<ほんとうの自分>のつくり方 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061495869

作品紹介・あらすじ

「自分って何?」の答えは、聞き手に自己を物語る中で形成される。〈自分〉を見つめ直し、たしかな生き方をつかむ方法を説く。

〈自分〉は発見されるのではない。
それは聞き手との語り合いの中からつくられる――
人生の意味というものは、どこかに転がっていたり、埋もれていたりするものを、そのまま拾ったり掘り起こしたりして見つかるといった類のものではない。自分なりの解釈のもとに自己を語り、聞き手の解釈を理解する努力をし、その聞き手の理解の枠組みからもわかってもらえるように工夫しながら語り直し、再び聞き手の反応を確認する。こういった作業の積み重ねの中で、自分が経験してきたことがらの意味が、ひいては人生の意味が、知らず知らずのうちに生み出されているのである。――本書より

感想・レビュー・書評

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  • 2016.8.5
    現象学に並ぶポストモダンの思想である物語論から、自己のアイデンティティを考えた本である。私とは何か、私はいかに生きていけばいいかという問いは、青年期におけるメインテーマであるように思う。特に、就職を控えた大学生などは、自らを省みて、自分とは何なのか、何がしたいのかという問いと向き合わずにはいられないのではないか。そのような方にオススメできる本である。自分とは見つけるのではない、作るのである。そして自分とは物語である。私とは何者かという物語を自分に与えることができるということが、アイデンティティのある人間だということになるだろう。物語には、筋のとおった文脈性と同様に他者による承認が必要不可欠である。他者の承認だけが自らの物語に確たる根拠を与えるとは思わない(物語とは情報の選択と配列であり、その際選択される情報が自らの経験に即していればいるほど、自らの過去が現在の自分の物語の根拠になる)が、しかし他者の承認が自らの物語に根拠を与えてくれる大きな要因であることはとても重要なことであり、また現代の共同体の崩壊した個人主義の時代においてはその機能はうまく果たせず、多くの若者が自己同一性不安を抱えているのではないだろうか。他者の承認の必要性について特に印象深かったことは、ただ聞くだけで相手の物語の再構築に貢献できるという点である。物語とは、語られるその瞬間に作られるものである。よく、人に話すことで自分はこんなことも考えているんだと知れた、という経験をすることがあるだろう。まさにそういうことで、相手に理解してもらうために相手のものの見方を踏まえた上で自己の物語を語ることが、自分の物語に新たな視点を組み入れ、より充実した物語へとなるのである。物語論をこのような自己論として考えたとき、それは、私の作り方、信念の作り方、確信の作り方として非常に参考になるものではないだろうかと思った。この本はややライトなので、もっと学問的にも学んでいきたいと思う。

  • 自己物語でアイデンティティを確立させよう。

    他人とのコミュニケーションで自己物語を書き換えることができる、と。

    人生意味というものは、どこかに転がっていたり、埋もれたりするものを、そのまま拾ったり、掘り起こしたりして見つかるといった類のものではない。自分なりの解釈のもとに自己を語り、聞き手の解釈を理解する努力をし、その聞き手の理解の枠組みからもわかってもらえるように工夫しながら語り直し、再び聞き手の反応を確認する。こういった作業の積み重ねの中で、自分が経験してきたことがらの意味が、ひいては人生の意味が知らず知らずのうちに生み出されているのである

  • 「自分って何?」の答えは、聞き手に自己を物語る中で形成される。

  • 48 苦心して独自に構築されたアイデンティティも、足場のない浮遊感からくる不安を和らげ、安心をもたらしてくれるものとなるには、他者から承認されたもの、自分にとって意味のある他者から理解され、社会的に価値を認められるものでなければならない。
    49 自分は発見されるのではなく創造される
    50 自分はどんな物語筋を好むのか。それがわかれば、その道筋に沿って自己の様々な経験を並べることで、自分にとって納得のいく自己物語を構築していくことができる。
    61 伝統による縛りから自由になった現代人が、引き換えに失ったのが、心の安定。社会心理学者のフロム「自由からの逃走」
    103 大切なのは、身近な人たちとの語り合いを十分に経験することを通して、自己の体験を社会化するための語り方を体得することである。
    121 日本の母親は我が子に素直さ、従順さを期待する傾向、アメリカの母親は自己主張性や指導性を期待する傾向。
    131 人との関わりがスムーズに行かず、教室に入れなくなるケース。講義が始まれば先生の方を黙って向いていればいいから気が楽だが、先生が来るまでの数分から10分が窮屈で胸が苦しくなって、どうにも落ち着かない。
    175 いつもへらへら、人のご機嫌をとるような態度が気に入らないと言われる。たしかに自分は主張が苦手で、そもそも主張したいことなどなくて、人に従っていた方がいいと思っている。しかし主体性のない自分などというネガティヴなアイデンティティを受け入れるわけにいかない。説明が必要だ。生育史を引っ張り出すと、*母親が自己主張の強い人で、構ってちゃん。父親は価値観押し付け型で、こちらの主張に耳を貸さない人。人の悪口では盛りあがるが、いつも噛み合わないところがあって周囲を振り回すふたり。それで自分が強く主張しないほうが世の中丸く収まるという諦観を身につけた。* 自己主張しても結局誰のためにもならないし、みんなが気持ちよく過ごせるように、自分はできるだけ自己主張を抑えて、人と人をうまくつなぐような、潤滑油みたいな存在になりたいと子供心に思っていた。といった説明はどうか。
    そうしてアイデンティティが定まると、それにふさわしい行動が選択されるようになる。以前はただの臆病や気の弱さから出ていた行動や、単なるお世辞が目に見えて減る。代わって、心からの思いやりや、調整役的な行動に精を出すようになる。態度や行動に1本筋が通ってくる。
    212 大切なのは、自分はこんな自己物語の主人公でいたいという思いを再確認すること。それに沿った語りができるように、聞き手としてふさわしい相手を選ぶことなのである。

  • 自分を語ることによって
    人生に意味が見出される

  • 自己物語というキーワードを使って、
    自分のアイデンティティの獲得といったことについて述べた作品。
    確かにどこか自己物語を作ってるところは誰も当然あるだろう。
    自分のキャラクターというものを使って、物事を適当に推し進めたり、
    流したりしてコミュニケーションをすることが自分も多い。
    それを物語に呼応する形で文脈という言葉を使って説明したりする。
    そうすることで確かにわかりやすい著書になっている。
    人格形成において、他者との関わりの大切さを
    そこからさらに掘り下げていく過程もわかりやすい。
    ただ、全体的にわかりきっていることを多く述べている印象もあり、
    何かタメになったという部分は少なかった気がする。

  • 人によって自分の説明を変えろ
    そうすると自分の設定が変わっていっていいかも。
    みたいな本。でも難しいなぁ。
    腐ってる人間は自分と向き合うことも辛いし人と関わることも難しい。

  • キャリアカウンセリングにおいて、
    一緒にクライアントと探すものはなんだろうか、という疑問から読んでみた。


    就活どうしたら上手く行くだろう、とか、進路どうしたらいいだろう、とか、色々なレベルの悩みはあるけれど、大元は
    「自分の人生は何なのだろう」という大いなる不安から来ている。

    その不安は現在大きくなるばかり。逃れるために、メールやインターネット、音楽に逃げ、自分自身から遠ざかろうとしている。

    この不安が大きくなった背景として、伝統的な価値観が否定され、「自由」という枠組みを与えられた世の中にある。
    エーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」にあるように、「自由」の中では、信じるべき軸がなくなり、頼るものがない。

    そのため、自分のこれまでの経験が、バラバラの機能不全の状態に陥ってしまっている。

    カウンセリングは、この散らばった経験を、納得の行く形(ストーリー)に組み立てていく作業である。
    人は、この物語的文脈を通して、初めて現実と接することができる。世の中のバラバラな情報を、自分にとって意味のある世界に変えることができるからだ。

    自分らしさがあるということは、「自己物語的文脈がある」ということ。カウンセリングは、この支援である。

    このように榎本さんは説明している。


    社会と自分を「自己物語」で繋ぐ、という榎本の考えは納得が行く。
    キャリア支援においても、過去を知り、過去の文脈から、自分の価値観を知り、社会の価値観とすりあわせる作業をしてくからだ。


    ただこの物語レベルをどこまで求める必要があるかは改めて考えていかなくちゃいけないと思う。

    何か社会活動を行なってきた学生はまだしも、
    その活動を積極的におこなっていない学生にまで、この物語を創りだすことを求めすぎているような気がする。


    必死に、ウソの自己物語を創り、その自己物語で、あたかもその人物すべてを理解できると思い込んでいるこの就職活動システム。

    うその化かし合いには参戦したくない。

  • 以前、ある本で、男はストーリーが好き、自分がヒーローになりたい的な話を読んだことがあったが、それが男に限らず人間一般にある話しであるということをこの本を読んで気付いた。

    そうしたストーリーを作る上で、聞き手の果たす役割について大きく認識し、そういった意味で聞き手の役割の重要性を再認識した。

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著者プロフィール

榎本 博明(えのもと・ひろあき):1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。心理学博士。川村短期大学講師、 カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、現在MP人間科学研究所代表。産業能率大学兼任講師。著書に『〈自分らしさ〉って何だろう?』『「対人不安」って何だろう?』『「さみしさ」の力』(ちくまプリマ―新書)など。

「2023年 『勉強ができる子は何が違うのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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