万葉集 全訳注原文付(三) (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061313842

作品紹介・あらすじ

万葉学の泰斗が、多年の研究成果を結集した第3巻。原文、読み下し文、口語訳、語注の全てを付し、万葉の世界を完全にすくいあげる。性の喜びを大らかに歌った東歌(あずまうた)をはじめ、「万葉集」独自の世界を形づくる作者未詳歌など、巻11から巻15までの5巻を収録。定評のある「講談社文庫版万葉集」。(講談社文庫)


万葉学の泰斗が、多年の研究成果を結集した第3巻。原文、読み下し文、口語訳、語注の全てを付し、万葉の世界を完全にすくいあげる。性の喜びを大らかに歌った東歌(あずまうた)をはじめ、「万葉集」独自の世界を形づくる作者未詳歌など、巻11から巻15までの5巻を収録。定評のある「講談社文庫版万葉集」。

感想・レビュー・書評

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  • 本書には巻十一から巻十五まで収録。
    気になった歌をいくつかメモ。
    2355 うつくしとわが思ふ妹は早も死なぬか 生けりともわれに寄るべしと人の言はなくに
    →靡かないならいっそ死んでしまえ、という過激な発想(冗談だが)は今も昔も。

    2420 月見れば国は同じそ山隔(へな)り愛し妹は隔りたるかも
    2460 遠き妹が振仰け見つつ偲ふらむこの月の面に雲なたなびき
    →離れたところにいる人を思いながら、同じ月を見る感情。

    2515 敷栲(しきたへ)の枕動きて夜も寝ず思ふ人には後に逢はむもの
    2516 敷栲の枕に人は言問へやその枕には苔生(む)しにたり
    →男の言い訳と女のからかい。

    2571 大夫は友の騒きに慰もる心もあらむわれそ苦しき
    →男は友達と遊んで気が紛れることもあっていいよね、という女の言。これも今の若人にもありそう。

    2578 朝寝(い)髪われは梳らじ愛しき君が手枕触れてしものを
    2588 夕されば君来まさむと待ちし夜のなごりそ今も寝ねがてにする
    →真面目な恋歌。

    2693 かくばかり恋ひつつあらずは朝に日に妹が履むらむ地(つち)にあらましを
    →踏まれたい男。

    2769 わが背子にわが恋ふらくは夏草の刈り除くれども生ひ及く如し
    →夏の雑草はいくら刈っても茂る、たとえが絶妙。

    2915 妹と言はば無礼(なめ)し恐(かしこ)ししかすがに懸けまく欲しき言にあるかも
    →初々しい。

    3184 草枕旅行く君を人目多み袖振らずしてあまた悔しも
    →実生活で、ちょうど旅立つ人を見送ることがあった時にこの歌を読んだので印象深かった。

    3253 葦原の 瑞穂の国は 神ながら 言挙(ことあげ)せぬ国 然れども 言挙ぞわがする 言幸く 真幸く坐せと 恙(つつみ)なく 幸く坐さば 荒磯波 ありても見むと
    百重波 千重波しきに 言挙すわれは 言挙すわれは
    3254 磯城島(しきしま)の日本(やまと)の国は言霊のたすくる国ぞま幸くありこそ
    →これも前項と同じ理由で印象的。注によれば遣唐使餞別歌として人麿が作ったもの。海外に行く人に「日本は言霊の助ける国だ」と歌を贈るのは、旅先でも言霊は有効な設定なのだろうか。当時の「国」の考え方が知りたい。

    3270 さし焼かむ 小屋(をや)の醜屋(しこや)に かき棄(う)てむ 破薦(やれこも)を敷きて うち折らむ 醜の醜手を さし交(か)へて 寝らむ君ゆゑ あかねさす 昼はしみらに ぬばたまの 夜はすがらに この床(とこ)の ひしと鳴るまで 嘆きつるかも
    3271 わが情(こころ)焼くもわれなり愛しきやし君に恋ふるもわが心から
    →長歌と反歌。恋人の浮気について、悲しむだけでなく口を極めて罵るパワフルさが、もっとのちの時代の和歌には見当たらないものに思われて面白い。反歌の方は一転して客観的というか理屈めいた印象なのも面白い。

    3472 人妻と何(あぜ)かそをいはむ然らばか隣の衣(きぬ)を借りて着なはも
    →戯笑歌。

    3510 み空行く雲にもがもな今日行きて妹に言問ひ明日帰り来む

    3625 夕されば 葦辺に騒き 明け来れば 沖になづさふ 鴨すらも 妻と副(たぐ)ひて わが尾には 霜な降りそと 白妙の 羽さし交(か)へて 打ち払ひ さ寝とふものを 行く水の 還らぬ如く 吹く風の 見えぬが如く 跡も無き 世の人にして 別れにし 妹が着せてし 褻(な)れ衣 袖片敷きて 一人かも寝む
    →挽歌。行く水の、吹く風の、というリフレインが沁みる。

    ・巻十四は東歌。万葉集の語彙にようやく慣れてきたが、さらに当時の方言となると現代語とはかけ離れている。当時の人(畿内周辺の)にとっても異質な言葉と感じられたのだろうか。漢字かな交じりに直されていなかったら解読さえできないだろう。
    ・巻十五は天平8年の新羅への使者派遣に伴う歌群。旅の歌は辛いものが多いが、この巻はとりわけ家や故郷を恋しがる歌ばかり。注(p331)等によれば当時は新羅との関係が悪化しており、この派遣は外交的に失敗したばかりか、一行が疫病にかかって亡くなる等の散々な結果だったそうだ。そのため復路は歌がほとんど無いという。確かにもてなしの宴で詠まれたような明るい雰囲気の歌がほとんどない。歴史的背景を踏まえて読むことの重要性。

  • 齋藤孝著『大人のための書く全技術』40冊―11

    こうやって日本語がつくり上げられてきて、その結果今の私たちはこういう言葉を使っているのだ、ということがわかるだけでも、非常に価値の高い読書になる。

  • 明日香などを舞台とした作品です。

  • 巻11から巻15まで

  • 浦野所有。

    講談社文庫の第三巻には、原著の巻十一~十五を収録。
    万葉集のクライマックス、東日本の庶民歌「東歌」(あづまうた)を集めた巻十四も収録されています。

    わが後(のち)に生まれむ人はわが如く
    恋する道に逢ひこすなゆめ [第2375首]

    <訳>わが後に生まれるだろう人は、私のように
    恋に苦しむ道には、けっして逢わないでほしい。

    …が、しかし、この歌が詠まれて1300年のあいだに、いったいどれほど多くの人々が、恋に苦しんできたのでしょうか。

    葛飾の真間の浦廻(うらま)を漕ぐ船の
    船人さわぐ波立つらしも [第3349首]

    <訳>葛飾の真間の浦を漕いでいる船の、
    船頭たちが騒いでいる。波が立ち始めたらしいよ。

    …いまから1300年前、東京湾で確かにあった光景。何気ない漁村の1日が、こうして、永遠に語り継がれていくんですね。

    すばらしきかな、万葉集!!!

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著者プロフィール

中西 進(なかにし すすむ)
1929(昭和4)年東京生まれ。東京大学卒業、同大学院修了。文学博士。
筑波大学教授、国際日本文化研究センター教授、大阪女子大学学長、帝塚山学院学院長、京都市立芸術大学長などを歴任。全国大学国語国文学会会長、日本ペンクラブ副会長、奈良県立万葉文化館館長なども務める。
「万葉集」など古代文化の比較研究を主に、日本文化の全体像を視野におさめた研究・評論活動で知られる。読売文学賞、日本学士院賞、大佛次郎賞、和辻哲郎文化賞ほか受賞多数。
主な著書に、『万葉集全訳 注原文付』全五巻(講談社文庫)、『中西進 日本文化をよむ』全六巻(小沢書店)、『古代日本人・心の宇宙』(NHKライブラリー)、『中西進と歩く万葉の大和路』(ウェッジ)など。

「2022年 『万葉秀歌を旅する 令和改装版 CD全10巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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