- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061361737
感想・レビュー・書評
-
所謂「名探偵」ではない、職業私立探偵が視点人物を務める「三影潤」シリーズの長編。ハードボイルドと呼ばれるのはロス・マクドナルドのおかげという感じで、格闘シーンもあったりするのだが、腕っ節の弱さを自認している三影が、一方的にのされているだけで、タフガイ小説ではない。脅迫事件の調査を依頼された三影が、丹念にインタビューを繰り返しながら、富豪一家の過去に潜む事件の謎を暴いていく展開は、まさにロス・マク。とはいえ、一家の孤独な少年と三影の交流の描き方とかはこの作者ならでは。それだけにラストの哀感が一層強まる。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
短編集「青い風景画」に1話入っていた私立探偵三影潤の長編。短編では良くわからなかった三影の魅力がよくわかる長編。好きになっちゃったな。
この事件の結末は、どう転んでも三影にとって苦味が残るものでしかないのだろうね。
どこかで何かが少しずれていれば、悲劇は起こらなかったのだろうけど、悲劇が起きたからこそ三影と冬樹は出会ったのだろうし……ただただ切なくて物悲しい。
-
あのですね…これ最高じゃないですか?
もろに好みすぎる作品なのですが…本当に辛いこの読後感…
本格ミステリとしてもハードボイルドとしても一流。
探偵三影のセリフが頭から離れない。切ない…
捜査の進捗と加速度がほんとに心地いいくらい理想的で、最後に『冷えきった街』というタイトルが胸に刺さるスピードがえげつなすぎて暫し呆然。
三影シリーズってまだあるのかしら…読もう。 -
探偵・御影潤シリーズの長編。明るく軽妙な仁木兄妹のシリーズとはまた違った雰囲気です。
事件そのものは、いくつかの仮説は立てられるけどどれも矛盾が発生するという、この興味のそそり方にうまく乗せられます。有力そうな手がかりも惜しみ無く提供してくれるし、そこから想定されることもその場で明らかにしてくれる。でも真相には近づいていけない。餌に呼ばれてどんどん世界にのめり込んでいきます。外野の視点からちょっと引き込まれたくらいのちょうど良いタイミングで出てくるのが御影の私生活や多感な高校生の孤独だったりするのでますます釣られていく。理屈だけで事件を追うのではなく、この世界で動いているのは過去も感情もポリシーも持った人間たちであること。その認識のなかでもたらされる事件の真相にはなんともやりきれない気持ちになりました。
1971年発表の作品らしいですが、作中で御影が「人間は利口になりすぎ、社会は複雑になりすぎた」と言っています。そんな社会に生きる彼の信条は逆にシンプルで、それを貫く姿勢こそがハードボイルド。もっと時間が過ぎた現代にも通じる価値観です。 -
仁木悦子の中ではマイナーかもしれませんが、私の一番好きな作品です。犯人を知りたいあまり一気に読んでしまった挙句犯人を知ったときの衝撃。もう一度読み直したときに改めて心を傾けられる家族関係や探偵の過去、若い恋人たちの愛情。
いわゆる推理小説ではあるけれど、読み継がれていってほしい作品です。 -
竪岡一族の周辺で奇妙な事件がおこっているようで、まず次男が暴漢に襲われ、
次に長男がガス中毒を起こし、今度は長女の誘拐予告がきたということだった。
そしてその日の夜、竪岡家で妻玉代の誕生祝いが行われたが、そこで長男の清嗣が毒殺される