- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061495722
作品紹介・あらすじ
ユダヤ人はなぜ迫害され祖国を追われたのか。
「キリスト殺し」の汚名を着せられ、その証人として「生かさず、殺さず」の運命を背負わされたユダヤ人の歴史とは。古代ローマ時代の貴重な資料に基づいて検証。
離散、放浪、迫害そして……「悲劇の原点」がここにある!
感想・レビュー・書評
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「ユダヤ人とローマ帝国、古代キリスト教会との関連を辿ることによって、古代社会における反ユダヤ思想の形成過程を明らかにしようとするもの」(p.3)で、まさに「『古代を通して現代を』『現代を通して古代を』考察する」(p.231)ためのもの。
反ユダヤ思想というと、ナチズムとホロコーストの話を結構読んだ気がするが、そもそも何故そういった思想が出てくるのかということをきちんと知れた点で、有意義だった。ディアスポラが始まって、「他の諸民族と接するようになってから、反ユダヤ的な言動が生まれていった」(p.207)と言われ、そうすると紀元前5世紀とか6世紀とか、とても古い時代にさかのぼる話だ。で、色々あるけど、結局読んで思ったのは「異質なモノの排除」という、その1点に尽きると思う。特に「割礼」とか、確かにそれをやらない文化圏の人からすると、異質だ。(割礼の「実用的・倫理的根拠」(p.127)というのがpp.127-8に書いてあって、なんか納得してしまったけれど。)そこに「初代教会の反ユダヤ思想」(p.136)という裏付けのもとに、「キリスト殺しの下手人」とされ、反ユダヤ感情を高ぶらせるというプロセスがあった。(実際は「イエスの死刑を裁判により決定したのも、それを実施したのもローマ側」(p.133)で、そもそも「ユダヤ人の権威である長老議会は死刑執行権を所有していなかった」(同)ということで、とんだ責任転嫁だ。さらに「この責任転嫁のため、福音書には多くの事実無根の記述が挿入されたといわれる」(同)らしく、それが本当ならだいぶタチが悪い。悪質なイジメという感じ。)
さらに、離散の民であり差別されるという背景があるので、「弱い不安定な状況、立場にあるがゆえに、その時々の支配権力と上下関係で結びつき、生き方の安定を求めていた例は多い。そうしたユダヤ人の処世術は、ややもすると他の民衆の憎悪の対象となり、迫害の原因になった」(p.155)ということで、やっぱり異質な人たちがうまくやっている、というのが癪に障るという人たちはたくさんいるのだろうと思う。
ということで、「ナチによるユダヤ人迫害の思想的裏付けの多くが過去の事実に立脚していることを知るなら、多かれ少なかれローマ時代末期に見られたキリスト教徒の思想と行動にも由来しているといわざるをえない」(p.182)ということで、ナチが新たにああいった思考や行動を生み出した訳ではないということが、よく分かった。
ただ一貫して排除され続けられていた訳ではなく、保護されていた時代もあることも分かった。ただそれだって「単なる保護ではなく、アウグスティヌスの思想を基本にした冷酷な意味の保護」(p.227)であったらしいが、その辺のことがp.203にも書いてあるが、イマイチよく分からなかったので、今後勉強する必要がある。
最後に、個人的に気になったところのメモ。高校で倫理を勉強した時に知ったが、もともとは「キリストは待望された救世主ではあっても、父なる神は同一」(p.113)ということで、ユダヤ教の唯一神ヤハヴェとキリスト教の神は同じですよ、ということを、もっと多くの人が知るべきではないかと思う。「イエスをメシアとする使徒達が、日々神殿に参拝していた」(同)という事実もあるらしい。
英語を勉強するとout-Herodという動詞があって「ヘロデ王より残虐である」ということ、というのは習うが、ヘロデ王はどんな政治をして、どう残虐だったかということが詳しく書いてあるp.54以降が面白かった。「ユダヤの王として彼が民の支持を得ていなかった」(p.54)り、そして晩年は「体が腐って四肢が硬直するという恐ろしい病気」(p.58)を患ったりして、その過程で親族や妻子を次々に殺していったらしい。
ということで、なかなか世界史の古代を勉強したことがなかったので、ローマの歴史を勉強する意味でも良い本だった。できれば年表とかを付けて欲しかった。(18/12/17)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【ローマ帝国との関係】
セレウコス朝等に対抗するためローマ帝国はユダヤ人勢力と長年同盟関係にあり、ユダヤ人の信教を保証してきた。キリスト教が国教になっても安息日の遵守、神殿税を集める権利、シナゴーグの国家による保護を表明し、異教の儀式、皇帝礼拝は強制されなかった。(皇帝によってはヘレニズム文化に統合しようとしたが) 当時の状況としてキリスト教が国教になってもギリシャ神を信仰する人は少なからずいた。
キリスト教教会の方が過激で教会法ではユダヤ人との関わりを徹底的に断ち切ろうとする。
【キリスト教との関係】
初期のキリスト教はユダヤ教の律法を守りユダヤ人以外の布教は行っておらず、ユダヤ教の律法を守るキリスト教ユダヤ人もいた。しかしユダヤ人以外も入信するようになり割礼をさせるかで揉めた。これはユダヤ人以外に門戸を開くかという問題と同義であり、討議の結果として救いはイスラエル民族に加わる事で得られるのではなくイエスの恩寵により得られると合意が出来た。
そして次第にユダヤ教的な要素を排除する方向に進み、キリストを殺した民族としてユダヤ人全体が悪者となっていった。紀元1世紀の初代教会で既に反ユダヤ的な記述が見られる。
一方でユダヤ教のみがキリスト教教会の迫害をうけた訳ではなくキリスト教少数派やギリシャ神を信仰する多神教も排斥され、追放されている。 -
OT11a
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(「BOOK」データベースより)amazon
ユダヤ人はなぜ放浪の民となったのか。ホロコーストにまで至る民族の悲劇的な運命を決定づけたローマ皇帝と古代キリスト教会指導者達の意図とは。 -
ユダヤ人とローマ帝国の対立を理解できる。宗教の知識がなくても、ある程度読め、面白かった。
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ユダヤ迫害の歴史についてその源流を探るために古代ローマ時代まで遡り、その時点から既にマイノリティとして扱われ、以後キリスト教が成立してからも世俗権力の寛容と不寛容の間を揺れ動きながら、着実にマイノリティの立場を確立していった経緯をまとめている。
読んで改めて思ったのは、ユダヤ人というのは血縁的な民族ではなく、割礼や戒律、選民思想に代表される宗教的慣習に基づいた宗教集団であり、また世界各地に分散しながらも周囲と溶け込まず排他的な生き方を敢えて選ぶというライフモデル集団でもあるのだなということ。
だから、どれだけマイノリティとして迫害されようとも、そんな独自の生活にむしろ憧れを感じる人を魅了して取り込むことで現代まで生き残ったのかもしれない。もしかするとそうやって敢えてマイノリティを求める「ユダヤ的生き様」は、人が持ちうる性向の一つとしてどの地域・民族にでもありうるものなのかもしれない。
ただそう考えると、既に宗教的には世俗化されて、また父親がイスラエル国籍であることを条件とする現代イスラエル国民=ユダヤ人なんだろうか?という疑問も改めて感じた。
まあ、あのアラブの真っ只中にありながら(そして、アメリカという後ろ盾を上手く利用しながら)、排他的に孤軍奮闘するというイスラエルの生き様こそが、まさにユダヤ的なのかなといえば、それはそれで納得できる気もした。
ちなみにこの本については、いろんな文献や法典を参照しながらも淡々と年代を追っている印象があり、また中世や近代の歴史をすっ飛ばして迫害をナチと結びつけたりしていて、ちょっと散漫な印象を受けた。 -
[ 内容 ]
ユダヤ人はなぜ放浪の民となったのか。
ホロコーストにまで至る民族の悲劇的な運命を決定づけたローマ皇帝と古代キリスト教会指導者達の意図とは。
[ 目次 ]
第1章 前史―ユダヤ民族と古代社会
第2章 ローマ帝国への追従と抵抗
第3章 初代教会の発展とユダヤ人
第4章 古代末期ローマ帝国の対ユダヤ人政策
第5章 古代における反ユダヤ思想の形成
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
世界史で習うとユダヤ人ってナチスドイツのホロコーストとかでしか出てこない。だからそういうところからのイメージしか持ってなかった。
でもこの本を読んで、そこまでのもっと古い歴史を知りました。 -
読了:2010/04/14 図書館
大澤武男の作品





