世界史とヨーロッパ (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061496873

作品紹介・あらすじ

キリスト教の呪縛、オリエンタリズム、国民主義的歴史、世界システム論……「歴史」はどう書き変えられたか!? 「世界史」はどのように創られたのか。キリスト教的歴史観の成立と変遷、国民主義的歴史の誕生など、西欧的世界観・歴史観を根本から考える。(講談社現代新書)

感想・レビュー・書評

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  • 著者の岡崎勝世氏は、ドイツ近代思想史を専門とする歴史学者。
    本書は、E.H.カーが歴史学の古典『歴史とは何か』で提起する「歴史とは現在と過去との対話である」という考えに基づき、ヨーロッパにおいて、その時代ごとの「現在」がどのように変化し、その結果、「現在」から行われる「過去」への問いかけと解答がどのように変化したのか、即ち、「歴史はどのように書き換えられてきたのか」について、古代から近代まで時代順に追究したものである。
    その内容は概ね以下の通りである。
    ◆古代・・・古代ギリシア人、古代ローマ人は、世界を、自由な市民(真の人間)の住むヨーロッパ、一段劣った人間の住むアジア・アフリカ、怪物たちの住むその外側の地域という「古代的な三重構造の世界」と捉え、時間を、同じことが繰り返す「円環的時間」と考えていた。そして、古代の歴史記述には、①同時代の政治史である、②実用性を目的としている、③一定の科学性は持つものの、方法的限界、歴史を見る目の限界を伴っている、という特徴があった。
    ◆中世・・・アウグスティヌスが総括したキリスト教的発想が支配し、歴史の始点はアダムとエヴァ、終点は最後の審判後の神の国の実現で、その始点と終点の間の期間が現実の人類史であり、それは直線的かつ発展的過程の「ベクトル的時間」であると考えられた(救済史観)。この聖書に直接基づくキリスト教的世界史は「普遍史」と呼べるものである。世界は、キリスト教徒=選民の住む地域、その外の異教徒の住む地域、更にその外の怪物的人間の住む地域という「中世的な三重構造の世界」と考えられた。
    ◆近世・・・宗教改革に伴うプロテスタント的普遍史の登場によりカトリック的時間との対立が始まったこと、大航海時代がもたらした地理的世界観の変化や新たに現れた他地域の民族(特に中国)の歴史などが絡み、普遍史は危機の時代を迎えた。
    ◆啓蒙主義の時代・・・科学改革に伴い、時間の概念がそれまでの「ベクトル的時間」から、始点も終点もなく、過去へも未来へも無限に伸びる「絶対的(直線的)時間」に転換した。神ではなく、人間精神(人間理性)が法則的進歩をもたらすとする「進歩史観」に基づく、世俗的な「文化史的世界史」が生まれた。ヨーロッパと遜色ない文明を持つ中国については、「自由」を基礎とするヨーロッパと異なり、「隷属」が支配する停滞した世界とすることにより、進歩史観の上では説明をした。
    ◆近代・・・「歴史主義的発展段階論」に基づく「科学的世界史」が生まれ、先史時代の発見、オリエント・エーゲ文明の発見(古代像の明確化)、中世の自立などにより、19世紀西欧的世界史が成立した。それは、発展を実現したヨーロッパ、古代に停滞するアジア、未開・野蛮に停滞するアフリカとする「近代的な三重構造の世界」像に基づき、アジア・アフリカに対する「文明化の使命」を掲げるものでもあった。
    そして、1970年代からは、戦後世界が転換し、地球規模での多元化と一体化の同時進行という状態にあり、国民国家を基礎とした19世紀的歴史学の克服が進んでいる、と結んでいる。
    良くも悪くも、過去の世界史記述の中心となり、かつ、今後の世界の行く末(将来的な歴史)に大きな影響力を持つヨーロッパ(の文化・人々)の歴史の考え方を知る上で、有用な一冊と思う。
    (2017年6月了)

  • ヨーロッパの歴史観の変化がわかってとても勉強になりました。当たり前ですが世界史は時代によって変わる……。

  • 先ほど読み終えたのだが画像ファイルを調べたところ再読であることを知った。完全に記憶から欠落している。3年前に読んでいた。岡田英弘と岡崎勝世に外れはない。どれを読んでも新しい発見がある。
    https://sessendo.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

  • OK2a

  • 本著は一般的な世界史の解説書ではなく、「歴史学の歴史」ともいうべきもので、ヨーロッパ世界における各時代においてどのような歴史観が支配的であったのかについて時代を追いながら検証していく内容となっています。
    我々が「歴史」というものを考える場合、ついつい現在を起点として過去を振り返るという態度に終始してしまいがちですが、その起点たる「現在」も数十年、数百年経てば「歴史」の一部になっていくわけです。
    そんなこと考えてみれば当たり前なことなんだけど、けっこう見失いがちな視点でもあります。
    例えば21世紀初頭に生きる我々の目から見た「古代ギリシャ時代」の捉え方と、古代、中世、近代に生きた人々の目から見た「古代ギリシャ時代」の見え方は各々まったく違ったものであったはず。
    各々の時代における「歴史観の世界観的基礎」および「歴史学・世界史象の特質」が紐解かれていきます。

    かつて「普遍史」が支配的だった時代、歴史は聖書の世界と同一のものでした。
    アダムとイブやノアの方舟は、歴史上の事実として捉えられていたわけです。
    ところが、次第に中国やエジプトには聖書の時代よりも古い文明が存在した事実が分かるようになるに従って、近代以前のヨーロッパの歴史家たちは、それらの事実を「普遍史」との間で如何に整合性をとって組み込むかについて一方ならぬ苦心をしたということです。
    今から考えると滑稽なことですが、現代の我々が常識だと考えている科学的歴史観がけっして普遍的なものではなかったことを示すいい例だと思います。
    世界観・歴史観というものを客観的な観点で見直すよい機会を与えてくれる一冊です。

  • ヨーロッパを中心とした世界史の解説は中々に面白かった。
    [more]
    この本を読むまで『暦』と『紀元』がイコールではない事に気が付かなかった。解説本で当たり前に西暦年月日と書いてあるものだから勘違いしていたみたいだ。年月日の『暦』はともかく、西暦は18世紀になってから決まった事を過去に適用しているだけなんだよね。
    中世ヨーロッパの普遍史が聖書に書かれていた創成神話を基にできていたという事には驚いたな。日本でいえば、日本神話に書かれていた事を歴史の一部とするという事になるのかな?
    現代の歴史観で歴史を学んだ者としては想像もできない話だ。解釈の仕方次第でいくらでも揺らぐものを歴史とは捉えられないな。
    逆にいえば、現代でもキリスト教圏における聖書の影響はかなり強いという事かな?

  • ●世界の人々、主にヨーロッパの人々がどのように世界を、歴史を見ていたのかを知るのは興味深い。

  • 第1章 ヨーロッパ古代の世界史記述
    第1節 歴史観の世界観的基礎
    第2節 古代的歴史学・世界史像の特質
    第2章 ヨーロッパ中世のキリスト教的世界史記述
    第1節 歴史観の世界観的基礎
    第2節 中世的歴史学・世界史像の特質
    第3章 ヨーロッパ近世の世界史記述
    第1節 歴史観の世界観的基礎の変化
    第2節 プロテスタント的普遍史の発生と年代学論争
    第4章 啓蒙主義の時代
    第1節 歴史観の世界観的基礎
    第2節 啓蒙主義的歴史学・世界史像の特質
    第5章 近代ヨーロッパの世界史記述
    第1節 歴史観の世界観的基礎
    第2節 ヨーロッパ近代における歴史学・世界史像の特質

  • 新書文庫

  • 古代世界においては、円環的時間が当然視されていた。歴史はその通り繰り返すと信じられていた。
    古代では「怪物」が信じられ、アウグスティヌスも「神の国」の中で怪物について論じられている。
    中世的普遍史の完成者オットー・フォン・フライシックの祖父こそ、カノッサの屈辱を経験したハンリヒ4世。
    アウグスティヌスらカトリックたちはギリシャ語聖書や七十人役を中心に歴史を考えていたが、宗教改革後プロテスタントはヘブライ語聖書中心主義となり、年代計算も異なるようになった。

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