通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)

著者 :
  • 星海社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061386075

作品紹介・あらすじ

居留民二二五名死亡。見逃された予兆、責任逃れ、プロパガンダ
日中戦争開始から約三週間後の一九三七年七月二九日。北京からほど近い通州で、日本の傀儡政権である冀東政権麾下の中国人部隊「保安隊」が突如反乱を起こした。「通州事件」と呼ばれるこの反乱により、二二五名もの日本人居留民(うち一一一名が朝鮮人)が命を落とした。しかし、通州事件には、未だ多くの疑問が残されている。「反乱はなぜ起きたのか?」「予兆はなかったのか?」「責任は誰が取ったのか?」「事件はどう報道されたのか?」――本書では、これらの疑問に対し、数々の史料を駆使して検討を加える。事件発生から八〇年が経とうとしている今だからこそ、我々は感情的で不毛な議論を排し、実証的見地からその全貌を捉え直さなければならない。

感想・レビュー・書評

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  •  盧溝橋事件直後、日本の傀儡である冀東政権下の保安隊が突如起こした反乱。200人以上の、朝鮮人を含む日本人居留民が殺害される。本書はこの通州事件について、特定の主張をするというより実証的に考察したもの。
     そもそも支那駐屯軍がいた経緯から事件の経過まで、丁寧に記述している。日本居留民を救った中国人住民がいたことも留意すべきだろう。反乱の原因については、関東軍の保安隊への誤爆がよく言われるも、その偶発的な要因だけで事件が起きたのかは著者は懐疑的だ。原因はどれとも断定はしないが、元々あった抗日意識に軍統又は共産党の謀略工作が影響したと考えるのが自然、としている。
     また事件後、最初の数日はさておき、その後は日本の主要3紙は横並びで事件の残虐性を強調するようになる。著者はその背景に、陸軍省新聞班と外務省情報部それぞれの反中プロパガンダを指摘している。

  • 東2法経図・開架 210.74A/H71t//K

  • 通州は北京のすぐ東にある州である。ここで日中全面戦争勃発直前の1937年7月29日に、中国人部隊「保安隊」が日本の守備隊を襲い、軍人はじめ居留民300名近い人々を殺した。これはもとはと言えば、日本がそこに打ち立てた協力政権(傀儡政権)である冀東政権の秩序維持部隊の反乱であった。つまり、子飼いの軍隊と信用していた部隊に襲われた事件である。もっとも、その前にその保安隊を日本の飛行機が誤爆するという事件があったが、保安隊はあらかじめ襲うべき日本人居留民の家にマークをしていた。計画的であった。武器を与え、自分たちの指揮下にあると思っていた軍隊が反乱を起こしたということは、当時の支那駐屯軍にとっては恥であり、当初はこれを隠匿しようとまでしたし、上部もその責任をとろうとしなかった。通州事件は、要するに反日行動の現れであり、傀儡政権の脆弱さを物語るものであった。ところが、一般の居留民が200名以上も残虐に殺されたということもあって、この事件は後に大々的に報道され、反中宣伝に大いに利用された。それは、その後の泥沼化する日中戦争へ国民の戦意を掻き立てる道具になったのである。広中さんは、この事件を今日でも反中宣伝に利用しようとする動きに対し、その真実に迫るべく、多くの資料を駆使し本書を書き上げた。また、名古屋の古書店で偶然手にした、通州事件の写真に対しても、歴史家として冷静に見つめ、追悼の写真以外のクビを切られた虐殺写真をこの事件の証拠写真とすることはできないと述べている。
    居留民の虐殺は痛ましいことである。本多勝一さんは、南京大虐殺と比べると取るに足りないと述べたという。それはそうだろう。南京のみでなく、日本軍の住民虐殺は、毎日のように起こっていたことだ。そういう意味では本事件を取るに足りないとした香月支那駐屯軍司令官の態度は戦時下においてはある意味当たり前のことであった。問題はむしろ一時は隠匿までしようとしたこの事件を、その後の侵略のための宣伝道具として利用したことである。事件の起こった顛末を知らず、残虐性のみをセンセーショナルに掻き立てるのはいつの時代にもあることだ。本書が多くの人に読まれることを期待したい。

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著者プロフィール

1978年、愛知県生まれ。愛知学院大学文学部准教授。2012年、愛知大学大学院中国研究科博士後期課程修了。博士(中国研究)。専門は中国近現代史、日中戦争史、中国傀儡政権史。単著に『「華中特務工作」秘蔵写真帖』(彩流社、2011年)、『日中和平工作の記録』(彩流社、2013年)、『語り継ぐ戦争』(えにし書房、2014年)、『冀東政権と日中関係』(汲古書院、2017年)、『牟田口廉也』(星海社、2019年)、『傀儡政権』(KADOKAWA、2019年)、『後期日中戦争』(KADOKAWA、2021年)などがある。

「2022年 『増補新版 通州事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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