海と毒薬 (講談社文庫)

  • 講談社 (1971年1月1日発売)
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本 ・本 (191ページ) / ISBN・EAN: 9784061310230

感想・レビュー・書評

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  • 太平洋戦争中に、九州大学附属病院で米軍捕虜に対して生体実験が行われた話。日本人は周りに流されて同調しやすく、その際に道徳的、倫理的な良心が薄れてしまうものなのか。

  • 評価は3.5位。実は遠藤周作作品、初めて。

    内容は昔に映画で見ていたのですが、映画の印象よりずっと面白かったです。

    硬くて難しそうな内容なのに、スムーズに読み進められる筆力が凄いと思いました。

    ただ、冒頭と主人公が変わってしまったのに違和感を感じました。

    実話だそうですが、悪魔の飽食シリーズを読破している私にはさほど驚くことでなく、当時の日本人なら平気でやれてしまうのだろうと…。

  • いったいいつまでが“戦後”なんだろう

  • 実際に会った話。死とは何か考えさせられる話だった。

  • 三葛館一般 913.6||E

    第二次世界大戦末期、九州大学付属病院で米軍捕虜に対して行われた生体解剖実験という実際の事件をモチーフにした、遠藤周作による小説。終始重苦しい空気で張り詰めているものの、ストーリーに引き込まれながら一気に読み進みます。
    登場人物達の気だるさや虚脱感、諦観や嫉妬にさいなまれた内面や葛藤、医師や看護婦同士の勢力争い、物語を通じての海の描写がとても印象的で読み応えがあります。
    「人をなぜ殺してはいけないのか?」「もしも自分が彼らの立場であったらどういう行動を取るのか?」・・・人間の倫理・道徳・良心について問いかける名著だと思います。
                                  (かき)

    和医大図書館ではココ → http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=3908

  • 2015.12.08読了

  • 率直な感想。疲れた…
    一気には読めない。けれど重い内容だけど、人はこういう経験を積み重ねてきたわけだから無視はできない。今も世界中で生と死に様々な形で直面している人がいることも無視できないと考えさせられた

  • 勝呂は自身の良心と正義を抱きながら、戦時下という時代背景や大学病院での自分の立場の弱さ、権力というものに挟まれ苦悩しながら自分なりの抵抗をしてみるが、努力もむなしく結局は周りに流されてしまう。なんとも、救いようがなく胸糞悪い。
    死にゆく患者を救えず、医学の発展のためだと人を殺す。それは、勝呂の医師としての自尊心も大義もなにもかもを揺るがすものになったに違いない。

    この作品は、人体実験を取り上げながらも登場人物の見栄と欲望、嫉妬がちらちらと見え隠れする。汚れながらも不器用に生きていく人間の姿、周囲をうまく利用してずる賢く生きている人間の姿が描かれている。彼らは生体解剖の場に立ち会いう。しかし、そのような人達が生体解剖の後、どう感じてその後どうなるのか、それは描かれておらず私たち読者に丸投げである。

  • 運命:自分を押しながすもの
    神:(運命)から自由にしてくれるもの

  • 「老人と海」のあとに「海と毒薬」という奇跡。


    遠藤周作はいい。

    心理描写しかない。

    戦争を忘れてしまったかのようにふつうの生活を営む人々、なんでも諦めてしまっている青年、良心の呵責を感じない医師、母性に固執する看護婦、生々しい戦時中の様子。どれも実在しそうなほどにくっきり描写されている。

    戸田の幼少期と作者自身の経歴がかぶってるんだけど、戸田みたいな子供だったのかなあ、なんて想像してみたり。クリスチャンな遠藤周作のイメージとまた違うんだけど。

  • 勝呂はおばはんの死によって大きな虚無感を味わう。他の2人も色々な経緯の結果、生体実験に参加することになる。自分も戦時中に生きていたら、ガソリンスタンドの人たちや勝呂たちのように人を殺し、人が死んでいく狂気的な環境になれてしまうのだろうか。戦争のない現代に感謝。

  • これまた映像関係を契機に再読(と言っても本作ではなく、渡辺謙(?)の最新映画宣伝なんですが)。
    率直に言って『沈黙』には遠く及ばないと思う、理由は構成の問題か。
    作家のテーマはおそらく自己への問いかけ・人間探求ではないかと推察するが、本作はそのテーマを主人公含む複数の登場人物にそれぞれの性格付けを行って考察しようとしている。
    しかしその代償か、各人物の造形が浅くなってしまい、個人の内面の葛藤・緊張感が希薄なものとなってしまっているように思われる。
    人体実験の描写など確かに目を瞠るものがあるのだが、読後感が意外にもあっさりしているのも本作の設定によるものではないでしょうかね。

  • 第二次大戦中に行われた捕虜の人体実験、それに関わった人達の話。

    終始暗い。
    誰にも感情移入できない。
    読むのにもすごく時間がかかる。
    しかし、読後は不思議と嫌な気持ちにならない。
    押し付けがましさはなく、どうとらえるかは読者の自由。
    すごく考えさせられる作品。

  • 遠藤周作作品は初めて。
    遠藤周作はカトリシャンで、二元論的思考を持つカトリシズムの思考構造が同氏の文学作品には見られ、人間の「光」と「闇」の構図が投影されている。
    生体解剖という社会的事件を扱いながら、倫理的呵責性や極限状況においての存在の様態を照射する。

    明らかに事件の渦中から逃れることをあえてしなかったということで非行為の行為を選択した勝呂。
    そこにあったのは、「毒薬」を薄め、解毒してしまった「海」。
    勝呂には「生体解剖」という「毒薬」も、「無力感」(みんな死んでいく時代、おばはんの死)の「海」に解毒されてしまったのだ。
    「命の尊さ」という言葉で、医学部生の彼を単純に責めることはできない。

  • 愛媛帰省時を振り返る編。
    遠藤周作は高校の時読んだ「沈黙」と、エッセイ集以来。沈黙も一気によみ、遠藤周作の文章と世界観に惹かれていた記憶がある。
    海と毒薬で、勝手ながら、遠藤周作の文章との相性の良さを確信できた。

  • 暗い。どこまでもひたすら暗く、読後感の悪い作品。
    現代から、第二次世界大戦に起こった陰惨な出来事を描く本作品。登場人物様々な人間の視点から、非人道的な人体実験を描く。登場人物の誰もが心に闇を抱え、生きている。
    最初に登場するのは、奥さんが妊娠した夫だ。奥さんの妹の結婚式に出るために、彼は気胸をうってもらうために勝呂医院を訪れる。暗い変わった雰囲気の医師。最初は不安を覚えるも、勝呂医師の腕は確かだった。難しいはずの気胸をうつことがすんなりできることによって、プロローグの主人公は勝呂医師に興味を持ち、妻の妹の結婚式で九州にいった時に勝呂医師の過去を見つけてしまう。
    そこから、過去にさかのぼり、その非人道的な実験に参加し様々な医師たちの視点から、重苦しい出来事が描かれて行く。
    人間の善悪などが見え、薄暗い、権力に溺れた人間たちの、自分のために他者を踏みつけるような世界が垣間見える。

  • 毎日出版文化賞・新潮賞を受賞した作品。一方で遠藤周作の問題作といわれている。

    良心的でごく普通の医学生が生体解剖にかかわる話。

  • 異常な事件に手をそめていく主人公達。
    良心の麻痺と自己肯定、罰を恐れながら罪を恐れない人間に、その後やってくる虚無的な感覚と疲れが、気持ち悪いほどくる。
    異常な状態が当たり前となりうる状態の中の人間の習性というかなんというか、自分も同じ状況下ならば。。と考えてしまう一冊。術後の主人公達の屋上での会話が印象的。

  • この作品のテーマとして神なき日本人の倫理観が取り上げられているとあらゆる批評や解説にはさもありげなことが書かれているが、どうもその点に関しては遠藤周作自身のテーマを知ってこそ考えられることであり、純粋にこの作品の中では追求しきっていないのではないかという印象を受ける。それよりもこの作品から読みとったのは、人を許されざる罪へと導いてしまう戦争の現実である。人体実験が許されない行為であることは当然であり、これに携わった医師たちもみなそれを認識してはいる。それにも関わらず彼らを駆り立ててしまったのは、敗戦濃色であった戦況であり、近くの街が空爆を受け、いつ我が身に襲いかかるかもしれぬ死の存在であり、それと同時に抱く死にゆく命への軽視であったのではないだろうか。戦争のヒステリーは人をどこへと運ぶのかもわからない。ある人は戦場で人を殺し、ある人は手術台で人を殺した。そのどちらもが無感覚的に行われた行為であり、人を殺したという結果は同じであるのにも関わらず、断罪されたのは戦争医学という名目のために罪を犯した彼らだけであった。冒頭の現代の場面でも描かれているように一見平和に満ちている街の人々にも戦争の記憶は眠っている。ガソリンスタンドの主人も洋服屋の店主も武器を用いて人を殺してきた。勝呂と彼らはたまたま境遇が違っただけだった。もう一度同じ境遇に置かれたら、アレをやってしまうかもしれないというのは、戦争を体験してきたあらゆる日本人に対する問いかけなのだろうか。

  • 当時の背景にあった戦争。それにより失われていく命の重みや倫理観などを、医大生である勝呂を主人公に進んでいく物語。
    戦争で死んでいく人間と病院内で死んでいく人間にどういう違いがあるのか。
    捕虜を解剖して医学の役に立てるのは罪になるのか。罪を背負っていく人間でさえも、それぞれの倫理観がある。
    そういった人間の罪を題材にした、救われない中で明かりを求めるような物語です。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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