江戸遊里盛衰記 (講談社現代新書 1224)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061492240

作品紹介・あらすじ

日本の裏面史に閉じ込められた遊女たちの声。暗く湿ったのイメージに隠された事実。北は能代から南は那覇まで、往時の賑わいの痕跡と遊女たちの秘められた物語を掘り起こす歴史紀行。

感想・レビュー・書評

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  • 『色道大鏡』という奇書がある。世は、江戸時代、寛永。著者は藤本箕山(ふじもときざん)。

    1626年に生まれた当時随一の教養人だ。19歳の頃から40年という歳月を費やして、実際し遊里に足を運びまとめあげた。

    現代になぞらえれば、全国の風俗街に足を運び、自ら体験しレポートとしてまとめる
    そんな力業である。つまり、業の深い好事家中の好事家である。

    本書、『江戸遊里盛衰記』はまず、『色道大鏡』の紹介で始まる。
    著者はこの書物をベースにまず問題提起をする。

    それは、都市部ではなく、『色道大鏡』でもかなり漏れている地方遊里にこそ
    歴史に生きた人々に内在する感情や実態を浮き彫りにできるのではないかという考えだ。

    著者の徹底した取材による、紀行文であるが、登場する遊里は遊里とは結びつかない町もあると思う。1958年の売春防止法後は、消え去った場所も多い。

    しかし、今は亡き遊里を旅し、どんな町なのかを自分の目で確かめたくなる。
    そんな行動を促す魅力を本書は持っている。地図を見ながら読むとよりいっそう楽しめる本である。

    また、遊里の在り処に港町や鉱山が多いことは非常に興味深い事実である。
    大漁や貴重鉱物の発掘に経済が沸く場所に遊里ありといってよいだろう。

    裏話も興味深い。
    税金の約2割を遊里からの上納金に頼っていたエリアもある。
    伊藤博文や高杉晋作など維新志士の会合の場になっていたという事実も面白い。

    一方で遊里の負の側面から目を向けようというのは著者の一貫した主張でもある。そもそも、遊女の発祥は実は平家滅亡にあるという説もある。

    つまり、身を持ち崩した官女たちが生き残っていくために春をひさぐ道を選んだというもの。遊里が出来上がった背景にはどうにも這い上がれない貧困があったと著者は強く主張する。

    厳しい現実から目をそらさない人を慮る気持ちに裏打ちされた力作である。

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著者プロフィール

1944年北海道函館市生まれ。立教大学名誉教授。72年横浜市立横浜商業高等学校定時制教諭を皮切りに武蔵中・高等学校、梅光女学院大学(現在梅光大学)、立教大学で教鞭をとった。2010年立教新座中学校・高等学校校長、2015年自由学園最高学部学部長を務めた。主な著書に『新日本古典文学大系74仮名草子集』(共著、岩波書店)、『江戸遊里盛衰記』(講談社現代新書)、『近世大名文芸圏研究』(八木書店)、『新編色道大鏡』(共編、八木書店)、『江戸遊女紀聞』『江戸遊里の記憶』(以上、ゆまに書房)、『時に海を見よ』(双葉文庫)がある。近刊に『生きるために本当に大切なこと』(角川文庫)他がある。

「2023年 『江戸の岡場所 非合法<隠売女>の世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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