猫は知っていた (講談社文庫)

  • 講談社
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061360150

作品紹介・あらすじ

秘密の抜穴と謎の電話、そして暗闇に突き出た毒塗りナイフと一匹のネコ……。引越し早々に起きた連続殺人事件に、推理小説ファンの兄と私は積極的に巻き込まれた――素人探偵兄妹の鮮やかな推理をリズミカルな筆致でさらりと描き、日本のクリスティと称されてデビューした著者による、今日の推理小説ブームの端緒となった江戸川乱歩賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • すこしまえの出版社のフェアで手に取った一冊。
    恥ずかしながら、作者も作品も全く知りませんでした。
    実質的な第一回江戸川乱歩賞受賞作なのですね。
    自動車の普及率やトリックに使われた器具など、時代を感じます。


    仁木悦子さんが主人公兄妹に託した想いが色々と感じられました。
    人が沢山死ぬわりには、作風がからっとしていて、「日本のクリスティー」と称されるのも納得ですね。


    あとがきに有りましたが、この作品のヒットによって手術を受けられ、寝たきりの生活から車椅子をあやつって、外出も出来るほどになったこと。また、入院中に知り合った方との結婚と、その後の幸福な家庭生活を知りました。


    江戸川乱歩や横溝正史、松本清張とも全く違うのですが、時代を創ったであろう作品ですね。

    読めて良かったです。

  • ☆3.8

    戦後まもなくの頃、住処を追い出された仁木雄太郎・悦子兄妹は友人の紹介で、ある個人経営の外科病院の一室に間借りさせてもらうことに。
    引っ越し後早々に、敷地内にある防空壕の抜穴で一家の老夫人が殺され、同時に入院患者が一名行方不明になった。
    行方不明になった患者は一体どこへ行ってしまったのか。
    その彼は犯人だから逃げ出したのだろうか。
    老夫人が殺された動機は何なのだろうか。
    推理小説が好きな兄妹は、この事件を解決しようと謎に取り組み始める。

    妹の悦子を語り手に、事件の関係者に話を聞いたり現場で手がかりを探したりと、結構きっちり地道な探偵仕事をしている。
    なかなかにみなさん隠し事の多いこと。
    出てくるアイテムやトリックなどは時代性感じる部分はあるけれど、物語や文章自体は平易でありながら今も変わらぬ普遍さで語ってくれる。
    これ、ユーモアセンスが素晴らしすぎて軽く流しそうになったけど、全体的に結構なえぐみを内包している。
    兄妹の仲の良さとか爽やかさがあまりに鮮やかでそっちに強く印象が残るのかな。
    悦子の観察眼が鋭くて実は毒をも含むシニカルさなのも良かった。

  • 懐かしい仁木悦子さんを再読。
    中学生になる頃に仁木悦子さんを知った。面白く夢中になって読みふけった。
    多分、全ての仁木悦子作品を購入した。
    中学生の小遣いでは文庫であってもなかなか痛む出費ではあったけれど、その頃既に知らないひとが読んだ本は嫌だと思っていたので仕方ない。
    今わたしの手元にある仁木悦子さんの本は、日焼けしてはいるけれど汚れや破けもなくきれいだ。大切に読んでいたんだなと思い出す。

    素人探偵仁木兄妹シリーズ。
    仁木兄妹が、兄雄太郎の友人の伝手で下宿先である箱崎医院に越してくる。妹である悦子が箱崎家の娘のピアノの稽古をすることで下宿代を安くしてもらえるからだ。
    仁木兄妹が越してくると間もなく、箱崎医師の妻の母親の遺体が庭に遺されたままの防空壕内の抜け穴から発見される。

    発行されたのが昭和32年であり、防空壕や下宿といった古さを感じさせるところはあるものの、日本のクリスティと言われた仁木悦子さんの推理作品としての素晴らしさには古くささは全くない。今でも遜色なく楽しめる一級のミステリーだと思う。
    伏線の回収は見事だし、トリックにやや無理がないこともないが、それはミステリーにはありがちなことだろう。そこが推理小説の華とも言える。
    この作品が仁木悦子さんのデビュー作なのだから驚きだ。

    引退した元警部の口添えで素人である仁木兄妹が捜査に介入するというのは現代では考えられないことではあるけれど、当時ならそういうこともあったのかもと思わせる。
    実際、横溝正史作品での金田一耕助は捜査に口を出しまくりだ。

    タイトルにあるように猫が事件の鍵を握っているわけだが、肝腎な部分で登場するだけで事件自体には関与しないし、赤川次郎さんの三毛猫ホームズのように猫が事件を解決したりはしない。丁度良い加減で猫が出てくる。
    ラストがまさに猫は知っていたという感じになっているところが絶妙と言える。

    仁木悦子さんの素晴らしさは仁木悦子さん自身にもある。
    仁木悦子さんは4歳のときにカリエスに罹り寝たきり生活になってしまう。就学することもかなわない悦子さんの勉強を、旧制高等学校に通う兄がみてくれた。
    兄が戦争のため出征してしまうと独学で学びつづけた。
    自分の目で外の世界を見ることは殆どなかった仁木悦子さんは、書物やラジオ、兄や姉の話から情報を得てこの作品を書いた。
    中学生のわたしは仁木悦子さんのエピソードに衝撃を受け、不自由な暮らしの中で学び、本まで書いてしまうことに深く感動した。仁木悦子さんのおかげで頑張れたと言っても過言ではない。

    仁木悦子さんは本書の設定で、仁木兄妹を大学に通う兄と音大に通う妹としている。
    この兄雄太郎はきっと仁木悦子さんに勉強を教えてくれた優しい兄のことだろうし、妹悦子は仁木悦子さん自身だろう。
    妹悦子は足が速くとても健康的に描かれている。病床で寝たきりの仁木悦子さんの代わりに本の中で悦子が元気に走り回る。自分には叶えられない様々を、本の悦子に託しているのだろうかと思うと、単なる推理作品というだけでない作者の深い想いが伝わってくるようだった。
    仁木悦子さんを思って胸を熱くした中学生のわたしをも懐かしく思い出す素晴らしい読書だった。

  • ジル・チャーチルの兄妹シリーズを思わせる。
    箱崎医院に間借りすることになった仁木兄妹。引っ越して間もなく、患者と家族の失踪事件が起き、それがやがて…。
    この時代なのに陰鬱な感じの無いカラリとした推理小説。
    人が死んでるのに不謹慎なんだけど。
    トリックにはちょっと無理があるかも。
    あと、ラストは「遠きに目ありて」の最終話の後味のようであまり良くはないけれど、テンポよく読めた。
    仁木兄妹シリーズらしいので、他の作品も読んでみたい。
    この作品では仁木兄妹が淡白な描かれ方なので、もう少しつっこんで知りたいし。

    そして解説の事実に驚きの連続。
    この作品が江戸川乱歩賞の事実上第一回受賞作!
    作家、仁木悦子の人生が小説のよう。
    ブラック・ジャックで人気漫画家が実は病院で漫画を描いていたという話があったのを思い出した。

  • 最近、仁木悦子の作品が矢継ぎ早に復刊されたのは、昔からのファンにとって、とても嬉しい事だった。仁木悦子の作品は派手な流血場面や、扇情的なバラバラ殺人などが無く、主人公の仁木兄妹のキャラクターもあって健康的で爽やかなイメージがある。だが、実は人間を見る目はそれなりに厳しく、時には意地悪でさえあるのだ。どちらかと言えば、それを中和するために主人公たちの人物設定が考えられたのではないかと思われる。本作はもちろん、他の作品もトリックの切れ味は見事の一言。再読三読に耐える貴重な作家だと思う。

  • 著者と同じ名前の兄妹が事件を解決に導くミステリー。
    読後、あとがきで、本作は、江戸川乱歩賞第三回受賞作でありつつ、事実上は初の受賞作と知りました。また、著者の努力を知り、言葉を失いました。
    日本の、戦後の推理小説界、凄く熱いものだったのですね。
    素晴らしい作品です、是非とも読み継がれて欲しい一冊。

  • 現場の間取り図がしっかり挿入されているのが、本格推理小説らしくって楽しいです。陰惨な事件が起こっているのだけれど、人の心の闇を過剰に描かずさらっと叙述するところに、作者のこだわりを感じます。

  • 1957年に発行され、第3回江戸川乱歩賞受賞作品、仁木兄妹の長編。

    仁木作品は何作か読んだけど、やっぱり読みやすい。殺人事件が起きているけど、時代が時代だけにどこか長閑さを感じる。ほのぼの。
    今の感覚だと、いやいや無理があるでしょう、という諸々も時代が時代だしね、と楽しく読める。
    そして、相変わらず、妹・悦子のキャラが良い笑


  • 書名、著者共に有名な乱歩賞受賞作。未読だったのでkindle unlimitedで見つけて読んでみた。
    兄妹二人の描かれ様が、爽やかで青春小説風にも関わらず防空壕が重要な役割をするあたりに時代を感じる。
    猫を使ったトリックは強引すぎる。

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著者プロフィール

1928 - 1986。小説家。ミステリーや童話を手がけ、1957年に長編デビュー作『猫は知っていた』で江戸川乱歩賞を受賞。明快で爽やかな作風で、「日本のクリスティー」と称された。1981年には「赤い猫」で日本推理作家協会賞を受賞。無類の猫好きとして知られる。

「2023年 『不思議の国の猫たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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