まぼろしの城 (講談社文庫 い 4-8)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061318168

感想・レビュー・書評

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  • なんともある意味、池波正太郎さんらしい小説。面白かったです。意外と(笑)。
    臭い食べ物が美味しい…みたいな、そんな味わい。
    そして最後は諸行無常…というほどは達観してない、ヒトのぬめっとした体臭を嗅いだような…エグい。エグいです。

    むちゃくちゃに地味な歴史小説なんです。
    今の群馬県、上野の国。戦国時代。
    沼田にあった沼田城。の、物語、と言えます。
    この沼田城、王道な戦国歴史では、ぜんっぜん名前は出てきません。信長、秀吉、家康というBIG3はおろか、それに続く信玄、謙信、早雲あたりだって、直接は「沼田城」なんてまったく関わりありません。
    (まあ、謙信が間接的に若干あるか…というくらい)

    ですが、戦国を舞台とした、とある人間ドラマ。
    そして、戦国という時代の気分が主人公とも言えます。

    金子新左衛門、という、とにかく悪いおっさんが主人公、とも言えます。
    この人が、どこまで史実かは知りませんが、とにかく悪い(笑)。笑っちゃうくらい悪い。
    いきなり、冒頭、この人はまだ半農半武士的な、上州のとある地区の大農民というか庄屋さんというか、そういう人です。
    そして、可愛い娘の許嫁の若い男を、暗殺しちゃう。
    これがどうしてかというと。

    娘がけっこういい女なんですね。
    で、もうじき、そのあたりいちばんの権力者である、沼田城主の沼田万鬼斎というオッサンが、温泉湯治にやってくる。
    そこで、娘を色仕掛けでこの城主に迫らせよう、という腹なんです。
    どうしてかというと。

    つまり、自分がより大きな権力を得たい、成り上がりたい、という矢沢永吉的精神なんですね。(ファンの方がいたらすみません。先入観だけで書いてます)。
    で、これがまんまと上手く行く。
    沼田万鬼斎、沼田近辺では王様な訳ですが、筆者の池波さんはちゃんと、戦国英傑の大物とくらべたら、悲しいまでに田舎の小物に過ぎない、と一刀両断しながら書いていきます(笑)。
    で、この万鬼斎は、悪役新左衛門の娘の色香に溺れます。側室になる。
    新左衛門はまんまと寵臣になります。で、娘が男子を産みます。
    で、純朴だった娘も、歳月を経てふてぶてしく傲慢で独善で視野の狭い、ずるい女になっていくんですねー。いやー、なんとも、このあたり脱帽(笑)。

    さあ、今度は、正室さんの男子をなんとかして排除して、自分の孫に沼田城主の地位をもっていこう、という陰謀です。
    沼田万鬼斎まで、老いてトチ狂って、その陰謀に加担します。
    このあたりのまあ、ニンゲンのいやらしさというか、欲の世界の闇の深さというか。
    息子だろうが親だろうが娘だろうがナンだろうが、ある状況になったら平気の平左で殺します。手を血に染めます。
    まあ、現代劇のヒューマニズムって安っぽいコトバとは、桁違いの、「人間の有様を描く」という意味での人間主義と言いますか。
    このあたり、色と欲、地位と名誉、権力欲…そういう闇に溺れる人の有様を描くのって、池波さんすごいですよねえ…なんていうか、どろどろしてるけど、ざっくりしてる。
    俯瞰なんだけど、司馬遼太郎さんには無いような、体臭を描けるというか…。
    そうそう、食事というジャンルの描き方、とか、そういうの、この人は「もってる」感じですからねえ…。

    でも、一歩間違うと悪魔的で変態的でブラックすぎるんですね。
    でも池波さんは一方で、池波さんなりに「男は、女は、かくあるべしの人情・美学・性善説」みたいな風景を併せ持ってるところが凄いなあ、と。
    だから、そういう「ホワイト」な主人公に「ブラック」な脇役を配置する作品群が、やっぱり一般受けするんですよね。
    後味がいいですから。
    「鬼平犯科帳」「剣客商売」「真田太平記」…。

    というわけで、「まぼろしの城」。これまあ、「ブラック池波世界」満開のエグイ小説です。エロくはありません。ちょっとだけエロいですが。
    万鬼斎と新左衛門。色と欲とのぐっちゃぐちゃで、親族殺して大騒動です。
    なんだかんだの中で、新左衛門はうまいこと生き残っちゃうんです。
    ただ、時代はどんどん、大物たちが天下を統一し始める力学になってきます。
    そして、沼田も武田信玄のものに。厳密には、信玄の部下である、真田昌幸が支配します。そう、あの有名な幸村のお父さん。

    そして終盤は、この真田昌幸が、沼田城を奪還に来た万鬼斎の息子と対決。そして、新左衛門の悪運も尽きるのか…。
    というところなんですが、これまたエグいんです。
    真田昌幸、実に舌を巻くほどの卑劣な陰謀で謀殺しちゃうんです。
    そんなあたりで、この沼田城をめぐる、「日本史的に何の歴史的価値もない不毛などろどろ人間ドラマ」が幕を閉じます。
    もうなんというか、血と汗と涙の、体液どろどろの悪臭ふんぷんたるエグい味。
    キレイゴトなんて全部、嘘。悪人だらけのぐっちゃぐちゃ。映画「アウトレイジ」なんて目じゃないですね。
    なんだけど、これぁ、この臭み、この苦さ。
    大人としてはケッコウ楽しめちゃったりしました。

  •  領主沼田万鬼斎の側室に差し出すため娘の許婚を殺す
     金子新左エ門
     沼田平八郎を殺した真田昌幸の謀略
     戦国時代は正か悪?

  • 非情な戦国武将の生き様をたっぷり堪能。

    色々と謀略をつくし自身の栄達にのみ突き進む主人公。
    それ以上の謀略家の策に飲み込まれてしまう。
    無情。

  • 戦国時代。沼田城・沼田万鬼斎という城・人物を知っている人はかなり少ないように思う。戦国時代好きな私でさえ、どちらも初めて聞く名前だった。
    上野国(こうずけのくに)・沼田という要衝の地は、越後の上杉・甲斐の武田という戦国時代の英雄2人の争奪戦の場となり、まさに戦国を身近に感じるような土地であった。
    そこに沼田顕泰(万鬼斎)という豪勇無双をうたわれた武将がいた。物語はこの万鬼斎を中心とする一族と、それを取り囲み壮絶な覇権争いを繰り広げる武将たちの野望によって進んでいく。
    城下に暮らす金子新左衛門は、何とかして城主・沼田氏に取り入ろうとしてさまざまな謀略をめぐらせる。娘を近づけさせて寵愛を受けさせることに成功し、ゆくゆくは我が血を分けた子・あるいは孫に城主の座に就いてもらいたいと願うようになっていった。
    しかしそこはやはり戦国時代である。謀略にはさらなる謀略がかさなり、思わぬところで思わぬ結果に陥ってしまうこともあるのだ。
    万鬼斎と金子新左衛門、そしてその一族たちは周囲の情勢に目を光らせつつもいかに自らの血統を受け継いでいくかに苦心し続ける。それでもしかし、時代の情勢はめまぐるしい変化を続けていく。
    終盤。自らが作り上げた「城」が崩れさってゆく様を見ながら金子新左衛門に戦国時代の儚さを感じ、時代の移ろいを感じるのだ。

    1983年1月/講談社/講談社文庫

  • 越後の上杉、甲斐の武田、小田原の北条。関東管領が実質的な力をなくし、覇を争う武将たちに取り巻かれながらも、上野の沼田万鬼斎はしたたかに生き抜こうとしていた。しかし愛妾・ゆのみとその父・金子新左衛門に翻弄され、一族は過酷な歴史の渦に飲み込まれていく。小国の衰亡に光を当てた凄絶な戦国雄編。

    2008.2 読了

  • 080412(n 不明)

  • 上州・沼田城をめぐる武将たちの野望を描いた作品。時代は関東管領・上杉憲政が越後に亡命した頃から甲斐・武田氏の滅亡の頃まで。
    主人公は誰になるのか難しいところだが、最後まで登場し続ける金子新左衛門というところか。
    ある程度史実にもとづいていると思われる内容を、作者独特のタッチですき間を埋めつつ、戦国の世を渦巻く非常な謀略を描いている。

    2006.05.29読了

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  • 上州・沼田の城を巡る戦国武将達の駆け引き
    親も子も孫もなく,悲しいモノだ

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著者プロフィール

大正十二(一九二三)年一月二十五日、東京市浅草区聖天町生まれ。昭和十(一九三五)年、下谷区西町小学校卒業、株式仲買店勤務。昭和十四年より三年ほど証券取引所にあった剣道場へ通い、初段を得る。旋盤機械工を経て昭和十九年、横須賀海兵団入団。敗戦の翌年、東京都職員として下谷区役所の衛生課に勤務。昭和二十三年、長谷川伸門下に入る。昭和二十五年、片岡豊子と結婚。昭和二十六年、戯曲「鈍牛」を発表し上演。新国劇の脚本と演出を担当する一方、小説も執筆。昭和三十年、転勤先の目黒税務事務所で都庁職員を辞し、作家業に専念。昭和三十五年、『錯乱』で直木三十五賞受賞。『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』の三大シリーズや『真田太平記』等、数々の小説で人気を博す一方、食や映画、旅に関する著作物も多く上梓した。受賞歴はほか吉川英治文学賞、大谷竹次郎賞、菊池寛賞等。平成二(一九九〇)年五月三日、入院していた東京都千代田区神田和泉町の三井記念病院で死去。小社では同じく単行本未収録のエッセイ集『一升桝の度量』(二〇一一)と初期戯曲集『銀座並木通り』(二〇一三)を刊行している。

「2022年 『人生の滋味 池波正太郎かく語りき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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