- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061399594
作品紹介・あらすじ
東京⇔大阪間5000キロ!
どこまでも膨張し続けるこのセカイの重力に抗い、僕の“飛行機”は空を飛べるのか──?
重力を司る“重素”の採掘によって膨張に歯止めがかからなくなった地球。東京⇔大阪間がついに5000キロを突破した二〇一三年──。会津若松市に生まれ育った湯川航は幼少期からの「遠くに行きたい」という思いに突き動かされ、遠路はるばる上京して大塚大学理工学部に入学する。
斜陽の学問分野である重素工学科で非生産的な日常を送る湯川だったが、アルバイト先の古書店で一冊の本と出会ったことから、彼の大学生活は大きく変わってゆく。
『飛行機理論』──かつて構想されたが実現しなかった、重素を用いない航空機の理論書。
平凡な大学生の、無謀な挑戦が始まった!
湯川が思い描く「飛行機」は空を飛べるのか。そして、湯川は遠くに行くことができるのか?
話題騒然『横浜駅SF』の新人・柞刈湯葉が放つ、青春SFの新たな金字塔。
感想・レビュー・書評
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面白かった!ざっくりまとめると、地球の埋蔵資源を採掘しすぎて、環境破壊が進んだ近未来においての、主人公がすごす大学4年間。本書内では環境問題は解決していないが、改善しそうなきっかけのような科学技術を主人公がみつけたような、そんな感じ。このように書くと、まるで、今の世の中の話のようだが、設定が柞刈節で非常に面白い。まず、地球の環境問題というのは、90年代諸島の大膨張。現実世界での石油石炭のところに”重素”という物質が置き換わって、その重素を掘り出すことで、地球は膨張しはじめ、その膨張は止まらない、という設定。日本列島の端から端まで3万キロ(リアル地球の一周が4万キロ現在)、主人公の実家の会津若松から郡山まで830キロ、西暦2013年、膨張開始から70年後で、隣の都市にいくのにも、バスで1日がかりの時代。主人公の湯川は会津若松では一番の進学高に通っていた。そこで優秀な人は仙台に行って、次に新潟、次は郡山というような序列になっているが、「東京に行きたい」というのは「月に行きたい」というのとあまり違いがなくて、「目標が高い」というよりも「話のレイヤーがズレている」という。そんな若松から、東京の大学に進学した湯川くん。地元雑誌に取材をうけるような”快挙”である。
東京へは航空機で7時間、バスで4日間。この航空機というのが、今でいうアダムスキー型のUFOのような形状をしており、重素を利用して移動する。湯川くんは大学でこの重素について勉強するのだが、その中で、重素を使わずに飛行する実験をすることになっていく、、という非常にドキドキワクワクな青春ドラマ。
柞刈本の良さは、この設定の面白さに尽きる。本書では、特に新潟の現在のカルチャー(多分会津若松と似通っているのだろうと推察できる)などが盛り込まれていて、とてもSFなのに、非常に身近というか、すぅっと受け入れてしまうような親近感とのバランスがたまらない。
超個人的にツボったのが
p107
”そうこうしているうちに1年が終わり、4月が来て、僕は2年生になった。
”「誕生日係」なんてものまで存在したが、僕の誕生日は春休みに丸かぶりしていたので、(中略)、きちんと祝われた記憶がない。」”
個人的に主人公と誕生日が同じなので、これまた親近感を抱かずにはおれない。
その通り。基本的に、学校やクラスのHRなどで
誕生会をされたことがない、ということにもなる。
まあ、卒後になると、業種や職場の方針にもよるだろうが、
年度末の超ドタバタで、誕生日どころか
帰りに飲みに行ってる体力も時間もない、という時期。
ただ、、
祝われないのに慣れているので、祝うほうも失念するのだ。
(祝い、というより呪いに近い笑)
もちろん好きな人に祝われるのはいいもんだが、
そんなに好きでもないが、社会的に上位の人で
祝われたい人を祝うのを忘れると
非常に困ったことになるというか、
実は何年か前に、
異常なぐらい祝われたい、というタイプの人の誕生日を
きれいさっぱり忘れていて、
過ぎた後に、
めちゃくちゃヒステリックに罵倒されまくったことがあり
(超トラウマ)
誕生日という言葉に一種の恐怖すら感じる(あははは)
ということで、仕事の上の付き合いの人と
プライベートでお誕生日とか
祝われたくないです。
まあともかく、
誕生日を忘れる、というのは
その人が嫌いとか好きとかと別の次元の話だ、
というのをご理解お願いしたい
(あははは、結局言い訳かいっ)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この世界では、重素なる重力を司る物質を採掘し、それを利用して航空機などを作る。しかし重素を採り過ぎたため、地球自体が急速に膨張をはじめ、人類はなすすべも無く、今もなお広がり続ける大地に街が点在する状況。当然鉄道網が崩壊しており、移動はもっぱら車。重素資源の獲得競争であった第二次大戦の敗戦国である日本は、重素の保有量が少なく、航空機も貴重だ。アメリカ西海岸まで、航空機で一週間かかる。日本でも地方から東京に出てくる人など、まず見当たらない。
金沢から東京の大塚大学重素工学科に入った、湯川はバイト先の古本屋で、翼で飛ぶ飛行機なるものの研究書を入手し、これなら重素を使わないで、飛ぶことが出来るのではないかと考える。
そして同級生の仲間達(才女&行動派男子)と飛行機を造り始めるのだが…
前作「横浜駅SF」同様、大変ユニークな世界観が広がり、読み進めていく中で、その世界観を理解していくスタイルが楽しい。
新作が出たら、まずは読んでみる作家の一人となりました。 -
最初は設定からくる異世界観がおもしろかったけど、最後にくる「アオハルかよ!」が清々しい。横浜駅より好みだった。
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さすが、と言える発想力とユニークな世界観。
「遠くに行きたい」という主人公は、移動が趣味の著者を反映しているのかなと。
重力を司る重素の採掘によってブクブクと膨張を続ける地球。その重素を用いた航空機が飛ぶ世界で、主人公が挑戦するのは、現実世界では当たり前の重素を用いない「飛行機」を作り空を飛ぶこと。
諦観的であるが青春の青さを持つ主人公の挑戦に時々クスッとしながら軽やかに読める一冊。 -
人間の環境破壊により、地球が膨張するSFです。
「横浜駅SF」から流れて来ました。
『重素』と言う物質(架空)にある処理をすると、反重力を持つ。=空を飛ぶ!と言う設定の物語です。
驚くべき発想!!
航空開発のため、兵器開発のため、地球上の重素を掘りまくった結果、重素が抜けて地球が膨張しつづけています。
設定では、東京都豊島区から静岡県浜松市まで約3000km(2013年7月時)
理系大学生が主人公で、これも珍しい感じです。
著者の柞刈さんは、本職が大学に勤める研究者だそうで、SFですがリアリティーがあります。
SFで当たり続き!「柞刈湯葉」氏、注目です!! -
「虚数を微分するのですか」
「そうだよ」
「そんなことをして宇宙が崩壊しないのですか!」
「しないから手を動かす」
怪作「横浜駅SF」の柞刈湯葉による2作目。
>重力をつかさどる「重素」の採掘によって膨張に歯止めがかからなくなった地球。
>東京←→大阪間が5000kmを突破した2013年――。
>会津若松市に生まれ育った湯川航は幼少期からの「とにかく遠くに行きたい」という思いに突き動かされ、遠路はるばる上京して大塚大学理工学部に入学する。
というお話。
役に立たない斜陽学問をしている様は「竜の学校は山の上(九井諒子)」っぽい。
押井守×山田胡瓜の対談http://originalnews.nico/55591で、ドラマを書くためにSF舞台を必要とする物語と、テクノロジーの内実から物語を発想するものと、という対比がされていたけれど、著者柞刈湯葉は完全に後者。
要するにハードSFである、ということでいいと思う。
裏表紙では「平凡な大学生の無謀な挑戦が―」とか「青春SF」とか銘打っているけど、半分くらいは重素工学科でのモラトリアム的学生生活がメイン。
残りは重素文明のシミュレーションで、
航空機は重素で飛ぶので円盤形状になっていたり、大地の膨張で四国が本州から離脱しつつあり地方自治問題が選挙の焦点になってたり、惑星核が反重力を帯びていて地殻の下に地底世界が広がっていたりする。
平叙文で命令するヒロイン(?)の宮原さんがステキ。
重素を使わない「飛行機」を作るにあたって、流体シミュレーションと流体力学の勉強のほうが実機を作るより多く描写されるところも好き。 -
重力操作して空を飛ぶ航空機が主流の世界で、揚力で飛ぶ航空機(いわゆる飛行機)を開発する理工系大学生の話。
理工系大学生の生態がリアルで、ふふっと笑える。 -
これは理系の人が読むと面白いのかなと思った。最後の一文は、将来に向かい一歩を踏み出す若者の思いが出ていた。
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横浜駅SF著者の第二作。20世紀初頭から地球の膨張が始まった世界という設定。福島出身の都内理系大学生の生活記録という体裁の物語。ダラダラ続く話が途中から大きく展開し、一応次回作を期待させる終わり方となる。奇想天外な設定なのだけど、一応筋が通っている状態なのがいちいち面白い。
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突き抜けた設定の世界での、飛び抜けてるとは言えない程度の「普通の」学生の物語。
iある快作。
飄々とテンポの良い会話や、ちょっとシニカルな言葉も素敵。