今こそマルクスを読み返す (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 431
レビュー : 26
  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061490017

作品紹介・あらすじ

マルクスは人間や社会や歴史をどうとらえ、『資本論』で何を語り、近代資本主義社会の未来をどのように予見したのか?今やマルクス主義は本当にもう無効になってしまったのだろうか?20世紀世界の根幹的思想を、独自の視点と平明な言葉で掘り返し、脱近代への発展的継承を試みる。

感想・レビュー・書評

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  • 共産主義社会というと「共同社会(ゲマインシャフト)」のイメージで考え、原始キリスト教団の共産・共餐の共同体を理想化したようなベットリしたものを連想するが、マルクスがそのように考えていたかどうかは疑わしい。有名な「私的所有を再建するわけではないが、資本主義時代の達成を基盤にして、すなわち・・・生産手段の共同占有を基盤にして個体的所有を再建する」という『資本論』のくだりから、「自由人の共同社会(アゾチアチオン)」はゲマインシャフトリッヒではなかったように思われる。先行の空想的社会主義者たちが未来社会の見取り図を詳細に描くほどユートピア的になっていったことを「前車の轍」として、未来の社会像を細かく描くことをマルクスは固く禁欲していた。

    マルクスが資本主義の今日的状態を見通せなかったことは確かだが、その経済理論が間違っていたのではなく、かえって説明可能なものになっている。

    現代は高度成長どころか、浪費的価値破壊のために低成長に抑制されているのであり、厖大な浪費のクッションによる均衡の上に成り立っている。労働力についても同じ。理論上は、浪費・破壊行為を停止すればもっと生活水準は上がる。

    資本の本性ともいえる利潤追求衝動が生産力の上昇を実現したことと、そこに歴史的使命があったこともマルクスは認めるが、そのことが禍いともなり、退場すべきだと主張している。資本の論理に拠ったままでは世界人類が平等に生活水準を確立することができない。それを実現するのが世界革命の考え方であった。

    世界革命が達成されると民族国家の垣根がなくなる。世界単一国家ができるのではなく、国家そのものが死滅する。国家なき世界統一社会が姿を現す。政治そのものが行われなくすむ状態の成立を俟って「眠り込むように」消滅すると予料される。


    <blockquote>学理的・反省的な見地から省察すれば「関係」であるところの事が、当事者の直接的な意識にとっては、「物象」の相で現出しており、この意味において、物象的な姿態に「化して」いると言うのです。 p83
    </blockquote>

    【目次】
    1.マルクスの開いた新しい世界観
     1)人間観をどのように改新したか
     2)社会観をどのように更新したか
     3)歴史観をどのように転轍したか
    2.『資本論』で言いたかったこと
     1)物象化された経済の構造的分析
     2)賃労働者を搾取する機構の暴露
     3)資本主義経済体制の包摂的支配
    3.資本主義の命運と共産主義革命
     1)近代的市民社会像への批判視角
     2)資本主義社会体制の歴史的命運
     3)共産主義未来社会の実践的意想
     補)賃労働制度の止揚と自律者社会

  • 最近衰退の一歩をたどる「マルクス経」をもう一度考え直す一冊。

  • 経済
    哲学

  • ☆まさに、そうかもな

  • とてつもなく難易度の高い本。
    あまりにも有名な人だけれども、
    どうやら国家レベルで都合のいいように使われていたようで
    本当の意味ではなかなか知りえない人かと。

    本当は労働を対価にすることが
    えてして不条理とも取れるかもしれませんね。
    結局のところ、搾取はやまないわけで。
    だけれども、最近はその搾取に異を唱えている人が
    出てきてはいますね。

    後半が見どころかな。
    どうすれば人間は理想の地へ下り立てるのか。
    そこにお金の概念をなくすには
    どうすればいいのか。

    途方もないでしょ?
    でも、この世界で生き抜くためには
    無駄な摩耗は無くすべきなのよね。
    あらゆる面の無知をね。

  • 2017年にマルクスを読み直ししてみた。
    色々な意味で「わかりやすい」。

    とはいえ「歌ってみた」「踊ってみた」みたいなネタのノリでしかない気がした。

  • 名著

  •  270頁の新書でコンパクトな内容だが、難易度が高く濃密。これほど難しい新書、他に知らない。
     終章、国家の止揚(国家の死滅廃絶)まで言及する著者、廣松先生。バリバリの左派ぶりに苦笑。

  • 1989年以降の東欧民主化を経て、1991年にはついに社会主義陣営の盟主たるソ連が崩壊し、事茲に至って社会主義の教祖と崇め奉られたマルクスの権威は地に堕ちた。こうした激動の渦中にあった1990年、著者は『マルクスと歴史の現実』および『今こそマルクスを読み返す』を上梓し、マルクス軽視の風潮に警鐘を鳴らしている。関係主義的世界観と物象化論に定位するマルクスは、物象化によって隠蔽された資本主義経済体制における賃金奴隷制を告発する。それこそが『資本論』の要諦だ。もちろんマルクスも『資本論』執筆過程でいわゆる「修正資本主義」への変容に気付いており、資本主義から共産主義への移行過程、延いては資本主義のアンチテーゼとしての共産主義イメージについても素描の域を出ない。しかし、資本主義が資本主義である限りマルクスによる原理的批判は妥当し、社会主義陣営が自壊した現代世界においても、いかなる未来社会を目指すかは我々自身の課題であろう。

  • アーレントの解説本を3冊読んだ上で『人間の条件』に取り掛かったけれど「どうしてもマルクスが前提知識として必要らしい」と悟り、本書を頼ることにした。

    本書はソ連・東欧が資本主義経済に舵を切った直後の1990年に出版された。20世紀を通して“主流派”であったレーニン主義的解釈を削ぎ落とし、より純粋な形でマルクス思想の“核”を見てみよう、というのが本書のねらいだ。ちなみに、著者によれば、社会主義国家の失敗とマルクス思想の破綻はイコールでは結ばれない。

    第1章では、マルクスが打ち出した新しい「人間観」「社会観」「歴史観」について説明される。

    マルクスは、理性的側面を重視する伝統的な人間観を顛倒させ、「生存のために生産活動を行う動物」としての、より本来的な人間観を基礎に据えた。そして「生活手段の生産=労働」こそ、人間を他の動物から弁別する特徴であるとした。

    またマルクスは、社会が実体的に存在するとする「社会実在論」も、アトム的個人の実在だけを認める「社会唯名論」も斥け、社会を「諸個人が相互に関わり合っている諸関連、諸関係の総体」と定義する。
    そのように定義された社会は、経済の論理に基づく“支配と隷属”に特徴づけられる「市民社会」と、市民社会の階級的利害対立を“調停する”「政治国家」という層をなしている。政治国家は、“市民社会の秩序を維持する”という建前のもとに、市民社会の階級間対立を固定化する傾向をもつ。
    こうした現状を追認しようとする人間一般の傾向もまた社会の特徴の一つとされる。

    マルクスが提示した歴史観は、自然史と人間史を切り離さないというものである。これは人間の生産活動が、自然の制約を受けているということに関係している。
    しかし、人間の歴史を作るのは、やはり自由意志をもった人間である。が、人間の歴史にも一定の法則性がある(ように見える)のはなぜか?それはすべての人間を動かす究極の起動因(=生存のための生産)が存在するから、というのがマルクスの回答だ。

    第2章では『資本論』のエッセンスを概観する。

    マルクスは、商品の価値がその商品の生産に要した労働量の価値(=労働者の生活費)によって決定されるとする「労働価値説」を採った。

    資本家は、賃金を支払って手に入れた生産手段(=労働力)を“所有権”に基づいてフル活用しようとする。結果、労働者は契約以上に酷使されることとなる。ここでは、労働者は自らの「労働」を売るが、資本家は労働者の「労働力」を買う、という不一致が生じている。

    さらに、労働力売買の場においては、買い手である資本家のほうが有利であり、また他方で、労働者は他の労働者との雇用競争にさらされている(のみならず、資本家も他の資本家との競争にさらされているので容易に賃金を上げられない)。結果として労働者は、生きていくために不可避的に資本家にからめとられることとなる(実質的包摂)。

    これらのことから、マルクスは労資関係を「賃金奴隷制」と呼んだ。

    第3章では資本主義から共産主義にどのように移行できるとマルクスが考えていたかが説明される。

    「各人は能力に応じて(労働し)、必要に応じて(給付される)」という新しい消費手段の給付方法の理念型が示されるが、具体的なことはマルクスは述べていないという。
    ただマルクスは、生産手段を国有化しただけでは資本家が国家という法人になっただけで賃金奴隷制は解消されないと考えていた。
    「プロレタリアート独裁」という“過渡期”の必要性を措定せざるを得なかったが、具体的にどのような体制をとるべきかについてもまた、マルクスは何も述べていないという。マルクスはむしろ、貨幣制度の廃止など急進的な制度改革を戒めていたのだそうだ。
    20世紀の社会主義国家の失敗は、1世代ないし2世代で共産主義革命を成し遂げようとしたところと、マルクス自身の理論が貧弱であった(恣意的な解釈を挟む余地が大きい)ところに原因があったのではないか?

    本書を読む前はマルクスに関する知識はほぼゼロだったが、マルクスが展開した思想の概略はつかめたと思う。
    『人間の条件』でつまづいた箇所を再読すると、初回よりも理解できるようになったので一応の目的は果たせたことになる。

    マルクスの思想が現代の資本主義を批判する道具となるのではないかと、密かに期待してもいたのだが、いかんせん本書は古い。現代の資本主義経済をマルクス思想のもとにどのように理解が可能か、という問題については、もっと最近の研究を俟たねばならないのだろう。

    著者には申し訳ないが、著者が共産主義の将来を語れば語るほど空しい気持ちになってしまった。
    むしろ現代の資本主義は、依然として多くの問題を抱えてはいるが、労働法規の発達や福祉制度の充実によって、今さら共産主義を志向するまでもない程度には、一応健全に機能している(マルクスの時代の資本主義の問題をある程度克服している)といえるのだろう、という考えに至った。

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