ねむり姫の謎: 糸つむぎ部屋の性愛史 (講談社現代新書 1462)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061494626

作品紹介・あらすじ

グリム童話に隠された、糸つむぎ部屋の秘密とは?どんちゃん騒ぎに恋のさや当て、西欧庶民の知られざる風俗を赤裸々に描く。

感想・レビュー・書評

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  • 「ねむり姫」を紐解きながら、ペローとグリムがどう民話を改変したかを解説。改変は当時の世相が色濃く反映されている。さらに、象徴的な「糸つむぎ」について、中世の村人たちの暮らしを見ながら実態を探る。こちらは歴史資料として読み応えがあった。

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    ■ メモ

    ・ねむり姫のルーツは多岐にわたる。
    『ペルセフォレ』『太陽と月とターリア』
    民話想(http://suwa3.web.fc2.com/enkan/minwa/)にも類話が色々載っている。

    ・ペローの改変:キリスト教的倫理観の反映
    グリム兄弟の改変:カルヴァン派の禁欲主義、ブルジョアジーの夢の反映

    ・糸つむぎについて:
    女性の仕事で、かなり面倒なもの。
    「糸つむぎ部屋」=仕事部屋。持ち回りで、夜娘たちに部屋を貸す。娘が集まるということで男性も集まってくる。教会の風紀取締り対象にもなったりする。既婚者はご遠慮ください!
    お酒を飲んでふざけあう、村人の息抜き・一種のお祭り(日常からの逸脱)

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    ■ 疑問点:

    「とげ(つむ)が刺さる」=「性交の暗喩」だそうだが、素直には頷けない。深読みしすぎではないだろうか。

    この本では「糸つむぎ部屋の性愛史」とこの比喩を結び付けている。つまり糸つむぎ部屋でのエロティックが身近だった村人達なら、この比喩にすぐピンとくるはずだ。

    とすれば、例えば p192『農民版ねむり姫』を村娘に聞かせたとして、「つむが刺さって眠ってしまう」に差し掛かったら「やだもう、エッチなんだから!」なんて顔を赤らめる反応が返ってきてもおかしくないと思うのだが、どうもそういう気がしない。
    当時の人からしても、「つむが刺さって眠ってしまう」を聞いて、それをセックスだと受け取る人は稀なのではないか?

    そりゃあたしかに、剣だの棒だの突き刺す物だったら、エロ眼鏡で見れば簡単に男性器と結びつく。鍵と鍵穴にしたってそうだ。
    だから、話者が性的な意味を含めて「つむが刺さる」と語った場合もあるかもしれない。
    が、その部分のテキスト自体にセックスの意味が含まれている、という解釈には首を傾げてしまう。

    『太陽と月とターリア』でも、王がターリアの「愛の果実を味わう」のは眠った後だし、『ペルセフォレ』でも「愛の床を共にする」のは、女性が眠った後だ。
    もっと言えば、これだけはっきり「セックスした」とわかる表現を使っているのに、なぜわざわざ同じテキストで「つむが刺さる」「トゲが刺さる」なんて、やったのかどうかわかりにくい比喩を使う必要があるんだろう。

    共同体における糸つむぎ部屋の役割はとても勉強になったのだが、時にそこがエロティックな男女の出会いの場となるからといって、それとこの解釈が妥当かどうかは、また別じゃないかなあ。

    また、
    「性の場面を排除したのだが、そのモティーフの痕跡は残されている。注意深い読者はそれに気づくであろう。しかし大部分の人は、かぶされたヴェールのなかまで覗かずに、童話の夢のような表面の世界にとどまるのである。」

    この部分は、「上のような比喩に気づかない人は本当の話を楽しめてない」と言われているようで、残念だった。
    “本当に”楽しむために相応の知識が必要だとしたら、おとぎ話って一体誰のものなんだろう?

    白雪姫の「雪の上に3滴血が落ちる」=「月経・妊娠・出産」という比喩。これについては、本当にそうかどうかはおいといて、素晴らしい詩的表現だと思う。

  • ねむり姫はなぜ糸巻棒に刺されて眠るのか、目を覚まして王子様と即恋に落ちて結婚するのはなぜか、という話。
    面白かった。原型の話では眠姦に眠ったまま出産までしてるというぶっ飛んだ事実、暗喩、モチーフと言ってしまえばミもフタもないんだけど、糸つむぎ部屋という当時の習俗の下敷きがなければ理解されえないお話だった。そしてその繋がりゆえにグリム兄弟から徹底的に性の部分を排除されてしまうという。中世ヨーロッパ農村の恋愛と結婚事情、いろんなお下品な風習や歌が載ってて新鮮で楽しかった。

  • 『白雪姫』も『眠れる森の美女』も『いばら姫』もちゃんと読んだことがないので、実体感に欠けるが、この手の類話は「お姫様が紡錘(糸車?)で指を刺して眠りに落ちる」というシナリオになっているらしい。この紡錘が男性の象徴というフロイト的解釈が、本書の趣旨。実際にグリム兄弟によって編纂される前の民話では、なかなか子どもには読ませられない大人の寓話だったようだ。
    おとぎ話から、現実の話に切り替わり「糸紡ぎ部屋」という文化が丁寧に解説される。これは当時の女たちが、紡錘を持って亜麻から糸を紡ぐ作業をする作業部屋のこと。女たちが作業に集うわけだが、若い乙女たちの集団には、必然的に若い男たちも吸い寄せられ、夜になると「糸紡ぎ部屋」という名称以上の意味合いを持つ場所になってしまう。そんな、中世の農村共同体における、おおらかな性倫理の実体が掘り下げられる。
    こうした倫理観も、16世紀にはキリスト教(特にカルヴァン派)により、規制弾圧されていくが、教会の権威程度で、男女の本能というものが簡単には根絶はしない。しかし、産業革命という近代化・工業化で「糸紡ぎ部屋」そのものが無くなってしまったというオチである。

  • 糸つむぎは女性の仕事であり、糸巻き棒は女性のシンボルである。糸つむぎと性愛や結婚と深い関係がある。眠り姫の糸つむぎの場面もその延長線上にある。

  • ダニエル・キイスの小説の道具にもなっている「眠り姫」のお話。
    大人の話が、子ども向けにアレンジされてきた。
    糸つむぎ部屋は男女の出会いの場だったとか、風俗を知るうえでも面白い。「眠り姫」をさらに興味深く読める。

  • ねむり姫やいばら姫の中に溶け込んでいる昔の習俗を推察する。童話は、当時の社会的な背景や童話を記録した人の立場も影響して出来上がっていく。公式に記録に残されていない一般の人の生活は、こうして思い描くことしかできないのでしょう。

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著者プロフィール

1944年香川県生まれ。現在、関西大学名誉教授、ワイマル古典文学研究所、ジーゲン大学留学。ドイツ文化論、比較文化論専攻。
主要著作
『魔女とカルトのドイツ史』(講談社現代新書)、『ナチスと隕石仏像』(集英社新書)、『「笛吹き男」の正体』(筑摩選書)、『図説 ヨーロッパの装飾文様』(河出書房新社)、『現代ドイツを知るための67章』(明石書店、編著)、『ポスト・コロナの文明論』(明石書店)など多数。

「2023年 『ベルリンを知るための52章』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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