さよなら子どもの時間 (講談社文庫 い 15-1)

  • 講談社 (1978年3月1日発売)
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  • 本 ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061380561

感想・レビュー・書評

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  • この本の解説を書いたのは、桃井かおりさん。
    今江さんの本文に続いて読むと、今江さんの世界観をこわさないようにという桃井さんの愛が感じられ、それでいて、桃井さんのあの演技スタイルそのままの、気取らず飾らずな文章。
    演技もそうだけど表情豊かで個性あふれる魅力的な文章で、今江作品について桃井さんの解説以上のレビューを書くのは、正直言って難しいとも思う。

    「ぼくには“子どもの時間”がなかったんだ」
    あたたかい家族に恵まれているはずなのに、さびしがって日々を過ごす小学4年生の主人公“健ちゃん”。
    ある冬の日に風邪で寝込んでしまい、今までかまってくれなかった祖父母父母兄姉の6人は、めいめいに健ちゃんに、とっておきの物語を聞かせようとする。
    健ちゃんが取り戻そうとした子どもの時間は、確かに楽しくて夢のようなものだった。
    でも、健ちゃんはあるとき急に、自分から、子どもの時間に「さよなら」を告げる・・

    作者のあとがきによると「戦争と敗戦によって、まともな子どもの時間を、なしくずしに消されてしまったおのれの少年時代のことを考えていて書いたもの」だという。
    戦争という避けられない理由で奪われた今江さんだけでなく、桃井さんも、子どもの時間が失われたって書いてるし、誰もが「あー、もう一度子どもに戻って、あの時失った時間を取り戻したい!」って思いを持ってるんだろうか?
    なんでこんなことを書くかというと、自分にも覚えがあるから。

    でも、子どもの時間なんて、子どものときには気づかないけど、実はほんのひとかけらの小さなもので、大人になってから、子どもの時間を心に描きなおすという作業を付け足すことによって、はじめてちゃんとした形になるんじゃないかな、って、この本を読んで感じた。

    だから、もし、子ども時代にいろいろあって、みんなと違った子ども時代だったりしたから、他のみんながうらやましいとか、自分は満ち足りてなかったんじゃないか、とか、思い悩む必要ないって思えるようになった。
    だって、子どもの時間って、大人になって育てることによって、はじめて心の栄養になるものだし、何よりも、いつかは誰もが、子どもの時間には“さよなら”しなきゃならないんだし。

    最後に、宇野亜喜良さんのイラストも桃井さんの文と同様、独特の雰囲気で好き。
    (2011/3/6)

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著者プロフィール

1932年、大阪生まれ。『海の日曜日』(実業之日本社)でサンケイ児童出版文化賞と児童福祉文化賞、『ぼんぼん』で日本児童文学者協会賞、『兄貴』で野間児童文芸賞、『ぼんぼん』三部作で路傍の石文学賞を受賞(いずれも理論社)、他に『子どもの本・持札公開』(みすず書房)、『まんじゅうざむらい』(解放出版社)、など多数。絵本では、『でんでんだいこいのち』(片山健・絵/童心社)で小学館児童出版文化賞、『いろはにほへと』(長谷川義史・絵/BL出版)で日本絵本賞を受賞。他に『なんででんねん天満はん—天神祭』(童心社)、『龍』『いつだって長さんがいて…』 (いずれもBL出版)、など多数。

「2007年 『ひげがあろうが なかろうが』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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