すばらしい新世界 (講談社文庫)

  • 講談社 (1974年11月27日発売)
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  • 本 ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061370012

作品紹介・あらすじ

人工授精やフリーセックスによる家庭の否定、条件反射的教育で管理される階級社会――かくてバラ色の陶酔に包まれ、とどまるところを知らぬ機械文明の発達が行きついた“すばらしい世界”!人間が自らの尊厳を見失うその恐るべき逆ユートピアの姿を、諧謔と皮肉の文体でリアルに描いた文明論的SF小説。

感想・レビュー・書評

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  • ハクスリーの『すばらしい新世界』、めちゃくちゃ面白かった!ここ最近、読む小説があまり自分にしっくりこないなあ…と思っていたけど、ようやく来た!今の自分が読んでバッチシピッタシ、そしてあらゆる人に読んで欲しい有名な作品、名著だと思う。

    1932年発表なので今から93年も前の作品ながら、「この小説は今のことだよね!?」と読める。有名なのが試験管ベビーやクローン技術で子供を作ること。そして胎教や睡眠学習で条件づけ(条件反射の。いわば洗脳)、産まれながらにして階級化され労働力にする。いまの日本の少子化問題もこれで解決!

    自ら子供は産まなくなり、親という概念が恥ずかしいものとなっている社会。ここ最近はセレブの間で代理母出産が流行ってるらしいが(そして倫理的な問題ほかでよく叩かれてる)、出産のリスクは今でも大きいし、女性がキャリアをとるか結婚出産するかといった問題も解決する!「産めよ殖やせよ!」じゃなくて、「産まなくても殖やせるよ!」なのだ。

    そしてその代わりにフリーセックス!セックスは子作りとは切り離され、完全に快楽のみになった。インセルやチー牛の問題もほぼ解決!なにせ階級が完全に分断された上に、本人たちはそのことで苦しんだりしない。なぜ階級(カースト)を作るのか?それは『べらぼう』でもあったように、平和に社会を安定させ支配するため。

    さらにさらに、この社会の人々はもはや「本を読まない」。代わりにあるのは今で言うVRの映画。原因はかつてあった大規模な戦争で、宗教など対立の原因になる文化的なものは全て破壊されたから。社会を不安定にさせる革命の原因にもなり得る。ということで、人類は自ら書物を読まない社会を作り上げた。これも原因は別にして、YouTubeなど動画サイトやインスタは見るのにテキストは読まなくなった、読書離れした今と重なる。

    という「素晴らしい新世界」がこの作品の中では完成している。SFとは想像力によって「未来はこうなるのでは?」という思考実験、予言の書とも言えるが、ここまで鋭い指摘がされていたのか!と驚くばかり。

    かつての宗教がなくなった社会で崇拝されているのはフォード!西暦=A.D.のキリスト紀元ではなく、ヘンリーフォードがT型フォードを発売した年からのフォード紀元になっている。十字架の上の部分がなくなりT字架に。「オーマイゴッド!」ではなく「オーマイフォード!」と言う。
    これはチャップリンの『モダンタイムス』で描かれていたように、イギリスで起きた産業革命から、アメリカでフォードの自動車生産の流れ作業の分業化が進んだから。ハリウッドにしろモータウンにしろ文化も「工場」化される。この点は先月の100分de名著、デュルケームの『社会分業論』に通じる。

    要するにこの社会は、資本主義と社会主義と全体主義を全部合わせて良いとこ取りしたような感じ。現実の社会もそうだけれど、人類は自らを「幸福」に、楽にするために、高度な社会構造のシステムを作り上げた。しかし、今度は逆にそのシステムの方に支配されたり、振り回されたりするわけです。(たまたまこの下書きを書いた翌日に100分de名著のヘーゲル『精神現象学』第2回を観たら、斎藤幸平が同じ事言っててビックリした。まあ『社会分業論』と関連してるけど。)
    そしてこれをさらに極端に描くと、『マトリックス』の夢を見つつエネルギーを吸い取られてるあの人々になると思う。

    ここまでがこの小説の道具立てというか設定=世界観の部分。この小説が面白いのはそこだけじゃなくて、物語やキャラクターが素晴らしい点。ここまで完璧な「素晴らしい新世界」を作り上げておいて、物語が駆動するわけがないので、それからはみ出した「一点の染み」「蟻の一穴」「不純物」のようなキャラクターが出てくる。

    ひとりめがバーナード。アルファという上の方の階級なのに、手違いで容姿が悪く生まれてしまい、劣等感のカタマリ。コイツのこじらせ方がほんと最高にいい!大好きすぎる!めちゃくちゃ感情移入できる!!
    ふたりめがジョン・ザ・野蛮人。コイツは元々アルファの白人なのに、とあることでインディアンの土地で育った男。さらに面白いのは、読めた本がシェイクスピア全集しかなかったせいで、思考が全てシェイクスピア作品の、シェイクスピアマニアになってるところ!(タイトルの『すばらしい新世界』も、シェイクスピアの『テンペスト』から)

    本筋とは少しそれるけど、ソーマというドラッグや(元ネタはヒンドゥー神話の飲料)、フリーセックス、ジョンが先住民文化の中で育てられたりと、色んな点ですでにヒッピーカルチャーの源流になっていることが感じられる。

    ここで、のちのオーウェルの『1984』と比較してみると、あの作品は設定としては面白いけれど、小説としては「失敗作」という意見がかなり多くて、私もそう思っている。まあ元々がナチスドイツやソ連など全体主義批判のための作品だけど、あれは「ザ・ディストピア」だってわかりやすすぎる。以前『ゴジラ対ガイガン』のレビューにも書いたけれど、「行き過ぎたユートピアはディストピアになる」。それに、太平洋戦争が始まった頃を描いた作品を観ると、市井の人々は全く危機感とかなにもなかったりするわけです。
    つまり、ユートピアとディストピアは紙一重で、どっちだかわかんない方がよりリアルだし、面白いと私は思う。今の現実世界だと、「経済制裁がまったく効いてなくて、むしろ好況になってるロシア」を見ると、ほんとにそう思う。もしくは中国でもアメリカでもどこでも良い。

    オーウェルの話を出したけど、ふたりともイートン校出身で(『バニラな毎日』にイートンメスが出てきたけど)、短期間ではあるけれども、ハクスリーは教師としてオーウェルにフランス語を教えていたそう。『1984』を出した時のやりとりの手紙やら、オーウェル評論集にも『すばらしい新世界』について書かれたものもある。

    新しい翻訳として、2013年の光文社古典新訳文庫や、2017年の大森望訳の早川のがあるけど、早川版は表紙が味気なさすぎるので、私は古い講談社文庫版を選んで読んだ。これは元々早川の『世界SF全集』第10巻に『1984年』とともに収録されて、第一回配本で1968年に出たもの。

    その大森望さんが2017年に引用してポストされていたのが、

    「「オーウェルは禁書を恐れたが、ハクスリーは誰も本を読まず禁書不要の世界を恐れた。オーウェルは情報剥奪を恐れたが、ハクスリーは情報が多すぎて人々が受動的・利己的になるのを恐れた。オーウェルは真実の隠蔽を恐れたが、ハクスリーは真実が情報の洪水に呑まれるのを恐れた」ニール・ポストマン」

    で、これはたぶんニールポストマンの『愉しみながら死んでいく―思考停止をもたらすテレビの恐怖』という著書から息子さんがした引用の引用で、さらに続く大森さんのポストを注として引用させてもらうと、

    「アメリカ人はオーウェル的な管理社会の到来を恐れ、1984年にそれが現実にならなかったことで安心したが、実際には『すばらしい新世界』的な未来が着々と迫りつつある――というのが筆者の父ニール・ポストマンが1985年に出した本の主張で、それがトランプ時代を予言していたという話。」

    だから、どちらがより今の現実世界に近いのか?というのが、よりはっきりとわかるわけです。ユートピアとディストピアとは、常に隣り合わせにある。

  • いわゆる共産主義的な理想国家像と資本主義的な退廃(幸福の追求)とをミックスさせてすばらしき新世界という悪夢を描き出している。ある意味、理想国家というものの持つ非人間性を突きつけてくれる良書ではあった。

  • 『愛するということ』や『ハーモニー』でも言及されていたので、ぜひ読みたいと思っていた一冊。

    この本が書かれた時代背景にナチスによる全体主義的な活動が活発に行われていたというのがあるが、実際に物語の中にもそのようなことが、暗に表現されている箇所が散見された。

    読み応えがあったのは、やはり後半の総統とジョンとのやりとりで、幸福を実現するためには、芸術、科学、宗教を抑制し、本来の人間的なあり方を追究させないようにする必要があるというところに、大いなる矛盾があって考えさせるところがあった。

    安直に「全員幸せな世界にしたい」というと、衣食住は保障され、嫌なことがあるとソーマを飲んで忘れることができ、好きな時にフリーセックスができるような世界になってしまうことを考えると、幸せや幸福という言葉は軽々しくは使えないと思った。

    『ハーモニー』で出てくる「リソース意識」は、本書の「万人は万人のためのもの」と合致するしこの手のユートピア系の小説は、ある種全体主義的な側面が必須なのかもしれない。

    J.S.ミルの「満足した豚よりも不満足なソクラテスの方が良い」という言葉が思い出される。

  • 人に薦められて読みました。文体がまどろっこしく(良くいえばリアルで丁寧な描写)、場面がぽんぽん変わる部分もあって、最初はとても読みづらくわかりづらい。けれど、よく練られた世界観と、そうあらねばならない理由(賛同するかは別として)に一貫性があって、だんだん話に引き込まれます。今読んでも面白い内容ですが、娯楽的ではないです。

  • 本や芸術に興味を持たないようにプログラムされて生まれてくる人々。
    人々の幸福と引き換えに、科学と芸術、宗教を犠牲にすることに決めた総統とそれに反発する野蛮人の後半の対話は、もはや物語の全て!!

    その中でも、
    人々は今や孤独を感じない、孤独に強く反発するように訓練されている、
    という総統の言葉にゾッとした。
    SNSで常に友達と繋がっている、今日の世界かなぁ。

  • なにがきっかけかは覚えていないが,気づいたらAmazonのウィッシュリストに入っていたので読んでみた。家族を持たず,母親や父親を持たず,機械から生まれてくる子どもたち。子どもたちは生まれながらにして社会的階層が予め,しかも,人為的で残酷な方法で決まっており,知的生産をするものから,体が不自由で満足に仕事ができないものまで,この世界に存在する。そして,彼らは「ソーマ」という薬物によって自らの不安や憂いを消し,ただただ,機械的に過ごしている。最初は「なんとおもしろい世界だなぁ」と思っていたが,読み進めるうちに登場してくるジョンの視点を通して,その世界がいかに狂ったものであるかを感じるようになる。そして,自分自身の世界が,ここに描かれたディストピアと実は表裏一体なのではないかとドキドキした。個人的には,世界統制官のムスタファ・モンドが魅力的なキャラクターだ。彼がこの物語で最も報われない悲しい人物なのではないかと思う。
    この物語が1932年に記されたものだ。そうとは思えないほど,おもしろい話であった。

  • ジャンルとしてはディストピアやアンチ・ユートピアなどと呼ばれるタイプのSFですが、徹底的に管理された社会ではなく、安定のために合理化が推し進められた世界というのは私には新鮮であり、おぞましくもありました。生まれる(この世界では「生産」といった方がふさわしい表現です)前から階級が決められ「条件反射教育で奴隷化」されている人々に気味の悪さを感じるのですが、よくよく考えてみれば私たちが暮らす現実の社会も近い面を持っているような気もしたりで少し複雑な気分です。娯楽性は低いですが、パンチの効いた作品だと思います。

  • 「犠牲なしの進歩はありえない」ぐへえ。気持ち悪くて読むのが苦痛。『ピダハン』と同時期に読んだので“蛮人”がピダハンに脳内変換。(でもピダハンは蛮人ではない。)久しぶりに講談社文庫よんだけれども文字に濃淡があるのは印刷の不手際?(作家の意図かと思ったくらい)
    くるしいかなしいなんて気分はナンセンス、いやなときは薬を飲めばいんんじゃない?という解決方法はまさに現代への警笛。
    この本を読んだあとで海外の本を読むと「ハクスリーが描くような世界」というのが比喩としてよくつかわれているように気がつく。この本自体は苦手だが今後の読書の理解には繋がる。

  • 第4回ビブリオバトル全国大会inいこま準決勝Dで紹介された本です。
    2019.3.9

  • 対価無くして幸福を、得るのは良くないと感じた。
    今後、人が科学技術に隷属しないか心配になった。

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著者プロフィール

1894年−1963年。イギリスの著作家。1937年、眼の治療のためアメリカ合衆国に移住。ベイツメソッドとアレクサンダー・テクニークが視力回復に効を成した。小説・エッセイ・詩・旅行記など多数発表したが、小説『すばらしい新世界』『島』によってその名を広く知られている。また、神秘主義の研究も深め『知覚の扉』は高評価を得た。

「2023年 『ものの見方 リラックスからはじめる視力改善』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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