復讐するは我にあり 上 (講談社文庫 さ 7-1)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061315464

感想・レビュー・書評

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  • めちゃくちゃ面白いです。佐木隆三さんの本は、初めて手に取りました。

    なんで手に取ったか、といいますと、自分の大好きな映画監督、西川美和さんが、佐木氏の「身分帳」という著書を原作にして「すばらしき世界」という作品を撮ったからであり、その映画がそらもう素晴らしかったのと、その映画製作ドキュメンタリー本とでも言うべき「スクリーンが待っている」という西川さんの著書が涙ちょちょぎれるくらい素晴らしかったからです。

    あの西川美和監督がこれほどまでに素晴らしいものを生み出すに至ったところのインスピレーション元である、佐木隆三、という人物はいかなる御仁なるや?という思いから、とりあえずは「身分帳」も読みたいけれど、佐木さんの最高傑作?と言われているらしい?この作品を、まずは手に取った次第、というね、そういう流れですね。

    この説明、いる?とか思ったりもしますけれども、自分の思考の流れを自分で整理したいがために、書いております。

    で、この「復讐するは我にあり」上巻、ですが、文句なしに面白いです。素晴らしいです。

    できるだけ、事前情報を一切仕入れないで読もう、って思ってますので、おそらく2022年現在ではね、この講談社文庫の初版が昭和53年(1978年)発行のこの作品に関しては、既にあらゆる研究、レビュー、感想が書かれていると思うのですが、できるだけ何も見ずに聞かずに読まずに、この本に相対しております。

    今村昌平監督?が、映画化しているらしい、という事だけは、知っております。

    で、この作品って、いわゆるトルーマン・カポーティの「冷血」と同じですよねえ?ノンフィクション・ノベル、ってジャンルですよね?実際に起こった犯罪を、作者自身が綿密な取材を行って、小説化して発表したものであるぞ、と。そうですよね?この作品って、実際にあった事件を基にしてるんですよね?と思いながら読み進めております。違っていたらゴメンナサイ。

    読み進めながら、スゲエ似てるな、と思っていたのは、というわけで
    トルーマン・カポーティ「冷血」
    髙村薫「冷血」(髙村さんバージョンの冷血が、カポーティ作品を下敷きにしているハズなので、そらそうか)
    宮部みゆき「理由」
    新井英樹の漫画「ザ・ワールド・イズ・マイン」
    というあたりでしょうか?あのあたりの雰囲気、バンバン感じましたね。

    で、感じながらも「これ、あの作品の真似やん」と思ったかというと、んなこたあ全くなく。というか、カポーティ「冷血」以外は、全部こっちが先やしなあ、とか思いつつ、他の作品群がこの作品の真似やん、とかも一切思わず、上記の作品はどれもこれも超一級に面白く超一級にそれぞれの確固とした独自さがあるよね、とか思いますね。

    いやしかし、この作品の主人公、と言って良いのでしょう、連続殺人犯・榎津巌(えのきずいわお)。ホンマに不謹慎ですが、圧倒的に魅力的な人物、との思いを抱かずにはいられない。極悪人なのに。とんでもない犯罪者なのに。間違いなく、絶対的に「悪」なのに。なんなんだ?こいつの、不思議な人間的な魅力は?「人たらし」っぷりは。

    これだけの犯罪を犯しながら、日本列島を転々としながらもドンドンと罪の軽重は様々なれど、こんだけ犯罪し続けることできるなあ!という驚愕。おっとろしいほどの機転の持ち主であり、そもそも、相対した人間を、男でも女でも、なーんか上手い事「この人、なんか、良い人そうやね」と思わせてしまうのであろう、圧倒的な人たらしっぷり。エゲツナイ。エゲツナイですよ。

    アレですね、山下敦弘さんが監督された、川本三郎さん原作の著書「マイ・バック・ページ」。映画では松山ケンイチが演じた「梅山(本名・片桐優)」。アイツも、まあまあな悪人(人間的には小者?)であり相当な人たらしだな、とか思ったんですが、彼を数倍から数十倍凄くした感じです。榎津巌ってヤツは。

    読み物としても、佐木さんの文章が、まずもって面白い。上手い。素晴らしい。榎津が、全国転々と逃げ回りながら悪事重ねていくんですが、基本的にはその被害者とその被害者をとりまく周りの人々の榎津評、あの時はあんな感じだった、という語りで物語は構成されている気がするんですが、その語りがもう、マジで面白い。微に入り細を穿つとはこのことか、という迫真の再現っぷり。

    この登場人物の彼ら彼女らの言葉の再現は、佐木さんの創作なんでしょうが、「ホンマにこの人たちが語ってる」感がビシバシなんですよ。圧倒的にリアル。1978年出版の作品を2022年に読んでもなんらかの「圧倒的な現実感」を感じるって、、、どーゆーこと?とか思うんですよねえ。マジ凄い。

    あと、艶聞が矢鱈と多いのも、榎津さん、どんだけ精力絶倫なんよ、、、とか思う。色男だったんでしょうねえ。こんだけ犯罪しながらも、こんだけ色事もこなす。おそるべしやでマジで。逆007・逆ジェームスボンドかっつーの、というくらいにキッチリと全国各地で色事。まじパネエ。

    あと、この艶聞譚の、佐木さんの表現の仕方が、めちゃ上手い。直接「セックスしてますガンガン」とかでは、ない。上手い事上手い事、オブラートに包んで、皮肉や諧謔やコメディーを含めてのブラックユーモア的艶笑トーク。上手すぎる。

    物語の超序盤なんですが、西海運輸で榎津の同僚だった、中牟田京二のもとをね、話を聞きに刑事が訪問するやないですか。そこでの、京二、京二の恋人のチーちゃんを含めての刑事との三者三様の丁々発止の会話。めちゃくちゃ面白いです。京二のエロトークの話の例えとかが、もう抜群なんですよ。凄いです。

    あと、静岡県浜松市での、貸席「あさの」での、榎津がニセ大学教授のふりをしていた時の話全般。20章「爪」の辺りの書き方とかもねえ、、、ホンマに上手い。凄いです。最初に凄惨な事実を提示して、その後に時間を遡って登場人物に語らせる、あそこ。凄いんだからもう。登場人物それぞれの目線が、思考が、その流れの書き方が、もう、本当に凄い。上手い。

    上巻で、全24章あるのですが、その全ての表題が、漢字一文字、という統一感も、素晴らしいですね。なんというか、圧倒的に引き締まっている。クールネスの極みだな、とかね、思いますね。

    上巻読み終えた時点では、榎津巌は全然捕まらずに逃げ回っています。犯罪も犯し続けています。コレが、下巻で、どう変わるのか?早々に榎津は捕まるのか?そこから捕まった後の後日譚になるのか?それとも、下巻の最後の最後で捕まるのか?まさか逃げおおせることはないよなあ?

    と思いつつ、下巻も楽しみです。本当に楽しみです。

    あ、この著書のタイトルの意味、現時点では、未だ分かりません。「復讐するは我にあり」とな。我、とは誰を指しているのか?榎津だとは、思うのですが、では榎津は、なにに復讐しているのか?そもそも復讐とはなにに対しての復讐なのか?

    物語の冒頭のエピグラフでは、聖書のロマ書が引用されています。この文章の意味は「人間は、どれだけ憎くても自らで復讐してはいけない。復讐するのは神に任せておきなさい」という意味だと自分は理解したのですが、それならば「復讐する我」とは、神のことなのか?榎津を神に見立てているのか?なんらか意図をもって?

    とか、もう、想像が妄想が膨らむ膨らむ。いやあ、素晴らしい作品です。この感想が、下巻を読み終えたときに、どう変わるか。それがもう楽しみですねえ。読書の愉悦です。

  • 「観たら読む」は今村昌平監督作品に限っては当時の制作スタッフであった武重邦夫氏が書く回想記のことを指していたのであるが、その中で原作の素晴らしさが述べられていたもので、三段跳びの要領で本作にとうとう到達。むむ、前評判通りスゴイぞ。

    なんといっても嬉しいのが映画でも味わった「事件調書を作成する過程に沿った回想記」というスタイルが、そのまま維持されつつしかも原作ではその逆の視点で書いてあるということ。まぁ、この「逆の」はそもそもはこの活字版がスタートなわけなのでより正確に言うと「正の」と呼ぶべくなのであろうが…。

    つまりはこういうこと。

    原作は最初の殺人事件を起点として、その容疑者を絞り込むために様々な参考人からの集めた証言とその証言を得るための過程をつらつらと綴っていってくれる。その道筋の中で容疑者榎津巌のひととなりが浮き彫りになってくるのであるが、映画版の脚本はその榎津巌が逮捕されて護送されて来るシーンから始まり、その彼に対して自白調書を取るという過程を通してその回想シーンがはさまれていく形をとっている。時には参考人証言とは食い違った容疑者証言のシーンも取り混ぜてあり、絶妙な表裏をなしているのだ。まるで鏡に映る像の表と裏をそれぞれにみせてもらっているような感覚を味わえ、「二度美味しい感」がハンパない。この脚本書いたひともスゴイ。池端俊策氏とのことで、今村版「楢山節考」もこの人。

    そんな感じでさらっと上巻を終了、下巻へと手をのばしたところ。

    これ読みきったらまた映画観たくなるなぁ…。Netflix確認しとくか。


























  • 第74回直木賞
    著者:佐木隆三(1937-2015、北朝鮮、小説家)

  • 事件をひたすら淡々と

  • 人を裁くのは人であり神ではない。
    人を裁くのは神であり人ではない。
    さあ、どっち。

  • 1963年犯罪史上空前の全国捜査網を敷いた西口彰事件をモデルに、
    徹底した取材で事件背景を周囲から克明に描写している。
    (主人公の名前は変えている)
    著者が国会図書館で調べたその事件の資料は、
    積み上げれば2メートルにも及ぶという。

    膨大な資料を駆使して構成されたこの小説の犯人像は、
    <優れた知能犯でありながら、暴力的である>という、
    それまでの犯罪者の定義を覆すところである。
    そこを小説にした著者の力量。納得の直木賞受賞だと思う。

    フィクションの枠の中におかれているが、ほぼノンフィクションに近い。
    裁判員制度になった今、この作品を読むことは、
    ひとつの事件背景を資料のうえから判断しなければならない立場におかれた時、
    どう犯人像を捉えていくか、個人的な想像力を試されるのではないか。

    緒方拳が演じた映画もとても印象深い。 <第74回直木賞>

  • 福岡などを舞台とした作品です。

  • 佐木隆三さんのノンフィクション小説の中で初めて読んだものです。昭和38年に実際に起きた殺人事件をもとに書かれており,全国を震撼させた殺人鬼が逃亡中に各地で詐欺や殺人を重ねていく姿がリアルに描かれています。

  • げt

  • 殺人鬼榎津の行動力にはあきれるほど凄い。これが実際に起きた事件とは思われないほどだった。ただ、上下巻で多少長いと思わせるきらいがあった。

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著者プロフィール

1937年4月15日朝鮮咸鏡北道穏城郡訓戒面豊舞洞167番地で生まれる。
1941年12月末朝鮮から関釜連絡船で広島県高田郡小田村へ帰国。
1950年6月広島県高田郡小田村中学校から八幡市立花尾中学校へ編入。
1956年4月福岡県立八幡中央高校を卒業して八幡製鉄所入社。
1963年5月「ジャンケンポン協定」で第3回日本文学賞を受賞。
1976年2月「復讐するは我にあり」で第74回直木賞を受賞。
1991年6月「身分帳」で第2回伊藤整文学賞を受賞。
2006年11月北九州市立文学館の初代館長に就任。

「2011年 『昭和二十年八さいの日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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