- 本 ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061312319
感想・レビュー・書評
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抜群の雰囲気作り! そしてスムーズに話を進めていく文章力!
遠藤周作のイメージは『海と毒薬』『沈黙』のあらすじであったり、本人がキリスト教徒であったり、などがあって、固い・説教くさい、という印象を勝手に作っていたのだけど、初めて読んだ遠藤周作の短編集『怪奇小説集』は、それを完全に覆されました。
冒頭二編「三つの幽霊」と「蜘蛛」から、一気に心つかまれる。「三つの幽霊」は著者が実際に体験したとする奇妙な心霊体験らしきものが語られる話。
外国での体験談だったり、ベタに民宿での体験だったり場所は色々あるのですが、どの話でも得体の知れない気持ち悪さ、日本の怪談らしいジメッとした不快感、何かがまとわりつくような感覚がたまらない。
怪談話なのでスッキリとしたオチがないのですが、それが実体験感をあおり、また肌寒い感覚をまとわせる。
あくまで個人的な意見ですが、怪奇小説には明確なオチも、読後の感動や教訓もいらないと思っています。
とにかく不気味な雰囲気を演出する文章力。イヤーな感覚を五感で訴える描写力。話を前へ進めつつも、怖さや不気味さに浸るテンポも忘れない筆運び。
この三点があれば、キレイな解決も、読後の感動や教訓も二の次なのです(と書きつつも、この三点もそれ以上にハードルが高い気がするけれども……)
「蜘蛛」は、その三点が全てそろった作品だったと個人的に思います。
叔父の怪談を語る会に招かれた私は、その帰り道、同じく会に参加していた男とタクシーを同伴することに。タクシーの道中、男が語ったこととは……。
これも描写が光る。男の気持ち悪さや、臭いの描写。雨がしとしとと降る中、進むタクシー。視覚、聴覚、嗅覚など文章から様々な感覚の刺激を受けるよう。
そして嫌が応にも想像力をかきたてられてしまう男の不気味な話に、ラストの得体の知れない空気感が残る幕引きと、怪奇小説に欲しいと思っているもの全てが、この一編に詰まっていました。
描写力では「ジプシーの呪」もスゴかった。
かつて船乗りとして、世界を周り各国で女性とそのときの限りの逢瀬を楽しんでいた男。あるとき、一人の女性と関係を持った船乗りは、軽い気持ちで彼女と結婚の約束を交わすが……
視覚的な気持ち悪さはもちろん、音の描写もたまらなく不快で本当に気持ち悪くて、最高の作品でした。「蜘蛛」もそうですが生理的な嫌悪感を、ここまで感じた作品は久しぶりです。
そうした気持ち悪い描写も良いのですが、心理描写で読ませる作品もあって、それもさすが文豪の作品だと感じます。
「霧の中の声」は夫との単調な結婚生活を過ごす主婦が語り手。彼女はあるときから、予知夢のような夢を見始めて……
近所に越してきた青年への憧れ。ケチで小言の多い夫への不快感。結婚生活への飽きと、刺激を求める心理。一方で平穏が一番と想う心もせめぎ合い……
女性の心理や日常の退屈を感じる描写と、隣の青年へのときめきと期待、そして予知夢という不思議な出来事が絡み合う。オチ自体は読みやすいけど、こちらも文章の運びと心理描写の丁寧さで話を引っ張っていきます。
「時計は十二時にとまる」は脱力感、そしてなぜか切なさを残す不思議な短編。三人の週刊誌の社員たちが、怪談話を確かめるために廃旅館に向かい、その案内役に歓迎されるのですが……
コントを見ているような展開もあり、そして十二時にとまる時計の真偽を確かめた後に起こる、語り手の心中だったり、一概に怪談とは言い切れない。でもある意味、怪談にまつわる矛盾と、寂しさを感じさせる話になっています。
バラエティー豊かだなと思うのが、こうした恐怖小説の皮を被っているのに、思わず脱力してしまうようなオチが待っている短編もあるということ。
「なんじゃそりゃ」と思わず苦笑いを浮かべてしまうような短編もあり、思いっきり作者の手の上で転がされたような感覚に陥る。それもまた面白い。
そしてどこまでが本当で、どこまでが冗談なのかちょっと考えてしまう。でもそれすらも、作者の手の平の上で転がされているのかもしれない。
先に書きましたが、基本的には教訓も感動もないし、怖い話は明確なオチもありません。それでもイヤーな雰囲気に酔うような感覚は絶品の一言!
そして、恐怖に構えていたら、突然すっ転ばされる、お茶目な側面もある短編集です。
文豪は何書いても上手いんだなあ、と心底思いました。遠藤周作の有名どころの『海と毒薬』『沈黙』あたりも読んでみたい。一体どれだけ、この『怪奇小説集』との温度差を感じるのかしら……詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これは面白かった!
さすが遠藤周作。短編でも、読みごたえ十分。
最初のいくつかの短編は怖くて、夜一人では読めなかった~。
そして、だんだん「怖いけど最後にオチのある面白い話」
が多くなって、思わず笑ってしまった。
いろんな種類の怖い話がいっぱいで、「この話はどんな終わりが待ってるのか」「次はどんな話か」楽しみで読んでてワクワクドキドキ。
さすが遠藤周作。描写がうまいな~~。 -
せるさんのレビューから、何やら面白そうな小説。秋頃にでも読みたいなぁ。
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読んだ読んだ、秋頃といわず冬まで掛かって読んだ!笑
遠藤周作さんの小説を初めて読んだと思うのだけれど、なんというかじわじわと真綿で首を絞められるような文章だったりユーモア系の「なんじゃそりゃ!」ていうのもあったりで色々楽しみながら読めました。
個人的にもうだめだ、となったのは「ジプシーの呪」と「鉛色の朝」でした。必要以上に想像してしまうのと心霊関係無くじわじわくる描写で息が詰まる感じがして、この2話以降を読むまでに少し間があいたり。
でも最後のニセ学生でなんだか「たはは...」とおもしろ可笑しい気持ちになったり、とても面白かったです。ごちそうさまでした! -
夏といえばやっぱり怪奇話、怪談話!遠藤氏の物語の切り出しの上手さはさすがだなー。内容に「怖かった」「怖くなかった」はそれぞれの感想として、やっぱりどんな内容でもクセがなく自然と次の文章へと目を続かせる技量が素晴らしい。怖さあり、ユーモアあり、楽しい本でした。
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関係ないこととして、なぜかカバーと
作品が異なっていた(笑)
中に入っていたのがこの作品。
しょんぼりしつつ読んだ作品でしたが
非常に面白かったです。
でも夜に読むのは控えたほうがいいですよ。
読み終わったら思わず後ろを振り返りたくなる作品が
結構含まれていますからね。
個人的には「時計は十二時に止まる」が
別の意味で面白かったです。
夢を壊すところがね。 -
怪奇小説というよりなんだか昔ながらのほのぼのとした少し不思議な物語っていう感じで楽しく読めました。
霧の中の声の真面目な旦那さんがなんとなくかわいそうだったかな。 -
大学時代に下宿でひとり読んでました。
こういうのはひとりでなくてはいけないと・・・
なんか懐かしい・・・。
レフォームの際、久しぶりに手に取り読み込んでしまいました。
随分と活字が小さかったんだなあって。
法学部を落ちて文学部で滑り止まりまして。当時どうにも
やることが思いつかない。下宿で読書でもしようと手に取りました。受賞作を年度別に読み込んで居りましたが。
自分の無知さ加減と精神年齢の低さにいやでも気づかされました。
故遠藤氏の留学先での霊的体験は寮住まいであった自身を
思い出しました。男子寮なのに何ゆえに襲うのでつかと。
怖くなって寮長のリーダーに泣きつきました。
「俺はお祓いとか出来んのよ」(まあそうだわな)だけですが。
その彼が国会議員に御成になりまして・・時が経つのは早いですよね。 -
こんなにも著者の人柄が顕著に出ている怪奇小説があるだろうか、いやない(反語)
著者プロフィール
遠藤周作の作品





