本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
本 ・本 / ISBN・EAN: 9784061121829
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
この本は、青年の時に読もうとして、挫折した。まどろっこしい。文体が難解な構造を持っている。読みにくく、なぜか暗い。文字の密林に入ったようで、どこに抜けていくのかが見えず、読むことを放棄した。中国に行ってから、本があれば読むということで、本の読み方を変えたので、とにかく読み切ることを心がけて読んだ。やはり、森の威力は興味がある。今、福島にいて、森のことを考えているので、やっと自分なりの読む視点が鮮明になった。本って、読み切ってナンボの世界であり、レビューを書いて初めて、読書は完了する。
愛媛の森の谷間で生まれた、根所蜜三郎・菜採子夫婦と鷹四の兄弟にかかわる物語。
万延元年は、1860年の森の谷間に起きた事件と絡みそして100年後の1960年に物語は始まる。
万延元年は、桜田門外ノ変が発生し、勝海舟がアメリカに向かった年であり、まだサムライをしていた。その8年後に、明治維新が起こる。そして、その万延元年に、愛媛の森の谷間で事件が起きたのだ。
1960年は、安保闘争があり、鷹四はそこで積極的に闘い、そしてアメリカに渡った。
大江健三郎にとって、100年という時間はとても重要な意味を持っているようだ。
曽祖父は、庄屋で、谷間の村ではチカラを持っていた。母屋と倉屋敷を立てた。村の念仏踊りは、村役場や公園ではなく、その家の庭から始まっていた。それは、姓が根所であることで、谷間の人間の魂の根があるところという意味だ。蜜三郎の父親は、満州進出前に沖縄で仕事し、根所と同じ意味合いのネンドコルーという琉球語があることを説明したほどだ。また、曽祖父の弟が、中心になって、万延元年に一揆を組織したといういいづたえもあった。
とにかく、冒頭から衝撃的な事件から始まる。蜜三郎の親友が、頭部をあかく塗りたくり、全裸の上、肛門にキュウリを差し込んだままクビを吊って自死するという事件に蜜三郎は遭遇する。
蜜三郎は27歳で翻訳家で、英語の教師をしている。蜜三郎と菜採子の間に頭に障害を持つ子供が生まれ、施設に預け、菜採子はウイスキーを飲み続けるアルコール依存症だった。
鷹四がアメリカから帰り、蜜三郎と菜採子、そして鷹四の親衛隊の星男と桃子が羽田空港で迎えて、鷹四が愛媛の森の谷間の実家に一緒に住もうと言って呼びかけられ、夫婦はそれに応じた。蜜三郎のS兄は、戦後の混乱期に森の谷間の村の村外れのにある朝鮮人集落の人たちに惨殺された。知的障害のあった妹も自死している。森の祟りのような話が、根所家のファミリーヒストリーにある。
森には、隠遁者ギーという俗世間との接触をたち、森に住む人がいた。また、根所家に家の管理を任されているジンという村の大女と亭主、痩せた子供が4人の家族がいた。ジンは153cmであるが体重は130キロを超えてなお増え続け、とにかくひたすら食べないとすまない女だった。
鷹四には、兄夫婦を森の谷間に一緒に行こうとしたのは、企みがあった。家と地所と倉屋敷を売り払うために必要だった。蜜三郎には、倉屋敷をスーパーマーケットのオーナーに売るという話を持ちかけ、了承を得た。実は、家と地所も売ったのだ。鷹四はその資金を元手に、若者たちをフットボールで組織する。また、鶏を飼っていた若者は、鶏全部を死なせてしまうということもあり、その資金はスーパーマーケットのオーナーから出ていた。そのことで、鶏を営んだ若者は、スーパーマーケットのオーナー(本書では、スーパーマーケットの天皇と呼ばれている)に縛り付けられることになる。その若者は、スーパーマーケットの手伝いをさせられた。
森の谷間にできたスーパーマーケットは、朝鮮部落の跡地で、そして経営者は朝鮮人だった。スーパーマーケットの登場で、街にあった商店はことごとく潰れた。ある意味で、反感をもたれていたのだ。
その反感をうまく利用して、スーパーマーケットの商品の強奪を図ろうとする。鷹四は、フットボールの若者を親衛隊のように育て上げ、その強奪を安保闘争以後の一揆のような形で進めようとしていた。
それは、念仏踊りの復興を兼ねて、行ったのだ。そして、街の人々はその強奪に参加することになり、一種の無秩序状態を作り上げてしまう。曽祖父の弟のやろうとしたことを現代に再現しようとしたのだ。村人たちは、日頃の鬱憤と朝鮮人に対する差別的な目があり、谷間の村は興奮状態となった。
一方、蜜三郎は、終生すむ「草の家」を求めて、谷間の村に来たのだが、自分が根無草であることを知る。倉屋敷に引きこもって、翻訳の仕事に専念する。妻菜採子の関係も冷え切っていて、母屋ではフットボールの若者が集まっているので、その食事などの世話を星男と桃子で行う。菜採子は眠るのも母屋だった。鷹四は、そのような状態をうまく使い、菜採子と性的行為を行う。星男は、そのことをやめろと鷹四に言うが、鷹四は、そのことを蜜三郎に伝えろという。蜜三郎は、星男の話を聞き、妙に納得してしまうのだ。鷹四は、菜採子と結婚したいと蜜三郎に申し出るのだった。菜採子は、アルコール依存症が抜けたような正常さを取り戻していた。蜜三郎は、本当のことを言おうかと言って、妹との性的関係も蜜三郎に告白する。鷹四は、雪の降った夜、裸で雪の降った庭で駆け回るという行動もする。そんな中でもボッキしている。性的モンスターのように描かれる。なぜ、鷹四に思想を吹き込まないのか?安保闘争の転向者としてしか描けない。
森の谷間の興奮状態は、冷めていく。収奪はよくないのではと言う意見がで始める。そして、あろうことに、鷹四は村の娘を強姦して殺してしまうと言う事件が起こった。そのことで、フットボールの若者たちは離散した。鷹四は、妻菜採子に激しく殴りつける。物語の展開が、あまりにも意外な方向に起こり、そして鷹四の企みは失敗し、そして自死するのだった。
残された蜜三郎と妻菜採子は?
100年前の万延元年の百姓一揆と現代のスーパーマーケットの強奪騒動が繋がり、それがバタフライ効果のように全国に広がるかと思われたが、リーダーの思想なき企みは、打ち上げ花火のような無様な終焉を迎える。それにしても、これだけの物語を構成し、あらゆるメタファーや比喩を使いまくる大江健三郎の凄さよ。 -
金大生のための読書案内で展示していた図書です。
▼先生の推薦文はこちら
https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18479
▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BN03827548 -
日本文学の金字塔。一つの物語の中に時代を超えた複数のテーマをオーバーラップさせながらそこに様々な思想が絶妙に織り込まれており、イメージとしての小説世界の次元の広がりと深さ両方においてこれを凌駕するものはないような完成度の高さを誇っています。氏の豊富な海外文学の読書経験から創造されたらしい非常に独特の散文詩的な文体は一般に難解であるとされがちですが、これはむしろ観念的な氏の作品の世界観には欠くべからざるもののように思われます。毀誉褒貶著しい作家ですが、個人的にはこの作品に限って言えば作家として圧倒的に卓越したセンスを感じました。
-
眠れ、眠れ、世界は存在しない。
-
期待の感覚をさがして穴にこもる男の話
そして見つかるはずもないものを探しに旅に出る。
信じてしまえればいいものを -
2008/5/26〜5/28
オススメしてもらったので読みました。
感想としては
最初は結構謎がおおくて理解に苦しむところも多かったのですが、
「おお!」と感情を高まらせる展開がところどころにあって飽きなかった!
とても独特だけど、最後の最後は本当に鳥肌が立った!
展開が激しい物好きにはいいかもしれない!
うちは頭を緑に塗って死のうww -
正直、中盤までは、そこまでじゃないな、と思ったけれど、突如として物凄い転換があって、そこからは、もう、何とも言えない迫力と言うか凄絶さといいますか、うん、とにかく凄くなってしまう。それだけに締めがちょっと空しくなってしまうような気がするけれど、いやあ、凄いや。
著者プロフィール
大江健三郎の作品





