冷蔵庫より愛をこめて (講談社文庫)

  • 講談社 (1981年1月1日発売)
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  • 本 ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061362086

感想・レビュー・書評

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  • 阿刀田高氏の第一作品集。1978年刊行。

    ショートショート、というにはちょっとページ数が多いけど、ちゃんとオチがある構成はショートショートらしい短編集。

    最初の作品集から、既に完成形、という感じです。
    後の作品集との違いを敢えてあげれば、直接的なグロテスク描写がある、というところと、雰囲気がある作品がいくつかある、というところ、ですかね。

    直接的なグロテスク描写がある、名編は、美食家が夢の中で食べるものがエスカレートしていく「わたし食べる人」。
    雰囲気がある作品での名編は、鸚鵡の鳴き声で昔の悲しい恋を思い出す「歌を忘れない鸚鵡」。
    阿刀田高作品らしい名編は、他にいくつも。
    見知らぬ人の葬式に出席するのが趣味という女を描いた「趣味を持つ女」と、未来を予知する電話がかかってきたサラリーマンの運命を描いた「幸福通信」は、特に素晴らしいオチでした。

    ↓以下は各作品の感想
    冷蔵庫より愛をこめて
    役所勤めを中途退職してまで始めた事業が失敗し、精神まで病んだ男が、休職中に不思議な男と出会うという物語。
    事業失敗から精神病院に入院という過去が回想的に描かれるのがメインなので暗い気分にさせられます。
    オチは、あるヒッチコック映画からヒントを得たと思われますが、自分には予測不可能だったこのオチで、作品がサイコスリラーに一変しました。

    趣味を持つ女
    趣味を持たなかった女に出来た新しい趣味は、見ず知らずの他人の葬式に出席することだったが、という物語。
    趣味ではなくて香典泥棒なのでは?と読者に思わせてからの大きなオチへの展開が見事な一編。。

    仮装パーティ
    妻を昨年亡くしたサラリーマンの男が、死んだ妻に瓜二つの水商売の女と偶然知り合い、妻との思い出のある社内の年末仮装パーティにその女と出かけるという物語。
    オチはそれほどの驚きは無かったですが、サラリーマンの悲哀を感じさせるものでした。

    海藻
    二日酔いで船に乗った男が、乗った船が第二次大戦時の浮遊魚雷にふれて大破し、投げ出された海で海藻に足をとられるという物語。
    ブラックユーモア、というより、ひどく厭な結末を迎えます。

    あやかしの樹
    人間の死体と一緒に種を植えると、埋めた人間そっくりになるというオムの樹。そのオムの樹の種を高価で手にできた男が、死んだ妻の葬式で見かけた死んだ妻に似ていない美しい姪を元にオムの樹を育てようとする物語。
    男が、姪を拉致するために尾行したり、姪を殺したりと、暗くインモラルな内容ですが、最後は阿刀田高作品らしいブラックユーモアで終わります。

    幸福通信
    所属する課の、人員削減への噂をうれいていた主人公のサラリーマンの家に、競馬や株相場の未来予言しているかのような電話がかかってくる、という物語。
    意外性のあるオチは、ブラックユーモアというより、タイトル通りの深みがあり、尚かつトリッキーなものでした。

    知らない旅
    バイロケーション(分身)をテーマにした一編。
    タイトルの意味が明確にされるのはラスト三行。キレ味があるオチではなく、雰囲気があるオチで、妻と昔愛した女との間で揺れ動く男の心を描いた内容にふさわしいものでした。

    わたし食べる人
    夢の中で食事をして満腹感を得て、現実には少食にして痩せる、という減量方法を、肥満体型を見かねて声をかけてきた心療内科医に勧められる男を描いた一編。
    夢の中での美食を描いたシーンは、読むこちらも食欲を感じるほど。
    男の美食への想像力が、やがては食べたことのない料理へと向かい、そこから話がグロテスクな展開になります。
    オチは、かなりブラックですが、かなり上手いオチです。

    夜の真珠貝
    5年目の結婚記念日でデート中の夫婦。夫は妻に真珠の指輪を贈り、馴染みのバーに立ち寄ると、不思議な男性客から、人間も女性器で真珠が作られることもある、という話をされる物語。
    物語は意外な展開になりますが、オチはちょっと腑に落ちない感じ。

    エネルギーの法則
    休日にふと思い立って山登りをした男が、帰り道に不思議な男に車に乗せてもらって、男が発明した「牧場」に寄り道する物語。
    ホラー映画の、田舎に行ったら怖かったパターンによく似た一編。
    エネルギーの循環についての会話が、ちょっと小難しいですね。
    オチは期待通りではありますが、言い換えれば意外性がありません。

    歌を忘れない鸚鵡
    二年前に愛した女が飼っていた鸚鵡をたまたま手にした男が、その女の言葉で鳴く鸚鵡の鳴き声で、二年前を回想する、というロマンティックな一編。
    ブラックになりきれない切ないオチが素敵です。

    真実は強し
    殺人容疑をかけられた娘のアリバイを証言しようと苦心する母親を描いた一編。
    アリバイトリックをメインにした作品は、阿刀田作品では珍しいのではないでしょうか。
    ブラックな要素も少なめなミステリー作品。

    ギャンブル狂夫人
    結婚一年を記念して妻と旅行中の男が、結婚30年の夫婦と出会い、ギャンブル狂の夫人と、夫人が8種類のタバコの銘柄を全部当てたら夫人が30万円の勝ち、1本でも外れたら男が30万円の勝ち、という賭けをする、という物語。
    クライマックスのヒリヒリするような銘柄当てシーンに続くラストは、以外にもブラックな要素が少ないユーモアがありました。

    心の旅路
    横浜の港町を歩いていた男が、ふと過去に同じ横浜の港町で起きた出来事を思い出す、という物語。
    ブラックな結末ですが、全体的にはハードボイルドな雰囲気がある一編。

    幽霊面会術
    舞台は、紀元前15世紀の地中海クレタ王国。
    妃が死んで哀しんでいる王子を心配した王女から、死んだ妃を王子の眼前に現わす手だてを見出せ、と命を受けた老博士の苦悩をコミカルに描いた一編。
    ブラックではあるものの、そこも含めて全体的に昔話のような出来。

    ホーム・スイート・ホーム
    主人公はサラリーマン。ある日会社に、昔付き合っていた女が病死したと、女の幼なじみと称する女から連絡があり、死んだ女から大切な伝言があったと、招待されたマンションの一室を訪ねる、という物語。
    感傷的なプロローグから、訪ねたマンションにいた老女の賑やかさへの落差、そこからブラックな落ちへの落差、と見事な展開を見せてくれます。

    最後の配達人
    タイトルは、人生の最後を迎える人に、あなたは死にますよ、という合図を配達する人の意味。
    同じ店からタクシーに乗り合った2人の男の、どちらが配達人なのか、最後の最後までわからないままラストまで興味を持たされます。

    恐怖の研究―あるいはエピローグ風の小品―
    恐怖小説の傑作集を出版する企画を命じられた編集者が、恐怖小説に詳しい先輩の語学講師に話を伺うという体裁で、阿刀田高氏推薦の恐怖小説を紹介するエピローグ風な一編。
    作中で紹介される作品は、W・W・ジェイコブズ「猿の手」、岡本綺堂「木曽の旅人」、エドガー・アラン・ポオ「長方形の箱」。
    一応、意外な結末は用意されていますが、オマケ的な感じ。

  • 阿刀田さんの初期の作品ということで読んでみました。
    クセになる感じ。もっと読みたい!
    ギリシャ神話の話など著者の世界観が出ていたなと思います。

    特に面白かったのは
    「冷蔵庫より愛をこめて」オチが予想できなかった。なるほど!!
    「あやかしの樹」気持ち悪いけどオチは最高
    「わたし食べる人」
    「歌を忘れない鸚鵡」切ない
    「最後の配達人」

  • 奥付は昭和58年第6刷。筒井康隆とともに著者の作品を高校生の頃に読んだ。あの頃の自分は短編を好んで読んでいた、というより好きな作家の作品に短編が多かったのだろう。そしてブラックユーモアを好きになるきっかけにもなった。本書の作品は、すべてが戦慄の結末で落とされている。「幸福通信」「最後の配達人」が印象深い。

  • 「奇妙な味」という分野の作品ではあるが
    あとづけのくくりで先行作はいくらでもあるし
    あらゆる短編いやお話のどれもが
    喜劇と悲劇というおかしみとかなしみ
    怒りと恐怖ををある面でもつのだから
    何にでも通ずる形ではある
    その枠を意識して作られたお話としてこの本はどうかというと
    時代をこえて読み続けられるへ選ばれるのは運だと思う

  • 「趣味を持つ女」
    女は最近ある趣味を持ちはじめた。招かれてもいない他人の葬式に出席し、故人にゆかりがある物を遺体といっしょに勝手に納棺すること。これ、なんとも変わった、一見たわいもない趣味のようなのだが・・・。

    物語の最後のひと言で、いっぺんに謎が解けるそして、冷たい戦慄が背中を走る。そんなの書かせたら阿刀田先生の右に出る者はいないね(他の短編集からだが、「ナポレオン狂」、「来訪者」、「迷路」・・・)。

  • 想像するとちょっと怖い。

  • 2016年9月27日読了。「阿刀田高の出世作」と銘打たれた「奇妙な味」のショートショート集。想定外をつくオチは「やられた!」と瞬間的に楽しめるのみならず、「真相はどっちなのだろう…」「本当にこれが起きたらどうなるのだろう…」と、サラリと怖い余韻を残してくれる。描写や設定には昭和臭さ・おっさん臭さが漂うが、エロ・グロ・ナンセンスな感じ含めてそれも味か。著者は星新一賞の審査員を務めているようだが、SF的な設定が意外に少ないのところは「逃げていない」感じもあり、面白い。

  • 借りて読んだ本。
    ぞっとした。
    自分では選ばないジャンルなので、そういう意味では出会えてよかった。

  • べったりしていて恐ろしいけど、読後が気持ちいい。阿刀田高にハマったきっかけの本。

  • ミステリというか、ホラーに近い短編集です。
    怖いと聞いていたけど、たしかに「ブラックユーモア」では済まされない怖さが・・・。
    初めのほうに収録されている作品群が怖かったですね。
    「海藻」「歌を忘れない鸚鵡」とか後味悪いこと必至です。
    「趣味を持つ女」は怖かったかも。
    うちのほうの図書館では見つけられなくてあきらめてたんだけど、読めてよかった一冊です。

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著者プロフィール

作家
1935年、東京生れ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に勤務しながら執筆活動を続け、78年『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。79年「来訪者」で日本推理作家協会賞、短編集『ナポレオン狂』で直木賞。95年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞。日本ペンクラブ会長や文化庁文化審議会会長、山梨県立図書館長などを歴任。2018年、文化功労者。

「2019年 『私が作家になった理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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