和宮様御留 (講談社文庫)

  • 講談社 (1981年1月1日発売)
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  • 本 ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061317024

感想・レビュー・書評

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  • 十数年ぶりの再読だが、変わらぬ面白さに一気読み。若いころに読んだ時よりも、社会と時代の歪みに押し潰されたフキの哀れさが身に染みて、少し泣いた。考証的な部分はわからないが、公家を描いていてもこれほどしっかりと御所言葉を用いている歴史小説は少ないと思う。

  • 本当のような噓の話、というか信じてしまいそうなくらいのリアリティだった。
    孝明天皇の妹、和宮が徳川家茂との降嫁する話だけど
    本を読み進めるうち、まさかまさかのの皇女和宮の替玉準備から亡くなるまでの激動の話をギュっと濃縮してある小説。
    側近目線だったり替玉であるフキ目線であったり、あぁそうかこういう心境で見てたのかなと
    安易に想像できてしまう描写が凄いと思った。
    決して単なる嫁入りも話ではない。
    公武合体を唱える幕末の時代に前代未聞の降嫁だもの、そりゃ大人の事情が山ほど出てくるよなって、ふと。

  • 京から江戸へ輿入れする、それだけでほとんど一冊費やすとはびっくり。それだけなんだけどグイグイ読めた。公家の言葉がとにかく難しくて回りくどくて、でもその盛大な「無駄」が面白かった。

    和宮様として生きた三人の女が哀れで、特にフキの辛さは計り知れない。歩きたい、走りたい、水汲みをしたい、そういうささやかな願いが胸に痛かった。冒頭のフキはあんなに生命力に満ち溢れていたのに。
    フキが泣いて訴えた日も、嗣子が何事もなかったかのように御留を綴っていたのにはゾッとした。

    あとがき、解説もおもしろい。

    おもしろい言葉:
    お嫌さん、ご機嫌さん、おするする、
    宮様おひるウ
    まことにお芽出とう忝う有難う存じ参らせます

    〜あらしゃりますえ とか使いたくなる。

  • え~っ!これ本当のこと?と思わず読み終えて思いました。

    和宮様は仁孝天皇の第八皇女。
    有栖川家に輿入れが決まっていたにも関わらず、時の将軍・徳川家茂に降嫁が決まる。
    輿入れを嫌がる和宮は五ケ条という条件を出し、大奥へ行くのを先延ばしにする。

    その少し前、和宮の伯父のもと働いていた下女・フキが和宮のもとに呼び寄せられる。
    まるで影武者のように息を潜めて生活するようになるフキ。
    それはフキを和宮の替え玉として家茂のもとへやろうという和宮の母親、観行院の画策だった。

    何も知らないうちに公家の暮らしに身を置き、自分がどうなるのか分からないという不安のまま江戸へ向かうフキ。
    フキのお世話役として庭田嗣子と能登が任命されるが、二人は宮が偽者であると早くから気づき、下賎の者としてさげすみフキを扱う。
    旅の道中フキが心の拠り所としていたお世話係の少進の姿が見えなくなった時、とうとうフキの精神は破綻をきたしてしまう-。

    何故替え玉を立てるまで和宮が江戸に行くのを嫌がったのか。
    途中本文で出てきます。
    そしてここでも女同士の確執が。
    観行院、嗣子、能登がお互いがいないところで罵り合い、陰口、悪口などが関係を悪化させ、関係ないフキの身にふりかかるのです。

    それにしても公家の生活習慣の窮屈なこと!
    声を一切出してはいけない。
    御膳は全部食べてはいけない。
    用を足すのも人が見ているところで塗り椀にする。
    そして後の始末も人にしてもらう。
    鉄漿(おはぐろ)を毎日塗る。
    そんな自分の性に合わないところに身を置くつらさ。
    人に無視されるつらさ。
    皸で血が滲んでも外で思い切り体を動かしたい!
    思い切り声を出したい!
    という人間にはどんなにつらいか。

    とにかく難しい漢字が多く出て読みにくい印象の本でしたが、それだけに読み応えがありました。

    • 夢で逢えたら...さん
      はじめまして。
      有吉佐和子さんお好きなんですね。
      素晴しいレビューを読んで、私も読みたくなりました。
      私も有吉さんが大好きなんですが、...
      はじめまして。
      有吉佐和子さんお好きなんですね。
      素晴しいレビューを読んで、私も読みたくなりました。
      私も有吉さんが大好きなんですが、まだまだ未読本がたくさんあります。
      今後ともレビュー参考にさせて下さいね。
      よろしくお願い致します。
      2014/02/20
  • 和宮降嫁の話。
    とにかく御所言葉というか公家言葉というか 慣れない言葉や言い回しに悪戦苦闘だった。 これがアノ「ぶぶ漬けでもどうどす?」の原点か…。
    しかし慣れてくると今まであまり馴染みがなかった公家のしきたりや文化が事細かに描かれていて面白かった。

    この作品には自分の人生を生きる事ができなかった3人の女性が登場する。
    この時代 皇女にしろ孤児にしろ名主の娘にしろ自分の生き方を自身で選ぶことが女性には難しかっただろとは思うけれど他人として生きなければならないとは。中でも不憫だったのがフキだ あんなに健やかだったのに…。

    読了後 あとがきを読んで更に興味を持った。この話がまるっきり作り物ではないかもしれないのである。〝歴史の闇に葬られた真実〟というものが本当にあるのかも。
    御所言葉にも多少免疫ができたし これはいつか再読せねば。

  • うわー面白かった、怖かった、面白かった。

    これはもう、どうあっても、フキは大変なことになるだろう、と前半からずっと胸が痛かったけれど、宮様が姿を消して、本当にフキにはどうあっても救いは無いんだなと思い至り、ずんと胸が痛くなった。
    メインである東行のさなか、話はさらに意外な方向へ。
    えー!ええー!?そのまま?!
    いやあ、いろいろびっくりした。
    和宮と藤のその後も全然触れられないんですね。

    パニック最高潮のフキが、少進を失った不安で限界のところに、ようやく少進が現れて、そこで救いがあるかと思いきや、その瞬間全てが崩壊するのがなんとも言えない。

    しかしまあ、替え玉するなら、少なくとも、もうちょっと相手を選ぶべきだよね。
    フキは髪の毛と京都弁以外の共通点はほぼ無かったのでは。
    うたえのように、こういう地位に慣れていることも大事だし、教養も一朝一夕じゃ身につかない。
    それなりの教養もない、水汲みの好きな、自然のなかにいたい素朴に生きる少女にとって、この生活はあまりに過酷だった。


    後半、女たちの火花の奥に見える、もう一つの幕末維新が興味深く、この辺りをもっと知りたいと思った。
    公家同士のマウントや格差なども知らないことばかりで、勉強になる。
    京言葉の御所言い回しがかわいいし怖い。
    おゆるゆるさんで遊ばして、みたいなやつ。
    公家は徳川のことをトクセンと発音していたのですね。
    歩く時の呪文、ヒンプクヒンプクもなんだか印象に残った。

    東行のさなか、和宮の母親、嗣子、能登の命婦の3人が、その中の3C2の組み合わせで話すときに、不在の人の悪口を言い合うという、嫌なトライアングルができていた。女子小学生か。うう。

    それにしても、この公武合体策っていったい何だったんだろうね。
    何が良かったんだろう。現実にはその接点でたくさんの人が自分を潰されて苦労しただけかもしれない。
    あとがきにあるように、有吉佐和子が言いたかったのは本当はそこなんだろうな。
    そもそも、身分とはなんだろう。
    この作品に出てくる人全てが、身分でしんどい思いをしていたように見えたけど。

    後書きで、作者がこの替え玉説をけっこう本気で書いていたと知り、ちょっぴり驚きました。

  • おもしろかったぁ!
    活字は小さいし読めない漢字はあるし厚いしで、ともすれば挫折するかなと思ったけど、とってもおするするでした!
    御所言葉やしきたりは興味深いし、フキちゃんがハツラツとしていて楽しかった。
    でもフキちゃんのまさかの事態で、この小説はフキちゃんだけのものではなくて、替え玉やそれをとりまく人々を含めた大きなくくりの和宮の話なんだとわかった。れっきとした歴史小説だと思って読み始めた私にとっては驚きの連続。
    茶道を習う場面は滑稽だった。ほんとに当時はあんな感じだったのだろうか?
    「源氏物語」も皇室を扱っているけどあれは全くの架空だからいいとして、こちらは実在する人物や事柄に、架空の人物を加えてまるでほんとにあったことみたいな話になって(替え玉説もあるとはいえ)て、いいのかな?といらぬ心配をしてしまった。あとにも先にもこういう小説って、ないんじゃないかなとも思う(未確認)。
    とても読み応えがありました。

  • 和宮替え玉説を採り、替え玉となった女性の苦悩と、周りの思惑を描いた小説。替え玉フキの健気さに胸打たれます。

  • 瓦解目前の徳川将軍家に降嫁を命ぜられた皇妹和宮の身替りとなって、歴史の波の赴くままに運命を弄ばれた少女フキの数奇な一生と、その策謀の陰で、時代への抗いを貫き通した女たちの、苦悩にみちた境涯。無力であった者への鎮魂の思いをこめて描き上げた有吉文学渾身の長編歴史小説。毎日芸術賞受賞作。

  • 【読了メモ】淡々とした幕切れ描写が恐ろしく生々しい。題材は幕末の有名な話なのに、同じようなポケット(落とし穴)が誰の日常にも潜んでいそう、と思わせる。

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著者プロフィール

有吉 佐和子(ありよし・さわこ):1931年、和歌山市生まれ。作家。東京女子大学短期大学部英語科卒。1956年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』『和宮様御留』など話題作を発表し続けた昭和を代表するベストセラー作家。1984年没。

「2025年 『有吉佐和子ベスト・エッセイ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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