漱石と三人の読者 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061497436

作品紹介・あらすじ

小説は実験である。あなたは漱石のたくらみを知っているか。漱石がわかる。小説がわかる。近代がわかる。画期的な入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 漱石が彼の作品を誰に向けて書いたのか、
    という疑問を当時の社会制度や一般国民の東大卒に対するイメージ、
    更に文壇で流行している文学の手法や主義などのデータをもとに
    作品を分析し解明していく。
    扱われている作品は主に前期三部作と後期三部作。
    それに『虞美人草』と『我輩は猫である』も扱われている。
    誰に向けて、という疑問には、主に三つの答えがあって、
    一つは漱石の門下生や文壇といった、「顔の見える読者」に対して、
    二つ目は朝日新聞に勤めていた漱石が新聞社から言われていたであろう
    朝日新聞を読む、当時としては上流階級の人々、「何となく顔の見える読者」に対し、
    三つ目にはそれ以外の、未来の読者でもあり、また漱石の作品など読まず
    記号と化した『こころ』や『漱石』と言った名詞を使う
    「のっぺりとした顔の見えない読者」に対して作品を書いていると言える。
    漱石はどれか一人の読者に向けて書く場合もあるが、
    多くの作品では三人ないしは二人の読者を想定して
    彼らのバックグラウンドにあるものによって違った読みが出来るようにしている。
    それは例えば『三四郎』においては、東大の構内を知っている者(顔の見える読者)は
    美禰子は野々宮を挑発しているということが分かるようになっているが、
    それを知らない一般大衆(何となく顔の見える)には
    単に三四郎を挑発しているように見えるといった具合である。
    三人目の顔の見えない読者に対しては、故郷の御光と三四郎の結婚話といった形で
    話題を提供している。
    そういった意味で、いろいろな読みが出来る漱石作品はやはり凄いと思った。

  • 弟子たちとの空気感、新聞連載の読者を飽きさせない工夫や、世間の流行、ライバル社の小説を意識していたりと、今の読者が作品をただ読んでいるだけでは知り得ない情報・考察が書かれていて大変興味深かった。
    私の好きな『門』は読者をあまり意識していないと考えられているようで、苦笑した。そんな力無い文字しか書けないような状態で仕上げた作品だったとは。
    『三四郎』の美彌子と野々宮の隠された物語の話が特に面白かった。
    これらを踏まえた上でもう一度漱石を読み直したら、また違った感想を持つのかもしれない。普段とは違う読書の楽しみを得られそうだ。

  • 宛先がどう想定されて小説がどう試みられたか 三四郎の死角のはなしがおもしろかった

  • 2017/01/10

  • 151107 中央図書館
    漱石テクストへの没入スタンスが伝わってくる。いまなお「国民的」作家という「記号」として漱石は語られるが、実際の読者は甚だしく減少しているに違いない。特に漱石が生きた時代背景「近代」が、21世紀のフツーの若い読者にとってみれば、どうでもいいことであり、漱石の小説に惹かれるとは思えない。
    『三四郎』、『虞美人草』、『こころ』を取り上げて、漱石が読者として想定していた層がどういうものか、という視点から、当時の時代背景も踏まえて漱石が何を書こうとしたか、を一般の近代日本小説ファンにあてて解説したものといえる。
    巻末の漱石全小説の「あらすじ」は、さすが。こういうふうに要約するのか!

  • 「三人にだけ伝わればいい」――。新聞小説家・夏目漱石が、小説を核に際して意識した読者像に焦点を当てながら、初期三部作・後期三部作、未完の『明暗』までを辿る。巻末に全小説のあらすじを掲載。
    第一章・二章では漱石の読まれ方及び当時の「小説」の扱われ方を概観、漱石が常に「書くこと」に対して意識的だたことを見。三章以降は、漱石の作品を通じて誰が「読者」として想定されていたのかを作品別に読み明かしていく。
    『虞美人草』で想定していた反応と実際の読者の反応にずれがあったことを踏まえ、以降の小説に「死角」を入れるようになったという点が印象。また、後期三部作は新聞連載→単行本という発表方法をとっていたが、連載時と単行本の読者が別に想定されており、それぞれの読み手に対して物語が用意されていたのではないかという点が面白い。

  • 自分自身の文学知識の無知に嘆き
    漱石の小説家としての試みに賞賛を送り
    それをみごとに読みといた石原千秋先生への
    敬意を表した一本でした。


    これは漱石一通りよんでから、また読みたくなる本です。

    また、漱石が生きた時代背景に関してもしっかり述べられているので、明治の文学史を漱石を基準に知りたい人にもお薦め。

  • 漱石がだれを意識して作品を書いたのか。その対象が新聞読者、単行本読者ではねらいが違うということを明らかにしようとする。漱石の専門家が分かりやすく解説する。石原千秋は現在早稲田大学の教授であるが、精力的に執筆活動をしている。他に『「こころ」大人になれなかった先生』(みすず書房2005新書じゃありません)、『百年前の私たち―雑書から見る男と女』(講談社現代新書2007)、『未来形の読書術』(ちくまプリマー新書2007)

  • [ 内容 ]
    小説は実験である。
    あなたは漱石のたくらみを知っているか。
    漱石がわかる。
    小説がわかる。
    近代がわかる。
    画期的な入門書。

    [ 目次 ]
    第1章 夏目漱石という文化
    第2章 小説と格闘した時代
    第3章 英文学者夏目漱石と小説
    第4章 『虞美人草』の失敗
    第5章 『三四郎』と三人目の読者
    第6章 『こゝろ』と迷子になった読者
    第7章 まだ見ぬ読者へ

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    [ 参考となる書評 ]

  • こういう読者の設定もあるのか、と初めて読んだときは衝撃だった。石原千秋著で一番最初に読んだのがこれだったと思う。

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著者プロフィール

1955年生。早稲田大学教授。著書に『漱石入門』(河出文庫)、『『こころ』で読みなおす漱石文学』(朝日文庫)、『夏目漱石『こころ』をどう読むか』(責任編集、河出書房新社)など。

「2016年 『漱石における〈文学の力〉とは』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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