- Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061154025
作品紹介・あらすじ
日本文学のうえで、光源氏ほど大ぶりで、ゆたかな、陰影に富んだ人間像は、ほかに見当たらない。幼い日の母への思慕、青年期の恋のはなやかさの反面、人間としての、人知れぬあやまち、悩み、挫折を通して自分をみがきあげ、やがて一門の主として成熟していく姿には、尽きない魅力がある。定評ある著者が、光源氏に焦点をあて、源氏物語を現代的に再編成した野心作であり、源氏物語の入門書としても好適である。
わたしの源氏物語――長くて複雑な源氏物語の内容を、大胆にカットしてみました。そして「光源氏の一生」という筋道に、源氏物語の内容を再編成してみました。それが本書です。あるいは、源氏物語の内容から、もっともよく書けている部分を、自由に抜き出して並べ変えてみた、ともいえるでしょう。こういう仕事は、それをする人によって、ずいぶん違った形にまとめられてくると思いますが、わたしとしては、まずこれだけの話は、ぜひ知っておいていただきたいと思った部分を、書きとめました。この本が縁となり、手引きとなって、現代訳によってなりとも、源氏物語の全体を読んでくだされば、たいへん結構です。――本書より
感想・レビュー・書評
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物語の登場人物のことをどう思うのか、それはその物語を読んだ個人の読書体験によって獲得した感想なのだから、自分とは全く違う感想であったといって意見を交わすことはあっても、その個人を、その感想を否定してはいけないと思っている。
そう思っている、思っているのだけど、つい“彼”を揶揄するひどい言葉を見かけると、「それは違うのよ!!」と叫び、延々と反論したくなる物語の登場人物が私には1人いる。
色好み、女たらし、ロリコン、スケベなエロじじい……、あぁ、ちょっと待って。
ねえ、あなた、“色好み”の意味、ちゃんと知ってます? 当時の制度や文化を知らずして、今の時代の価値観で物語を読んで、もしくはなんとなく想像するだけで、色恋だけの軽薄な物語と決めつけてません?
ふう…、誰のことを言っているのかピンときた方もおられることでしょう。そう、『源氏物語』の登場人物「光源氏」のことです。もうね、私が今まで読んだフィクションで、物語の世界のなかの人物像からこんなにもかけ離れ、ひとり歩きしてしまったキャラは他に知りません。
『源氏物語』は日本が世界に誇れる古典文学なんだから、日本人の私たちが光源氏のことを自虐的に扱うなんて悲しくないですか?
それよりも当時の制度や文化などをちゃんと知って、世界の日本文学に興味を持つ人たちに胸を張って光源氏のことを説明できるくらいになりたいのですよ、私は(今年の目標です)。
あぁ、だから…、読書の神様、一度だけお赦しください。光源氏のことを「女たらし」とか「ロリコン」とか「エロじじい」とか嘲弄する人に、この拳を振るいギャフンと言わせることを……
なーんて。つい感情で突っ走ってしまう愚か者の私とは違って、理路整然とやさしく「光源氏の一生」を説いてくれたのが本書。
9章に分けて説かれた光源氏像はどれも興味深く付箋だらけになった。そのために書き留めておきたいことばかりでなかなかレビューが書けず。今回は〈9章 光源氏の死〉から印象的な部分を抜き出しまとめてみた。
光源氏は女性から女性へと浮気な付き合いをかさねていった、たしかにそういう一面がある。
けれども彼はそれだけの人物ではない。
光源氏は幾度も失敗をし、同じようなあやまちを犯したりもしたが、そのことによって彼は人間として磨かれ、一家一門を支えた大きな人物となる。地位や身分だけがそうなったばかりではない。人間そのものが豊かで大がらな人物となったのだ。
光源氏の一生を振り返ると、けっして彼は女性から女性はと渡り歩いたような浮薄な男ではなかった。紫の上との恋などは実に「心長き恋」である。様々な女性たちに豊かな愛情をかたむけた光源氏。だからといって、彼は温和で円満一方の人柄でない。
光源氏はかならずしも単純な「善人」ではなかった。ときに「悪」ともいうべき方向にも働きかける人物であった。
自身の藤壺の女御とのあやまちは、深く心に隠したまま、その秘密がすこしも世間にもれることがないように守り通した。
けれども、自分に起こった密通事件については、知ってしまった以上、決して当事者を許しはしなかった。
密通した相手の子を宿した妻の女三の宮に対しては、その後も平然と形式的な丁重さだけをもちつづけていく。秘密を知っているはずの光源氏のその態度は、彼女にとって耐えることのできない恐ろしいものであり、女三の宮は若い身空で仏門に入ってしまう。これは明らかに光源氏がそう仕向けたのだ。
女三の宮の子どもの父となったのは、対立する家の、しかも血縁的にはごく近しい親戚の長男、柏木。彼は衆望を担っている次代の代表選手である。その若い柏木が、老境に入った光源氏の恋敵となって立ちはだかったのだ。これを光源氏は許さなかった。
故意に皮肉をいい、罪におびえている男を、猫がネズミをもて遊ぶようにさんざんにつつきまわし、あげくの果てに病気で弱っている柏木にむりやり酒を飲ませる。それがもとで彼は亡くなってしまうのだ。光源氏は直接、刃物を用いたわけではなかったけれども、その行いは柏木を殺したといってもいいものだった。
そんな光源氏にも死は訪れる。けれども紫式部は光源氏の死について語ることはなかった。それはなぜだろう。
著者は光源氏の死を説いた巻があってもいいはず、そういう巻が実在したという説には否定的で、もともとなかったものと見る。
なぜならば、日本の国の古い神々の物語では神の死は説かないからだ。神はこの世に現れて自分のつとめを果たすと、“もとの世界”に帰っていく。神は“いる世界”を異にしているだけで、けっして死ぬのではない。著者はこの考え方を光源氏に当てはめる。
この世に現れたもっとも理想的な男性である光源氏。彼はもっとも神に近い人物ともいえる。そういう人物には死ということはない。少なくとも、そういう人物の死については誰も伝えないものなのだ。それが光源氏の死に対しての紫式部のとった態度である。彼女は光源氏の死をはじめから書かずに、存在していない巻の名が「雲隠」だったのだろうと説いた。
自分の一代でおこした自分の一門をどっしりとこの世にすえておく。そして自分の名誉も守り、また少しでも傷をあとに残すことはしなかった光源氏。不幸な星のもとに生まれた宿命の子も、これで世間からは指一本さされずに、れっきとした自分の子として世の中を渡っていけるだろう。
「光源氏の一生」は、こうして自分自身の力により築きあげてきたものである。できあいの幸福を拾ったのでも与えられたのでもない。「あつらえの幸福」を自分の手でしっかりと握ったのである。
著者は光源氏を神に近い存在としたが、私にとって光源氏は見る角度によって絵柄が変わるレンチキュラーのよう。神でありながら、ある瞬間は魔王となる。
今年はもっともっと『源氏物語』のこと、「光源氏」のこと、「女君」たちのこと、そして「平安の一条時代」のことを勉強して、レビューに残せたらなと思う。
うん、そうね、地道にね、コツコツとね。
拳じゃなくて言葉でね。 -
国文学者の池田弥三郎さんは、「源氏物語」は日本文学の数少ない傑作だけれど、長編のために読み通す人が少ない、そのために大胆にカット、再編集し、光源氏の一生としてまとめています。「源氏」のエッセンスをまず感じて欲しいと願う、その渾身の思いが伝わる一冊になっています。よくまとまっているだけでなく、既に読み込んでいる読者にとっても示唆に富みます。私は源氏の須磨送りについて、「なんの罪でどんな罪を下したのか」が疑問でしたが、本書はその答えを用意していました。ほかにもなるほどと頷く解釈が多くあり、非常な良書だと思いました。
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光源氏の一生とあるので、誕生から儚くなる時までをコンパクトにまとめている。
印象に残ったのは、柏木に対して容赦なく追い込む光源氏の姿。
自分もかつて同じことやったくせに……と思いつつ、女三の宮に対しても、柏木に対しても、許さないという姿勢が、出家であり、死という結果を招いたのか……。
しかし、朱雀帝ー女三の宮ー光源氏、そして薫の誕生を、紫式部はいつ構想していたんだろう。
なんというか、それまでの恨みつらみと、罪の再演って感じで、光源氏が栄華を手にするだけでは終わらせない所が、オソロシイ……。 -
学校で習ってるときにはさっぱりだったが、これは分かりやすい。
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源氏物語の入門書中の入門書。源氏物語の主人公光源氏の一生をダイジェスト形式でまとめた本である。
たぶん3回目かの読み直し。初めての出会いは、大学生の時、源氏物語の内容を簡単に知っておきたいなあという事で読み始めたと思う。
今回はNHKの大河ドラマに触発され、源氏物語を知っている方がドラマを見る楽しみが増えるなあということで、ざっとおさらいをしようという事で本当に久しぶりに読んでみた。
内容としては、本当にさらっと書いていて、葵の上、紫の上なんてところはわりとあっさりと終わっていた。
その一方で女三宮について、結構ページを割いて、辛辣に手厳しく記述している。
まあ、男の眼から見たらそうなるのかな。
光源氏は、最初から人間として優れていた人物ではなく、いろいろな失敗や挫折を通じて人間としての成長を描いている。考えれば、生まれながらの美貌と血筋だけの人物であれば54帖も続かないよね。
そして、そこに輪廻であったり、罪障であったりといった思想が交わっていく。
今から1000年も前の本が、今でも多くの人達が読み、そして新しい見方が増えて行っている。
源氏物語という日本文学の最高峰ともいえる小説を今でも読むことが出来る幸せを感じる。 -
国文学の泰斗による「源氏物語」の入門書。やや古風な言葉づかいながら、この一大絵巻を隅々まで知り尽くした著者だからこそ語れる充実の内容。光源氏を単なる「好色」とは捉えず、文学史上の人物として位置付けている点が印象に残った。
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まだまだ知らない読み方や楽しみ方があった
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読みやすくて面白かった!
源氏物語の内容をぎゅっとまとめてあって、
「何となく知っているつもりだけれど、実は良く分かっていない」というライトな人におすすめ。源氏物語読んだ気になる。
そして、「もうちょっと深く知りたいな」と興味をそそられるようになっている。
※宇治十帖は触れていない
ありがとうございます☆
5552さんも今年も短歌づくり楽しんでくださいね~
ありがとうございます☆
5552さんも今年も短歌づくり楽しんでくださいね~
レビュー1000達成とのこと おめでとうございます♪
しかも、毎回、いい加減じゃない内容というが凄い。
今年も気負...
レビュー1000達成とのこと おめでとうございます♪
しかも、毎回、いい加減じゃない内容というが凄い。
今年も気負いなく新鮮なレビューを楽しみにしています。
さて、源氏物語は3部の節があり、変容する執筆の意図を感じています。
それぞれにタイトルをつけたりしませんか?
最近、ふと、「神の時代」「神の黄昏れ」「人間の時代」かもと括ってみたり妄想します。
ありがとうございます!
『源氏物語』関連本が1000冊目の記念本となって嬉しいです。
『源氏物語』への...
ありがとうございます!
『源氏物語』関連本が1000冊目の記念本となって嬉しいです。
『源氏物語』へのモチベアップにもなりました。
myjstyleさんの本棚を参考にさせていただいて、今年はたくさん読みたいです。
そしてそしてmyjstyleさんの3部の節へのタイトル、とっても素敵ですーー☆
この本を読んだおかげもあって『源氏物語』が「神」の時代から「人間」の時代へ変容するということに納得です。
もうこのタイトルが全てを表して最高です!
うーん、うーん、クラシック曲のタイトルで、お似合いのものがありそうな気もしますが(他力本願……)、myjstyleさんのようなセンスのあるタイトル、つけられませんーーf(^_^)
妄想課題にさせてくださーい 笑