民族とは何か (講談社現代新書 1579)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061495791

作品紹介・あらすじ

なぜ「民族」が地球上に成立し、しかも現代世界を読み解く上で欠かせない要素なのか。聖書の世界からヨーロッパの成立、現在の紛争までを明確に見通す。

感想・レビュー・書評

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  • 世界が直面している民族をめぐる問題の根源に、思想史的ないし歴史的な観点から切り込んだ本です。

    著者はまず、ケドゥリー、ゲルナー、アンダーソン、スミスらの民族主義についての考察を簡単に紹介し、しだいに民族主義の現実性を認めそれを内側から理解しようとする立場へとシフトしていく思想史の大きな潮流を描きます。次にウォーラーステインのシステム論的な立場からの議論が紹介されます。彼は、資本主義という世界経済システムの内での国家どうしの関係から民族意識の形成を説明しようとしました。著者は、こうしたウォーラーステインの議論が、16世紀ヨーロッパという時代的にも地域的にも限定された範囲でのみ妥当性を持ちうるものだと指摘しつつも、より歴史的な範囲を広げることで、民族主義の諸相に迫ろうとします。

    こうして歴史的な考察へと議論の舞台は移り、ヘブライ人やドイツ人における民族意識の形成についての考察がおこなわれることになります。ヘブライ人の選民思想には、諸民族から成る世界という発想が含まれており、それゆえ民族意識の範型となりえたとされます。またドイツ人も、隣国フランスの革命やナポレオンの台頭といった状況に対応する中で、民族意識が形成されていったことが明らかにされます。さらに、20世紀におけるさまざまな民族問題や、近代日本における国民国家の形成にまで、著者の議論は及んでいきます。

    萱野稔人の国家論や加藤典洋の敗戦後論などの妥当性を考えるための、思想史的な背景について知ることができたという意味で、個人的にはたいへん勉強になりました。

  • 私がこれを書いている今この時においても、世界のどこかで「民族」間の対立による戦闘が起こっているが、本書では、元共同通信記者が、「民族」とは何かを明らかにしようとしている。
    本書で著者は、
    ◆「民族=nation」という概念は、国籍を持った集団としての「国民=nationality」はもとより、生物学的な人種、血縁や地縁で結びついた「種族=ethnicity」とも違うもので、それは「事実」ではなく、歴史的に形成された「観念」である。然るに、nation-stateとは「国民国家」ではなく「民族国家」と訳されるべきものである。
    ◆「民族」という概念が歴史に登場したのは、宗教改革においてローマ教会と争った英国が、自らを「選ばれた民」と考えたヘブライ人の作った古代イスラエルを範例として、「民族国家」という新しい国家モデルを誕生させたときであり、それまでは、個々人には、世界帝国と血縁や地縁で結びついた種族という概念しかなく、自分たちを「民族」として意識することはなかった。
    ◆ここにおいて「民族」という概念には、1.世界は複数の政治社会によって構成され、2.そうした社会は競争するライバル関係にあり、3.その中で自分たちの社会は別格の地位を占めており、4.他の社会とのライバル関係が問題である限り自分たちの社会の構成員は地位と資格において全員が平等であるという認識が含まれる。
    ◆「民族国家」となった英国が世界を圧倒する国家となったことから、「民族」が近代世界のキーワードとなり、20世紀には、第一次大戦後のウィルソンによる「民族自決」の提唱、第二次大戦後のアジア・中東諸国の独立、1960年代のアフリカ諸国の独立、そして1991年のソ連崩壊による旧ソ連邦共和国の独立が続き、「民族国家」モデルが世界に広まった。
    ◆日本は未だ「民族国家」になれずにいる。明治の開国も太平洋戦争の敗戦も日本人を民族とするきっかけとはなり得たが、実際には、前者は明治維新というクーデターによってその機会を逸し、後者については、米国が準備した憲法を未だに戴き続け、人民の総意を表現する国家となっていないためである。
    ◆今日、未だ世界帝国の面影を残す中国、他宗教・種族・言語のインド、イスラム世界等、「民族国家」モデルとは一致しない国もあるとはいえ、「民族国家」が国家形態の普遍的なスタンダードとなる過程が完了しつつあるのは間違いない。しかし、その瞬間に、世界は民族間の紛争や民族国家内の種族集団による分離独立運動に引き裂かれ始めているのは、「自分たちの社会の構成員は地位と資格において全員が平等である」という「民族」の概念の大原則が崩れつつあることが一因である。
    と述べている。
    緒方貞子氏は『緒方貞子~難民支援の現場から』の中で、「「ある特定の社会集団が非常に虐げられて、希望がない」という状況が、紛争が起きる根本的な原因」と語っているが、21世紀に生きる我々は、解決不可能にも見える「民族」間の対立を乗り越えて行けるのだろうか。
    (2008年6月了)

  • 古本ワゴンでいつぞや買ったまま積ん読だったのを読んで見た。「民族の概念はイギリス宗教改革から誕生した」ってのはおもしろい。いや、オイラが知らんだけで常識なのかも知れんけど、オイラは知らんかった。で、フランス革命の混沌、ドイツでは「ドイツ国家」という受け皿がなくて「ドイツ民族」が成立しなかった、ってのも。そういやナチスは「民族」ではなくて「人種」か、とか。かなり難しいし、オイラも二度読んでもどれくらい理解できてるかはアヤフヤだけど、理解できた範囲はおもしろい。ただ、最後の日本、東アジアについての章は蛇足のような気が。

  • 【民族の定義を考えなおす】
    世界がグローバル化すると国家間の国境がなくなり、世界が一つになるかと思えば、逆に国家間の対立は強くなっている。

    国家は国民をより一国家人として認識するよう要求し、人々は「国籍なんて関係ないよ〜」と表面的には表明しながらも、何かあれば国家にすがろうとする。

    今後インターネットがさらに加速して普及する中で、世界は「民族」をどのように捉えるようになるのだろうか。

    国家は国民に対して、平等を提供する存在として君臨している。国民は普段それをあまり意識していないが、国家間の緊張が高まると、つまり国家の危機が近づくと、それを意識するようになる。

    「国家がなくなれば、自分の権利が危ない」

    そう思う国民は、国家の存続を願い、それを脅かす敵国に対して戦いを挑もうとするだろう。

    人々にとって国家が不可欠な存在であるかぎり、民族紛争は終わることがない。

  • [ 内容 ]
    なぜ「民族」が地球上に成立し、しかも現代世界を読み解く上で欠かせない要素なのか。聖書の世界からヨーロッパの成立、現在の紛争までを明確に見通す。

    [ 目次 ]
    第1章 「民族」という厄介な言葉
    第2章 民族と民族主義についてのさまざまな見解
    第3章 最初の民族国家―英国
    第4章 ヘブライ人―範例的民族
    第5章 民族になることの困難さ―フランス革命
    第6章 民族になることの不可能性―ドイツの場合
    第7章 二十世紀―民族の世紀
    第8章 ロゴスとミメーシス
    第9章 日本人は民族たりうるか

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    [ 参考となる書評 ]

  • 1年生の特に購入したが、未だにレポート書くときに大切にしている本(笑)

  • 歴史や思想史の前提知識がないと読み進めるのがキツイ・・・---2008.11.12

  • 民族ならびに国家という概念の成立過程を丹念にひもといている。古代ヘブライ人の出エジプト、イギリス宗教改革、フランス革命、ドイツ成立、ロシア革命、バルカン半島の歴史、イスラム国家の成立、etc。この薄さに良くぞこれだけの内容をつめこんだと感心。非常に参考になった。

  • 歴史的知識や宗教的背景を知らないと読み進めるのは大変だけど,非常に考えさせられる本です。「日本人は民族たりうるか?」最後にこの問いを突きつけられると,与えられたものに満足し,何も考えずに生きてきたことを痛感させられます。

  • 民族に関する様々な論を取り上げ、その意味に迫っていく。第3章「日本人は民族たりうるか」は特に勉強になった

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著者プロフィール

1944年東京生まれ。通信社勤務を経て、著作活動にはいる。
プラトン、シェイクスピア、ルソーらの根底的な読みなおしをとおして、独自の西欧近代主義批判を構築。19世紀以来われわれを呪縛しつづける進化イデオロギー(マルクス主義もそのひとつ)の克服、歴史をつくってきたさまざまな思想の役割を明らかにすることライフワークとしている。
〈著書〉『プラトンと資本主義』(1982、北斗書房、品切中)、『ハムレットの方へ』(1983、北斗出版)、『資本主義』(1985、影書房)、『野蛮としてのイエ社会』(1987、お茶の水書房、品切中)、『世紀転位の思想』(1992、新評論)、『左翼の滅び方について』(1992、窓社)、『国境なき政治経済学へ』(1994、社会思想社)、『教育、死と抗う生命』(1995、太郎次郎社)、『歴史の学び方について』(1997、窓社)、『みんなのための教育改革ーきょういく基本法からの再出発』(2000、太郎次郎社)、ほか。

「2000年 『みんなのための教育改革』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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