ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)

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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061455603

感想・レビュー・書評

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  • 初版は1979年という40年以上前の本になりますが、2020年時点で読んでも示唆が多い本でした。オーストラリア外務省勤務からジャーナリストに転身し日本で特派員となり、その後日本に住み続けて日本人論を展開してきたグレゴリー・クラーク氏が、これも当時の日本の論壇の代表でもあった竹村健一氏を聞き役に自説を披露するという内容になっています。

    クラーク氏の主張は明快です。世界には原則関係社会と人間関係社会がある。前者は法律や原則、イデオロギーが優先される社会で、後者は文字通り人間関係が優先される社会です。クラーク氏によれば、先進国のなかで日本は唯一の人間関係社会であって、欧米から見るとルールや原則に一貫性がみられない「後進国」だとなってしまいがちです。しかし実はそうではなく、原則関係社会とは人間性を失いつつある社会、つまり非人間的社会でもあって、ベトナム戦争のような教条主義(ドグマティズム)に陥りやすい。ではなぜ日本だけが人間社会なのか、という問いに対して、クラーク氏は逆質問を投げかけます。つまりなぜ欧米は原則関係社会になってしまったのか、日本はなぜそれを免れているのか、ということで、同氏は太平洋戦争に至るまで日本は外国から領土を侵略されたことがなかったから、という事象に解を求めています。そしてクラーク氏は、日本のもつ人間関係社会は価値があること、ただし100%ウェットな人間関係社会では今後の発展も難しく、ドライな原則関係社会の要素を少しだけ注入するくらいのバランスが最も良い社会であると結論付けています。

    この主張自体は強く共感できましたが、大きな懸念点としては、ドライな要素を注入しすぎた場合に、ウェットな要素を注入すること(バランスを元に戻すこと)は可能なのか、つまりウェット→ドライにはいきやすいが、逆方向は行きづらいのではないか、という懸念です。本書から40年以上の月日が経ちましたが、もしかすると現代の日本社会はクラーク氏が思っていたよりもドライ要素が多くなりすぎているかもしれません。気づきの多い良書でした。

  • オーストラリアの日本研究者G・クラークが日本論を語る。聞き手を務めるのは評論家の竹村健一。

    多くの日本人論は、日本人の特異性を説明しようとして、「タテ社会」や「定住農耕」、「島国」など、さまざまな概念を用いている。だがクラークは、自然的ないし政治的な環境との戦いの中で、日本社会の特殊性が形成されてきたという説明をしている。その環境的条件とは、日本が長く対外戦争やその脅威を経験していないということである。対外戦争がほとんど経験していないがゆえに、日本は確固たる思想に基づいて自己のアイデンティティを保ったり優越性を主張する必要がなかった。日本人の集団的思考形式はこのような条件のもとで維持されたとクラークは主張している。

    巻末にはクラークが英文で発表した「「日本人論」を論ず」の翻訳が付されており、クラークの日本人論のエッセンスが簡潔に提示されている。

  • 本書は、G・クラークが竹村健一を聞き手として日本人のユニークさを語る対談の形をとっており、大変に読みやすい。1979年発行の古い本だが、その論点は重要だと思う。

    著者はいう。日本人のユニークさは、たんにヨーロッパ人と比してだけではなく、インド人や中国人と比しても際立っている。要するに日本人と非日本人という対比がいちばん適切なほどにユニークである。そのユニークさは、日本以外の社会には共通しているが日本にはないものによってしか説明できない。それは外国との戦争である。

    明治維新までの日本は、異民族に侵略され、征服され、虐殺されるというような悲惨な歴史がほとんどなかった。日本人同士の紛争は多く経験しているが、同じ民族同士の戦争なら価値観を変える必要はない。しかし相手が異民族であれば、自民族こそが正義であり、優秀であり、あるいは神に支持されているなどを立証しなければならない。「普遍的な価値観」によって戦いを合理化しなければならないのだ。

    他民族との戦争を通して、部族の神は、自民族だけではなく世界を支配する正義の神となる。武力による戦いとともに、正義の神相互の殺し合い、押し付け合いが行なわれる。社会は、異民族との戦争によってこそイデオロギー的になる。

    ところが日本は、異民族との激しい闘争をほとんど経験してこなかったために、西洋的な意味での神も、イデオロギーも必要としなかった。イデオロギーなしに自然発生的な村とか共同体に安住することができた。西洋人にもそういうレベルはあるが、そこに留まるのではなく、宗教やイデオロギーのよう原理・原則の方が優れていると思っている。「イデオロギーを基盤にした社会こそが進んだ社会であり、そうしないと先進文化は創れない」とどこかで思っている。

    ところが日本は強力な宗教やイデオロギーによる社会の再構築なしに、村的な共同体から逸脱しないで、それをかなり洗練させる形で、大しくしかも安定した、高度な産業社会を作り上げてしまった。ここに日本のユニークさの源泉があるというのだ。

    このような日本人の特質は、ヨーロッパだけではなくアジア大陸の国々、たとえは中国や韓国と比べても際立っているという。中国人や韓国人は、心理的には日本人より欧米人の方にはるかに近い。欧米風のユーモアをよく理解するし、何よりも非常に強く宗教やイデオロギーを求めている。中国人や韓国人は、思想の体系や原則を求めるが、日本人は求めない。

    西欧だけではなく、アジアのほかの国々とも区別される日本人のユニークさは、自然条件だけでは説明できない。日本が稲作中心の文明であったことは重要だが、それが日本文化のユニークさを生んだ主因ではない。韓国も稲作中心だったが、著者がいう日本人のユニークさと共通のユニークさがあるわけではない。結局は、大陸の諸国に比べ、異民族との闘争が極端に少なかったという要因こそが、イデオロギーに拘泥しない日本人のユニークさを作り上げているというのである。

    著者は、日本の社会の素晴らしさの一つとして平等主義を挙げている。日本人の態度のうえにもそれが見られ、その素晴らしさは世界一ではないかという。店に入っても、村に行っても、どこに行っても階級的な差がまったく感じられないというのだ。イデオロギー社会では、こういう平等性が成り立ちにくいという。

    その理由を著者は明確にしているわけではないが、日本に、西欧に見られるような階級差が見られないのは、やはり異民族に征服された経験がないからだろう。その点は、同じ島国でありながらイギリスと好対照をなしている。イギリスの階級差は、明らかに征服民と被征服民の差を基盤としている。

    さて、以上のように著者は、日本人のユニークさの要因を、異民族との闘争のなさだけに求めている。しかし、それも確かにひとつの大切な要因であるが、このひとつの理由だけで日本人のユニークさを論じるのはやはり無理があるだろう。私の考えでは要因は主に三点まとめられると思う。それは以下の通りである。

    (1)狩猟・採集を基本とした縄文文化が、抹殺されずに日本人の心の基層として無自覚のうちにも生き続けている。

    (2)ユーラシアの穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とで言うべき文化を形成し、それが大陸とは違うユニークさを生み出した。

    (3)大陸から適度に離れた位置にある日本は、異民族(とくに遊牧民族)による侵略、強奪、虐殺など悲惨な体験をもたず、また自文化が抹殺される体験ももたなかった。

    これらの三つを主要因として総合的に考察することこそが必要なのである。すなわり縄文的な要素をたぶんに残た農耕文明、しかも牧畜を知らず、遊牧民との接触もなかった農耕文明のユニークさということである。そして、農耕文化が、縄文的な心性をたぶんに残しながら連綿と続くことができた条件が、大陸の異民族による征服などがなかったことなのである。

  • 僕は昔、ワーホリで1年間ニュージーランドで過ごした後帰国してから、日本と世界の国々の比較文化に関する本を文字通り貪り読んだ。そんなふうにして100冊以上は読んだと思うけれど、この小さくて古い無名の本は、その中でもひときわ印象に残った。内容は30年たった今でも示唆と含蓄に富み、しかも対談形式なのでわりと読みやすい。
    G・クラークはイギリス生まれでのちにオーストラリアの外務省に勤務した後、日本へ。最初は、西洋人に典型的な日本に対する蔑視を感じていたというが、やがて、ベトナム戦争に関して、日本が、西洋の国々が陥った失敗を避けて通る様子を見て、その独特の価値観を高く評価するようになったという。多摩大学学長などを歴任。
    比較文化的に日本を扱った名著は多いが、僕が読んだ中でも「菊と刀」「タテ社会の人間関係」「甘えの構造」「日本人とユダヤ人」などと比べても決してひけをとらない高い質を持っている。僕自身はもう10年以上前に読んだ本だが、今でも本棚から取り出してみることがよくある。もっと評価されてしかるべき本で、埋もれた名著、だと言いたい。

  • 定職を持たないことが素晴らしいとする感覚は、日本人には受け入れらるのか。

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