異常の構造 (講談社現代新書)

  • 講談社 (1973年9月20日発売)
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本 ・本 (182ページ) / ISBN・EAN: 9784061157316

作品紹介・あらすじ

精神異常の世界では、「正常」な人間が、ごくあたりまえに思っていることが、特別な意味を帯びて立ち現われてくる。そこには、安易なヒューマニズムに基づく「治療」などは寄せつけぬ人間精神の複雑さがある。著者は、道元や西田幾多郎の人間観を行きづまった西洋流の精神医学に導入し、異常の世界を真に理解する道を探ってきた。本書は現代人の素朴な合理信仰や常識が、いかに脆い仮構の上に成り立っているかを解明し、生きるということのほんとうの意味を根源から問い直している。

「全」と「一」の弁証法――赤ん坊が徐々に母親を自己ならざる他人として識別し、いろいろな人物や事物を認知し、それにともなって自分自身をも1個の存在として自覚するようになるにつれて、赤ん坊は「全」としての存在から「一」としての存在に移るようになる。幼児における社会性の発達は、「全」と「一」との弁証法的展開として、とらえてもよいのではないかと私は考えている。分裂病とよばれる精神の異常が、このような「一」の不成立、自己が自己であることの不成立にもとづいているのだとすれば、私たちはこのような「異常」な事態がどのようにして生じてきたのかを考えてみなくてはならない。――本書より

感想・レビュー・書評

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  • 精神科医として、心理学ではなく哲学に向かった人で、その思索は世界的にも最も深いものであるが、それでもなお(あるいはそれゆえにか)、統合失調症を「理解」するには統合失調症になるしかない、またはずっと一緒にいてやるしかない、それができないからクスリなど使っている、と言った人である。
    思想の根底にはレインと通ずるものがあるが、レインがヒッピー的共同生活に溶解したロマン派詩人であったのに対し、木村先生は臨床哲学者として強靭な思索を続ける。
    いずれにせよ、彼等の著作が苦悩する人類の財産であることに変わりはない。

  • 面白いです。
    「時間と自己」とはまた別の面白さ・・
    ものすごく「生々し」かったです。
    木村敏の本は、読んでるといろんな考えが浮かびますよね。

  • 異常とは正常から見て異常に分類されているものであって、それは正常な人の偏見に過ぎないのに病として扱われているのは不当ではないか、という1970年代の「反精神医学」の立場に立って、統合失調症について書かれた本、らしい。でも、この本に出てくる症例の中の少なくともいくつかは、統合失調症ではなくて発達障害なのではないか、と思った。1970年代にはすでに発達障害という概念はあったと思うが、当時はまだそれが小児・児童の病であって成人に適用されることはなかったのかもしれない。そして、現在においても発達障害の人は定型発達の人からは異常と考えられているので、当時と何ひとつ変わらない環境の中で生きているわけだ。ねぇ?

  • 「1=1でない世界」に構造や論理は存在するか、というあたりのややこしいところが理解できた。

    その異常な世界を支配しているルールを本書では構造として捉え、そのような世界であっても、その世界を形作っている何かが見え隠れしていていることを解読していく。

    「かかわり」という正常と異常の境界における合理性を主張して終わるのだけど、このかかわりのところは普遍性とか日常性が異なる「誰が誰に反応しているのかわからない世界」の住人が身近にあるかどうかで説得力が感じられるかどうか分かれる気もする。

  • ・自然の合理性という虚構:そもそも存在する時点で究極的に不合理

  • 現代と異常◆異常の意味◆常識の意味◆常識の病理としての精神分裂病◆ブランケンブルグの症例アンネ◆妄想における常識の解体◆常識的日常世界の「世界公式」◆精神分裂病の論理構造◆合理性の根拠◆異常の根源

  • 教養とは人間を理解することである、という養老孟司の言葉が思い出された。
    統合失調症の患者への思いやりが感じられ、最後まで謙虚な姿勢は人間への深い洞察を思わせる。

  • 実習の際に精神科の先生にお勧めされたので一読。

    「異常」ということについての深い洞察が加えられています。

    1976年の著作ですが(そのためか、現在「統合失調症」とよばれる疾患の名称が「精神分裂病」のままになっています)、今なお古さを感じさせません。

  • 20年ぶりに再読しています。
    木村敏氏の本はなぜか家に数冊あるので、年代の古いものから順番に読み返すことにしました。

    かなり手厳し、反精神医学、反・反精神医学として痛烈な批判が最後に述べられていました。

  • まず、「正常」とか「常識」の概念を改めて定義。
    そこからの逸脱を「異常」とし、分裂症の症例を元に掘り下げていく。

    第6章によると、分裂症者が「シャーマン」みたいな印象を受けるな。
    正常と異常の狭間に位置する人。

    ふむふむ、分裂症者には「1=1」の常識世界の公理が成立しない、と。
    「1=0」は合理性否定の基本公式と。
    難しいな…

    2012.02.05 読了。
    凄い思想書だった。

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著者プロフィール

木村 敏(きむら・びん):1931-2021年、朝鮮慶尚南道生まれ。1955年、京都大学医学部卒業。京都大学名誉教授。専攻は精神病理学。河合文化教育研究所所長、日本精神病理学会理事長などを歴任。著書に『自覚の精神病理』(紀伊國屋書店)、『異常の構造』(講談社学術文庫)、『時間と自己』(中公新書)、『あいだ』『自己・あいだ・時間』『分裂病と他者』『自分ということ』(ちくま学芸文庫)、『関係としての自己』(みすず書房)、『木村敏著作集』全8巻(弘文堂)など。ヴァイツゼッカー『パトゾフィー』など翻訳書多数。1981年に第3回シーボルト賞、1985年に第1回エグネール賞、2003年に第15回和辻哲郎文化賞受賞。

「2025年 『新編 人と人との間 精神病理学的日本論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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