「特攻」と日本人 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061497979

作品紹介・あらすじ

志願か、命令か。英霊か、犬死にか。主導したのは海軍か、陸軍か。-昭和史研究の第一人者が、残された遺書・日記を丹念に読み解き、特攻隊員の真意に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 特攻と聞いて先ず考えるのは、将来有望な若者達が命令であれ自分たちの意思であれ、大きな爆弾を抱えて敵の空母や戦艦に体当たりする凄惨なシーンであり、彼らが一体何を考えながら死んでいったのかという事だ。無論、前者のような命令で言ったのであれば、最後まで命令者を恨んだまま逝ったのかもしれないし、後者、自分の意思であったにしろ、死への恐怖を克服する事が果たして出来たのであろうかという事を考える。
    私たちは例えば病気などで余命を告げられ、死を目の前に控えた時、どの様な行動に出るだろうか。何を考えるだろうか。数日後、数時間後に水水盃を交わし、エンジン始動と共に整備兵の少年たちが、自機の周りから離れていく。離陸さえして仕舞えば後戻りなど出来ずただ迫ってくる確実な死、十死零生へと突き進む。後はひたすらに大きな獲物、敵空母を探して突っ込むだけである。脱出装置もなくパラシュートも要らない。旅立ちに際しては片道の燃料しかない。あわよくば敵の弾幕の前に突っ込む前に海へ落ちれば鮫の餌食にもなる。勿論大半の場合、無傷で落ちる事など無いだろうから、海に沈んで息が続く間、ただ苦しいだけである。何故彼らがそうした道を選んだのか。いや当時の日本が置かれた状況を考えれば、道を選ばざるを得ない彼らの心理を探っても、中々答えは見えてこない。
    本書のスタンスはそうした彼らの心理に迫ろうとするものであり、また一つの回答を導き出している。決して喜び勇んで死ぬ様な、自分の命を軽んじる若者とは違う、当時のエリート大学へ進学し、将来にたくさんの夢を持つ普通の若者達である。彼らの遺書を集めた「きけわだつみの声」をはじめとする遺言の数々を読めば、普通に恋人や家族、友人を想い多くの国家や日本の情勢には聞き入れられない声なき声が聞こえてくる。その文章や死に挑んで残した辞世の句などを目にした時、日本は大変な財産を失った事に改めて気付かされる。もし彼らが生きていれば戦後日本の立て直しに活躍できたであろうし、家族や恋人は死への悲しみを味合わずに済んだはず。
    だが、それ程優秀で惜しむべき彼らが旅立ちに際して考えた事は、きっと恐らく全ての悲しみや恐れ、この世への未練から解放され、自分に与えられた(与えられてしまった)運命を受け入れる事ができたのではないかと感じる。いや、そう考える事で彼らの多くは救われるのではないだろうか。
    家族を想い、国を想い、未来の復興を信じて旅立った彼らを、現代社会に今に生きる我々が身勝手に想像する事も、批評する事も出来ない。本書もそうした身勝手さを出さない事に細心の注意を払いつつも、居た堪れない気持ち、悲しさを超越すべく筆者が筆をとった作品であると思う。
    平和の礎とか、無駄死にとか、神として讃えることなど後世に生きる人間の勝手な考え方や行為であり、それのどれもが真実であるかはわからない。唯一正しいのは、戻ることの出来ない死への旅路を、それでも突き進み散って行った若者が居たという事実のみである。
    何か読み終わった後に心にぽっかりと穴が開いて、そこから生暖かい空気がすーっと抜けていく様な感覚、尚且つ天井の一点を見つめるその画像が、滲んでぼやけて、窓から入ってくる光を乱反射させていく。

  • ・私たちは特攻隊の真情とはかけはなれた安全地帯に立って、なにやら心が洗われるような、仕立て上げられた美談を耳にして、あたかも歴史的な意味を持つかのように錯覚してきた。
     こうした創作を受け入れてしまう素地を、日本人は持っており、特攻隊のシステムやその置かれた状況を正確に見据えることなく、お涙や感情で見つめている限り、永遠の0みたいなものが受け入れられ続ける。

    ・天皇大本営による「米英に対する宣戦の詔書」では、東亜の開放や大東亜共栄圏の確立などは、開戦の目的ではなかったし、そんな力は日本にあるわけはないと理解しており、「日本の光栄を保全」することしか考えていなかった。(詔書原案作成者による)
    大東亜共栄圏確立など後付けで言われるようになったに過ぎない。

    ・特攻隊員たちの遺稿からは「神」と祭り上げられることで、軍指導者への怒りとともに国民に対しても抜きがたい不信をもっていたことが読み取れる。

    ・特攻隊員が搭乗時に失禁する、腰が抜けて立たなくなる、失神してしまうという例は少なくなかった。整備兵たちが抱き起して操縦席に押し込み飛び立たせた。

    メモ

  • なぜ国を挙げてあの凶器に満ちた作戦に進んでいったのか。筆者は指導者が、そして大日本帝国臣民が目標を無くして迷走していったことをその大きな理由とする。そして出征していった学徒兵が遺した手記には当時の軍司令部と臣民に対する怨嗟が読み取れないものはひとつとしてない、という。

    著者は今まで手記を読んで涙を流さなかったことがなかったというだけあって、いささか感情的に過ぎるきらいはあるが、若者たちが犠牲者であり、自分たちもすぐあとに続くと言って彼らを送り出した司令官たちは戦後自らの行動を恥じ入るどころか、若者たちの行動がいかに自発的であったか、とすることに汲汲としていたという事実。そもそも軍は特攻のために専用の航空機や潜水艇まで作っていたというのに。しかしこれを未だに「美しい物語」として消費し続ける我々の罪も、また彼らと大差ない。

    彼らがいたから今の日本の繁栄がある、という言葉は何度も聞いてきたが、かれらはあの時代に生まれてしまったばかりに目標を失った軍の指導者、保身に夢中になった司令官たちそしてそれを黙認した臣民たちに将来を断たれたのだ。それは歴史的事実だ。だから「そのときはそうするしかなかった」というなら、今後は決してそうならないように自壊すべきだろう。

    イスラム教徒の自爆テロや、それがまるで理解を超えた別の世界の出来事のように語られることに強い違和感を覚える。わずか70年前、それを美徳とすることが明らかに支配的だった時代があり、今もそれは私たちの底の方に流れている。

  • 「特攻の始まりは上からの押し付けではなかった。現場の声がきっかけで黙認へ」
    こういった現場に上司として直面したとき、自分だったら異を唱えられるか。

  • 天皇の御子

  • 太平洋戦争の後半に、日本軍が追い詰められて選んだのが「特攻作戦」だったと私はぼんやりと理解しています。特攻隊が物量の差が歴然としていたアメリカ軍に対して、量的よりも精神的なダメージを与えたのでしょう。

    この本では、特攻隊を命令した上官の多くは最後に逃げてしまった例を挙げています。その中で、リーダーが先陣を切って特攻隊となった有馬航空指令官は筋を通していると思いました。ところが、その事実を隠し通して、最後まで部下や学校を卒業したばかりの新兵に、志願させた形にして任務をさせたことは残念に思いました。

    特攻作戦の是非は私には難しい問題ですが、いま経済的に恵まれた我々は、色々な心配事はあるにせよ、先輩たちのお蔭で今の日本があることを感謝しながら生き続けなければならないと、この本を通して思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・特攻隊員は、英雄でも犬死でもない、戦争指導を行う資格のなかった軍事指導者によって進められた戦争の犠牲者である(p7)

    ・美濃部少佐は、特攻作戦に反対した海軍の軍人として、日本よりも欧米でその名が知られている、彼が率いる芙蓉部隊は特攻編成から外れている(p37)

    ・本来なら昭和19.7のサイパン陥落で日本は終戦工作に入るべきだった(p61)

    ・戦時体制をひいていなかったアメリカ、ドイツがヨーロッパを制圧していることもあり、東南アジア全体に軍事的には空白があった、そこに日本陸軍、海軍は浸出した、開戦から6か月後(ミッドウェー)には敗戦の道に入った(p140)

    ・特攻隊員として体当たり攻撃をして戦死した数は、海軍は2400強、陸軍は1400人強、7割は学徒兵であろう(p151)

    ・特攻隊員を多く出したのは、陸軍では、特別操縦見習士官1期生で2400人以上、海軍では第13期飛行家予備学生で 5900人以上、ここから選抜されて 1700人近くが戦死した(p152)

    ・マリアナ海戦では、19.6.19には空母2隻、20日には空母1隻を失ったほか、空母4隻が中波、航空機は390機失った、新兵器(VT信管)によるもの(p166)

    2013年6月1日作成

  • [ 内容 ]
    志願か、命令か。
    英霊か、犬死にか。
    主導したのは海軍か、陸軍か。
    ―昭和史研究の第一人者が、残された遺書・日記を丹念に読み解き、特攻隊員の真意に迫る。

    [ 目次 ]
    1章 英霊論と犬死に論を超えて(知覧特攻平和会館 「反戦が目的」ではない ほか)
    2章 なぜ彼らは死を受けいれたか(「必ず巧く命中せねば申し訳ない」 「ああッ、だまされちゃった」 ほか)
    3章 もうひとつの『きけわだつみのこえ』(学徒兵たちはどのように死と向きあったか編集された遺稿 ほか)
    4章 体当たり攻撃への軌跡と責任(太平洋戦争の目的 お粗末な戦争指導 ほか)
    5章 見えざる陥穽、ナショナリズム(大西司令長官の遺書 大西ひとりの責任なのか ほか)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 「特攻」という名の、権力によって強制された「死」という、実に重すぎるテーマに踏み込んだ一作なのですが、やはりどうしてもメランコリックな論調が根底に流れてしまうところに保阪氏の「らしさ」を感じてしまいます。これは氏の良さでもあり、また、皮相的な見方をすればアキレス腱でもあるかと思います。

    内容自体は事実関係が素描された良書と言えると思います。ただ、あえて難癖をつけるなら、やや「題名負け」しているような所も……(もう少し、書けたんじゃ無いかなぁ……)。

  • 特攻の悲惨さが分かった。

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著者プロフィール

1939年生まれ。同志社大学卒業。ノンフィクション作家。とくに昭和期の軍事主導体制についての論考が多い。

「2022年 『時代の反逆者たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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