孤愁の岸(下) (講談社文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061317468

作品紹介・あらすじ

誰のために? 何のために? 慣れない重労働に、疫病で死ぬ者200名、巨大な権力に捨身の抗議をぶつけて屠腹する者50名。未曾有の難工事は薩摩藩士の死屍累々の上についに完成するのだが――。泥海の中に潰え去った男たちの無念に、平時のいくさの惨酷さを見事に描き切った著者の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 宝暦治水。職務上の責任をとり切腹した者が50名、疫病で命を落とした者が202名、さらに仲間に斬られた者、事故死した者、薩摩藩士はどれだけ辛かっただろう。予想通り、最後は奉行も果てるのだが、身の回りの世話をしていた少年・佐田恒弥も命を断つとは悲しすぎる。

  • 昨年8月に、父の7回忌の法事で鹿児島に行った折、宝暦治水で犠牲になった薩摩義士を弔っている碑だったか塚だったかをたまたま見て、小学校時代に課題図書で宝暦治水を扱ったやつを読んだことを思い出し、再度どうしても読みたくなってネットで調べてみました。
    すると、先にこの「孤愁の岸」がヒットし、しかもこちらは作者が吉川英治の弟子で、かつこの作品は直木賞受賞作だとのこと。不覚にも今まで全く知らなかったのですが、早速図書館で借りて読んでみました。
    すると、もう予想をはるかに上回るおもしろさ。本を読んでここまで感動できたのは、本当に久しぶりでした。途中、思わず本当に涙を流してしまいました。
    「逆境」と言うくらいでは到底言い足りない主人公平田をはじめとする薩摩藩の置かれたすさまじい状況、それをすさまじいまでの決意と作戦で乗り切っていくサスペンス。登場人物たちの血の叫び。これが全くのフィクションだったとしても、十分に感動的だったでしょうが、小説的脚色はあるにしても、語られている内容の多くが史実だった、実際に起きたことだったということが、さらに深く感動を深めます。
    この本のことを知り、読み、感動できて、本当に良かったと思いました。
    ちなみに、この本を読み終えて残った大きな疑問が、ここでできてしまった巨額の借財は結局どうなったのか、ということだったのですが、そこで幕末薩摩藩の調所広郷につながるのかと、改めて深く納得。次は調所についての本を読もうと思いました。

  • 63

  • 権力を持つもの達の傲岸さ、地を守るもの達の貪欲さ、金を持つもの達の強欲さ…
    異郷の地でそれらと渡り合いながら、木曽川・長良川・揖斐川の三川治水工事に身を削り心をすり減らす薩摩藩士達の凄惨な覚悟が辛かった。

    7月に旅した大垣・桑名にて、彼等の供養碑に手を合わせられたこと今更ながらに感謝しています。

  • 天井川、輪中。むかし、社会科で習った濃尾平野特有の地形。
    美濃三大河川の一大治水工事「宝歴治水」は、結局、凡そ四十万両の資金と、「屠腹した者五十名、病死者二百二名」の命を呑み込んで終了した。工事を終了しても、達成感を味わうことなく敗北感に沈んでゆく薩摩藩士の悲哀。重たいテーマの歴史小説でした。

  • 水害対策と藩の弱体化を狙い、幕府が薩摩藩に命じた揖斐川・長良川・木曽川の三川の手伝い普請。すでに財政が逼迫している上の大工事に、藩を賭して立ち向かう薩摩藩士の姿が描かれる。史実であることが、よけい胸を打つ。
    『お上からの辛いことも頑張れば達成できる。』のような道徳的な話ではなく、工事終了のカタルシスは描かれていない。むしろ、権力の横暴と公共事業に乗っかって私服を肥やす民衆への強く深い怒りと悲しみが物語を貫く。

  • 再読了。
    結末が見え見えではありますが、しっかりと読ませてくれます。ちょっと今時ではないかもしれないけれど、こういう空気を纏った作品もありかと。
    まぁしかし閉じた世界のお話ですよね、率直に言って。尾関のような人物が忌み嫌われるのだから。そして実は現在もそんなに変わっていないのかも、日本社会は。

  • 不可能と思った大事業が完成形にいたりつつあるとき、その事業の担い手に、達成感とは別の感情が浮かぶ不思議さが伝わってきます。

    困難な事業は、完成を迎えたときには携わった全員が「大事業を成功させ、苦労が報われた」と感じられることを望みます。しかし、それほど単純な状況ではない重々しさが現場にはあります。

     まるで自分がその場にいるかのように、決断と逡巡を読み手に強いる一冊です。

  • 薩摩藩がなぜ美濃の地で治水工事を引き受けなければならなかったのか。
    引き受けたはいいが,費用はどうするのか。
    薩摩藩の苦悩を描きだした傑作。

  • 平田が幕府からの短文による命に打ちのめされたのに始まり、また「もう自分はこれで自分は人生を終えるのだ」と悟る情景が続くように、
    「武士としての心意気や絶望」や「幕府(あるいは村役)との折衝・勝負」が生々しくつづられている。一方で、美濃の地域の人々を想う様子も随所に描かれ、しかし他方で故郷である薩摩を想う(寂しく思う)様子も十分に記述されている。平時の戦との表現も印象的。感情に満ち、時代背景にも満ちた、とても充実した一冊を終えての読後感に浸っている。

    今にして思えば、平田の「もう人生は終わり」との最初の思い(あきらめ)は、ある種の伏線だったのだなぁ。

    (上巻にもほぼ共通したレビュー)

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著者プロフィール

杉本苑子

大正十四(一九二五)年、東京に生まれる。昭和二十四年、文化学院文科を卒業。昭和二十七年より吉川英治に師事する。昭和三十八年、『孤愁の岸』で第四十八回直木賞を受賞。昭和五十三年『滝沢馬琴』で第十二回吉川英治文学賞、昭和六十一年『穢土荘厳』で第二十五回女流文学賞を受賞。平成十四年、菊池寛賞を受賞、文化勲章を受勲。そのほかの著書に『埋み火』『散華』『悲華水滸伝』などがある。平成二十九(二〇一七)年没。

「2021年 『竹ノ御所鞠子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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