自我の構図 (講談社文庫 み 6-3)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061317598

感想・レビュー・書評

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  • 著者の作品としては、宗教色はあまり出ていない。“許し”が、だいたい著者の題材になることが多いが、本作品もそのようなものだ。他の作品では、よく著者は愛することは許す事だ、と言うが、本作品ではそれを明確に言ってはいない。

  • 主人公は30代の国語教師、南慎一郎。
    彼はある日、同僚であり友人であり、絵の師匠である藤島とスケッチのため天人峡を訪れる。
    実は二人の間には大きな確執が二つあった。
    それは藤島の妻、美枝子をモデルとした絵をそれぞれ描き、日展に応募したところ、弟子である南の絵が選ばれて藤島の絵は落選したということ。
    そしてもう一つは絵のモデルをした美枝子に南は心密かに想いを寄せており、その事を藤島も感づいているということ。

    確執を抱えつつ二人で出かけたその峡谷で、藤島は南が注意するのも聞かず危険なところで絵を描き始め、渓流に飲まれてしまう。
    発見された藤島は傷だらけの遺体となって見つかった。
    周りには誰も居らず、南が藤島を殺したのでは?と殺人の容疑がかかる。
    その容疑を晴らしたのが南が密かに想いを寄せる美枝子だった。
    妻のある身でありながら南は美枝子にいっそう惹かれ、二人は密かに仲を深めていくが、亡くなる前に藤島が南に宛てて書いた手紙が元で二人の仲はこじれていく。

    醜い人間の心が描かれた作品です。
    嫉妬、羨望、強欲、浮気心・・・。
    南は純粋に美枝子を愛すると言いながら些細なことから信じられなくなる。
    また美枝子もそんな南を軽蔑するようになる。
    南の妻は二人の仲を怪しみ、美枝子に嫌がらせをする。
    藤島の母親は保険金目当てで息子の死の真相を隠そうとする。

    彼らが特に醜い心の持ち主という訳じゃない。
    むしろ、こんな心を持っているのは人間として当たり前の事で、彼らは普通の人々だと思う。
    だからこそ、人が人を信じるというのは本当に難しい。
    本当に愛するという事も。
    それは何も問題がない、安定した、安全なものが前提でのものなのか-と考えさせられる。

    だけど、ここにはそういった自我を超越した人物も描かれている。
    それは南の妻の姪、雅子と藤島の師匠だった小西蒼竜という人物。
    雅子はまだ20代だが、自分のことよりも人を優先して考える思いやりのある女性で、小西は大らかで包容力のある大人物として描かれている。

    雅子は過去、人からひどい事をされ傷ついた経験をもっている。
    だけど、相手を恨むどころか、自分にひどい事をした人間をかばっている。
    つらい経験は人を荒んだものにさせる。
    一方、この雅子のように、見事に再生させ、人を思いやる人間にも成長させる。
    先に書いた普通の人々と、雅子や小西のような人との対比。
    それこそがこの物語の作者の言いたいこと、それを探るヒントになっていると思う。

    三浦綾子さんの文章はこのような難しいテーマをとても分かりやすく、物語としてこちらに見せて考えさせてくれる。
    作者の謙虚さ、偉大さを改めて感じました。

  • 全編重い雰囲気のただよう小説だった。けれど真実味があり、人間の人間に対する愛の不完全さ危うさについて実感させられる。

  • どうして今まであたしは
    三浦綾子を読まなかったんだろうと
    後悔しました。
    と衝撃を受けた一冊です。

    以下、読み終わった10年ほど前の文章。

    犯罪にならない罪が
    どれほど罪深いのか。
    罰することの出来ない罪が
    どれほど罰なのか。

    愛することってなんなんだろう?って
    考えさせられます。
    今本気で愛してると想ってる人がいたとして
    そう素直に疑問を持たずにいれることは
    幸せなのかもしれませぬね。
    ←めちゃめちゃ本を読んだ影響受けて
    軽く宗教っぽくなっていて恥ずかしい(笑)

  • この作品も、人間の自己中心的な愚かさ、人間が人間を傷つけてしまう「罪」ある姿を描き出した作品。

    人間は本当に自己中心な、エゴイスト。

    作中、登場人物たちがとる行動は、それなりに理由あることではあるのだろう。しかしそれは、自己中心的な、思いからとる行動。
    それがどんどん自分の首を絞め、相手をも傷つける。



    人を愛するって?? 「愛するとは何かがわからなかった。二人にとって、愛するとは、いわば好きという感情にすぎなかった」
    二人の愛情は「何か事が起これば、たちまち憎しみに変わる感情であった」

    嫉妬や憎しみを感じる登場人物たちは、ある意味とても人間らしいが、それゆえに恐ろしいと感じてしまった。

  • (メモ:高等部1年のときに読了。)

  • 既婚者同士の恋愛。お互い家族がある。
    伴侶の監視、嫉妬がある。
    だが、そんな制限があると、より一層燃えてしまう。
    当事者は切なく、大変苦しい。
    苦悩する気持ちは分かる…。

    第三者からすれば、
    「あんたたちいつまで何やってんですか?」と思う。

    ぐいぐい引っ張られるように読めてしまう。

  • TOUCHING WORD for Future Generations : 金を持たせれば、その人間の値打ちがわかる
    http://www.touchingword.net/detail.php?id=1091

  • 三浦 綾子さんの本は全て読んでいるはず。
    どの作品も心にくる。

  • 三浦綾子の小説は登場人物のそれぞれの心の動きがよくわかって読書に集中できる。
    登場人物を自分と照らし合わせて考えさせてくれる。

    あらすじ
    島壮吉と南真一郎は、旭川北成高校で働く同僚教師であり、日本画の師弟であり、友人であった。藤島と慎一郎がともに藤島の妻美枝子をモデルに描いた絵のうち、真一郎の絵が日展入選協会賞に輝く。弟子真一郎の快挙を喜ぶ師藤島であったが、この時より藤島と真一郎の友情に亀裂が入る。
     藤島は表面上では真一郎の日展入選を喜んでいたが、その内心では暗く荒んだ嫉妬の炎が燃え上がっていた。その嫉妬は真一郎の才能と真一郎と美枝子の間の秘めた恋情に向けられていた。藤島は真一郎を秋の天人峡ドライブへと誘う。人里離れた僻地天人峡へのドライブに。悲劇はその天人峡で起こった。

     

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三浦綾子の作品

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