南の島の魔法の話 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 103
レビュー : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061381100

感想・レビュー・書評

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  • 本を選んでいるとたまに勘が働く時があります。作者の名前も作品の評価も知らないのに、タイトルの雰囲気だけで、買ってみた本がめちゃくちゃハマるとき。そして読み終えた後「勝ったな」とほくそ笑むとき。

    kindleのセール中に見つけた「南の島の魔法の話」の本もその一冊。児童文学には明るくないので、作品名はもちろんのこと安房直子さんの名前すら初見だったのですが、タイトルの雰囲気と、値段の安さにつられて購入しました。


    ある日耳のお医者さんの元にやって来た小さな女の子。女の子は耳の中に大変なものが入ってしまったので取ってほしいという。お医者さんが何がはいったのか尋ねると、女の子は「ひみつなの」と答える。
    お医者さんが事情を聞くと女の子は「けっしてきいてはいけないひみつを、たったいまきいてしまったんです。だからそれを、大いそぎでとりだしてほしいんです」と話し……

    冒頭に収録されている「鳥」の書き出し部分ですが、ひみつが耳の中に入ってしまった、という箇所を読んだ段階で、胸を打ち抜かれたというべきか、傑作の予感を感じたのを覚えています。

    女の子が語る不思議な少年とのふれあいと、恐ろしい海女の企み。お医者さんが女の子の耳の中をのぞき込んだときに広がる光景。明らかになるある真実と、伏線の回収。

    この年で児童文学の短編に対し、こんな気持ちになるなんて思ってもみませんでした。感動とか泣けるとか、そういうことではなく、こういうイマジネーションと「ひみつが耳のなかに入ってしまった」というメルヘンな表現があったことの衝撃と書くべきか……

    この冒頭の短編だけで「勝ったな」だったので、あとの短編は連勝街道ひた走るのみ、だった気がします。

    メルヘン的な想像力の広がりと幻想の美しさを特に楽しめたのは、表題作の「南の島と魔法の話」と「夕日の国」の二編。

    「南の島と魔法の話」は翻訳家が主人公。『南の島と魔法の話』という物語の翻訳に四苦八苦する小沢さん。締め切りがとっくにすぎてしまった難解な翻訳に挑む小沢さんに聞こえてきたのは、物語のなかに登場するピアリピアリという妖精の声で……

    夢の中にいるような楽しくも、慌ただしく過ぎ去っていく物語。結末も理由にあると思うのですが、読み終えてみると、自分も妖精の楽しい悪戯に付き合わされ、気がつけば現実世界に戻ってきたような。そんな楽しく少しだけ寂しくもある、不思議な読後感に満たされます。

    「夕日の国」は縄跳びを跳んでいる間だけ、夕日の国にいける子供達の話。

    突然に広がるさばくと夕日の光景。寂しげに歩くラクダと、そのラクダがつけている鈴の音。そうしたものが見えてくるような、聞こえてくるような。そして別の世界にいつの間にか吸い込まれていくような、そんな感覚を覚えます。

    夕日の光景と物語の展開がおりなすノスタルジックさや、切なさはもちろん、解釈が色々とありそうな結末も、また印象的な短編です。

    「さんしょっ子」の切なさも忘れがたい。
    さんしょうの木に住む女の子の妖精と、村の子供達の交流。村の子供達が成長していっても、さんしょっ子はある男の子のことに想いを抱いたままで……

    流れていく子どもだった時間と、伝えられなかった思い。そして伝わらなかったほのかな恋心を、短いストーリーの中に織り交ぜられていて、胸がキュンとなるような切なさがあります。だからこそ最後のわらべうたの文章が、遠いさんしょっ子の姿を浮かび上がらせて、より心に迫りました。

    欲であったり、時間であったり、大人になった自分が読むと、教訓的に読める話もちらほらあるのですが、それを嫌みであったり、あるいは偉そうに感じさせない文章や、ストーリー展開、そして何より想像力がとにかく素敵でした。

    そしてその想像力も、分かりやすい異世界への想像力ではなく、現実とどこか地続きに感じられる幻想・想像の世界を目指しているように思いました。そこに何か、想像力が豊かで、しょっちゅう空想の世界に入り浸っていた子供時代を呼び起こすものがあったような気がします。だからこそ、作品全体の空気感が心地よく感じたのかもしれません。

    作品のトーンは切なさや怖さのあるものも多いのですが、一方で作品全体に通じる透明感や空気感、イマジネーションが素晴らしい短編集でした。

    • nejidonさん
      とし長さん、度々失礼します。
      鳥は、中1の教科書に載っていたことがあります。全国区ではないかもしれませんが。
      その時からずっと、安房直子...
      とし長さん、度々失礼します。
      鳥は、中1の教科書に載っていたことがあります。全国区ではないかもしれませんが。
      その時からずっと、安房直子さんの作品のファンなのです♪
      全集も持っておりましてよ!
      昨年辺りから少しずつ単行本化されてますので、機会があればぜひどうぞ。
      私が一番好きなのは[きつねの窓]です。
      とし長さんもファンになって下さると嬉しいなあ。。。
      2020/09/06
    • とし長さん
      nejidonさんコメントありがとうございます。

      おそらく自分の教科書には、掲載されていなかったように思います。地域、時代の違いでしょ...
      nejidonさんコメントありがとうございます。

      おそらく自分の教科書には、掲載されていなかったように思います。地域、時代の違いでしょうか。nejidonさんのように、教科書からファンになった人もたくさんいらっしゃるのでしょうね。

      安房直子さんは、機会があればちょっとずつ追いかけていきたいです。全集や単行本は財布とスペース的にまだハードルが高いので、当分文庫と電子書籍が中心になるかと思いますが……
      2020/09/07
  • 「紀伊國屋書店文庫復刊フェア」の帯にひかれて購入しました。

    安房直子さんの作品は小学生の頃から本当に好きです。ただただひそやかに美しく、でも、絶対にハッピーエンドにならない。苦いとも切ないとも言い切れず、「夢は醒めるということを忘れていた」というか、「自分は決して手の届かないものに手を伸ばしてしまった」ことにはっと気がつく、プチ残酷とでもいいましょうか。

    表題作はある本を訳する翻訳家さんに起こる出来事です。話が入れ子になっていて、夢のように素敵。安房さんの作品にしては、結末がスイートだと思います。「さんしょっ子」は山椒の木の精、さんしょっ子と人間の三太郎、すずなのお互いに一方通行の切なさがフルスロットル(「ハチクロ」どころではない)で迫ってきて「お願いだから何とかしてあげて!」と読んでいてじたばたすることしきり(笑)。

    個人的なお気に入りは「鳥」と「夕日の国」です。「鳥」は入り口からただただうまくてうなります。「聞いてはいけない秘密を聞いてしまったから、それを耳から取り出してほしい」と耳鼻科に駆け込んだ少女なんて、森見登美彦さんじゃありませんが、ロマンチックエンジン全開です。その理由から少しずつ話が解き明かされて、「ひょっとして…」とお医者さんの思い当たったことは…というラストまで見事な美しさ。さわやかですがほわっとした感触です。

    「夕日の国」は、クレオパトラ美容院の女の子にもらった薬をかけてなわとびをすれば、70回でオレンジ色の砂漠を行くラクダが見えてくる、という体験をする男の子の話。人を寄せつけない過酷な昼間の砂漠ではなく、ただただやさしいオレンジ色。でも、この甘やかな体験もかすかにほろ苦く…。

    久しぶりに背筋まできゅーっとなってしまうやりきれなさを思い出しましたので、誰がなんと言おうとこの星の数です!

  • 中学受験が終わった後、塾の先生がくれた本。
    先生が私に本当に教えたかったことは、こういうことだったのだ。

  • 中学生の時、国語の授業で読んだ『鳥』の話しが載っていた。恋なんて知らない自分だったけど、叶わない恋はなんて苦しいのだろう…と思ったよ

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  • 小学校の教科書で読んだ「きつねの窓」、中学校の教科書で読んだ「鳥」。
    好きだ、と思っていた2つの話、
    どちらも安房直子さんのお話だと気づいた時には感激したな。
    両方が入っている短編集、味戸ケイコさんの絵がまた素敵なのです。
    http://matsuri7.blog123.fc2.com/blog-entry-82.html

  • 小学校の教科書に載っていた話が含まれていたので
    読んでみた本です。
    童話以上の面白さがあり、安房さんの本をもっと読んでみたいと思いました。
    短編集だったので、たくさんの話が読めたのもよかったです。
    また、その中でも「きつねの窓」がすごく印象的でした。
    童話を読んで初めて感動した話です。
    読んでいるだけなのに自分が主人公になってその動作をしているみたいで、
    物語の主人公が見ているのと違う、自分から見える景色まで想像できました。
    これからこの人の書いた本をいろいろと探していこうと思います。

  • 切ない。

  •  紀伊国屋書店復刊フェアありがとう。すてきです。きれいです。でも、かなしさもひやりとするむごさもあります。ひとつひとつの話が珠玉。とくに「きつねの窓」と「青い花」大好きです。

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著者プロフィール

安房 直子(あわ なおこ)
1943年1月5日 - 1993年2月25日
東京生まれの児童文学作家。、本名:峰岸直子(みねぎし なおこ)。
日本女子大国文科卒業。大学在学中より山室静氏に師事する。作品に『まほうをかけられた舌』『花のにおう町』絵本『青い花』(いずれも岩崎書店)、『白いおうむの森』(筑摩書房)『やさしいたんぽぽ』(小峰書店)などがある。『さんしょっ子』で日本児童文学者協会新人賞を、『風と木の歌』(実業之日本社)で小学館文学賞を、『遠い野ばらの村』(筑摩書房)で野間児童文芸賞を、『風のローラースケート』(筑摩書房)で新美南吉児童文学賞を受賞する。ほか、『きつねの窓』が教科書採用されており、よく知られている。
1993年、肺炎により逝去。

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