には明かさず、常にサプライズとして公表する。
    「なんで隠していたんだ!」となじる小兵衛に「だってその方が面白いでしょう?」と笑う重三郎。
    後から思い返すと、重三郎、どんだけ小兵衛さんが好きなんだ!?って。
    しかし順調な日々は長くは続かず、老中松平定信の政策により厳しい出版統制が始まり、戯作者が、絵師が、本屋が、次々と折れていった。

    終わり良ければすべて良しのエピローグだった。
    重三郎と小兵衛、そして歌麿の物語は、極彩色の夢を見ているようだった。

  • 今勢いのある若手時代小説家ということで、谷津矢車さんに手を出してみました。
    本書は江戸時代における綺羅星のような戯作者・絵師達を世に送り出した、敏腕出版プロデューサー・蔦谷重三郎が題材ということもあって、これは鉄板でしょ。と、かなりハードルを上げて読み始めました。

    日本橋にある、経営難の地本問屋の主人・小兵衛と、小兵衛の店を買い取りにきた重三郎の出会いから始まり、話は小兵衛目線で進んでいきます。
    若かりし喜多川歌麿(優助)はじめ、山東京伝、太田南畝、そして恋川春町らとの交流は興味深く、老中・松平定信の質素倹約令による締め付けで、前述の作家達が次々と心折れていく様は胸が痛みました。特に春町さんのくだりは切なかったです。
    そんな“お上”からの弾圧に負けじと、“江戸の民が楽しいと思える出版物を出したい”という姿勢をつらぬく重三郎。昔馴染みの歌麿とも疎遠になってしまい、ピンチの時に見出したのが、東洲斎写楽でした。
    この写楽のくだりは、重三郎が起死回生をはかる山場的な部分なのに、割とあっさりしていて拍子抜けでした。
    実は終盤まで、「設定はいいのに、展開が淡泊だなー・・期待しすぎたかなぁ」と思いながら読んでいたのですが、第六章後半部分、そう、歌麿視点の語りになってから、急にキャラが生き生きしだした印象で、ここからエピローグまでは面白かったです。「遅いよ!」という感じですが、ま、終わり良ければ総て良しということですかねー。

  • 何かしらのエンターテイメントを愛する人なら、蔦屋重三郎の夢と意地にきっと感じ入るものがあるはず。
    何かあればすぐ表現規制が叫ばれる今、すごくリアリティを感じる展開だった(作り話じゃなくて、江戸時代に実際いた人たちの話なのにね)
    「何かを為したい・残したい」という気持ちは昔も今も変わらないもの。視点人物の小兵衛が現代人でも共感できる人物だからこそ、突飛で行動力のある重三郎も活きる。
    自分も後の誰かの記憶に残る仕事を為したいな……なんて気持ちになれる読後感でした。

  • 江戸って本当に情熱的で、人間的!

    この時代の本屋さんが頑張ってくれたから、今の本屋さんがあるんだなぁ。と、しみじみでした。
    実際にいた人物だから、余計に心に残った。

    小兵衛さん、みんなのお父さんみたいで、素敵な存在でした!

  • 日本橋の本屋を閉店しようとしていた小兵衛の前に現れたのは吉原の本屋を成功させていた蔦屋重三郎。
    寛政の時代、出版統制により弾圧を受けながらも夢を追いかけた2人の物語。

    爽やかな読後感。表紙にいるのは引札を配っている重三郎でしょうか?
    時代小説の若い書き手として次作も楽しみにしています。

  • 歌麿や写楽を世に送り出したことでも有名な江戸時代の版元・蔦屋重三郎の話。…ではありましたが、どちらかというと重三郎と共に働いた丸屋小兵衛の人生の色合いが強く出ていた気がします。松平定信の寛政の改革による言論統制のあたりとか史実から大きく外れることは無く、戯作者や絵師との人間関係も、もしかしたらこんな風なであったかもと思われるようで面白く読めました。

  • 蔦屋重三郎、いわずとしれた江戸時代の本屋で大プロデューサー。吉原での蔦屋、日本橋での蔦屋、数々の当時の文化人との交流とその発信力を丹念に物語としても綴る良い作品。笑い有り涙有り。生き生きと当時を表現した文章は見応えのある映画のよう.おすすめです。

  • 本屋さんをぶらぶらしていて見つけたこちらの本。
    円地文子さん訳の「源氏物語」が好きだった私は、今年の大河ドラマ「光る君へ」も楽しく視聴していますが、来年の「べらぼう」もとても楽しみ!
    今から歴史に弱い私は蔦重関連の本やドラマで予習中。
    本著は特に原作という訳ではないけれど、登場人物が多くなくてわかりやすかったし、話しも面白かった。

    大河のキャスト通り蔦重は横浜流星さん、歌麿は染谷将太さんを読みながらイメージしてしまいましたが、この物語の中では本当にぴったりだった。(特に蔦重が喪服である白の長襦袢・黒の着物を着るシーンは想像したら似合う〜と思ってしまいました笑)
    喜三二は尾美としのりさんではなくなぜか浅香航大さんが出てきてしまいましたが…。すみません、尾美さん。

    蔦重、蔦屋重三郎は実在した人だけれど、この本を読むとただただ優しく愛おしく、やり手だ。そして愛妻家。
    実際はもっと豪快な人物だったようだが、とても繊細に描かれていたように思う。
    私は常々、手に職を持った人や音楽や絵画など芸術に優れた人に憧れてしまうが(自分があまりに凡人過ぎて)、彼はどうだっただろうか。自分の才能はプロデュースだと自覚していたのだろうか。
    吉原の内と外をなくしたいという強い気持ちが、その才を更に高みへと、そして人との繋がりが成功へと導いていった。
    戯曲を書かなくても絵筆を持たなくても、人が好きで人に好かれて幸せだっただろうと思う内容だった。

    でも、ただただ江戸の商人の明るいエンタメだけという訳ではなく、それに幕府も関わってくると、松平定信の辺りは特に現実にあったことなんだと改めて思ってしまう。
    恋川春町の史実は悲しく切なく、重い。
    歴史に疎い私はもちろん知らなかったから。

    最後の、歌麿が過去を回想していく章も良かった。
    なぜ小兵衛の店にやってきたのか、なぜ吉原の株を手放してでも日本橋の店を続けたかったのか。
    なぜ…を紐解けば、若き重三郎が大切に抱えて吉原に帰ってくる本は…。当時から質の良い物と質の良い仕事を見分けるセンスはあったのだろう。
    きっと彼は絵師にも戯曲書きにも憧れてはいなかった。
    憧れはもう既にいたのだから。
    そんな人とひとつ屋根の下、一緒に地本問屋として一生を過ごせたのは、吉原のお座敷遊びよりも贅沢な時間だったろうと思う。幸せの本質がわかる人は強い、カッコ良い。粋だ。
    現世の薄っぺらな世の中に喝を入れて欲しくなる。

    11/8に谷津矢車さんの「憧れ写楽」という新作も出るようなので、楽しみに待ちたいと思う。
    光る君へも終わって欲しくないが、べらぼうもとても楽しみになった作品でした。

  • 人生を仕事にささげた人物の小説。
    自分も切に仕事で実績を残したい・・という思いがあります。その意味で共感するものがありました。
    ただ、それにしてはちょっと軽いようにも感じました。
    司馬遼太郎のような重厚な感じの読み物ではありませんでした。
    ただ、一方で仕事に賭ける熱い思いもありました。
    人は(本文では男は)自分の人生は何のためにあるのかに悩む。自分の人生では何か残るものを残せたのか?死んだ後も残る職人やアーティストをうらやむ。
    ビジネスマン、サラリーマンとして何を残せるのか?それも一つのテーマになっているように感じました。
     結論としては、ビジネスマン、サラリーマンであっても自分の思いや上司の思い、組織の思いを下に、関係者に伝えること。世の中を変えようとしたこと、これが自分がやってきたことと自慢できること。それが、人生だ‥と言われているように感じました。
     共感。

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著者プロフィール

1986年東京都生まれ。2012年『蒲生の記』で第18回歴史群像大賞優秀賞を受賞。2013年『洛中洛外画狂伝』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』で第7回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞。演劇の原案提供も手がけている。他の著書に『吉宗の星』『ええじゃないか』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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