- Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061488793
作品紹介・あらすじ
はるか縄文の昔から、日本列島を深々と抱いてきたブナ・ミズナラの森。その懐で育まれた豊かな野や山や川の幸。稲作以前、人々は大自然との共存関係のなかで生きてきた。衣食住から生活・行動様式まで、日本人の深層に脈々と流れているブナ帯文化を徹底的に足で調べ、掘り起こす。
感想・レビュー・書評
-
ブナ林帯の生産力が高いのは大量の葉や小枝を落として超えた土壌を作るためであり、地力の再生産のために行われた畜産とともに焼畑による農業生産を支えた。稈が飼料となるヒエや短期間で収穫できるソバの作付けは近代まで続いた。縄文中期には人口が増えて焼畑が広がった跡地にアカマツが急増したことや、3〜5倍も生産性が高い稲作が導入された照葉樹林帯との格差が拡大してブナ林帯にも稲作が広がっていった歴史も興味深い。
世界のブナ林
・冷温帯林(ブナ林帯):ブナ、ナラ、カシワ、クヌギ、クリ(以上ブナ科)、トチ、カエデ、シラカバ、ニレ
・ケッペンがブナ気候と名付けた西岸海洋性気候(Cfb)は、農業の土地生産性が高い。
・ブナ林が分布するのは、カナダの南東部から五大湖付近、ニューイングランドからアパラチア山脈、カナダの主要部、アルプス以北の中部から北西ヨーロッパ。
・ブナ林は1年間に1haあたり10トン近い葉や小枝を落とし、肥えた土壌を形成する。
・ブナは、ブタの放牧、食用油や灯油、字を記すための板などとして利用された。
・ヨーロッパでは、ブナ林を伐った跡地にモミやトウヒが植えられ、建築材や薪炭材、セレモニーに使われてきた。
日本のブナ林
・ブナは豪雪に対して強いため、深雪地帯ではブナの純林、太平洋側ではミズナラなどの混合林になっている。高尾山ではイヌブナの林が見られる。
・縄文晩期の東北から北関東・信越地方に発達した亀ヶ岡式文化では、シロザケとサクラマスの漁労が重要だった。アワ・キビ・ヒエ・ソバ・エゴマなどの焼畑耕作が行われるようになった。
・稲作はヒエ・アワ・ソバに比べて土地生産性が3〜5倍以上高いため、照葉樹林帯との地域格差が拡大した。中世には照葉樹林帯で米麦二毛作が発展したことを背景として、奥州藤原氏が滅亡した。鎌倉時代になってから東北地方でも稲作が行われるようになり、江戸中期には日本全土に普及した。
・畑作を主体としたブナ林農耕文化では、地力の再生産のため畜産に力がそそがれた。
農作物と食生活
・ヒエの稈(茎)は他の雑穀の2.5倍にもなるため、牛馬の粗飼料として価値が高かった。1960年代までヒエ7分コメ3分の稗飯が維持されていた。
・ブナ林帯では梅雨明けに山焼き(夏焼き)を行うが、秋までの生育期間が短いために、70日以内で収穫できるソバの作付けが近代に至るまで多かった。救荒作物として多くの命を救ってきた。そば食は焼き餅が普遍的で、手打ちそばが普及したのは江戸初期から。
・エゴマは17世紀初めにナタネの栽培が普及するとともに地位を失った。
・縄文時代の馬は四川馬系の小型馬で、古墳時代に朝鮮半島から蒙古馬系の中型馬が伝播した。中世に蒙古韃靼から輸入した牛馬によって改良された南部馬が高い評価を得てきた。駿馬を生産してきた藩営9牧場の番号が八戸など地名として残る。
山の幸・海の幸
・トチは実が重要な食料だったため伐採が禁止されていたが、戦後は家具材として大量に伐採された。霞が関や神田駿河台の街路樹に用いられている。
・ナメコはブナ、マイタケはミズナラやヤマグリの風倒木や切り株に自生する。エノキダケは杉のおが屑を使って栽培される。照葉樹林帯ではコナラを使ってシイタケを栽培する。
山の伝統技術
・岐阜、長野でカモシカの食害が著しいのは、ヒノキなどの植林が進み、カモシカが食料にしている広葉樹林が少なくなったため。
・ウルシの実は和蝋燭の原料にも用いられたため、栽培が重要視されていた。
ブナ林の役割
・照葉樹林帯の木彫にはヒノキが、東日本ではカツラが用いられている。
・ブナ林帯の二次林では陽樹であるシラカバが卓越するが、木材としての利用価値があまりなく、大部分は薪にされてきた。
・杉は雪に対する抵抗力が強いため、ブナ林帯の日本海側では人工林のほとんどを占める。
・カラマツはどんなやせ地でも生育する陽樹のため、戦後全国的に植林された。中央高地や北関東で見られる。
・アカマツは縄文中期に急増した。人口が増えて広がった焼畑の跡地に、陽樹のアカマツが生えたと考えられる。アカマツは深雪地帯では生育できないが、太平洋側のブナ林帯は適地。樹脂が多いため、松明に用いられた。塩害には弱いため、海岸地帯ではクロマツが分布する。
・木炭は製鉄の燃料として重要な資源であり、中国山地と北上山地は鉄の産地だった。
・水源涵養林は保安林の74%、全森林の24%を占める。詳細をみるコメント0件をすべて表示
市川健夫の作品






この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。





