- Amazon.co.jp ・本 (666ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061360044
感想・レビュー・書評
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水沼家で起きた水死とガス中毒死、老人ホームの火事、舟の沈没事件、これらは連続殺人か?
人が死んでると言うのに妙に張り切る素人探偵たちの繰り広げる推理合戦。それらは推理小説を基にしているので理屈っぽくて全く現実的でない。そもそも「事故」と判断されたものを彼らは無理やり「密室殺人だ!」「犯人は読者よ!」、(作中では)現実の殺人事件なのに「そのトリックは推理小説では反則だから却下」なんて得意気にやってるんだが、読者としては「そもそも本当に殺人なの?」「殺人だとしてもそんな非現実的な話があるかい!」「犯人が読者だったらあなたたちのなんの立場?」と戸惑いつつ進める。
現代風に言えば「中二病を拗らせた」登場人物の行動や、作中作品や、目くらましのようにパズルのように示される幻想的エピソード、姦しい素人探偵たちのおかげで無用にこんがらがる事件。
素人たちの中では一人俯瞰的目線を持つ男が「解明したくないけど、しなくてはこの素人探偵たちが納得しないから仕方なく」事件解明。
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「日本三大奇書」と聞いて学生の頃に読んだのですが、ミステリーとしても小説としてもよく分からず、その時はそれっきりでした。
その後中井英夫が久生十蘭のファン(ジュウラニスト)と聞き、改めて読んでみたらなんかある意味納得しました。植物学者だった中井英夫のお父様と、戦時中は記者だった久生十蘭に交流があったというので、中井英夫こそ元祖ジュウラニストというものなのでしょうか。
さらに中井英夫の短編集に納められていた後日談の「空しい音ー愛読者をさがす登場人物」では、本編から数年後に登場人物たちが集まっておしゃべりしています。本編では旅立った”あの人”も元気でやっているようで。ここで女性キャラクターの久生に対して本編主人公が「そういえばお前の名前って久生十蘭からとったんだろ?」なんていう問いかけもあります。
そもそも「虚無への供物」は塔晶夫名義で出したものらしいですが、フランス語の「お前は誰だ(トワ・キ)」「おおっ!」の意味と言うので、これまた久生十蘭のフランス語を基にしたペンネームから影響でもされているのか。
そんなこんなで、外連味溢れかつ深淵な十蘭の世界で育った作者が、いわゆる推理小説を超えた推理小説を目指して筆を滑らせてみたのかということでいいのだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
盛りだくさん。推理合戦・メタ・ファッション等々本筋以外にも見処いろいろ。読んでよかった!
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猫丸さん
何だか中井英夫に魅せられた人達のディープな企画展だったみたいですね。行きたかったような行かなくてよかったような‥。私は『虚無への供...猫丸さん
何だか中井英夫に魅せられた人達のディープな企画展だったみたいですね。行きたかったような行かなくてよかったような‥。私は『虚無への供物』しか読んでなくてまだまだ入り口に着いたくらいなので、信奉者達の書を読みつつ近づきたいと思います。2023/03/17 -
111108さん
> ディープな企画展だったみたいですね。
確かに!
猫は装画だけ眺めてみたかったです、、、111108さん
> ディープな企画展だったみたいですね。
確かに!
猫は装画だけ眺めてみたかったです、、、2023/03/19 -
2023/03/21
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日本推理小説三大奇書の1つと呼ばれている。私は他の2冊、小栗虫太郎氏の『黒死館殺人事件』と夢野久作氏の『ドグラマグラ』は読んでいないが、これだけは読んでいた。
確かきっかけはその頃各種ガイドブックを読み漁っていたのだが、そのどれにも本書が取り上げられ、しかも評価が高かった。そしてたまたま行きつけの書店の平台に青い薔薇の顔をした人物が市松模様の床に佇む表紙をあしらった文庫が置かれているのを見て、惹きつけられる物を感じ、そのまま手に取ってレジに向かったのがきっかけだった。いわゆるジャケ買いというやつだ。
まず驚いたのは非常に読みやすい文章。他の2作品は書店でちらり見をしたことがあったが、なんとも古式ゆかしい文章で、改行も少なく、読み難くて取っ付きにくさばかりが目立ったので敬遠していた(これは今に至ってもそう)。つまり私のミステリマニア度の境界というのはどうやらこの辺にあるらしく、これらの2つは私のマニア境界線の外に位置する作品なのだ。
氷沼家に伝わる因縁話を端緒に、その一家の1人藍司の友人でシャンソン歌手奈々村久生と、ゲイバーに居合わせた久生の友人、光田亜利夫が探偵ごっこよろしく、「ヒヌマ・マーダーケース」と称して勝手に捜査を始めたところ、第1の被害者が現れて、本当の殺人事件に巻き込まれるといった内容。
本書の読みやすさはひとえにこの久生の明るく軽いキャラクターによるところが大きいと思う。ホームズ役を買って出て、友人の亜利夫をワトソン役にしたて、トンデモ推理を披露する。
また本書はアンチ・ミステリと呼ばれており、どうも本書に初めてその名を冠せられたようだ。Wikipediaによればアンチ・ミステリとはその名の通り、作中内で過去の推理小説のトリック・ロジックについてその現実性、必要性などを論議して揶揄することという風に書かれている。今更ながらだが、これは今のミステリ、ミステリ作家ならば誰もがやっていることで、まず私が再びミステリを読み出すきっかけとなった島田氏の『占星術殺人事件』からして、シャーロック・ホームズの作品について痛烈な批判をしているから、これもアンチ・ミステリとなるだろう。アンチ・ミステリって何だろう?と思って本書を手に取ると、何がアンチなのか解らないだろう。実際私がそうで、読み終わった後、あれがアンチなのかと全く別のことで解釈していた。
つまりアンチ・ミステリとはもはや死語であると云っていいだろう。
物語の雰囲気は最初の舞台がゲイバーだったり、シャンソン歌手が登場したり、亜利夫の渾名が「アリョーシャ」だったり(これはけっこう恥ずかしいと思うが)、「サロメ」について語られていたり、幻想的でサイケなムードが横溢しているように感じたが、先に述べたように久生のキャラクターが見事な緩衝材、シンナーとなっていてマニアでなくともとっつきやすくなっている。
しかし中心となる謎に関する謎解き、犯人などは期待に反して印象が薄く、これは見取り図が必要で、物語を読んでいるだけでは解らないぞと私は思わず溢したものだ(まあ、見取り図はつけられないんだけどね)。
そして動機の部分。これは印象に残った。カミュの『異邦人』を思い起こさせる、観念的な動機であるが、私は受け入れることが出来た。私はこの動機がアンチ・ミステリなのかと当時勘違いしていた。なぜならこの動機は今までの捜査で得られたデータからは推理できないからだ。この文学的ともいえる結末は私の好みだった。
この『虚無への供物』に纏わる話はつとに有名なので改めて語らないが、個人的な感想を云えば、あまりに世間の、ミステリ書評家たちの評価が高すぎるような気がする。それが逆に未読の人たちへ過大な期待をかけ、評価を低くしているようだ。歴史的価値というのはその後の亜流が出回ることで時が経つに連れて風化していくものだ。私は本作が「日本三大奇書の1つ」、「アンチ・ミステリの始祖」といった大仰な冠が付けられたゆえに、それが足枷になっている不幸な作品だと思えてならない。既に逝去した作者がもし生きていたら、この現状をどう思うのか。私にはこれらの過大広告が本書に対する「虚無への供物」ではないかと考えてしまうのだ。 -
もう何度読んだかわかりゃしない。
読み終えて冷静に考えると、
なんだこのヒトを小馬鹿にしたアホ長大小説わぁぁぁぁ
って感じなんだが、いや、すこぶる面白い。
だってこれってアンチミステリだもん( ̄ー ̄)。
タイトルがすべてを語ってるよなぁ。
でも、
謎解き(←これがかなり頓珍漢でスットコドッコイなんだが)
のために東京及び近県のあちこちを訪ねて回るところなんて、
いい年した大人になった今となっては、
とっても楽しそうで、
登場人物たちが羨ましくなったりするです( ´ Д⊂ -
一九五四年十二月。共に洞爺丸事故で両親を失った氷沼蒼司・紅司兄弟と従弟の藍司は一つ屋根の下で生活していたが、紅司が風呂場で変死する。蒼司の同級生で友人の亜利夫は、そのことを友人である久生に伝えると、久生は「その死は二十年も前から決まっていた殺人」と言う。
事故で片付いているにも関わらず、亜利夫、久生、藍司に、氷沼家のお目付け役である藤木田老人の四人は紅司を殺した犯人を巡って推理合戦を繰り広げるが、素人探偵の哀しさ、いずれの推理も穴を指摘されては潰されてしまう。
その三ヶ月後、またしても氷沼家で人死が出てしまう。その被害者は、先日の推理合戦で一番の容疑者と目される人物だった。
はたして、これはただの偶然なのか、それとも連続した殺人事件なのか。散りばめられた事象から暗号を見出しては推理を構築し、それを他者から崩される繰り返しの末に、登場人物たちが迎える事件の結末は。
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推理小説として読めば、その結末に面食らうこと必至だろう。だが物語として読むと、その内容はとても現実的だ。毎日生み出される「事件」と、突然にその「事件」の当事者になってしまった登場人物と、それを遠巻きに眺める傍観者。それは現実でも、現代でも当たり前に毎日起きる。
殺人者の最後の告発は、あまりにも厳しく哀しい。あの言葉は、読者で、視聴者で、傍観者である"我々"に対する、事件の当事者の代弁でもある。
「お前たちは当事者でないから好き勝手に事件を推理したり当事者を慰めたり非難したりできる。しかし、当事者の苦痛を本当に理解することはないだろう。」 -
ミステリーズ・フリークの素人が突飛な迄の推理を始める所から始まり、奇々怪々な事件が次々と起こるのを更に追窮し、非現実被れした登場人物の眸に現実を一層狂おしく見せるという、奇抜な作品である。或る意味で、「黒死館殺人事件/小栗虫太郎」とは混沌としていくものが内と外で反対になっているとも思える。
この小説には、現実のものが含まれ過ぎている。三大奇書と称される残りの二作や乱歩・外国の探偵小説、音楽、地名… まるでこの小説の中で起こる事件のみがフィクションで、それを書き上げる「現存在」のひとりの人間の感慨深い“日記”であるかのように。如何にも、この作品の中では推理小説を書くという描写が多々含まれているが。
人間の悪意とは、どの点を指すのだろうか。現実の偶然は、何処まで繋がりを持つのだろうか。―或いは運命や偶然とは人為的な賚に過ぎず、疑念や固定観念を以て現実と照合すれば、必ず何かしらの―その人間の思惑に遵って―驚くような、或いは気味の悪いようなもの、狂気染みたものとして現れ出すのではないだろうか。意味有り気なものばかり拾い集め、そうして「偶然の一致」を探り出した人間は、それらの連なりに勝手な意味を孕ませ、「現実の思召し」として拵えて仕舞うのではないだろうか。
この素人探偵たちの勝手な推理談が齎した顛末や、実際の被害者を思うと、胸が悪くなるような不愉快さを覚えずには居られず、★4つにしたい気持ちにさえなる。
しかし、それさえもこの作品が世間一般の「ミステリー小説」でなく、人の世の苦々しさに対する作者の感傷を訴え掛ける為の作品だとすれば、これ程切なく痛ましい末路を辿る作品は他と無いだろう。
斬新な発想や、ミステリー特有の練り込まれた展開論も然りだが、哲学的な意味でも、この作品は優れたものだと感じる。
一見、読み辛いように思えるが、実際読み進めていくと無意識に次々と頁を捲って仕舞うような魅力を持っている。 -
ボリュームを含め、壮大なる実験小説である。探偵小説マニアな人々が集い、氷沼一族をめぐる変死とその犯人を推理しあう一見推理小説でも有る。
読んでいる途中で気づいたのだが、「ドグラ・マグラ」「黒死館殺人事件」と並んで、日本の三大奇書と呼ばれている作品らしい。しかし訳の分からない文章でもなく、突飛な状況が起こるでもなし、さらには特異な隔離状態でもない。序盤を除いた全般にわたって平易な言葉で記載されているので、だれでも筋を追うことは可能だろう。
しかし、ボリュームも相まって、読んでも読んでも進まないという状況が続くため、奇書と呼ばれている所以ではないかと思う。
こういう本は全否定派と崇める派の2つにわかれそうなので、シンプルに内容を評価すると、紅、橙、蒼、藍、玄に緑と黄という色で表される登場人物や部屋が登場する。これはポーの作品のオマージュらしく、内容でも触れられているのだが、それが仇になって、登場人物のほとんどが記号化してしまっている。その他の登場人物は、全て作者の分身であり、探偵小説とシャンソンの知識をひけらかす以外のキャラクター付けがなされていないのは、なかなか読んでいて辛いところだ。
さらに、要所要所で事件が起こるのだが、その事件を咀嚼するまでに、違うイベントが起こってしまうため、作品を俯瞰した時に、イベントの割に単調に感じてしまうのは否めない。
文章は丁寧だし、イベントもわかりやすいのに、「読んでも読んでも進まない」と感じさせるのはその辺りにあろうかと思う。
更に読者を遠ざけていると思うのが、特に序章での探偵小説の知識のひけらかしであろう。乱歩の続・幻影城を引き合いに出すのはいいが、いちいち固有名詞を形容詞化して、状況を語るのはいかがなものかと思う。
個人的には奇書とは思わなかったし、「アンチ探偵小説」という読解も、最後の一言以外外れていると思う。しかし、少なくともこの本を読む前に、ドイル、ポー、クリスティー等の著作をある程度読んでおかないと、理解以前に挫折する可能性があるのではないかと思う。 -
日本四大探偵小説のひとつ.馬鹿な探偵がいっぱい出てきます.耽美で美しい作品だとおもいます.
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昭和三大奇書トライ、2冊目。ドグラマグラより読みやすかったけど、とりあえず何とか読み終えた感強い。途中まで、推理合戦したりするあの辺りが登場人物全員酔っ払ってんじゃね?位のフワフワさ。ミステリ酔いしてる。という視点で読むと面白いかもw
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ミステリにおける位置とか意義など私にとってなんの問題にもならない。ただひたすら蒼司が好き。
普通の小説で初めて萌えを味わった記念碑的作品である。
中学生だった私にはおぼろげな萌えしかつかめなかったけれど、のちにこの作品の前身となるアドニス掲載作品を読んでからはもうどうしようもなく私の中で不動のキングオブ萌え。
著者プロフィール
中井英夫の作品





